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サイコロ勝負

 1936年 3月 7日


 秘匿呼称「冬季演習」が今日始まりました。

 叔父さんは落ち着かない様子で国防軍本部をうろうろしています。

 早朝から始まったこの作戦は19個歩兵大隊と偵察用の飛行機が全作戦兵力です。

 この作戦はロカルノ条約で定められたラインラント地方の非武装地帯に兵力を配置する。

 そのための政治的な作戦です。

 陸軍はドイツに防衛用の戦力が無いことからおおむね反対です。

 叔父さんが強引に作戦指揮を行いました。

 なぜならこれは戦争にならないと読んだ叔父さんの賭けだったからです。

 この作戦についてシャフトさんと話していたのはロカルノ条約の破棄とそれに伴う賠償金の支払い放棄の実施とその分の経済運営の検討指示。

 外務大臣のノイラート男爵にはフランスの経済状況と英国の戦意についてで、男爵は英国は厭戦気分に溢れ、その程度では戦争には踏み切らないだろうと言っていました。

 またフランスについてもマジノ線が建設途中で、これが建設終わるまで軍事予算はかなりの硬直状態におかれることから侵攻作戦の予算は取れないだろうという読みでした。

 

 他にもルドルフ・ヘスさんやハインリヒ・ヒムラー、ヘルマン・ゲーリンクさんらと情報の協議が忙しく進められ、フランスは防衛戦以外戦争する気はなく、英国は戦争するつもりは無いと判断していました。

 では、なぜラインラントに兵を置くかといえばヨーゼフ・ゲッペルスさんに指示を出していましたが賠償金支払い拒否をしても再度のルール占領は起こさせないという国内外に向けたプロパガンダのためです。

 たかだが19個大隊では攻め込まれれば一瞬なのでしょうが、兵士の数ではなく干渉地域に兵力が存在することを強調して、賠償金支払い拒否の世論を一層強くするつもりなのです。


 それにしても叔父さんは相変わらず肉を食べません。

 もう、そのような嗜好に慣れてしまったのでしょうか?

 皮肉ですが叔父さんが総統になってから街の人たちは肉の消費が多くなっています。

 アウトバーンをはじめとする公共事業による流通網の整備。

 MAN社を始めとする大型トラックの開発成功。

 鉄道輸送網の整備。

 これらに加えて好景気による賃金上昇が人々の財布の紐を緩めています。

 若干はハイパーインフレによるトラウマもあるのでしょうが……


 「遺伝病源根絶法」という1933年制定の法律が地方自治体のプロパガンダにより徐々に広がり始めました。

 劣性分子(遺伝病や精神病)を排除し、地方自治予算や国家予算を他に回すための処置として断種を法制化していましたが、徐々に劣性分子本人への安楽死が討議されるようになっています。

 私からすれば、そこまでアーリア人の人種的優勢を維持したいのかと思わざるを得ない状況ですし、叔父さんもこの流れには反対していました。

 このへんはドイツ人の悪しき性癖「完璧主義」の弊害だと思います。

 

 それに伴い 最近は「超人スーパマン」という言葉が褒め言葉で多用されています。

 超人主義というべきなのでしょうか?


 人間離れした結果を示したものは超人と呼ばれて賛美されます。

 足が速いとか重いものがもてるというのは超人というよりは野獣じみた能力なのですが?


 いずれにせよ世界に冠たるアーリア人の能力向上は自分達だけでなく次世代まで目に入るようになって来ました。

 世間の風潮は世代を重ねるごとに優秀になる子孫、スーパーチルドレンに期待です。


1936年 3月 7日 ベルリン 国防本部 会議室


 さっきから胃が痛い。

 腰を落ち着けて座ることができない。

 ただこの部屋をうろうろと歩くだけだ。

 時折、伝令がフランス軍の状況報告にやってくるが、報告のたびに胃壁が削られる想いがする。

 何しろ現状でもフランスは100個師団を保持している。

 攻勢に出られればひとたまりもない。

 いくらフランス人の性格について識者と話し合い、9割5分までは国境を越えての攻勢に出ることは無いと判断しての作戦でも、不測の事態を考えると落ち着いて座っているのは無理だ。

 進駐部隊も不測の事態を招きそうな要素はできる限り避けた。

 砲兵部隊は誤射しないように組み込んですらいない。

 誤射に応射されればこちらの敗走が決まってしまう。

 歩兵もバラバラに薄く広く、浸透させ実数がわかりにくくしてある。

 これも敵に反応させにくくするための工夫だ…と国防本部は言っていた。

 本当は退路を広く確保するためではないかとは思っているが、その結果敵の反応が薄くなるなら問題はない。

 もとより綱渡りの作戦なのだ。


 ここまで神経を使いながらラインラントに兵を送るのは、次の目的である賠償金支払い拒否につなげるためだ。

 兵を進駐させずに賠償金支払い拒否を宣言すれば、前例に従ってフランスとベルギーが再びルール占領に動くことになるだろう。

 それを防ぐためにはライン西岸(フランス・ベルギー側)に兵力がいなくてはならない。

 占領軍が安易にルール地方へ向かえば、通過した後に兵站腺を分断できる。

 当然ルール占領には十分な準備が必要になり、占領作戦の費用対効果は劇落する。


 当然、抗議は来るだろうが?関係国が多すぎることから、国際連盟を通じた抗議になるだろう。

 この国際連盟をドイツは1933年に脱退したがソ連は1934年に加入している

 そして仲の良かったロシアを倒したのが原因とはいえソ連に普段から敵対的な行動をするフランスの提案に対してソ連は賛成する気がない。

 そこを外交部が突いて反対する確約を取った。

 これで国際連盟の総会は全会一致ではなく、1国だけだがソ連が反対する。

 国際連盟は総会で全会一致で無いと議決が通らないという弱点がある。

 つまり抗議文は発効しないのだ。


 ということでこの作戦が無事に終われば、国際的な抗議が来る可能性は極めて低い。

 せいぜいロカルノ条約の代替案を尋ねてくるのが精一杯だろう。


 賠償金の枷さえ外れれば、国家財政は一気に好転。

 再軍備のペースも上げられるだろう。

 海軍が1945年に終わる予定にしている再軍備のペースも上げられるだろう……それにしても胃が痛い。

 明後日まで過ぎれば野戦陣地も構築が終わる。

 その後に徐々に砲兵を移動させ、ジークフリートラインに接続すれば陣地構築は終了だ。


 はぁ~この作戦が終わったらベルクホークに帰ってしばらく休養しよう。

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