ニュルンベルクの夜
1935年 10月 1日 バイエルン州 ニュルンベルク MAN社トラクター工場
目の前にMAN社製の戦車 2号戦車の先行試作品が10台並んでいる。
1号戦車と違って訓練用でも戦闘を考慮して作られた戦車だ。
全身を鉄で覆った10tの車両。
技術習得のために作った1号戦車に比べてなんと力強いことか。
それは全周砲塔が醸しだす雰囲気というのが大きい。
新鋭の20mm対戦車砲を搭載した砲塔は、いかにも戦車という力強さを伝えてくる。
計画中の15t級主力戦車3号戦車や、20t級の駆逐戦車はどれほど雄大であろうかと思うと早く誕生して姿をみせてほしい。
「総統、この2号戦車が先行試作です。この10両を用いて得た結果を、量産型にフィードバックしながら進めていきます。」
MAN社の開発部長が側面に新たに開けられた覗き窓を指差しながら説明してくれる。
これらの工作を容易に行うためうこの先行試作車は鋼鉄を使わず軟鉄で外板を作っている。
特に視界に関しては10台で隊列を組んだだけで、見えなくなった車両同士が接触を起こすなど、問題は山積みだ。
今後、戦技を組み立てる最中でも必要な装備や改修は増えていくだろうし、戦訓を得てからの改修も眩暈がしそうな量だろう。
ただし、重要なのはこのような武器を戦略的に運用するというのは我がドイツが世界初になる。
0からスタートするなら、連合国より我々の方が早く運用ノウハウを手に入れれば、有利に立てる。
すでに戦車集中運用を進言してきたグデーリアンを今日設立した第2戦車師団長に押し込んだ。
3個師団を装甲化するが、当初は優先的に第2師団に戦車を回す予定だ。
陸軍は歩兵主力で戦車は補助火力という考え方が主流だが、それでは世界大戦でわかったように塹壕戦にならざるを得ない。
フランスはマジノ線という常識をどっかに捨てた防衛陣地を建設中だ。塹壕でもきついのに従来方法ではあの陣地を抜くことはできない。
参謀本部にはあの陣地を電撃的に突破できる戦術を研究するように命令している。
そのためにも戦訓を得なくてはならないと上申されている。
小規模な局地戦を計画しないといけないか……
ともあれ春の再軍備宣言から、陸軍は順調に拡大している。
海軍は軍艦の建造中だし、あと空軍は軍隊の設立から始めてようやく運用のノウハウを取得中だ。
そんなわけで軍人はいくらいても足りない。
そのこともあって1週間前に発布したニュルンベルク法はシャハトが主張したようにユダヤ人に対し極めて友好的な法律に留まった。
ニュルンベルク法自体はユダヤ人から公民権を剥奪するものだが、もともと彼らに選挙権や被選挙権は無いに等しかった。
若干変わったのは公務員になれる特例を廃止したことぐらいだ。
しかしそのことを人種差別的だと連合国側は叫んでいるが、ドイツ領内のユダヤ人からは安堵の言葉が返ってきたほどだ。
ユダヤ人を明確に定義してクオーター未満は混血児というカテゴリーを設けたことにより、該当者が減ったことが大きな要因だと思う。
これについてはユダヤ人の定義を拡大解釈させようとする一派があったが、現実的に国防軍の人員拡大による労働力の不足をどこで補うかを考えると、混血区分をドイツ人と扱わなくてはならなくなった、なにしろ軍人は公務員なのである。
実際、現時点でほぼ完全就労が完成してしまった。
労働者は喉から手が出るほどほしい。共産主義者以外なら……
だが、この状況のせいでドイツ国内が住みやすいと周辺諸国からユダヤ人が年間1万人も流入してくるはめになった。
現状だと彼ら(ユダヤ系外国人)でも何らかの仕事にありつけるようだ。
いったい周囲の国はどれだけユダヤ人を迫害しているのか……ドイツ国内では輸出品がボイコットされないように、公的にユダヤ人を差別はできない。せいぜい公民権の剥奪が精一杯だ。
これでもドイツ人の法に厳格に従う性質もあって、他国よりはユダヤ人差別が少ないということなのだろうか?
もっとも、貧乏ユダヤ人による共産主義の種を国内に持ち込むわけには行かない。
丁重に母国に帰ってもらうしかないだろう。
これでユダヤ人問題は一息ついたし、次は再軍備宣言に敵対的なフランスへの対応か……とりあえずはフランス国内の反戦勢力に資金援助しておくか。
あとはノイラート男爵と相談してからだな。




