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悪魔の登極

1933年3月20日 ベルリン 首相官邸


 パーペン元首相の助力で、ヒンデンブルグ大統領の子息と官房長官との交流を得ることができた。

 一方で昨年11月29日はシャハトの助力で政財界の要人より連名でヒンデンブルク大統領にヒトラーを首相にするよう要望書が届いた。

 公私からの要望もあってヒンデンブルクは1933年1月30日にヒトラーを首相に任命した。

 84歳を越えた大統領にとって政務は著しく気力を消費する業務と化していた。

 もともとヒンデンブルクは右翼の帝国復古主義者であることを隠したことも無いが、いつの間にか右翼はヒトラー率いるナチスに吸い取られ、共和国派によって「共和国の守護者」に祭り上げられたことに立腹していた。

 このことと老衰からくる体力・持続力の低下は台頭するナチスを抑える苦悩に耐えられなくなってきていた。

 そして1933年2月20日にマルクス主義者の根絶と再軍備を約束することで財界の重鎮25人から300万マルクの寄付を受け、党の財政を一気に好転させた。

 そして3月16日にシャハトをライヒスバンク総裁に復帰させた。

 そのときに命じた課題が予算編成に組み込まない形での再軍備費用の捻出である。

 シャハトはこれに対し「メフォ手形」という形式を考え付いた。

 有限会社 冶金研究協会という会社を作り、その会社が軍需産業に軍が出した注文代金を手形で振り出す。その手形はライヒスバンクで割引されるが、その支払義務を国が持つというもので。

国は手形の償還ということから予算編成無しで支出することができる。

 ただしシャハトのすごいところはドイツ経済全体のキャパシティーを考え

 1、期間は8年以内で総額が350億マルクを越えないこと。

 2、短期金融市場および資本市場の統制(おおまかにいえば金利政策の統制)

 3、遅くても5年以内にメフォ手形の償還を始めること

 4、価格、及び賃金の現行水準を維持すること

 この4点を条件として手形発行を始めたことである。


  (これは歴史的に見ても限界を正確に見定めた規模と期間の設定で、シャハトの経済人としての手腕がいかに優れたものかがうかがわれる。)


 これにより、ドイツの再軍備の枷は外すことができた。

 ほぼ10倍になる軍事費が景気の押し上げを図ると共に国軍を強力に再編しなおすことができる。

 ただ頭の痛い問題が発生している。


 それが突撃隊だ。

 彼らは、准軍隊とでも言うべき地位を要求している。

 今、国軍に数十万人のゴロツキを放り込める余地はない。(財源的にも人的にも)

 彼らを兵士として使うなら新兵教練からやり直す必要があるのだが、これまでの功績から兵士として戦えると信じてしまっている。

 最新兵器を扱えるだけの知識も技量もない連中である。

 もっと下士官、士官が大量に配属された後なら、教育する余地もできるのだが……

 とりあえずは陸軍から教官を招いて訓練を開始だ。

 訓練の終了した突撃兵は兵士として国軍へ、突撃隊は兵士の訓練組織として再編することにしよう。


 この間にも共産主義者は順調に根絶に向かっており2月27日の国会議事堂放火事件の犯人として共産主義者(国会議員を含む)を拘束できたのは大きい。

国会の解散を宣言したのが2月1日。この時点でまだ国会議員だったものは本来逮捕できないはずだが、ヒンデンブルグ大統領から「憲法の基本的人権条項の停止」命令を28日に出してもらったおかげで一網打尽にできた。

 その後3月5日に国会選挙を行い288議席を確保した。

 単独過半数には満たなかったが、逮捕拘禁されながらも再選された連中を、存在してるが投票権を持たない存在と議員運営規則を改定することで、全体の議席数を減らすことにより、憲法改正法令に必要な三分の二議席を占めることができた。

 そして明日が新国会の開催である。

 今国会で全権委任法を通過させ、国の全てを握る。


 つまらないことだが、これがゲリの望んだことなら果たさなければならない。

 彼女にとって叔父さんは国民の英雄らしいから。

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