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悪魔の謀議

 1932年11月11日 オーバーザルツブルク ヴァッフェンヘルトハウス


 激動の一年がようやく終わりに近づいています。

 自殺未遂から10日 ようやくクッション付ですが上半身を起こせるようになりました。

 昨年9月、アンゲリアさんの自殺により、憔悴しきったアドルフさんを世話するために今年の春からヴァッフェンヘルトハウスにやってきました。

 その直後に大統領選出馬、疲労困憊の姿を見ているうちに情が移ったのもありますが、好意から愛情へ変わってきたと思います。

 その大統領選は決選投票でヒンデンブルグ大統領に負けましたが30%を越える得票率になり、次期大統領の呼び声も高くなりました。


 それにしてもいまだに手を出してこないのはどう判断したらいいのでしょう? 

 彼自体は私を恋人と認めているようですが……「性的に満足したいなら他の男と付き合いなさい」とは19才の娘に向かって言うことでしょうか?

 今に至るまでプラトニックな交際しかしてきません。(キスぐらいはしましたが)

 もしかして私が嗜好から外れていて熟女好みなのではとの疑いが晴れません。

 女優のレナーテ・ミュラーはアーリア人的美女ですし、ナチス上層部は彼女とアドルフさんの結婚を画策しているように見えます。

 そしてアドルフさんはよくミュンヘンの後援者の未亡人宅に泊まっています。

 そこまでくればヴァッファンヘルトハウスまで100km程度です。

 こっちに泊まればいいのにとの思いが抜けません。

 初めて会ったときにはその日のうちにドライブの誘いをしてきた人です。

 人並以上の性欲はあると思うのですが……


 大統領選が済んですぐに国会選挙がありました。

 準備でヴァッフェンヘルトハウスにも多数の客が来ましたが、私は殆ど奥に籠って相手をしていません。

 ナチス高官や奥様方は亡くなったアンゲリアさんに好意的で、自分達の妹や娘のように感じていた人も多く、その死の原因の一つとされている私に会いたくないと言われる方もいるようでした。

 存在も知らない人のせいで理不尽な目に会っているのですが、その当時の状況を知らないため反論することもできません。

 そんな葛藤がピークに達したのが11月の選挙でした。


 第1党となったナチス党の党首が首相になれないというおかしな事態のためパーペン首相は議会運営ができないという事態に陥りました。

 原因はヒンデンブルグ大統領がアドルフさんを嫌いという単純なものですが……


 結局国会を解散をして11月6日に再選挙、再びナチスが196議席で、多少議席は減らしましたが依然として第1党になりました。


 問題なのはこの選挙期間10月中、アドルフさんと私は一度として二人きりで会ったことがありません。

 ベルリンかミュンヘンにいることが多く、たまに戻ってきてもナチス高官夫妻と一緒で、挨拶以後は奥に引っ込んでいないといけない毎日。

 そのくせ、煙草を吸うな、とか他の男性とダンスをするな、自分がいるときは肉・ハム・ソーセージは食事に出すなと煩いです。

 もうすぐ冬になり外へ出かけられなくなると思ったときに、自分の境遇に耐えられなくなって拳銃を胸に向け発射していました。

 幸いにして銃弾は大きな血管を傷つけることなく体内に留まったので、貫通による出血も無いまま手術で命を拾うことになりました。

 そして療養10日、ようやく身体を起こすことができるようになったのですが……

 未来がまったく見えません。

 私はどうなりたいのでしょう?


1932年12月 8日 ベルリン カイザーホーフホテル


 12月3日にシュライヒャーが首相に任命された。そのシュライヒャーがどうも全国指導者のグレゴール・シュトラッサーを懐柔したらしい。

 そのことをシュライヒャーに蹴落とされた前首相パーペンが教えてくれた。

 そして今月5日に続いて7日も指導者会議で副首相兼プロイセン州首相で入閣する意志を示した。

 国会第1党の代表者がその程度で妥協できるわけが無い。

 国家社会主義を実現するには、大統領と首相の両方の権限を持たなければならないほど稀有な政治権力が必要だということはわかっているはずだが……

 シュトラッサーは党の金庫が空っぽに近いことからまともな選挙活動ができず、国会選挙で議席を減らし、引き続いたテューリンゲン州の選挙では40%もの得票率低下を招く大惨敗。

 すぐに入閣して財政を立て直さないとナチス党が瓦解すると反論したが、それならば首相は、なぜ私ではなくシュトラッサーに話を持ってきたのか?

 根本のところでナチス党分裂を狙っているのが見え見えだ。

 故にシュトラッサーの提案を断固却下した結果、シュトラッサーが離党することになった。

 本日正式に全ての党役職から辞任。

 さらに彼の権力の元になっていた全国監察官制度を廃止して大教区指導者と総統に直結すことにした。


 そんなわけで政治闘争に明け暮れていると、ヴァッフェンヘルトハウスに戻って何もかも忘れたくなる。

 ゲリを失ったことも思い出すより、なにより心が磨り減るこの現場が辛い。

 エヴァについても放置しすぎた反省もある。

 何よりも彼女は事実誤認して、未亡人達と関係を持っていると思っているのは解かなくてはならない誤解だろう。


 今回の国会選挙は資金的に厳しい選挙だった。

 原因は選挙直前のベルリンで起きた共産党の違法ストライキにナチス党が協力したことだった。

 ベルリン大管区指導者のゲッペルスの独断だった。

 ゲッペルスはこれで労働者の票を確保するつもりだったらしいが、後援者やブルジョア層の反共に引っかかり、資金や寄付が激減した。

 まったく共産主義者と手を組むとろくなことにならない。

 それにしても選挙を連発するのは保守層にとっては有利な戦術だ。

 資源的にこっちは先細りしてしまっている。

 党員の徒労感による離党も増えてきた。

 何とか立て直さないといけない。

 パーペン元首相が協力を呼びかけてきたが、彼はシュライヒャーを深く恨んでいる。これを利用して彼の人脈を使わせてもらおう。

 少しは党の財政を改善できるだろうか?


 はやくヴァッフェンヘルトハウスで休養したい。

さすがに二連続でヒロイン自殺(成功&未遂)とか、この時期のヒトラー私生活最悪状態ですわ。

これを小説化するなんて考えるだに面倒くさい。だれもやらないはずです。


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