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天使たちの日常と冒険

1931年 8月20日 バイエルン州 オーバーザルツブルク


 今日は麓の町まで食料の買出しです。 

 6月には叔父さんが来て盛大に誕生日を祝ってくれましたが……

 なにかよそよそしく困った雰囲気で、最近はヴァッフェンフェルトハウスに来る回数が少なくなっています。

 お母さんが言うには去年の婚約破棄騒ぎで、極まりが悪いのだろうということでしたが、あのせいで親友のエミール・モーリスさんは運転手を解雇されたということで、むしろ私が申し訳ない気もします。

 ともあれ、彼に代わってここを泊まっているするのは時折訪れるルドルフ・ヘスさんとドイツ女子同盟の少女達です。

 一番上でも18歳の女の子たちは、ここで貴人の世話を学びながら勉強することになっており、驚くことに、その貴人に私も含まれます。

 いろいろとヴァッフェンヘルトハウスが小ミュンヘンに近くなってきたので時折、町に買出しに行くのが気分転換になります。

 今日もそういうわけで町をブラブラしていると街角でスケッチをしていた男性から声をかけられました。

 彼はオーストリアから来た画家を目指す学生で国境近いオーバーザルツブルグで風景をスケッチしていたが私の雰囲気にモデルをして風景に組み込みたいと頼まれました。

 その日は急ぐわけでもないので1時間ほどという約束で宿屋の軒先で座ってモデルをしました。

 帰ってから、はしたなかったかな、とも思いましたが、叔父さんも昔ウィーンで画家を目指したことがあるのであんな感じかだったのかなと親近感が湧きました。

 ヴァッフェンフェルトハウスに戻ってから、電話でルドルフ・ヘスさんに今日の話を伝えると、総統に相談しますとのこと。まあそれほどの大事にはならないでしょう。と言ってくださった。


 その夜にルドルフ・ヘスさんから電話があり、ドイツ女子同盟のイルマと一緒にもう一度出かけてその人物を確認して欲しいとのことだった。

 バイエルン入国管理局で確認した結果、該当人物が確認されたが、本人確認をしておいてほしいとのこと……十分に大事になってる気がします……ルドルフさん。


1931年 8月21日


 麓の町に再び向かうと、彼は変わらず宿屋の前でスケッチしていた。

 イルマにどの人物かを指し示すと、彼女は躊躇なく声をかけ、身分証明の提出を求めていた。

 手馴れた警官のようだった。

 身分証を確認すると礼をいってこちらに戻ってきた。

 「手馴れているのね、イルマ」

 「警官の職業専門学校を出てますので一通りのことは」

 ちょっと驚いた。

 普通に就職すれば警官になれるコースだ。


 そんな人が家事見習でヴァッフェンヘルトハウスに来ているというのはどういうことなのだろう?

 彼女にその質問をすると、叔父さんの「我が闘争」に感動し、ナチス党に入党、年齢の問題でドイツ女子同盟に配属。そこで選抜された人間が要人警護の訓練を積むべく送り込まれている、ということらしい……いつの間にそんなシステムになっていたのか……


 と叔父さんの手際に、半分呆れながら、同行者にイルマを指定した理由も判ったので彼女に確認してみました。


 「あの学生さんはウィーン美術アカデミーの学生ですね。間違いないようです。」


 ウィーン美術アカデミーは叔父さんが憧れていた学校です。

 ちょっと気になりました。


 ということで学生さんに声をかけました。名前はオットー・クリムトとわかっていたので話しかけると昨日のモデルの礼を言われ、ウィーン美術アカデミーは今混乱期で十分に勉強できる状態ではないことからこちらに来て風景画を描いているということでした。

 もし興味があるなら2週間後にウィーンに戻るので案内するという話をもらいました。

 さすがに昨日今日会った相手を信じて、一緒に外国にいくのはちょっと冒険が過ぎるとは思いますが、いつの間にか私を再び籠の鳥にしようとする叔父さんに腹を立てていたということもあって、その話を受けました。


 叔父さんから送られた護身用ピストルは肌身離さず持っていようとは思いましたが。

 

 1931年 8月30日 バイエルン州 ミュンヘン


 あのチンチクリンの小父さんと付き合い始めて1年になります。

 この間、時々デートして食事に行ったり、ドライブにつれていってもらいましたが、恋愛的な進展というのはありません。

 信じられないことに挨拶のキス以上の接触はしようとはしません。

 男性というものの持っていたイメージよりも遥かに優しい大人でした。

 年の差23歳というのはこういう付き合いになるのでしょうか?

 ガツガツした若い男性よりは好みではありますので問題は無いのですが……

 写真スタジオの同僚からヒトラーさんとの関係を尋ねられて、つい婚約者と見栄を張ってしまいました。

 何しろ彼は今では野党第1党の党首でベストセラー作家です。

 誰もが知る有名人でもあります。

 それが耳に入った店主のホフマンさんに叱られました。

 「彼が誰かと恋に落ちていて、それが耳に入って、その恋の障害になったら申し訳ない。そのような嘘は絶対いけない」

 

 その話を聞くとヒトラーさんは誰かと恋仲ということになります?


 では私はどのような立場なのでしょうか。一度確認してみる必要があります。

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