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山麓の団欒

1928年 8月15日 バイエルン州 オーバーザルツベルク


 5月にあった国会選挙でナチス党は現状維持という結果に終わったと叔父さんは言っていました。

 与党だったブルジョア諸連合が敗北してドイツ社会民主党が第1党になりました。

 首相もマルクス首相からミュラー首相に代わりました。

 大連立とよばれる党連合で安定多数を獲得したミュラー首相は比較的安定した議会運営を行っていてなかなか突き崩せないそうです。

 そんな中、ブクスフラーデのとある未亡人が所有するヴァフェンフェルト・ハウスに滞在しています。

 ここの所有者はナチス党員であり、有力な後援者の一人ということで堅苦しい対応を覚悟して来たのですが、家主が家族団欒を壊したくないとのことで遠慮したため、存分に避暑を楽しんでいます。

 避暑にはアンゲラ母さんと妹のフリードルもやって来てハイキングや乗馬を習いました。

 遠くには雪を残すアルプスの山々、その手前に低い山々、そして森の中に埋もれた様な街並、何もかもが涼しい日差しに彩られ快適に過ごすことができます。

 あと1週間もすればミュンヘンに戻り、暑く湿った空気が普段の生活に戻ったことを悟らせられるのでしょう。

 あの狭い部屋の生活に戻るのです……そう思っていましたが叔父さんから提案があって、叔父さんはここを通年で借りるので母さんと私と妹の3人で管理人にならないかということでした。

 母さんとも相談しましたが、ここに残ったほうが良いとの結論になり管理人になることを承諾しました。

 「女主人役は今はアンゲラ母さんですが、次席はゲリ」ということでちょっと嬉しくなりました。

 叔父さんの考えではこのヴァッフェンフェルト・ハウスは家庭であり、ミュンヘンは仕事のための家ということで、避暑に限らず長期こちらに泊まりたいので、そのうち買い取りたいということを聞かされました。

 叔父さんの家の女主人。私の野望に一歩近づいた気がします。


 1928年 8月17日 バイエルン州 オーバーザルツブルク


 ブクスフラーデから手紙が届いた。

 内容は以前から世話になった家主への礼状と今後の話である。

 家主としては譲るのに何の問題も無いが夏と冬が大きく環境が異なることから、来春までは借家のままの方が良いのでは?と提案してくれた。

 確かに予定金額40000マルクは安い買い物ではない。冬の間どうしてもアンゲラやゲリもしくはフリードルが耐えられない生活と言い出す可能性もある。判断するまでの間の家賃は月100マルクと、税金分だけの値段なのでありがたくお受けすることにした。

 とはいえ、ここにゲリを移すことができれば、かなり心理的には楽になる。

 前回の選挙は何とか勢力維持という結果に終わった。

 それでもナチス党単独でこの結果を出せたのはいろいろと得ることも多い。

 アドルフ・ヒトラー党首の名前が全国区になってきたということでもある。

 そうなるといろいろなところに顔出しをして次の選挙に向け準備を進めなくてはならない。

 となると、日夜問わずでスケジュールが組まれる。

 夜、どこぞの未亡人宅に泊まりになるとか、数日連続で家を空けるのが普通になる。

 そんな時、気になるのはゲリのことだ。

 運転手のエミール・モーリスの話では彼女は四六時中護衛するのに息詰まりを感じるようで、家を開けているとき、特に女性絡みのときは落ち込んでいるとの話だった。

 エミールには傍にいても気詰まりを感じないように仲良くなることを命じたが、今後の政治活動を考えると自宅に縛られるのはかなりデメリットになる。

 なんといってもゲリは長いことずっと一緒にいる家族である。

 彼女のためなら、山荘の一軒位は安いものである。


 オーバーザルツブルグは避暑地として有名だが、人口そのものは少ない。

 そのおかげもあって治安もいいし、政敵が手を出すにも遠く安全である。

 彼女のことは安心して政治活動にあたれるというのは大きなメリットだ。

 彼女も20才になったことだし将来をどうするか本当に考えてあげなくてはいけない。

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