地獄の後片付け
1923年11月10日 シュタッフェル湖畔
ミュンヘンから北に80km エルンスト・ハンフシュテングルの別荘がシュタッフェル湖畔にあったので、そこに避難した。
ついたのは9日だったが、その後一日中、悔恨と罪悪に苛まれた。
ショイブナー・リヒターのことは悔やんでも悔やみきれなかった。
脱臼した肩を包帯でグルグル巻きにして右腕を吊っていたが、肩の痛みより心の痛みの方が大きいというのは、それだけ大きいものを失ったということだろうか。
ナチス機関紙のフェルキッシャー・ベオバハダー紙の買収・最大の後援者であるティッセン財閥とのやり取り、エルンスト・ルーデンドルフ閣下との橋渡し。
どれも彼しかできないものであった。
なのに彼は報われることなく一発の銃弾で……
この後ナチス党をどう導いていけばいいのか、全く思いつかないまま悲嘆にくれるしかなかった。
ほかにも逃亡中の友人たちがどうなるのか、ゲーリングやヘスそしてこの別荘の持ち主ハンフシュテングル、彼らは戦死者には入っていないようだが、今頃ドブネズミのようにミュンヘン中を逃げ回っていることだろう。
思えば終戦からこちら、都合よすぎるほどに、都合よく物事が進みすぎていた。
大学も出れなかった一介の伍長が、上流階級に交じり、国の行く末を考えるところにまでたどり着いたのだ。
ここらで帳尻を合わせようと神が思ったのかもしれない。
そもそも場違いだったんだ。
食いつめものの口先男が革命なんてことできるわけもなかったんだ。
そのせいで作り上げてきた地位や立場もすべてが崩れ去り、砂上の楼閣は砂山に戻った。
「ヘル(Mr)ヒトラー、警官隊が向かってきたわ」
カーテンの隙間から窓を窺っていたエルナ夫人が教えてくれた。
もう十分だ。彼らに抵抗するだけの武器も人もいない。
それに彼女らを巻き込みたくない。
そう考えた私はブローニングを手に裏庭に出た。
せめて自分の血で室内を汚したくなかった。
様子が変なことに気付いたエルナ夫人は飛び出してくるといきなり私の頬を2発3発と引っ張たいた。
「ここで死んでどうなるのです。あなたを信じている人たちを見捨てるのですか?」
彼女の言葉と、叩かれた衝撃は肩の激痛とともに精神を現世に戻す力があったようだ。
脳裏に浮かんだゲリが自分の死骸に縋り付いてなく姿。
これだけは彼女にさせたくなかった。
「口述筆記を頼む。フラウ(Ms)エレナ」
懸命に自分がいなくなった時のことを想定して人事を決めていく。
そうすることで沁みとおるような恐怖を紛らせていたら、だんだん現状の政府や役人に対して腹が立ってきた。
なんでこんなことしなくちゃいけないんだ。本来お前らがやることだろう……
特にカール、言い出しっぺが逃げるなよ!
絶対許さんからな、痛い目に合わせてやる。
エレナの筆記が終わった後は罵声・怒声が響き、警官隊が突入した時も恐怖などなく怒り続けていた。




