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現世の地獄

 1923年11月8日 ミュンヘン


 ルーベンドルフ閣下の説得説得に応じた3人と一緒に演壇に上がると待っていたのは大歓声と拍手、そしてドイツ国歌が巻き起こった。

 ここでようやくここで街中の部隊の状況を把握しようと思う余裕ができた。

 

 エルンスト・レーム率いる突撃隊はミュンヘン市庁舎や国防軍司令部を事前計画に従って制圧していた。

 抵抗は激しくなく、順調に進んでいたが工兵隊と突撃隊の間で小競り合いが起きた。

 そこで一旦、席を外し調停に向かうことにしてルーベンドルフ閣下にその間のことをお願いするとビュルガーブロイケラーを後にした。

 街中に出ると蜂起の成功が伝わったらしく、市民も大声で国歌を歌っているなどお祭り騒ぎになっていた。

 こうして市民からの賛意を見せられると蜂起して良かったとつくづく思う。

 工兵隊と突撃隊を調停して急いでビュルガーブロイケラーに戻った。

 その時、全身から冷や汗が引っ込むほどの恐怖を感じた。

 そこで待っていたのはルーベンドルフだけだったのである。

 調停のため席を外すとすぐに3人が執務に戻りたいということでルーベンドルフが許可を出したということで、閣下の裏切りはないという力強い断言に不安ながらも納得せざるを得なかった。

 なんといっても説得できたのはルーデンドルフ閣下のおかげであり、元々ベルリン進軍はカール州総督の発案だったからである。

 午後11時 士官学校の生徒1000名がビアホールに到着し、カールの政庁占拠の命令を受けて出発した。

 士官候補生とはいえ1000人の軍服による進軍は市民の熱狂はピークに達した。

 我々も軍司令部に移動した。

 軍司令部には先についているはずのロッソウ少将がいなかったが他所での仕事で外しているものとして心の不安を押しつぶした。


 全てが暗転したのは9日午前5時である。

 突撃隊の伝令から次々に凶報が飛び込んできた。

 午前3時にカール総督から、反乱を認めず、自分はただ銃で脅されただけだというラジオ声明がありレーゲンスベルグへの州都移転とナチス解党命令が発せられていた。

 カールの政庁を占領に向かった士官候補生達は、指導教官の判断で包囲を解いて解散していた。カールとザウサーも政庁を脱出、第19歩兵連隊本部に移動し指揮をとっていた。

 ここにいたり3人の裏切りを確信せざるを得なかったが、ミュンヘン市内は依然としてお祭気分に湧いていた。

 そこで一旦、軍司令部はレームに任せ、ルーベンドルフと一緒にビュルガーブロイケラーに移動して善後策を協議することにした。

 その間にも国防軍の配置は着々と進み、軍司令部は機銃で狙われた状態で包囲されていた。

 一方で蜂起に歓喜する群衆がその目の前を歩いていたりする、混沌とした状況が市街に発生した。

 善後策は紛糾した、ここは逃亡して再起を図る案も出たが、市民はこちらの味方であり象徴的な行動をとって完全に市民革命まで持っていくのがよいとルーデンドルフが判断した。

 そのためには包囲されている軍司令部を平和的デモで解囲して見せるのがよかろうということで軍司令部への行進が選択された。

 世界大戦の英雄が先頭をきって進んでいけば包囲している軍も通さざるを得ないというものだ。

 市民を味方につけるため相手にけがをさせるわけにはいかない。銃からは弾丸を抜き、ほとんどのものは丸腰で参加した。

 その上両手は使わないことを示すため、左右の人間と肩を組んで進むことにした。

 これはいいアイデアだった。

 両手を上にあげれば降参になってしまうし、下げていれば攻撃の意志があると取られるかもしれない。少なくとも肩を組んだ人間が銃を使うことはないと判断してもらえるだろう。

 11時30分に行進を開始した。

 意気揚々とドイツ国家を歌いながら進んでいく。

 オデオン広場を通ったとき広場の片隅に武装警察と国防軍が警戒線を引いていたが気にも留めずその至近を突っ切った。

 

 そして1発の銃声が響いた。


 突撃隊の一人がクシャリと崩れ落ちた。

 その直後に塹壕の時のような銃声が鳴り響くとバタバタと人が倒れていった。

 肩を組んでいたショイブナー・リヒターも胸を撃たれて即死した。

 不幸なリヒター、今回もルーデンドルフを呼びに行ったりたくさんの仕事を押し付けていた。

 彼は肩を組んだまま倒れ込んだので突然引きずられて石畳に叩きつけられた。

 肩に激痛が走ったが肩の関節が外れ、変な角度になったおかげでリヒターから体が外れた。

 間髪折れずボディーガードのグラーフが私の上にのしかかり体の下に隠してくれた。

 肩の激痛に耐えながら行進を見ていると、ルーベンドルフは銃弾の嵐の中、足を止めることなく警察隊に突入しておりその場で逮捕されていた。

 とんでもない豪胆さである。さすが英雄だ。

 射撃はすぐに止まった。銃弾が乏しいのだろう。

 その間に革命軍幹部は三々五々に脱出もしくは逮捕されていた。

 すぐにグラーフが引きずり出してくれたおかげで何とか脱出できたが、同志の遺体は放置して逃げざるを得なかった。

 完全な敗北である。

 無抵抗な人間を撃つのが連邦の遣り方か!と怒りが湧いてきてもいいはずなのだが……

 心の中では、また銃も撃たずに撃たれるままに走っている。ここが塹壕でないだけだ。

 そう感じて無性に虚しかった。


 ゲリは巻き込まないようにアパルトメントには戻れない。


 それがひどく心にしみた。

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