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悪魔の隣人はやっぱり悪魔

1923年 3月 ミュンヘン ナチス党本部


 イタリアから戻ってきて、ファシスト党党首との昵懇さを周囲に広めている最中に衝撃的な事件が起きた。

 フランスによるルール地方の侵略である。

 一方的なフランスによる暴虐だった。

 もともとの原因は石炭である。

 第一次世界大戦で破壊されたベルギーの炭鉱の分をドイツは無償で保証しなくてはならなかったのだが、それにかこつけてフランスが奪い取った国土から出る鉄の精錬に使う分まで保証に混ぜ込んだ。(ベルギーから買えなくなったのだからドイツはそれを補填する義務があるとか。まさにゴリ押しである。)

 戦後の特有の混乱に加えて、1920年のカップ一揆(義勇軍解体に反対した元義勇兵達がベルリンを占領した。このときに国防大臣は同士討ちを嫌って軍を動かさなかったため、ベルリンが陥落、義勇兵が臨時政府を建てるが、連邦政府は労働者へのゼネスト指令で対抗。結局、反乱軍は解体した)それに伴うルール一揆(こちらはカップ一揆余波でのルール地方での共産党員主体のサボタージュと赤軍蜂起)の影響が大きかったため生産量は予定の半分しかなく、補償割当も当然半分になっていた。

 これに対しフランスはルール地方の連合国による管理を主張。英国が減産がやむを得ない事情であることからそれに反対し、その案は流れたが、支払いがまた滞っているとしてフランス・ベルギーでルール地方を占領。

 ルール地方は生産される石炭が国内の4分の3、鉄鋼に至っては8割を占めるドイツ最大の工業地帯。一気にドイツの財政に止めが刺された。


 それに加えてフランス軍は工場の私有資材を強奪、ゲルゼンヘンキル市では1億マルクを罰金として収用、帝国銀行に押し入り1000万金マルク分の金塊を接収、接収できた60億マルク分の未完成の紙幣を完成品として市内へ流通、まさにやりたい放題であった。


 ドイツ軍のフランス軍に対する圧倒的劣勢の状況により抗戦は不可能、連邦政府はゼネストで対抗。

 ルール地方の全市民に給与を政府が保証することで、ストライキを行い、占領費用を圧迫することで対抗した。

 しかしながら占領軍がばら撒いた60億マルクと政府が補填した市民への給与がとどめになりインフレーションはまったく歯止めが利かなくなった。

 連合国のなかでも理性的なのはイギリスとイタリアで賠償金500億マルクへの減額を提案。

 戦時債権の放棄を行ったアメリカは中立だったが英伊よりだった。


 しかしフランス・ベルギーは一切の減額に応じず、今回の占領に伴う経済崩壊もドイツ人自身の愚かな行動が招いた結果に過ぎないと主張。賠償金の減額はおろか現行額で支払い可能かどうかの検証も拒絶していた。

 

 この状況でナチス党も緊急集会を決行。「岐路に立つドイツ人」としてヴェルサイユ体制の不条理について講演をおこなった。

 今回は大きな会場を押さえることは無理だったため、懐かしのビアホール開催になった。

 代わりに4月13日、24日、27日と開催することで少しでも多くの人に真実を伝えることにした。


 1923年 4月13日

 久しぶりに叔父さんの講演会に行く許可が下りました。

 6月入ると15才になるので、社交界にデビューする準備もしなくてはなりません。

 おそらく何の気兼ねもなく出れる講演は今回が最後でしょう。

 演題は「岐路に立つドイツ人」。子供と大人の岐路に立っている私としては人事とは思えない題です。

 ですが演説の中身はあまり良く覚えていません。

 叔父さんの声が一層セクシーになってきたとしか……

 いつもに比べると会場が静かな時間が多かったのが特徴でした。

 警護で傍にいたヘスさんが後から教えてくれたのですが、静かだったのは総統おじさんの声を聞き逃すまいとしていたためで、後半はフランスへの怒りで声すら出ないほどだったということです。

 ルール地方で行われたフランスの傍若無人な行為は、それに反撃できないヴェルサイユ体制によるドイツ軍の制限を取り払わないといけない。やはりドイツは再軍備を目指さないといけないとヘスさんの目が輝いていました。

 難しいことはわからないけれど、総統と呼ばれる叔父さんは格好がよく、会場のいたるところから熱い視線を受けていました。


 あとちょっとでレディになれます。待っててください。叔父さん。

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