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悪魔の手先、大悪魔の謁見

 1921年11月 4日 ミュンヘン ナチス党本部


 8月に整備隊を25名から50名に拡充して体育及びスポーツ隊と改称した。

 隊長も元エアハルト海兵旅団のハンス・ウルリヒ・クリンチュ元少尉を任命した。

 エアハルト旅団といえば勇名を馳せた義勇兵集団である。

 エルンスト・レームによれば、政府が義勇兵を禁止したため体育とスポーツ隊を受け皿にさせて欲しいとのこと。代わりに給料はむこうもちだそうだ。

 9月に入る頃には100名に欠ける程度まで増えてきたのでそれらしい名前として突撃隊という名前を候補にしていたが、今日ナチス党の集会に社民党が800人で殴りこんできた。

 それを現場にいた体育とスポーツ隊50名が迎え撃ち、撃退するという事件が発生した。

 その数20倍近い兵力差を腕力でひっくり返したのである。

 以後はその武力を称し突撃隊と呼ぶように党命令として正式に発令した。

 しかし、元義勇兵の集団というのはここまで強いのか。

 以後の演説では妨害に注意することなく集会がもてそうである。

 何より、どれだけ拡大しても人件費0というのは非常にありがたい。


 1922年 6月 ミュンヘン シャターデルハイム刑務所


 ヴォルター・ラーデナウ外相が襲撃暗殺されたのに伴い、暴力を扇動した罪で逮捕された。

 断固として言うがこの事件に関係した覚えは無い。

 かろうじて引っかかるとすれば彼がソ連とラパロ条約を結んだ裕福なユダヤ人というだけだ。

 「友愛協会」というユダヤ系ドイツ人のみが加盟できる経済協力会に所属し、3つの大学で4つの博士号を取得し80の会社を持つ大嫌いなタイプのユダヤ人だ。

 もし実行犯に影響を与えていたとするなら、むしろこの収監はご褒美だ。

 彼をこの世から消すのに影響があったと国が認めたようなものだ。

 ナチス総統にはそれだけの力があるということを認めたことになる。

 たぶん7月には釈放されるだろう。

 党の方でドイツ人弁護士を依頼したらしい。


 1922年11月28日 イタリア ローマ クイリナーレの丘


 今年に入って4月12日と9月18日に党首演説を行ったが、ヴェルサイユ条約否定が主題の演説だった。

 その間にも祖国ドイツはソ連のスターリン書記長とラパロ条約を結び。東部戦線での賠償問題を完了させた。残った最大の問題フランスとの賠償について連邦政府は懸命に交渉をしているが譲歩は得られていない。

 個人としては6月末から7月にかけて得がたい貴重な体験をさせてもらったが祖国ドイツがそのようなことをしている間に隣国イタリアでは国家社会主義党(ファシスト党)が武力クーデターを起こし第1党になってしまった。

 その経緯について新聞や軍人から話を聞いてきたが情報が少なく、いま一つ納得しにくい部分があった。

 そこで党の編成も一段落した今、イタリアを訪ずれた。

 そして外遊で(党資金での旅行で)いまイタリア首相公府前にいる。

 ミュンヘンに比べれば暖かく、日差しも多いこのローマでは、国家社会主義の下で精密な機械のように動いていた。

 半年前には多くの政党で連合を組んでいたせいで不効率な社会運営で世界大戦を勝利に導いた現イタリア国王の権威だけでイタリアという国が纏められていたのだが……

 イタリアとドイツは地方の独立性というのでは似たり寄ったりの国である。

 通訳を使いながら、ムッソリーニのローマ進軍を調査し始めた。

 可能ならばと同じ国家社会主義の政党であることから、ドイツナチス党党首として面会を申し込んでもいた。

 街中で調査して行くと集まった党員(黒シャツ隊と呼ばれていた)は13000人程度で武器を持たないものも多かったようだ。

 しかし10月29日の蜂起から僅か1日で国王より内閣組閣の指令を受けている。

 途中で通行止めされた黒シャツ隊も30日にはローマで合流している。

 

 黒シャツ隊そのものが共産党員と戦う組織であり、ナチス党での突撃隊と似た組織なので同じような手法が使えるかも知れない。人数でこちらは1000人だが…


 ファシスト党は535議席中の35議席を占めるだけでこれだけのことをやってのけたのだ。

 やはり武力を有する政党は強いということだろうか?


 

 1922年11月29日 イタリア ローマ クイリナーレの丘 首相官邸


 目の前に鼻の下に髭を生やした小男がいる。

 ドイツで国家社会主義を標榜する政党の党首らしいが、イタリア語が話せない。

 エアハルト海兵旅団が集まってきていると聞かなければ面接を断っていただろう。

 ぱっと見だと、どう見ても成り上がり者っぽいが、勲章は鉄十字1級2級と戦傷痍章をつけている。

 勇気の無い書類野郎ではないようだ。その点はかおう。

 とはいえ面会時間は10分。通訳を通じて軽く話したら終わりだ。

 記念にこの小男は手帳にサインを求めてきた。

 まあ、旅行記念にはなるだろう。隣国友好のため一筆したためた。


 さて次の面会予定は誰だっけ?

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