鬼はゴブリンロードを殴り倒す
前章までのあらすじ
マックスはゴブリンロードの一撃を受けた。
ゴブリンロードの顔が、初めて恐怖に歪んだ。全力で振り下ろした戦斧が、まるで壁にでもぶつかったかのように止まっている。しかも相手は片腕すら動かしていない。
マックスが右腕を引いた。拳を握る。ただそれだけの動作なのに、周囲の空気が震えた。森の木々がざわめく。逃げ遅れていたゴブリンの一匹が、本能で失禁した。
ゴブリンロードは慌てて戦斧を引き戻そうとした。だが、マックスの左手がいつの間にか斧の柄を掴んでいる。抜けない。焦る。もっと焦る。
「ギィ、ギギィ!」
ゴブリンロードが両手で斧を掴み、全体重をかけて引き抜こうとした。顔が真っ赤になり、血管が浮き出る。それでもびくともしない。
周囲のゴブリンたちが、遠巻きにがたがた震えていた。逃げたい。でもロードを置いて逃げたら後が怖い。その板挟みで、誰も動けない。
マックスの右拳が、ゆっくりと引かれた。弓を引き絞るように。
「ほいっ」
軽い。あまりにも軽い掛け声だった。まるで道端の虫を踏むような、何の感慨もない一言。
拳がゴブリンロードの腹に突き刺さった。
音が遅れてきた。
どぱぁん、という破裂音。ゴブリンロードの鉄の胸当てが紙のように貫通し、背中側から緑色の肉片と臓物が花火のように噴き出した。巨体が一瞬宙に浮き、そのまま洞窟の入り口まで吹き飛んだ。岩壁にめり込み、ひび割れが蜘蛛の巣のように広がる。
ずるり、とゴブリンロードの体が壁から剥がれ落ちた。目は白く、口は開いたまま。一撃。たった一撃だった。
残りのゴブリンたちが、一斉に絶叫した。
「ギィィィヤアアアア!!」
我先にと森の中へ逃げ出した。武器を投げ捨て、四つん這いで、転がりながら。統率は皆無だった。ロードが死ねば、群れは瓦解する。自然の摂理だ。
「ま、こんなもんだな。さて、報告に帰ろう」




