鬼はクエストに取り掛かる
前章までのあらすじ
マックスはゴブリン殲滅に出掛けた。
東門を抜けると、街道は緩やかに森へと続いていた。整備された道とはいえ、最近はゴブリンの出没が頻繁なのか、商人の馬車の轍が途中で途切れている箇所がいくつもあった。森の入り口に差し掛かると、木々の隙間から薄暗い空気が漂い始めた。
マックスは走った。鬼族の脚力は人間の比ではない。街道の景色が飛ぶように後ろへ流れていく。鳥たちが驚いて枝から飛び立ち、小動物が茂みから慌てて逃げ出した。
やがて、獣道のような細い道が森の奥へと続いていた。地面に小さな足跡が無数に刻まれている。緑色の肌を持つ者の、特有の臭気が微かに鼻をつく。ゴブリンの匂いだ。
洞窟は思ったより早く見つかった。岩肌にぽっかりと口を開けた、大人三人が並んで入れるほどの穴。入り口には獣の骨が散らばり、焚き火の跡が黒く残っている。中から、ぎゃあぎゃあと耳障りな声が漏れ聞こえてきた。
見張りのゴブリンが一匹、入り口の横であくびをしていた。
「やはり、指弾でいけそうだ」
マックスは足元の小石をひとつ拾い上げた。親指の先ほどの大きさ。普通の人間なら、これを弾いてもゴブリンにはかすり傷程度だろう。
だが、鬼族の膂力は普通ではない。
マックスの指が小石を弾いた。ぱちん、という軽い音。しかし小石は弾丸のような速度で飛び、見張りのゴブリンの頭を貫いた。
ぐしゃ、という湿った音。
ゴブリンは自分が死んだことすら理解できなかっただろう。頭の半分が消し飛び、緑色の体がどさりと崩れ落ちた。
洞窟の中から、仲間の悲鳴を聞きつけたゴブリンたちが騒ぎ始めた。ぎゃあぎゃあと喚きながら、次々と入り口から顔を覗かせている。手には錆びた短剣やこん棒。数は既に七、八匹。
ゴブリンたちは入り口に転がる仲間の死体を見て、きぃきぃと怒りの声を上げた。そしてマックスの姿を捉えると、一斉に敵意を剥き出しにした。小さな目がぎらぎらと光っている。*
五十匹のうちの、ほんの序の口だった。
「まあゴブリン程度何匹いても同じだな。小石はいくらでもある」
マックスは足元を見回した。森の地面には手頃な小石がごろごろと転がっている。天然の弾薬庫だった。
ゴブリンたちが喚きながら洞窟からわらわらと溢れ出てくる。十匹、二十匹、まだ増える。緑色の波のように押し寄せてきた。
マックスは小石を拾い、弾き、拾い、弾いた。まるで子供が水切り遊びでもするかのような気軽さだった。
ぱん。ぱん。ぱん。
一発ごとにゴブリンの頭が弾け飛ぶ。緑色の血と脳漿が周囲の木々を汚した。ゴブリンたちは仲間が死ぬたびに怒りで突っ込んでくるが、洞窟を出た瞬間に額を撃ち抜かれて転がる。その繰り返し。
やがて洞窟の入り口付近は、ゴブリンの死体で埋め尽くされた。緑色の絨毯のようだった。それでもまだ中からぎゃあぎゃあと声が聞こえる。残りは三十匹ほどか。
と、洞窟の奥から地鳴りのような咆哮が響いた。通常のゴブリンとは明らかに異なる、重い足音。ずしん、ずしん、と洞窟の壁が振動している。
ゴブリンロードだ。




