鬼は初クエストを受注する
前章までのあらすじ
ある日ギルドに現れた鬼族マックスは、いきなりCランクパーティをぶっ飛ばす
「で、登録はまだ終わらないのか?」
ギルドの扉から恐る恐る顔を出した受けづ上に、マックスは問う。
広場に転がる四人の獣人と、涼しい顔で突っ立っているマックスを交互に見て、引きつった笑みを浮かべた。
「え、あ、は、はい……カード、出来てます……」
小走りでカウンターに戻り、震える手でカードを差し出した。
「こ、こちらです。Fランクの冒険者カードになります。あの、くれぐれも……」
言いかけた彼女の背後から、低い声が響いた。
ギルドの奥から、巨漢の男が姿を現した。禿頭に深い傷跡が走っている。元Aランク冒険者、現ギルドマスターのドルクだった。腕を組み、マックスを値踏みするように見つめた。
「おい、新入り」
ずしん、ずしんと重い足取りで近づいてくる。周囲の空気が一段と重くなった。
「Cランクの冒険者を素手で四人まとめて沈めたそうだな。……面白い」
ドルクの目が細まった。笑っているようで、全く笑っていない。
「うちのギルド員は大事な戦力だ。お前がやったことは、要するに「俺の店で暴れた」のと同じだ。分かるな?」
「ゴミを掃除したと言うことではダメか?」
ドルクの眉がぴくりと動いた。こめかみに血管が浮き出る。しかし、長年ギルドマスターとして荒くれ者たちを束ねてきた男だ。すぐに爆発するほど若くはない。
「……ゴミ、ね」
腕を組んだまま、一歩マックスに近づいた。身長差は頭ふたつ分ほど。見下ろす形になる。*
ギルド内の冒険者たちが息を呑んだ。ドルクは元Aランク。引退したとはいえ、その威圧感は現役のSランクにも引けを取らないと言われている。ギルド内の空気が、先ほどとは別種の緊張感で満たされた。
「いいか、新入り。よく聞け」
ドルクはカウンターに寄りかかり、太い指でマックスを指した。
「お前が強ぇのは分かった。鬼族ってのも本当だろう。だがな、ここはギルドだ。力だけの世界じゃねぇ」
にやりと笑った。それは、歴戦の猛者だけが出せる、底意地の悪い笑みだった。
「登録はしてやる。Fランク、そのままだ。Cランクを四人倒した? 関係ねぇ。実績がゼロだからな。文句があるなら……依頼をこなせ。」
「ふん。どんな依頼が有るんだ?そこの掲示板から選べば良いのか?」
マックスは、顎をしゃくって掲示板の方を示した。
「そうだ。Fランクの依頼はそっちの壁に貼ってある。好きなの選べ。」
マックスが掲示板の前に立つと、そこには色とりどりの紙が所狭しと貼られていた。Fランクの欄は一番下、腰をかがめないと読めない位置にあった。嫌がらせか、それとも単に身長の問題か。
依頼の内容は実に地味だった。
「薬草採取:町の東の森にてヒールグラスを十束。報酬:銅貨五枚」
「荷物運搬:商人の倉庫から市場まで木箱を運搬。報酬:銅貨八枚」
「害虫駆除:農場に現れた巨大ネズミの討伐。報酬:銀貨一枚」
「迷子猫捜索:依頼主の飼い猫を探してください。報酬:銅貨三枚」
どれもこれも、冒険者というよりは日雇い労働者の仕事だった。周囲の冒険者たちがちらちらとマックスを見ている。さっき広場で四人ぶっ飛ばした鬼族が、猫探しや薬草摘みをやるのか、と。その目には嘲りが浮かんでいた。
カウンターから、受付嬢が恐る恐る声をかけた。
「あ、あの……Fランクは実績を積まないとランク上がりませんので……」
「なら、荷物運搬でもやるか。100人分をやれば報酬は100倍だろう?それでランクは上がるか?」
目をぱちくりさせた。それから、困ったように首を傾げる。
「え、えーと……依頼は一件ずつしか受けられませんし、報酬も一件分です。100件達成すればランクは上がりますが、それは依頼の「質」も考慮されますので……」
奥のカウンターから、ギルドマスター・ドルクが鼻で笑った。
「荷物運びを100回やったところでFはFだ。ランクってのは実力と信用で決まる。数こなしゃいいってもんじゃねぇ。」
ドルクが太い腕を組み直す。
「ランク上げたいなら、それなりの依頼をこなせ。例えば……そうだな」
掲示板の上の方、Cランク以上の欄に目をやった。
Cランク以上の依頼欄には、毛色の違う紙が並んでいた。「ワイバーン討伐:報酬金貨五枚」「盗賊団壊滅:報酬金貨三枚」「ダンジョン攻略:報酬応相談」といった文字が見える。どれも命懸けの内容だった。
受付嬢は小声でギルドマスターに言う。
「あの、規定では自分のランクより一つ上の依頼まで受けられます。つまりマックスさんはEランクまでの依頼を……」
「Cランクでも良いぞ、俺は。全部受けようか?」
顔が真っ青になった受付嬢。両手をぶんぶん振る。
「む、無理です! 規定違反です! 自分のランクより一つ上までって決まりで……!」
しかし、ドルクは違った。面白いものを見るような目でマックスを眺めていた。顎に手を当て、しばし考え込む。
「……ほう」
ドルクが立ち上がり、どすどすとマックスの前まで歩いてきた。
「いいぜ」
「ギルドマスター!?」
受付嬢が声を上げるが、ドルクは気にもせずにやりと笑った。それは明らかに罠を仕掛ける側の笑みだった。
「Cランクの依頼、受けさせてやる。ただし条件がある」
太い指を一本立てた。
「一つ、依頼はCランク「ゴブリンの巣穴殲滅」。東の森の奥にある洞窟にゴブリンが五十匹ほど巣食っている。近隣の村が被害を受けててな、討伐依頼だ」
ドルクの笑みが深くなった。
「二つ、一人で行け。パーティー不可。制限時間は今日中。できりゃランクをDに上げてやる」
周囲の冒険者たちがざわついた。あの依頼、先週Cランクのパーティーが返り討ちにされて重傷で帰ってきたやつだ、と誰かが囁いた。
「どうだ?」




