鬼は耳を集め終わる
前章までのあらすじ
ゴブリンの耳は四十六個。残りは四個。
洞穴の中は狭かった。マックスの体格では少し窮屈だ。身を屈めて中に入ると、三匹のゴブリンがいた。しかし様子が妙だった。
三匹とも、ぐったりしている。怪我をしているのだ。一匹は足が折れ曲がり、もう一匹は背中に深い切り傷。最後の一匹は横たわったまま動かない。
どうやら逃げた際に同士討ちか、崖から落ちたかしたらしい。自滅した連中だ。耳を回収するには好都合だった。
しかし、横たわっている一匹が、微かに呻いた。まだ生きている。足を引きずった一匹が、マックスの姿を見て悲鳴を上げた。
「ギィッ! ギギィ!」
マックスは、死んで動かないゴブリンから耳をちぎり取った。ぶちっ。一匹目。
足折れのゴブリンが悲鳴を上げた。折れた足を引きずりながら、瀕死の仲間に覆い被さろうとしている。庇おうとしているのだ。無意味な行為だった。
「ギ、ギィ……」
横たわっている一匹は意識が朦朧としていた。目は虚ろで、もう長くはないだろう。
足折れのゴブリンが泣き叫んだ。きぃきぃと、何かを訴えている。仲間を返せ、とでも言っているのか。それとも命乞いか。
マックスの手が、瀕死のゴブリンの耳に伸びた。
「ギィィィ!!」
小さな手だった。足折れのゴブリンの手が、マックスの指にしがみついていた。
「無駄だ。どうせお前は死ぬ」
マックスの指がゴブリンの手を振り払った。虫を払うような仕草だった。足折れのゴブリンが地面に転がる。折れた足が変な方向に曲がり、絶叫が上がった。
足折れのゴブリンの目から光が消えた。仲間の耳が、目の前で引きちぎられていく。きぃ、と小さく鳴いた。もう叫ぶ力も残っていなかった。
横たわっている瀕死のゴブリンは、意識が朦朧としている。呼吸は浅く、体は冷たくなりかけていた。放っておいても死ぬだろう。
マックスの手が、瀕死のゴブリンの耳に伸びた。
最後の力で、瀕死の仲間の前に這い寄った。自分の体で覆い被さろうとしている。折れた足で、震える足で、必死に。
「ギィ……ギィ……」
その目には、もはや恐怖はなかった。覚悟だけがあった。自分が死ぬことは受け入れている。だが仲間だけは、という目。ゴブリンにしては、随分と人間臭い感情を見せていた。
マックスの手が、止まった。
「その目は悪くない。お前たちもこのまま連れていくか」
マックスの手が瀕死のゴブリンを掴み上げた。足折れのゴブリンが最後の抵抗とばかりに、マックスの足にしがみついた。小さな爪が皮膚に食い込むが、当然傷はつかない。
マックスは足折れのゴブリンも片手で拾い上げた。両手にゴブリン一匹ずつ。まるで買い物袋を提げているような格好だった。
「ギィ! ギィィ!」
足折れのゴブリンが必死に仲間を取り返そうともがいている。折れた足で蹴り、噛みつき、引っ掻くが、マックスには蚊ほどの感覚もない。
子供ゴブリンも回収して、洞窟の入り口に戻った。耳の山は四十六匹分。あと四匹。
耳一個にゴブリン三匹。これで五十匹分の耳が出揃った。あとは帰るだけだ。小脇にゴブリン二匹、子供ゴブリン一匹。なかなかの珍妙な帰り道になりそうだった。




