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教会の扉を開けて、対応しているローレンスと聖騎士を視界に収める。
うわ、まじ聖騎士だ。しかも先頭にいるのは筆頭聖騎士に間違いない。
くそ。見間違えだったらよかったのに。
「せ、セネス様ぁ?」
可哀想に。ローレンス。こんな辺境の教会にいたら突然話すこともないような上司に会うことになるとは、さぞ胃が痛かろう。
俺も同じ気分だ。
「神父セネス・グレゴリウス殿でお間違いないか」
女?
全身鎧でわからないが、確かに女の声に聞こえた。
いや、中性的な声をしているだけかもしれないが。
「はい。私がセネスです。どうもどうも、今日はどういったご用で……?」
謙ってとりあえず様子を見るしかない。こいつらは本物の騎士なのだ。物々しさの塊であり、教会の中でも信仰に対する過激さでいえば群を抜いている。
「それは中に入って話をさせてもらおう。失礼する」
俺の質問を軽く無視して、聖騎士たちが金属音を立てて近づいてくる。
そこに、一人の子供が現れた。
「騎士様! 騎士様だ!」
朝方教会に忍び込んでいたヒルデという孤児だ。
彼女はピカピカの鎧を纏う騎士を見て、無警戒に近づいていく。
そして、一人の聖騎士の鎧に触れた瞬間だった。
「取り押さえろ」
団長の声によって、ヒルデが地面に押し倒される。
(まじかこいつら?)
「すまないがセネス神父。牢の手配を」
は?
いや、確かに職務中の聖騎士に近づくのは御法度だ。それができるのは権力者である枢機卿と教皇くらいだろう。
ヒルデは当然、大人の力で取り押さえられて泣き喚いている。
確かに規律は大事だ。ルールは例外なく守るからこそ価値がある。
だが、だからといってお前、それはないだろ。
「……よ」
「? なんだセネス神父?」
先頭の飾り羽の聖騎士の問いに、俺は頭の中で何かの糸が切れた音がした。
「──牢なんてあるか馬鹿タレ。その子を今すぐ離せ」
俺の言葉にローレンスが焦った様子で二度見する。
(仕方ねえだろ。譲れないものは誰にだってある。黙ってろローレンス)
「誤解なきよう頼む。我々は枢機卿の命によって、正式に貴方に協力要請を取り付けにきた。争う気はない」
とりあえず俺がなんかやらかしたから来たわけではないらしい。
が、これからもそうだとは限らない。
「そんなことどうでもいいんだよ。聞こえなかったのか? その子を離せって言ってんだ」
「我々がどういう存在か知っておられよう。規律は絶対である。この孤児は許可なく聖騎士である我々に触れた」
剣呑な雰囲気になったのがわかったのか、ローレンスだけでなく、遠くから見守っている村人たちも落ち着きがない。
「ヒルデ。こっちに来なさい」
「う、うう。神父様ぁ」
幸いにも、聖騎士は逃げ出そうとするヒルデを押さえつけておく気はなかったらしい。
「ローレンス。ヒルデを連れて少し離れてろ」
「あ、あの。セネス様? い、一体何をなさるつもりで?」
むかつくんだよ。孤児だからって、身寄りがないからって、独りだからって、侮られんのは。
「ストレス発散」
聖騎士がどんだけえれえんだ? 何も知らない子供を牢屋にぶち込むのが正義なのかよ。
だったらお前らの流儀でやってやるよ。
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「団長。神聖力が」
「ああ、わかってる。攻撃してくるつもりらしい」
聖騎士団長、リリィ・テラスノヴァは右手に神聖力を集め出したセネスを見る。
「大丈夫でしょうか?」
「問題ないだろう。女神の使徒とはいっても、単なる神父だ。扱える神術もせいぜいが"光の矢"だろう」
リリィの想像通り、セネスは右手から黄金の矢を生み出した。
「全員、神聖力は纏っているな?」
「「はい」」
それなら何も問題はない。教会における神官の教育体系と、聖騎士の教育体系はまるっきり違う。
癒しの神術や、浄化の神術。それに加えて儀式の進め方などを学ぶ神官と、昼夜自らの体を鍛え、武力によって敵を制圧する聖騎士とではそもそもの在り方が違うのだ。
慈愛を体現する神官と、正義を執行する聖騎士。どちらが荒事に向いてるかなど、比べるまでもない。
光の矢は一般神術の枠に収まる、基本中の基本。その威力は一本の矢を放つに相当する。
──何も問題はない筈だった。
「……ん?」
「だ、団長?」
聖騎士の驕り、一般的な常識、それによって齎された予測。
それらを軽く覆すかのように、セネスは左手にも神聖力を集め出した。
「な、なんだあれは? あんな神術、見た事ないぞ」
団員の一人が思わず声を漏らす。
生み出した光の矢を飛ばすだけの神術の筈が、今、セネスの手元にはそれを打ち出す黄金の弓が生み出されている。
「これ、燃費悪いんだよな」
セネスの声がリリィの耳に届いた瞬間、引き絞った黄金の矢が恐ろしい速度で射出される。
空気を切り裂き、光の尾を引きながら飛来する神聖力の塊に、リリィは額に汗が伝うのを感じた。
「──総員、第一防御陣形!」
リリィの怒号に迅速に固まった聖騎士たち。
その瞬間、轟音を伴って光の矢が着弾した。




