10
衝撃によって大地が揺れ、舞い上がった砂煙と、土砂。遠くにいる村人でさえ咳き込むほどの破壊力。
砂煙が晴れると、そこには鎧を汚しながらも、大きなダメージを負った様子はない聖騎士たちがいた。
(神聖力を纏って軌道を逸らしたのか)
俺の神術は聖騎士たちの立っている場所から、右側の地面を大きく削り取っている。
ちっ。いいよな。自分に神聖力が使えるやつらは。
「ったく。二発も撃たせんじゃねえよ。今度は手加減しねえからな」
問題ない。修正すればいい。大丈夫だ。軌道を逸らしたってことは、裏を返せばまともに当てられたら拙いってことだろ。
──右手に矢、左手に弓を。
それを見て聖騎士の団長が口を開く。
「待て、セネス神父! 我々は協力要請をしにきただけだ! 枢機卿が貴方をお連れしろと命じられた! 貴方の対応は本当に正しいと言えるのか!?」
それはもう聞いたっつーの。
俺は大きく息を吸い込んだ。
「枢機卿が俺に用があるって言ったな!?」
「……っ!?」
「用があるなら、自分で来いって伝えろ!」
俺は再度弓を引き絞る。
ターゲットに狙いを定め、一瞬でも動いたら射出するつもりで。
「わかった。今は冷静な話が出来ないようだ。我々が出直そう」
「団長? いいのですか?」
「私たちに与えられた命はセネス神父を安全にお連れすることだ。無理やりではない。それに、このままやり合えば、私たちもいらぬ負傷を招きかねない」
そうだ馬鹿野郎ども。帰れ帰れ。
「では失礼。再びお見えになる時を楽しみにしています。セネス神父」
「待て。あんた、名前は?」
油断なく弓を構えたままの俺に、臆することなくその聖騎士は立ちはだかる。
「これは失礼を。私の名前はリリィ・テラスノヴァ。以後お見知り置きを」
それっきり聖騎士たちは村を出て行った。
俺は生み出していた神術をかき消す。
──。
「せ、セネス様。なんと素晴らしい! おお。私はまた一つ女神の使徒である貴方様の奇跡を見てしまいました! まさか、神官が聖騎士を追い返すとは、なんという神聖の奇跡でしょう!」
「ローレンス。ヒルデに飯でも食わせてやってくれ」
「はい。あ、お待ちくださいセネス様!?」
俺は足早に教会に戻り、廊下をスタスタと歩き、部屋に入る。
そして、扉の鍵を閉めたのを確認して座り込む。
「はぁぁああ。まじでやばかった! くそっ! なんで俺はあんなことをしちまったんだ!!」
神聖力もごっそり減ったし、精神力もごりごり削られた。
ヒルデの扱いに対して声をあげる。ここまではよかった。
だが、まさか教会の戦闘集団である聖騎士に神術を撃ってしまうとは。
しかも、団長含む精鋭中の精鋭、規律の怪物たちだ
「てか、あいつら化け物かよっ……?」
一般神術である光の矢を自分なりに再解釈して、光の弓矢と名付けた俺の奥の手。
その威力は光の矢の比ではない。
神術には神聖力とともに、精神力が消費される。その関係で俺でもこの神術は一日に三発しか撃てない。
神聖力にある程度の耐性がある聖騎士は死なないとは思っていたが、もう少しダメージが入ると思っていたのが本音だ。
「まじでやばいっ……ど、どうしよう? まさか異端審問にかけられるとかっ……?」
考えれば考えるほど悪い想像が浮かんでくる。
こんな時はいつもは酒と女が俺を癒してくれるが、女神のせいで色街に行くことすらできない。
「神聖力も減っちゃった……」
しかも聖騎士たちは枢機卿の命を受けてやってきたと言っていた。枢機卿は教皇の次に位の高い人物だ。逃げられっこない。
「くそっ……まあ、でも、ヒルデの件が有耶無耶になったなら収穫はあったか……」
もはや孤児が粗相をした、なんてのは聖騎士も忘れているだろう。
忘れてるよな?
「……それにしても、世界って広いんだな」
俺の有り余るほどの神聖力をもってしても、勝てないかもと思わせる人間がいる。
こんな時にこそつくづく思う。
自分に神聖力を使えたら、俺は無敵なのに。
「あーくそっ。そもそも信仰がどうとか悩んでたからこうなったんだ! これは全部あの女神のせいだ! 俺は悪くない!」




