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お悩み相談部へようこそ  作者: 白太朗
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第十三話

 いきなり連れて来られた場所は僕がこれからアルバイトをする場所だった。

 「……急だなー。僕には労働の自由は無いのか?」

 「ねぇよ」

 「日の丸食堂でバイトする予定だったのに……」

 「そりゃ、残念だったな」

 どうやらここで働くことは絶対らしい。それにしても鎧とか剣とか槍とか……すごいなぁ。

 キラキラしている武具に男の子心をくすぐられる至恩は『まぁ、ここでバイトするのもいいかもなぁ』と眼を輝かせて両壁を眺めていた

 「……レイって賞金稼ぎに狙われてるんだよね?地下社会で危険だと思われてる人がこんな凄く格式ばった場所で働けるの?」

 「ここは、地上とは全く違うんだよ。……いや、上より統制が取れていない。簡単に言うと『鬼』の力を畏れて排除したがっている勢力と、利用しようとしている勢力があって昨日の桃太郎は前者、この『騎士団』は後者なんだよ。……まぁだからここはそんなに危険じゃねぇよ」

 ……そんなに、ねぇ?

 一言が気になるがそれは置いておいて、懸賞金を掛けてまで『鬼』を抹殺しようとする人がいて、昨日の不吉な男と黒髪で金眼の美しい少女はお金が目当てで僕を仕留めようとして襲てきた。……でも利用しようとする人もここにはいるなんて、ガタガタだな地下街(ホープレス)って

 「俺たちを利用したがってる組織だからって油断すんなよ。そういう連中は少数派だ。多くは『鬼』を疎ましく思っている奴らで大半で、ここにも一個人でいるかもしれねぇから」

 「……ここの『騎士団』って、その大半の人たちから僕らを守ってくれたりするの?」

 「守ってくれる?なぜ俺が守られなければならない」

 「訂正、僕を守ってくれるの?」

 「さぁな、それは無いんじゃねぇか?考えてもみろよ。俺たちみたいな猫の手……虎の手も借りたがるような切迫している組織だぞ?その期待はしねぇほうがいいと思うけど」

 ……ですよねー

 「じゃあ、ここ断って日ノ丸食堂でバイトするってのはダメかなぁ?」

 「往生際の悪い奴だな。きっと、お前が地下に来る前にもう決まってたことだと思うけどな。『騎士団』に入団するのは」

 「何でそんな……」

 「なんの利用価値もないのに『鬼』を住まわせる寮まで用意してると思うか?昨日の桃太郎思い出せよ。価値があるのは金に変わる俺たちの屍だ。生きている『鬼』に寝る場所を与えた意味がここに入ることだとすると納得できるだろう」

 確かに地下街に連れて来られた時点で、いや黒瀬が地上で僕を追いかけまわした時点てもう決まってたんだとすれば納得できるなぁ。そっかー、僕に労働の自由は無いのか。

 「あぁ、美人な店主の元で働きたい人生だったなぁ。………それでさ、僕たちこんな処で立ち話してていいの?」

 「ここで『騎士団』のボスとお前を会わせるって段取りを付けるのが今日の俺の仕事なんだよ。もうすぐ時間」

 「へー、全く初耳!」

 え、シャンデリア付きのデカい建物を牛耳ってる組織の(トップ)と今から話すの?それって面接みたいなんだけど!

 「それって、バイトの面接みたいなもの?失敗すると雇われないの?」

 と、雇われなかったら日ノ丸食堂でバイトすればいいやと気楽にやろうとした至恩に、冷徹な一言が投げられた。

 「いや、多分殺されんじゃね?『騎士団』でも使えないって判断されたらせめて懸賞金を組織の足しにすると思うし、そもそも地下には敵しかいねぇし、お前が死んで喜ぶ奴は多いし……考えてみたら結構やばい状況だな。がんばれ!」

 拳を握りしめて初めていい顔をする礼志に途轍もなく頭に来た。

 え?すっごくムカつく。え?この面接失敗したら僕殺されんじゃん!理屈に合ってんじゃん!

 やばい!やっばい!やっばいぃ!!

 「っ…ぅわぁ……!」

 危機感と焦燥感で頭がいっぱいになり嫌な汗がだらだら流れた。


 「おや、御影。珍しく早いじゃないか。時刻通りだ」

 流暢な声が聞こえた。組織を纏めるために身に着けたのか元来のものか、誰もが聞かなくてはいけないと直感し耳を傾けようとする『騎士団の長』の声が。

 「珍しく、か。いつもは余計な衝突避けるためにわざと遅れて来てんだよ。あんたも知ってるだろ」

 礼志は何も動じずに現れた『団長』を前にして普通に言葉を返した。至恩は大きいと思った。背丈ではなく、人目を惹く存在感の大きさに驚いていた。

 「そちらの彼が新しく入団する立花至恩で間違いないか?」

 「ああ、指示通り連れて来た」

 階段を一つ降りてくるたびに軽く浮く桜の髪、白い瞳を至恩に合わせゆっくりとこちらにやってきた。細身の体に背はそれほど高くない。至恩に比べればはるかに大きいが。

 「……は、初めまして、星丘学園の1年に編入した立花至恩です。殺させるって聞いて今すごく震えていますが気にしないで下さい」

 「え?あーはは、随分と変わった子だね。中等部の学生か?」

 あっ、出ました。と身長が低いから必ず本来の年齢に見られない至恩はもう慣れっことばかりに普通に返答した。

 「違いますよ!一体何なんですか毎回毎回、中学生?小学生?同じようなこと聞いてきてうんざりなんですよ!」

 学校でさんざんいじられたネタを持ち出されてとうとう不満が爆発してしまったようだ。

 いつもなら『こう見えて高校生!キリっ!!』と返せる至恩だったが、礼志に与えられた過度なストレスによってもう自分を制御できなくなってしまっていた。

 「…………あーはは」

 「身長のこと気にしてたんだな……お前もさ、初対面で揶揄うのはやめてやれよ。知ってんだろこいつの年ぐらい」

 「さぁー、なんのことやら。早々に失礼した。立花至恩くん。私はここで『団長』をやらせてもらっているアーデル・ミハイルだ。早速で悪いがいくつか話を聞かせてもらう」

 名前が聞きなれない!全部カタカナじゃん。外国人?

 「ああ、地下社会じゃ珍しくない名前だからな。上の常識で考えるなよ此処は」

 「あぁ……うん」

 「なんだい!ただの自己紹介でそんなに驚かれるとは思わなかった。そういえば御影も最初そういう反応だったなぁ。地上じゃ珍しい名なのか?」

 甚だ不思議そうに至恩の反応を気に掛ける『騎士団の長』はやはり地下の生まれで自分の名前に何ら違和感が無いのだろうと思わせた。

 「上じゃ、お前みたいな名前を持っている奴は海を越えないといないから珍しいだけだ」

 「そうか、地上ではそうなのか!前、君に地上の話を聞かせて貰ってからずいぶん経つが、やはり面白いな」

 「そんなピンクの髪を持っている人はなかなかいませんよ。地下ってやっぱり常識から違うんですね……」

 「あーはは、真っ赤な髪をしている君がそれをいうのか。いや、人の上に立つものとして少し恰好を付けようと思ってね染めたんだよ。実際はこんな髪ではないよ」

 あっ、そうなんですね。僕もです。

 それにしても表情から感情が読みにくい人だな。

 「……………」

 至恩は離していると不思議な気分になる目の前の人を観察した。

 図体が大きいわけではない。普通の体格で平均身長ってところだろう。……至恩にしてみれば見上げなければならないほどだが。

 生まれ持ったものだろうがどうにも人目を引く。桜の髪が元来のそれをさらに引き立たせる。

 そして、口元に張り付けている笑み。先ほどからずっと気になっていた。これが邪魔になって表情から考えが読めない。意図的にやっているのだろうか。(シルバー)(ムーンストーン)の瞳がこちらに向くと逆に見透かされそうな畏怖を抱いてしまう。

 ……組織の長って怖いなぁ

 「えっ、まじ?『日ノ丸食堂』って甘味もあんの」

 「ああ、この前はケーキ食べたよ。とても甘くて美味だ」

 「け、ケーキ……」

 至恩が思考を別の場所においているとアーデルと礼志は雑談に花を咲かせてた。

 てゆうか、気の抜ける話してるなぁ。レイはなぜか肩をワナワナさせてるし、なにか衝撃的な話でもされたのだろうか。

 「そういえばチョコレートパフェもメニューにあった。御影は好きか?私は頭を使った後はどうにも甘い物を取りたくなる」

 「ちょ、チョコレートパフェ……」

 どうにもただの戯言のようだ。ただ、至恩はケーキやチョコレートパフェの言葉が出てきた途端に礼志のいつものようなクールな雰囲気が一変して惚け者になってしまうことに嫌な予感がした。

 「あの、そろそろ僕がここに呼ばれた本題を話してほしいのですが………」

 「ちょっと用が出来たから俺は帰る」

 「……レイ、『日ノ丸食堂』へ行く気でしょう。どんだけ甘い物好きなんだよ!」

 甘い物に眼が無い礼志は、昨夜も黒瀬にアイスクリームをちらつかされて軽く騙された。

 後に、大量のバニラやチョコのアイス空き容器を前にして膝をついて断末魔を上げた礼志の姿はまるで道化であった。それを『チョロいな礼志くん』と笑っていた黒瀬は何度も同じ手段で礼志を騙しているのではないだろうかという疑念を抱かせるほどの慣れを感じさせた。

 「うるせぇ、俺はケーキとチョコパフェを食いたくて仕方がないんだ。帰る!」

 「待ってよっ、後で一緒に行くって約束しただろう!というか殺されるかもしれないこんな場所に一人にしないでくれ」

 「いや、もう我慢できねぇ」

 そんな二人のやり取りを見やりアーデルはきょとんとし、『あーはは』と独特な笑い声を上げた。

 「意外だね。御影は甘い物好きなのか?」

 「レイはもう好きなんてもんじゃないですよ。甘い物を前にすると頭が悪くなるレベルです!」

 「おい至恩放せ!ケーキがパフェが俺を待っている!!」

 悠長に構えるアーデルに、今にも『日ノ丸食堂』に突撃でもするのではないかという勢いの礼志と、服を掴みいかせまいとする至恩。服を掴んでいる腕が血管を浮かせるほどで、至恩はアーデルとどうしても二人きりになりたくないのがうかがえる。

 至恩の必死な姿をアーデルは凝視し、ふと悄然的に瞼を下げた。

 「君は鬼の力を行使したことはあるか?」

 「僕ですか?それが無いんですよね……レイは昨夜に鬼の力?を使っていたみたいですが、僕にあんな力があるのか未だに疑問ですよ。とんでもない身体の動きでしたから……」

 それを聞いたアーデルは落胆したように溜息を落とした。

 「『ツノ掴み』め、戦力外をこちらに流すとは……」

 「……?」

 彼方を睨みぼそりと呟いたその言葉には怒りが含まれていた。アーデルの表情から笑みが消えていて、『何だろう?てゆうか、この人でも怒るんだな』と安心したように頬を緩めた。

 少し考えこんだ様子を見せたアーデルはすっといつもの笑みを張り付け直し、至恩らにこう切り出した。

 「では、立花には鬼の力を開放してもらう。御影は万が一の際に押し止める役をしてくれ、ここで今すぐだ」

 「えっ!?」

 「はあ?俺はパフェ食いに行くって言ってんだろ!」

 「お前の意見は聞いてないよ命令だから。やり方は分かっているな」

 私情と仕事の間で逡巡した様子で玄関扉とアーデルを何度も見ると大きな舌打ちと共にアーデルを睨んだ。

 「ちっ、わーたよ。やってやる」

 「いやいや、何を⁉これから僕どうなるの……?」

 不安を感じ嫌な汗をだらだら流す至恩を無視し、アーデルは礼志に何かを投げて渡した。

 「私は上から見ているからこの建物は壊すなよ。少しの傷も許さない。できなければ次の『防衛』の時に御影を荒く使う」

 「おい!無茶を言うなよ。あっ、行きやがった……たくっ、あいつは本当に最悪だ」

 色々注文を付けて、アーデルは2階へ続く大きな階段を早足で上がっていった。『あーはは、精々頑張りな』と礼志の文句に重ねて言い、礼志の意見に耳を傾ける気すら無い。

 「だぁーくそっ、ほら、お前はこれを飲め」

 「え、おっと、てなにこれ?」

 ひょいっと渡された物は小さな赤い包みだった。至恩は『何?これ』とこれから飛んでもないことが起こりそうな予感がして不安いっぱいの表情だった。

 「飴玉だよ。飴玉。いいから口に入れろ、味わうなよ、飲め」

 「えぇ~、毒とか入ってない?僕殺されるかもしれないんでしょ、あの上から笑ってみている人に……」

 至恩は2階から張り付けた笑みで見下ろしているアーデルを見上げ顔を引きつらせていた。赤い飴はアーデルが礼志に投げ渡したもので、元々はアーデルの所有物だ。全くもって口に入れる気にならない。

 「毒は入ってねぇよ。大丈夫だから、早くしろってぶん殴るぞ」

 「もう、なんなんだよ。食べればいいんだろ‼………くんくん…………はぁ、パクッ……んっく……あっ、これ飲むの難しいな。てゆうかなに、この味?鉄みたいな味がする」

 「ちっ、味わうなっつたろうが……ん?」

 2階から『御影―』と呼ぶ声がして、見上げると鉄の水差しが降ってきた。

 「おわっ、あいつ……これ花の水差しか?至恩、これ使って飲め」

 どうやら2階の廊下にある花に水をやる用の水差しをアーデルがよこしたようだった。

 「もごもご……これ花用のやつでしょう?僕人間なんだけど」

 「中身はただの水だろうが、早く飲み込め」

 「はいはい、わかりましたよ」

 水差しを口に持っていき、傾けて注ぎ込んだ。『飲みづら……』と思いながらも飴玉を胃に流し込んだ。

 「ごくごく……はい、飲んだよ。ゲホッゲホッ、でこの後は?」

 「じゃあ、拳を構えろ」

 「は?」

 「構えろ、昔みたいに手合わせする」

 「えぇ!?」

 礼志は上着を脱ぎ準備運動を始めた。

 手首、腕を伸ばし、伸脚等を慣れた様子でスムーズに行っていた。

 うわぁこれは、絶対にやらなきゃいけないみたいだ。と至恩が思ってしまうほどに礼志はやる気満々みたいだった。

 「でもほら、グローブとか無いし……流石に危ないと思うんだけど」

 「よし、行くぞ」

 聞いてねえ…と、礼志を見たときにはもう間合いを詰められていた。

 「くっ!」

 すぐさま後方に飛び、距離を放そうとしたが礼志の方が早かった。

 素早い拳がバックステップした至恩の顔面に迫り、腕を上げて防御した。が、後方に吹っ飛ばされて壁に激突した。

 「いててっ……」

 背中を強く打ち衝けて、痛みに悶えていると礼志の追撃がすぐさまやってきた。

 右上段蹴りが至恩を捕らえ、今度は右方向に吹っ飛ばされ地を転がった。

 「おいおい、まだ10秒も経ってないぞ?もっと集中しろよ」

 そうだった。と少しずつ過去の思い出が蘇った。

 御影家での修練は甘さが一切なくスパルタという言葉がとてもよく似合う場所だった。

 攻撃をもらって痛みに苦しんでも受けてしまった当人の責任で、体調や精神状態、疲労、油断全てが配慮されず、ほとんどが実践形式で行われる。なので、修練中は集中を掻くわけにはいかず、終わった後には全てを出し切って、肉体はもちろん頭の中が空っぽになった感覚に陥るほどの精神へ疲労が凄まじかった。

 そんな環境に礼志は、至恩が居なくなった後も3年間も身を置いていたのだ。

 「ぃつぅ~!……はぁはぁ、強いね。あの時より凄く早いし、重い。僕も自主練ぐらいはしてたんだけどね。やっぱり歯が立たないみたい……」

 「鈍ったな。実践から離れ過ぎだ。だが、これで終わりとはいかない。お前は俺を倒すことに集中して『鬼』を出さねぇと上から見ているニヤケ面が俺たちを開放しない」

 ちらっと上を見上げると張り付けた笑みを浮かべているアーデルが手すりに肘を掛けてこちらを観戦していた。

 「何が何だか……でも分かったよ。とにかく全力でレイを倒そうとすればいいんでしょ?やるよ。それに実戦の感ぐらいは取り戻したい」

 立ち上がった至恩は拳を構えた。礼志を見据える瞳にはもう諦念や怯えは無く、敵を見据えた一人の戦士の眼だった。

 眼付きが変わった相手に一瞬驚いたように口を開けると、礼志は歯を剥いて笑った。

 「いいぞ。懐かしい顔だ。面白くなってきた」

 今度は至恩から距離を詰め、礼志はそれに奮起した。そんな彼らを上から眺めていたアーデルは常に纏っている笑みを深めるのだった。


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