第十二話
今回の題名は『学園にようこそ』って感じだと思います。
なんだかんだ言いつつ職員室の場所を教えた礼志と別れ、大体の場所を礼志に聞いて職員室に足を向けた。
校内の明かりは寮とは異なり、外で慣れた目を細めてしまうほど眩しい。
暫く歩くと理科室や美術室,音楽室などと木で彫られた板が下げられている教室が至恩の横を通り過ぎて行った。使われていないであろう何も名称が付いていない教室もあって,結構広いなと至恩は思っていると,ふと気づいた。
迷った?
今更ながら自分の現状に気づいた至恩はごつい携帯で時間を確認すると8:25と表示された画面にやばっと吐いた。
急いで職員室を目指さなければ初日遅刻となってしまうことに焦燥感を隠せない。
……レイ曰く、なんか普通じゃないらしいし………
とりあえずもう一度礼志に職員室の場所を聞こうと思い、来た道を引き返そうとするが昇降口に戻る途中に声を掛けられた。
「どうしたの?」
そこにはセミロングの銀白色をした女生徒がこちらを見ていた。
鈴の音のような声色を発した彼女の声を聞いた瞬間,至恩はよし助かったと胸の内でガッツポーズしてその女生徒に向き合った。
「実は,今日転校してしたばかりで職員室の場所が分からなくて困っていたんです。どこにあるか教えてくれませんか?」
その人は納得したように頷くと自分の背の方を指さした。
「あっちに行くと、階段があるからそれを上るとすぐに職員室があるわ。随分急いでたようだけど大丈夫?」
彼女は優しそうにこちらを慮ってそういってくれた。
銀白色の髪から碧眼を覗かせる彼女の容姿は神秘的なほどに美しかった。
なので、つい少し身の上話を零してしまった。
「実は、今日転校することになりまして……本当ならもっと早くに着いて職員室に伺わなきゃいけなかったですが、こんな時間に……」
至恩はこの時気づかなければならなかったのだ。地下街には学園が一つしかなく転校などという言葉は地下の住人には聞きなれない言葉ということを、そして転校して来たということは地上からやってきたことを暴露しているということを。
碧眼をすっと細めて彼女の纏っていた優しく礼儀正しそうな雰囲気が一変し、敵意を現した。
「転校?あなた地上から来たのね」
至恩はぎょっとしてたじろいだ。地上から地下にやってきたことを気づかぬ間に知られてしまったこともそうだが、初対面の美人に敵意を向けられたことにサーと肝を冷やした。
「え?いや、その~……僕急いでいるのですみません。さようなら」
こわっ、何あの眼!急に!
駆け足で教えられた階段まで辿り着くと一気に駆け上がった。
走り出しているときも彼女の鋭い視線が背中を刺しているようで恐ろしかった。
「………………」
階段を上るとすぐに職員室に着いて,助かったぁ怖かったけど、と彼女に感謝の念を抱き、荒い息のままノックして職員室に入る。
「失礼します」
職員室には,もう登校時間が迫っているからか人が少なくクラスを受け持っている教師は教室に向かったのだろう。
「おはようございます。もしかして,立花君?」
入るなり,近くにいた教員が対応してくれた。
「はい,そうですけど」
「転校初日はもっと時間に余裕を持ってこようね」
初日に行き成り注意されてしまった。
至恩はばつが悪そうに『すいません』と謝ると,その教員は立ち上がり手を差し出しながらいった。
「1年B組担任の白石です。今日からよろしく!」
「へぇ~……あっ!もしかして,担任の先生?」
「君,何も知らないんだね……」
そう呆れたように言いながらは白石先生は立ち上がると,『まあ,いいや』と呟いた。
「………」
体育会系の人だ。と第一印象から分かりやすい快活さで、白い歯をにっと見せる先生を前に疑問が浮かぶ。
……普通じゃないねぇ……?
年齢は黒瀬ぐらいかな。20代後半から30代前半の人だ。
白石先生は,教室を案内するからと職員室を出た。
「立花くんは,なんでこの時期に転校を?」
「え?」
「この時期に行き成り転校で,履歴書もないから君のプロフィールが分からないんだ。担任として聞いて置きたくてね」
確かに,急だったからなぁ。至恩は昨日のことを思い出して呆れたように『はは,そうですね』と漏らすと,あれ?っと疑問が頭に浮かんだ。
本当のこといっていいのか?
「昨日,連れ攫われてここに転校することになったんですよ」
「えぇ⁉」
……無理だろ。警察沙汰だわ。
しかし,どうするかな。誤魔化すにしてもなんていえば……
あまりに情報不足の至恩は、有耶無耶にする材料が頭にないので、とりあえず当たり障りのない普通な転校の理由を創った。
「……えーと,親が家を長く開けることになりまして,各地を転々とするらしく,だから僕を寮に入れようとこの学校に話を通してくれたんです」
これでイケるか?結構無理がありそうだけど。
と無表情の下で冷やせをだらだら流しながらすっと流し目で白石先生の表情を盗み見る。
彼は眼を大きく開けて驚いたように、
「ひぇ~,大変だねぇ」
イケた!簡単だった。ちょろいな。
「ま,まあ仕方がないことなので」
あまりに容易に信じてくれたので、至恩は逆に調子を崩しそうになった。
「そうだね。仕方ないね」
白石は納得した顔をして,頷くと至恩にさらなる追撃をしてきた。
「でも,寮ってこの学校あったっけ?」
「っ!………」
え⁉寮って学校公認じゃないのっ?
至恩は内心で焦ると,白石先生は思い出したような顔をしていった。
「あー,なんか訳ありの生徒だけを受け入れる寮があるって,前に聞いたような」
「えっ,ええ,そこに入れてもらって」
なんだよ知ってじゃないか。と,至恩は胸を撫で下ろしすように息を吐いた。
「じゃあ,新生活が始まったばかりだよね。大変じゃない?」
「あー,まぁ————」
昨日の襲撃が頭に浮かんで、短刀が飛び回り不気味な男の笑い声と、冷酷とまでに冷たい金眼を思い出した。
「死ぬかと思いました」
「えっ?そんなに!?」
口を衝いて出た言葉に白石先生が仰天し、至恩があっやばと焦った。
「い…いや、引っ越しの荷物の整理とかしてたので……もう大変でして………」
「なんだそうかぁ、お疲れ様―」
ほっと息を吐き、ちょろくて助かったと至恩は胸を撫で下した。
昨日の今日だからなぁ……つい口に出てしまった。
大変とか思ってる余裕すらなかったしねぇ。これからは気を付けないと!ともう既に白銀の髪の少女に身元が露見していることも露知らず、ぐっと拳と共に気を引き締める。
「これから慣れない環境で暮らしていくのは順応するまで心身ともに疲弊するものだから、大変だと思うよ?まぁ何かあったら相談に来いよ。担任だしな」
快活に親切にそう言ってくれる白石先生に、礼志が言っていたような異様さは感じられず、すごく好印象を抱いた。
「ありがとうございます」
大変か……
昨日の襲撃のようにこれからも身の危険が付きまとうだろうことは確実だ。
この街で生きていくにはかなりの覚悟が必要だろう。
「……そうですね。大変だと思います」
これから本当に。
「それに寂しくないか?前は家族と暮らしていたんだろう」
「………」
至恩は虚を衝かれたように一瞬怯んだが,すぐに表情を繕おうとして失敗した。
「……大丈夫です」
ずーんと重い空気を放ってしまって、白石先生はえっ、と慌てて謝ってきた。
「な,なんかごめんね」
「いえ……」
白石先生は申し訳なさそうにそういうと,『もう直ぐホームルームが始まるから』と1年B組に至恩を案内した。
教室まで着くと,白石先生は入り口前で『俺が呼んだら入ってきて』と言い残して,教室に入っていった。
至恩は,深呼吸をした。先ほど不覚にも動揺した心に少しずつ落ち着きを取り戻していった。
初対面の人に気を使わせてしまったと自分を恥じ、もう失態は起こさないよう肝に銘じつつ白石先生に呼ばれるのを待った。
中で『今日は転校生がいます』と白石の声が扉越しに聞こえると,教室がざわつくのが分かった。
そうか,昨日の今日で僕が転校してくるのが知られていないんだ。
そわそわと自分の服装を整えたり,髪を触ったりと呼ばれるまでを過ごす。
教室内では『親御さんの急な転勤で転校することになったので心細い思いをしていると思うので……』そんな言葉が聞こえた。
……あっ、白石先生にだけに吐いた嘘なのにクラス中の嘘へ発展してしまった。
待つこと数分,『入ってきてー』という声が聞こえた。
ざわついていた教室内が扉を開けて教室に入って来た至恩を認識すると、一瞬で静まり返った。当然、クラスメイトの注目の的になり,至恩はたじろいだ。
教卓まで黒板を見ながら,手と足を同時に動かしながら進むと,人の気も知らない白石が『はいっ!自己紹介』とこの静寂を破るほどの元気な声でいう。
あなたなんか楽しそうじゃない?
至恩は白石先生を一瞬,恨めしそうに睨むと覚悟を決めたように息を吐いた。
思い切ってクラスメイト達の方を向いて挨拶をしようとした。
「おはようございま……す」
至恩の内心の驚愕を表すように言葉が淀んだ。
覚悟を決めてクラスメイトの方を向いたときに知った顔があった。
それは当然、礼志の顔だ。その目がすっと細まり数十分前に言われたことを思い出せと伝えてきた。
礼志とは知らない人のフリをしなくちゃいけなくて、えーとそれと、地上から来たことを言ってはいけない。
「え、え~と。今日からこの学校に転校してくることになりました。立花至恩です。変な時期の編入で驚いたとは思いますが,えと、仲良くできたらと思っています。よろしくお願いします」
礼志のお陰で無駄な力が抜け普通な挨拶が出来た。最後にお辞儀をすると白石先生を始め,クラスメイト達は拍手をしてくれた。教室中にぱちぱちと拍手の音が軽く響く。
その音で挨拶を失敗はしてないことに至恩は安堵して強張った表情を崩すが,白石先生がそこで終わらせてはくれなかった。
「みんな,なにか質問とかないかな?聞きたいことがある人は手を上げて」
えー,まだやる?もういいでしょ、何でそんなに楽しそうなんだよ。こっちは緊張でさっきからの頭くらくらしてるんだよ。
教室内は『えぇー』とか『どうするぅ』などの話し声でざわつく。しかし,質問するのが恥ずかしいのか質問するときに注目を浴びるのが嫌なのか,中々手は上がらない。
「……………」
声が一つずつ無くなっていき、最後には沈黙して教室が静寂に包まれた。
……なんでだよ。
「あはは,じゃあ立花君席に着いて。席はあそこ」
真ん中あたりの席を指差されて空席の机に向かった。
……もういいでしょとか思ってたけど,いざ手が上がらないと寂しいな。
「立花君は転校してきたばかりで分からないことが多いと思うから,みんな教えてあげてください」
頷く人や『はーい』という人,無言の人,ただ頷く人それぞれがいる。それらの人を至恩は眺めるよう見渡すと礼志に視線が留まった。
礼志とは話せないし、僕からクラスメイトに話しかけにも行けないし、暫くは一人かなぁ。
などと人見知りを全開にしていると、1時間目の授業担当の教師が教室に入り授業が始まった。
授業の時のクラスの雰囲気は,たまにくっちゃべるやつがいたりして,それを教師が注意したりするといった,なんともまあ,ありふれたものだった。
至恩はそんな風景を観察するように見つめながら『本当に普通の学校だな』と心の内で呟く。
黒瀬がいっていた『普通の学校だよ』という言葉を思い出す。なんで,普通の学校にわざわざ連れて来られたのだろうか?
全然わからない。
そんなことを頭の隅で考えながら授業を聞いていると着々と時間が過ぎ去り,昼休みに入った。
あっ,そういえば昼ご飯用意してなかった。どうしよう。まあ,購買に行けばいいか。
教室を出るとすぐに購買の場所は分かった。人がごった返していて……今からあそこに行くのか。
至恩は少し顔を顰めてまるで戦場の様な購買に向かった。
「ぐぅふっ……」
やっとの思いで戦場から帰還すると,教室内の人数が半数ほどになっていた。
中には礼志の姿もあり一人でパンをかじっていた。
「……?」
友達いないのかな……?
よく見ると,礼志はクラスメイトから避けられているように思えた。
礼志の周りの席は空席になっていて,離れたところに少数の生徒が昼食を取っている。
グループになっている。混ぜて貰って親睦を深める昼休みにしたほうがいいだろう。
「…………」
……グループはいったん置いておいて、今日は初日だ。波風立てずに初日を乗り越えよう。
購買でやっとの思いで購入したパンの袋を開けた。
いやだって、初めから人柄を誰も知らない集団に突撃して、うまく話し出来なかったら第一印象悪くなるし、第一印象大事だし。
考えながら、パンを一口齧った。
そもそも、あの白銀の髪の女生徒に初対面できつく睨まれたし。
さらにパンを一齧り。
やっぱり初日ってのがダメなんだよ。もうちょっと色々知れたら勇気も出るんだろうけど、今日はもういいや、だから礼志とご飯を食べよう。
もう一度齧ったパンを咀嚼しながら礼志をちらっと覗くと、琥珀の瞳と目が合った。
「…………ちっ…」
舌打ちと共に逸らされた。とても嫌そうに。
「なっ……!」
ひどっ!それはひどいぞレイ‼
逸らされた瞳を睨みつけながらやけ食いとばかりにパンを口に詰め込んだ。
そんなことをしていたら食べ終えてしまった。
うーん,これで『昼飯一緒に食おう!』は使えなくなってしまった。
どうしよう。これじゃあ、親睦を深める昼食をやれなくなってしまう。そして————
キーンコーンカーンコーン
……早いなぁ、購買で買うの時間かかったからなぁ、まぁ,あるあるだよね。
午後の授業が始まった。午前中と同じように至恩が通っていた学校と大して変わらない授業風景。
初日の学校には話し相手がおらず、唯一の友人には眼を合わせただけで舌打ちされる。
そういえば礼志は鬼だと周囲に気づかれて、距離を置かれていると言っていた。幸いなことは距離を置かれていても堪えたりしない旧友の精神だが、見ているこちらはどうにもいい気はしない。
今だって、両隣からは机を絶妙に離されており、それを黙認している教師が教鞭を執っている。
5時限目の授業が終わり休み時間に入ると、僕は自分の人見知りを忘れるほどには礼志を取り巻く環境に興味を持ってしまっていた。
好奇心から至恩はクラスメイトに話しを聞きに行っていた。
昼休みの時に3人で楽しそうに昼食を取っていた中の比較的話しかけやすそうな、確か中野君に聞いてみよう。……聞いてみよう。
「や、やあ。中野君」
席に着いて次の6時限目の準備をしていた中野君に少々どもりながらも話掛けることに成功した。
彼は机から取り出した次の授業の教科書を机に置くことなく静止させてきょとんと至恩を見上げた。
「…………え?僕?」
「う、うん……」
そんなに驚かなくてもいいのに……
同じような顔で困ったように笑う二人の姿に礼志は『何やってんだあいつ』とあきれ顔を浮かべた。
至恩はなぜ初めに中野君に話しかけに行ったのかは、単純な話で同じ人見知り気質だと分かったからだ。
自分と同じなら初対面の時の反応やしぐさで考えが読みやすく比較的話しやすいと踏んだからだ。
確かに今中野君が感じていることは分かりやすい。今日初めて会う人にいきなり接近されて戸惑っている。眼を見開き、口を開けて、手に持った教科書をプルプルと震えさせている。………え、そこまで?
だが、至恩も逆の立場だったら瓜二つの反応をするかもしれない。初対面の人間と面と向かうのは緊張するものだ。
僕らはこれで同じ価値観を共有できる。———つまり友人になれる!
中野君に仲間意識を芽生えさせた至恩は、とにかく距離を縮めようとなんでもいいから会話しようとした。
が、中野君が助けを求めるような目で別方向を見ているのに気づき至恩は視線を追ってその方向を見やると3人で昼食を囲んでいた明るそうで横に大きな体をしたクラスメイトと目が合った。
「ん?……おお!真人と転校生じゃん!なんの話してんだ⁉」
目の前に餌をぶら下げられた大型動物のように食いついて来た。
……あー
冷や汗を流し、なんとか笑みを作ったがやはり曲げた口元がヒクついていた。
「えっと、いや、話という話はしてないよ」
中野君は救世主が来たような安心した表情で、そういった。
「う、うん。転校初日だからさ、友達を作ろうと思って中野君と話そうかなって思って……」
至恩の胸の内を聞いた中野君はそうだったんだ……と顔に書いてあるように分かりやすい表情で至恩を見上げ、救世主の彼は満面な笑みを浮かべた。
「俺は、結城浩太。真人とはずっと昔から……10年ぐらいか、友達だ!よろしくな」
結城君ね。うーんなんか君を付けるような人じゃないような気がするから呼び捨てでもいいでしょ。彼だっていやな顔はしないはず。
「よろしく、結城」
「ああ、それにしても立花って無口な奴だと思ってたよ。朝から何も話さないからさ」
「あー、僕人見知りなんだ。今やっとの思いで話をしてるところ」
「はは、なんだそれ」
至恩は親しみやすい結城の人当たりに感心していた。
人見知りの中野君が助けを求めた先が結城だ。人間性は問題ないだろう。レイとは大違いだね。
僕が同じ立場でレイに助けを求めたらそっぽ向かれて舌打ちされていたことだろう。
ねぇ。レイ。
「ふぁ…ぁ……」
と、内心でそういいながら見やると、礼志はこちらのやり取りなど微塵も興味なさそうにそっぽを向いて欠伸をしていた。
「はぁ……」
その姿に肩を落とした。全くもって大違いだね旧友。
「……ん?どうした?」
「ううん。緊張して少し疲れたんだよ。大丈夫」
「緊張って、はは、何に緊張すんだよ」
「初対面の人間を前にすると人見知りは緊張するんだよ。ねぇ、中野君?」
「あー、僕も緊張する……かなり。さっき立花君に声かけられた時なんて固まっちゃったし……」
「わかるわー。僕もそういう人だよ。……ごめんね。分かってたんだけど、同じタイプなら友達になれるかなって思ってさ」
「ううん。大丈夫」
「なんだよお前ら、話するぐらい誰だって出来るだろ?」
「これは人見知りじゃない人には分からない」
「うん、浩太には分からない」
うんうん、と至恩と中野君は頷き合い結城が『ほんとなんだそれ、はは』と人見知り二人の反応に笑い声を上げた。
無事にクラスメイトとの最初の(スト)会話が上手くいき良い気分で今日の授業最後の6時限目を迎えた。
あっ……そういえばレイのこと聞くの忘れてた。……まぁ、いっか!
調子のいい至恩は能天気にそんなことを思い、授業を終えた。
そして帰りのホームルームで白石先生が適当に何かしゃべって教室が少し笑って至恩の記念すべき初登校が完了した。
礼志が早々に席を立ち教室の扉へ歩いて行き、ガラガラと音を立てて出て行った。その間、横を通りすぎるクラスメイトたちが怯えたように距離を離していた。
そんな光景を眺めながら、帰り支度をしているとスクールバックを持った結城と中野が席までやってきた。
「立花ぁー、せっかくだし一緒に帰ろうぜー!てゆうか家何処だ?」
「うんうん」
「あのさ、レ……御影礼志ってなんであんなに避けられてるの?」
至恩はさっそく出来た友人からの誘いに答えるのも忘れて自分の中で膨れ上がっている疑問を口にしていた。
「……えっと、そうか立花君は知らないんだよね……」
と中野は答えに窮するように口を濁し、それを代わるように結城が質問に答えてくれた。
「あいつ、入学早々に大変な事件起こしたんだ」
「えっ、大変な事件?」
「ああ、
新たな友人と帰りを共にするべく了承の意を唱えようとしたところ、ポケットのゴツいスマートフォンが振動した。
……レイ?
送信主は礼志だった。至恩は通知したトークアプリを開いて内容を確かめた瞬間がっかりしたように肩を落とした。
「ごめんね。僕今日は用があるみたいだから、一緒に帰れないや。また今度……あっ、そうだ『日ノ丸食堂』一緒に行こうよ!」
「おっいいなー、じゃまた明日な!」
「じゃあねー」
結城と中野は教室から去り、至恩は2人が出て行った教室の出入り口を名残惜しそうに見つめていた。
「…………」
再度スマホが振動して、メッセージアプリを開くと『遅ぇよ。早くしろ』と来ていた。
「はぁ……はいはい、行きますよ」
帰り支度を手早く済ませてスクールバックを背負い、気が短い旧友の元に気が進まなそうな足を進めた。
「それでなに?僕、新しくできた友達と帰るところだったんだけど」
恨みがましい翠の眼で学園の校門に寄り掛かる礼志を睨んだ。
『門まで来い、連れてくところがある』と礼志から連絡をもらい仕方なくクラスメイトの誘いを断ってきた至恩はすこぶる気分が落ちていた。
そんな至恩の視線を毅然と腕を組み瞳を瞑って受けると、すっと琥珀色の瞳を開き、もの凄く鋭い視線で至恩を押し返した。
「えっ……?……怒ってる?」
「遅ぇんだよ。待たせやがって」
急に立場が逆になり、責められる至恩は冷や汗を流した。
「いやほらさ、急に言われてもトイレに行きたくなってたらしょうがないじゃん」
「随分と長ぇトイレだったな。今正直に言えば許すが、それだけか?」
「えっ、あ、あとはほら、部活動が盛んな学校だから帰りにちょっと眺めてた。……時間を少し忘れて」
「殺す」
「わぁー、ごめんっごめん!」
そんなこんながあった後に、礼志が校門を出たらメインストリートを挟んで学校の向かい側にある建物に案内した。
建物の大きさは学校と同等で城と呼んでもいいぐらいの施設だった。
「ここなに?学校と関係あるの?」
「学園とは関係ねぇよ。お前これから地下で生活するに当たって当たり前だが、生活費が掛かるだろ」
「?……うん。そうだろうね。幸い学生寮に入ってられるし、寝床には困らないとは思うけど……」
つかつかと靴を鳴らして自分の家の庭みたいに敷地内に踏み込む礼志に『いいのかなぁ……』の疑念を抱きながら生返事で質問に答えていく。
「それでも、パン1個でも買う金が無けれりゃあお前は飢え死にだ」
「うっ……そうだね。バイトでもしないとなぁ。あっ、『日ノ丸食堂』募集してるかな」
建物まで着くと呼び鈴すら鳴らさずに大きな扉に手を掛け、出入口の戸を開けた。
「大丈夫なの?そんな勝手に入って……僕、怒られたら『御影礼志くんがやりました』っていうから—————」
大きな玄関扉が開くとそこにはきらびやかなシャンデリアが現れ、この屋敷の気品が露になった。2階に続く至恩が見たことのない大きな階段に、壁には剣や鎧に槍等が立て掛けられていて重々しい厳威を放っていた。
「な……なに……ここ」
「ん?今日からお前のバイト先」
「えぇ!?」
随分と時間がかかってしまった。
今度こそ、もっと短くしなければ




