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「真実の愛を見つけた」ならどうぞお幸せに ———放置された公爵令嬢は婚約を破棄して魔術の頂点を目指します  作者: もも子
エレノアの覚醒

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お父様、もう無理です

週末、私は久しぶりにグランヴェル公爵家の屋敷へと帰宅していた。

重厚なマホガニーの扉をノックし、執務室へと足を踏み入れる。


「エレノアか。よく帰ってきたな」


書類から目を上げ、厳かながらも温かい眼差しを向けてくれたのは、私の父であり、アルフレッド王国でも随一の権力と軍事力を誇るグランヴェル公爵、アルベルトだった。


「お父様。本日は、折り入ってご相談したいことがございます」


「なんだね? 顔色が少し優れないようだが……」


父の言葉に、私は静かに一礼すると、鞄から一冊の黒い手帳を取り出し、父のデスクの上にそっと置いた。


「アレス殿下との婚約を、解消させていただきたく存じます」


私の迷いのない言葉に、父の鋭い眉がぴくりと動いた。

父は黙って手帳を開き、そこにびっしりと書かれた日付と記録に目を通し始めた。


『○月×日:定期お茶会、直前にキャンセル。理由:バークレイ令嬢の体調不良』

『○月×日:観劇の約束、ドタキャン。理由:バークレイ令嬢の買い物の付き添い』

『○月×日:建国記念パーティーのエスコート拒否。公務と偽りバークレイ令嬢とデート』

『学園でのバークレイ令嬢からの暴言および嫌がらせの記録』

『王太子側近たちによる、エレノアに対する冷遇・侮辱の発言記録』


ページをめくるごとに、父の周囲の空気が急速に冷え込んでいく。

部屋の温度が数度下がったのではないかと思えるほどの、凄まじい威圧感と威厳。


「……エレノア。これはすべて事実か?」


「はい。すべて私が記録した紛れもない事実です。アレス殿下のお心は完全にバークレイ令嬢にあり、私との婚約は形骸化しております。学園全体も二人の関係を肯定しており、私にはもはや居場所も、留まる理由もございません」


私は父の目を真っ直ぐに見つめ、静かに、しかしはっきりと告げた。


「お父様。もうあの男に、私の人生を割く価値はありません」


私の中に悲しみや怒りがないことを察したのだろう。父は手帳を静かに閉じると、深いため息を吐いた。そして、その瞳に静かだが恐ろしいほどの怒りの炎を宿した。


「……よく耐えたな、エレノア。私が王家との絆を優先するあまり、お前にこれほどの屈辱と負担を強いていたとは。不甲斐ない父親を許してくれ」


「いいえ、お父様。私は王妃になるための学びを通して、多くのことを得ました。後悔はございません」


「そうか……」


父は立ち上がり、私の頭に大きな手を優しく置いた。


「承知した。グランヴェル公爵家の名をかけて、お前の望みを叶えよう。王家には覚悟してもらう。我が家がこれまでどれほど彼らを支えてきたか、そして我が娘を粗末に扱った代償がどれほど重いかをな」


父の力強い言葉に、私の胸の奥にすっと温かいものが広がった。


「感謝いたします、お父様。……つきましては、婚約解消後の私の道についてですが」


「ふむ、何かやりたいことでもあるのか?」


「はい。かつて『王妃教育に不要』として封印された、魔術の研究を本格的に再開したいと考えております。魔術院への入学をお許しいただけますでしょうか」


父は一瞬驚いた顔をみせたが、すぐに誇らしげな笑みを浮かべた。


「もちろんだ。お前には我がグランヴェル家に眠る古代の血——規格外の魔術の資質が眠っている。解き放つといい。お前の選ぶ道を、父は全力で応援しよう」


「ありがとうございます、お父様」


私は深々と一礼した。

長年私を縛りつけていた重苦しい鎖が、音を立てて弾け飛んだ瞬間だった。

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