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「真実の愛を見つけた」ならどうぞお幸せに ———放置された公爵令嬢は婚約を破棄して魔術の頂点を目指します  作者: もも子
恋の予感?

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甘いお菓子とあ〜んの魔法

雨が上がり、無事に宿へと到着した私たちは大峡谷の名物である『星砂の金平糖』という甘い銘菓を部屋で楽しむことにした。


口に入れるとシュワッと溶け星の光のような優しい甘さが広がるなんとも不思議なお菓子だ。


「エレノア様、これすっごく美味しいですー! お口の中で星が弾けてます!」


「本当ですわね、シオン。王宮のお菓子とはまた違った繊細な味わいですわ」


向かいの席ではルーク院長が旅の記録を日誌に書き込みながら手元の温かいお茶を一口飲んでいる。雨の日の疲労もあるのか、どこか少しだけ物欲しそうな顔でこちらをチラリと見たような気がした。


(まあ……ルーク院長、お菓子をお召し上がりになりたいけれど、日誌を書いていて手が塞がっていらっしゃるのかしら)


王宮の作法では、お給仕をする者が主人の口元へ食事を運ぶ文化があった。

いつも私たちを助けてくれる彼のために、ここは私が優雅にお給仕をしてあげるべき場面である。


私は一番大きくて綺麗に輝く金平糖を一つ指先でつまむとスッと立ち上がり、ルーク院長のすぐ隣へと腰かけた。


「ルーク院長」


「ん? なんだエレノア、日誌ならもうすぐ書き終わるが——」


彼がこちらを振り向いた瞬間、私は指先のお菓子を彼の口元へ近づけ優しく微笑んだ。


「はい、お口を開けてくださいませ。『あ〜ん』ですわ」


「は……っ!?」


ルーク院長の手から羽ペンがポロリとこぼれ落ちた。

至近距離で差し出された私のお菓子と、指先。私の甘い香水と吐息がそのまま彼の顔全体を包み込む。


「な、何を考えているバカ者! 俺は子どもじゃないんだぞ! 自力で食べられる!」


「まあ、遠慮なさらないでくださいな。手が汚れていらっしゃいますし、日誌の邪魔をしては申し訳ありませんもの。ほら、あ〜ん……」


私は一切の邪気もない純粋な善意と真剣な眼差しで、さらに彼の唇へと金平糖を寄せた。

断らせないと言わんばかりに距離を詰めると、私の膝が彼の太ももに軽く触れ、身を乗り出したことで胸元が彼の腕へと接近する。


「っ……! お前……本気で言っているのか……!?」


「はい、大真面目ですわ。ルーク院長に美味しいものを召し上がっていただきたいだけですの」


ルーク院長は額に青筋を浮かべ琥珀色の瞳を激しく揺らしながら真っ赤な顔で葛藤していた。

喉仏がゴクリと鳴り彼の荒い息遣いが私の指先に吹きかかる。


「……くっ……分かった……分かったから……!」


観念したように目を細めた彼が意を決して小さな口を開けた。

私は嬉しくなって、その口元へそっと金平糖を滑り込ませる。


はむっ。


お菓子とともに、私の指先が彼の温かく柔らかい唇に軽く触れた。


「……っ!!」


「まあ! 甘くて美味しいでしょう、ルーク院長?」


指先に残る彼の唇の感触になぜか私自身の顔も不意に熱くなっていくのを感じた。

当のルーク院長は口の中のお菓子を味わう余裕など微塵もない様子で、顔を両手で覆い、ガクッと机に突伏してしまった。


「……死ぬ……俺の理性が……限界で死んでしまう……」


「ルーク院長!? 呼吸が乱れていらっしゃいますわ! お菓子の喉詰まりですの!?」


慌てる私と突伏して絶望するルーク院長。

後ろで見ていたシオンは、「あ〜んの破壊力、恐るべし……!」とプルプル震えながらメモを取っていたのだった。


世界を救った大魔術師エレノア。

彼女の無自覚な甘いお給仕は、頼れる師の理性をいよいよ最終防衛線まで追い詰めつつあった。

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