大魔術師エレノアの自由で気ままな明日へ
『深淵の天秤』による世界規模の企みが潰え、首領をはじめとする幹部たちが全員捕縛されてから、数ヶ月の時が流れた。
始源の魔導炉を中継点として、世界中の龍脈が完璧な循環を果たしたおかげで、各地の天候は安定し、魔物の活発化も激減。世界はかつてないほどの平和と実りに包まれていた。
「大魔術師エレノア様万歳ーッ!」
「帝国の、いや世界の宝だーっ!」
帝都の大広場では、連日のように賑やかな式典と祝賀会が催されていた。
王宮の鳥籠で「役立たず」と蔑まれていたかつての私を思うと、まるで夢の出来事のようだ。だが、私を称える大歓声を背に、私はこっそりと豪華なドレスの裾を翻した。
「……ふふ、今のうちに失礼いたしましょう」
混雑する王宮の抜け道を通り、私は裏庭の離着陸場へと急いだ。
そこには、すでに出発の準備を整えた『ステラ・グランヴェル号』と、心強い二人の仲間が待っていた。
「エレノア様、お疲れ様です! 皇帝陛下からの勲章授与式、抜け出してきちゃって良かったんですか?」
シオンがニシシと悪戯っぽく笑いながら、船のタラップから手を振ってくる。
「ええ。格式ばった式典よりも、シオンが焼いてくれた焼きたてのクッキーをいただく時間の方が、ずっと価値がありますもの」
「フッ……相変わらず形式には興味がないな、エレノア」
操縦席から顔を出したルーク院長が、琥珀色の瞳を可笑しそうに細め、タバコの煙をふぅと吐き出した。
「だが、これで本当に良かったのか? 皇帝になろうと、帝国の最高筆頭魔導士になろうと、今のお前なら望むままだっただろうに」
「ええ、少しも未練はありませんわ」
私は優雅に船へ乗り込み、眼下に広がる賑やかな帝都の街並みを愛おしそうに見つめた。
「地位も名誉も、私の欲しいものではありません。私が欲しいのは……大切な仲間たちと、まだ見ぬ世界を自由に巡る、このかけがえのない時間なのですから」
私の言葉に、ルーク院長は心底満足そうに口角を上げ、大きく操舵輪を傾けた。
「よし、野郎ども出発だ! 次の目的地は……大陸の西、巨大な星空が広がる未開の大峡谷だ!」
「わーい! 新しい冒険ですね!」
シュゥゥゥゥ……ッ!
青空へと躍り出た『ステラ・グランヴェル号』は、黄金の星光を優雅に纏いながら、どこまでも続く澄み渡った大空へと飛び立っていく。
鳥籠を飛び出した少女は、今や世界を救いし「大魔術師」。
けれど、私たちの気ままな旅路と、輝かしい星の物語は……これからもずっと、どこまでも続いていくのだ。




