残る魔導炉と、黒幕の正体
灼熱の火山をサクッと沈静化させた私たちは、その後も勢いを止めることなく大陸全土を駆け巡った。
風が吹き荒れる「天空の渓谷」にある魔導炉。
豊かな大地を腐食させようとしていた「樹海深部」の魔導炉。
そして、雷雲に覆われた「極雷の荒野」に眠る魔導炉。
『深淵の天秤』の幹部たちがどれほど巨大な災厄を引き起こそうと、私にとってはどれも術式の乱れを少し整えてあげるだけの作業に過ぎなかった。
ある場所では暴風を心地よいそよ風に変え、またある場所では大地の毒を綺麗に浄化し……残る魔導炉もすべて、あっという間に安全な状態へと組み替えてしまったのだ。
「エレノア様、すごすぎます! これで六つの古代魔導炉が全部完璧に安定しました!」
『ステラ・グランヴェル号』の船内で、シオンが大はしゃぎで羊皮紙の地図に大きな花マルを書き込んでいく。
「ふふ、これで世界中の龍脈が穏やかになりましたわね」
私が淹れたての紅茶を味わいながら微笑んでいると、操縦席から戻ってきたルーク院長が珍しく神妙な面持ちで腕を組んだ。
「ああ、だが……これで終わりじゃない。最後の七つ目——帝都の真下に隠されていた『始源の魔導炉』に、奴らの首領が現れた」
「帝都の真下……ですの?」
「そうだ。他の六つの魔導炉が安定したことで、世界中の魔力ラインが逆流し、帝都の真下にある始源の炉へと一気に収束し始めている。首領の狙いは最初からこれだったんだ。他の炉を暴走させ、お前に浄化させることで、純度の高まった魔力を帝都へ集めようとしていたらしい」
ルーク院長の言葉に、シオンが「そんな……! エレノア様の優しさを利用するなんて!」と憤慨する。
「なるほど……私を利用されたわけですわね」
私はゆっくりとティーカップをソーサーに置いた。
王宮で虐げられていた私を救い出してくれた仲間たち。
旅先で出会った温かい人々や、綺麗な景色。
それらを全て巻き込んで自分の野望を果たそうとするなど、到底容赦できることではない。
「エレノア、どうする?」
ルーク院長が試すような、けれど絶対の信頼を込めた瞳で私を見つめてくる。
「決まっておりますわ。帝都へ戻り、その首領様に『ご挨拶』をしに向かいましょう」
船は旋回し、全速力で懐かしき帝都へと向けて空を駆け抜けた。
帝都の地下深くに存在する巨大な始源の間。
そこに佇んでいたのは、禍々しい仮面をつけ、世界中の星辰魔力を一身に受け止めようとする『深淵の天秤』の首領であった。
「クハハハ! よくぞ集めてくれたぞ、大魔術師エレノア! お前の圧倒的な魔術によって精錬されたこの至高のエネルギー……これこそが、世界を新たに創り変える神の力だ!」
首領が高らかに叫び、無数の暗黒の魔導陣が地下空間全体を埋め尽くしていく。
だが、私は慌てることもなく静かにその狂気を見つめ返した。
「世界を創り変える……ですか。ですが首領様、他人の力を借りなければ何もできない方に新しい世界など創れるはずがありませんわ」
私が静かに右手を差し出すと首領が溜め込んでいた膨大な魔力が、まるで本当の主のもとへ帰るかのように私の指先へと引き寄せられ始めた。




