火山が噴火しそうです
東方華仙郷をあとにした私たちが向かったのは、大陸中央に聳え立つ赤褐色の巨大な火山帯だった。
上空から見下ろす大地はヒビ割れ、至るところから真っ赤な溶岩と黒い煙が噴き出している。船内にまで伝わってくる猛烈な熱気は、並の人間なら近づくことすら躊躇うほどの灼熱の世界だ。
「うへぁぁ……! エレノア様、外が熱風でドロドロに溶けちゃいそうです!」
『ステラ・グランヴェル号』の窓の外を見ながら、シオンが汗をぬぐって叫ぶ。
「大丈夫ですわ、シオン。『断熱・星辰結界』を少し強めますからね」
私がスッと右手をかざすと船を包む黄金の光が一段と輝きを増し、車内を瞬時に快適な室温へと引き戻した。
「助かるよ、エレノア。……それにしても、火口周辺の魔力の乱れ方が異常だな」
操縦席から出てきたルーク院長が険しい表情で火口を見下ろす。
火山の中心——巨大な火口の内部では、不気味な真っ赤な陣が浮かび上がり、地下深くの古代魔導炉から強引に熱エネルギーを吸い上げている最中だった。
「クハハハ! きたな、帝国の『大魔術師』め!」
火口の淵に立つ真っ赤な鎧を纏った男——『深淵の天秤』幹部のイグニスが、狂気じみた高笑いを上げた。
「遅かったな! この『炎の魔導炉』はすでに極限まで過熱している! あと数分で爆発し、大陸全体を灼熱の灰で覆い尽くすのだ! 水の魔術だろうと、この熱の前には一瞬で蒸発するわ!」
「たしかに、普通の水や氷の魔術なら蒸発してしまうかもしれませんわね」
私は船の甲板へ静かに立ち、火口から巻き起こる熱風にドレスの裾をなびかせた。
王宮にいた頃の私なら、この熱気に気圧されていたかもしれない。けれど、いまの私には世界の理そのものを書き換える星の力がある。
「エレノア、どう手をつける?」
ルーク院長が不敵に笑いながら尋ねてくる。
「熱を冷やすのではなく……熱そのものを『星の空間』へ逃がしてあげればよろしいのですわ」
私は胸の前で優雅に手を合わせ、夜空に輝く星々のイメージを深く頭の中に描いた。
「——巡れ、凍てつく虚空。熱気よ、果てしなき星の海へ消え去りなさい——『星辰位相転移』!」
ゴオオオオオオオッ……!!
私が指先を掲げた瞬間、火口の真上に直径数十メートルにおよぶ「漆黒の星空の穴」が出現した。
爆発寸前だった猛烈な熱気とマグマの圧力が、まるで吸い込まれるように宙の穴へと吸い上げられていく。どれほどの熱であろうと、熱が存在しない絶対零度の宇宙空間へ注ぎ込まれれば一瞬で拡散し消滅してしまうのだ。
「な……!? 熱が……マグマの圧力が消えていく……!? 水を使わずに熱そのものを消し飛ばしただと!?」
幹部イグニスが目を丸くし、声にならない悲鳴を上げる。
数秒前まで噴火寸前だった大火山はまるで嘘のように静まり返り、火口の底にあった古代魔導炉も心地よい温かな光を放つ元の状態へと落ち着いた。
「ふふ、これにて一件落着ですわね」
私が静かに微笑むと、力を失ってその場に膝をつくイグニスを背景にルーク院長とシオンが誇らしげな顔で拍手を送ってくれたのである。




