深海でも星の力はバッチリですわ
「な、なぜ空飛ぶ船が深海数千メートルに平然と着陸しているのだぁぁぁっ!?」
叫び声を上げているのは、海底遺跡で怪しげな儀式を行っていた悪の組織『深淵の天秤』の幹部、ヴァルガスだ。
本来なら生身の人間はもちろん、普通の船ですら一瞬でペシャンコになってしまうほどの凄まじい水圧がかかる暗黒の深海。そこへ私たちが、温かい紅茶を呑気に飲みながら船ごと現れたのだから、彼が驚くのも無理はなかった。
「シオン、船を包んでいるバリアの状態はどうかしら?」
「へっちゃらです、エレノア様! 水圧も海の冷たさも、エレノア様の星の力で全部シャットアウトしてます! 船の中はぽかぽかで春みたいですよー!」
「ふふ、なら良かったわ」
私が優雅に船の外へ一歩踏み出すと、足元から黄金の星の光が波紋のように広がり、深海の凄まじい水圧と氷のような冷気をふわっと優しく押し返していった。
「く、くそっ! 小娘が調子に乗りおって……! 帝国の『大魔術師』だか何だか知らんが、この海底の巨大なエネルギーの前では無力だと知れ!」
ヴァルガスが焦りと怒りで顔を真っ赤にしながら怪しい機械を操作すると、海底の大きな遺跡がドクンと不気味に脈打ち始めた。
遺跡の中心から溢れ出したのは、ドロドロとしたどす黒い魔力の波だ。それが周囲の海水を巻き込み、船どころか海底都市ごと押し潰さんばかりの巨大な「黒い水の渦」となって襲いかかってきた。
「エレノア、気をつけてな。相手の魔力はかなり乱暴で、毒気も混ざっている。直接触れると面倒だぞ」
ルーク院長が私の前にそっと立ち、琥珀色の瞳を鋭く光らせながら注意を促してくれる。
「お気遣いありがとうございます、ルーク院長。ですが大丈夫ですわ。どれだけ乱暴で汚れたお力でも、綺麗に整えて元通りにしてあげればいいだけですもの」
せっかくの美しい東方の海なのに、こんな真っ黒で毒々しい魔力で汚すなんて、本当に感心しない。
私はそっと胸の前で手を合わせ、指先に溢れんばかりの星の光を集めた。
王宮にいた頃は「目立つな」「静かにしていろ」と抑え込まれていた私の魔力。けれど今の私には、この溢れる力で大切な仲間や綺麗な世界を守る自由があるのだ。
「——暗い海の底にも、あたたかな星の輝きを。……『星の浄化』!」
キラキラキラキラ……ッ!!
私が言葉を紡ぐと同時に、指先から解き放たれたやわらかな黄金の光が暗闇に包まれていた深海全体を包み込んでいった。
押し寄せていた凄まじいドロドロの黒い渦は、私の光に触れた瞬間に「シュワぁ……」と心地よい音を立てて、透きとおるような綺麗なお水へと戻っていく。
それどころか、ヴァルガスが強引に暴走させていた海底の巨大なエネルギーまでもが、まるで子守唄を聴かされた赤子のように静まり返り、おとなしくて清らかな光へと姿を変えていった。
「な……!? 俺が苦労して溜めたエネルギーが……ただの綺麗な水と光になっちゃったぁぁぁっ!?」
「まあ、これで海の生き物たちも安心して暮らせますわね」
私がクスッと微笑むと、すべての攻撃手段と魔力を無力化されたヴァルガスは、その場にガクッと膝をつき絶望した様子で頭を垂れた。
こうして、東方の美しい海と街を脅かしていた悪の組織の企みも、あっという間にサクッと解決してしまったのである。




