悪の組織の拠点が海の底にあるらしいので
「ひいぃっ! お、怒らせるつもりはなかったんです! 海底の古代炉を使えば、東方一帯の魔力を吸い上げられると幹部に言われて……!」
凍りつく海の上でとっ捕まった『深淵の天秤』東方支部の男たちは、私の足元でガタガタと震えながら全てを吐き出した。
「ふむ……東方での狙いは海底の古代炉か。で、その幹部とやらはどこにいるんだ?」
ルーク院長が琥珀色の瞳を細め、男の頭上から威圧感を放つ。
「か、海底都市の最奥にある『深海祭壇』です! 幹部のヴァルガス様がそこで直接、魔導炉の核心部を起動させようとしています! ですが、あそこは深海数千メートル……人間が生身で行ける場所じゃ——」
「シオン、深海潜航用の結界の準備はできて?」
「バッチリです、エレノア様! 『常圧・星辰バリア』の回路を組み込みましたので、どれだけ水圧がかかっても船の中はポカポカ快適空間ですよー!」
「な……船ごと深海へ行くつもりなのか……!?」
男たちが目を丸くして絶句するのをよそに、私たちは『ステラ・グランヴェル号』のシステムを水中モードへと切り替えた。
船体を光り輝く透明な『星辰結界』が包み込む。
そのまま滑らかに海上を滑り、船は一切の衝撃もなく青い海の中へと沈み込んでいった。
シュゥゥゥ……
水深100メートル、500メートル、そして1000メートル……。
普通なら凄まじい水圧で一瞬にして押し潰される暗黒の深海。
けれど、結界の中にいる私たちは、温かい紅茶を飲みながら窓の外の神秘的な景色を楽しんでいた。
「まあ……綺麗ですわね。光る魚たちがたくさん泳いでおります」
「ふふ、エレノア様、あっちの巨大なイカなんてシオン特製醤油で炙ったら美味しそうですよ!」
「二人とも、遠足じゃないんだからな」
ルーク院長が呆れつつも、どこか楽しそうに口角を上げる。
やがて、暗闇の底に古代の青い光を放つ巨大な海底都市が姿を現した。
その中心に佇む宮殿のテラスでは、漆黒の重装甲に身を包んだ巨漢——幹部ヴァルガスが、深海の巨大魔導炉に邪悪な魔力を注ぎ込んでいる最中だった。
「クハハハ! くだらん東方の連中め、津波で全滅したか! これでこの深海炉のエネルギーは全て我が『深淵の天秤』のもの——」
ポチャ〜ン……
「……ん?」
静まり返る深海に不釣り合いな軽い音とともに、巨大な魔導飛行船が優雅に彼の目の前の着陸スペースへと着底した。
透明な結界の中から優雅に紅茶のカップを持った私が静かに微笑みかける。
「ごきげんよう。あまり海底環境に負担をかけるような暴走は、おやめになってはいかがかしら?」
「な……ななな、なぜ空飛ぶ船が深海数千メートルに平然と着陸しているのだぁぁぁっ!?」
幹部ヴァルガスの絶叫が暗い深海へと響き渡ったのだった。




