津波ですか? 凍らせて星の光で溶かしておきました
「ひいぃっ! 逃げろぉぉっ! 街が丸ごと飲み込まれるぞ!」
港に押し寄せるビル数階分もの巨大な紫の津波。
東方の住民たちがパニックに陥り悲鳴を上げて逃げ惑う中、私は静かに港の防波堤の最前線に立っていた。
「エレノア様、海の底の古代魔導炉が過熱して海水が一気に膨張しています! 物理的な防壁じゃ防げません!」
後ろからシオンが叫ぶ。
「ええ、分かっていますわ」
押し寄せる濁流が、目と鼻の先まで迫る。
猛烈な潮風が私のドレスを大きく揺らした。
(せっかくの美味しいお魚料理と美しい街並み……汚させはしませんわ!)
私は深く息を吸い込み、宙に優雅な円を描くように右手を振り抜いた。
「——巡れ、氷華の星座。全てを静寂へ誘え——『星辰氷結・絶対零域』!」
バシィィィィィン……ッ!!
私が言葉を口にした瞬間、世界から音が消えた。
押し寄せていた数百万トンもの巨大な津波が、港に届くわずか手前で一瞬にして完全な氷の壁へと姿を変えたのだ。
砕け散るはずだった激浪は、陽の光を浴びてキラキラと輝く美しく巨大な「氷の彫刻」として固まっていた。
「な……っ!? つ、津波が……丸ごと凍りついた……!?」
「防波堤の外側に、巨大な氷の城壁ができたぞ……! 一体何が起きたんだ!?」
逃げていた住民や東方の術士たちが足を止め、開いた口が塞がらない様子で凍りついた海を見上げている。
「ふふ、これなら街に被害は出ませんわね」
私が微笑むと、隣に並んだルーク院長が不敵に口角を上げた。
「相変わらず容赦のない速度だな、エレノア。……だが、凍らせただけじゃ根本的な解決にはならないぞ。海底の炉はまだ暴走しようと熱を吐き出している」
「ええ。ですから、凍らせた氷ごと『余分なエネルギー』だけを星の熱で浄化いたします」
私は頭上にふわりと浮遊させた手のひらサイズの疑似天体から、穏やかで温かな黄金の光を港全体に解き放った。
シュゥゥゥゥ……ッ
氷の壁は街を濡らすこともなく、過熱していた海の毒気と不気味な紫色の魔力だけを連れて清らかな水蒸気となって空へと蒸発していった。
あとに残されたのは、以前よりも澄み渡り穏やかに凪いだ美しい東方の海だった。
「海底の魔導炉の暴走、完全に停止しました! エレノア様、完璧です!」
シオンが歓声とともに跳ね上がる。
「……信じられん。古代の災厄級の暴走を、たった一人の少女が鼻歌交じりに鎮めてしまわれた……」
港の陰で見守っていた東方の最高指導者たちが、ガタガタと膝を震わせながら私に向かって深々と平伏した。
「おお……大魔術師様……! 東方華仙郷を救っていただき、感謝の言葉もございません!」
「ふふ、お気になさらないでください。……それよりも、あちらで怪しくコソコソされている方々のお話を聞きに行きませんこと?」
私が指さした先——凍りついた海上で立ち尽くしていた『深淵の天秤』の東方支部員たちが、「ひっ……!」と悲鳴を上げて青ざめた。
こうして東方でも、私のサクッと解決劇は繰り広げられたのだった。




