新組織『深淵の天秤』と、世界の裏側
「頼むから助けてくれぇ! あの『大魔術師』にこれ以上睨まれたら、魂ごと消し飛ばされてしまう!」
魔導飛行船『ステラ・グランヴェル号』の地下牢。
黄金の星光でできた縛鎖でガッチリ縛られた『深淵の天秤』のリーダーは、私の姿を見た瞬間にガタガタと震え上がった。
私は何もしていない。
ただ、淹れたての紅茶を手にしてルーク院長の後ろから静かに見守っていただけなのだが。
「さて、害虫さん」
ルーク院長が琥珀色の瞳を恐ろしく冷ややかに細め、男の目の前に腰掛けた。
「お前たちが狙っていた『星脈炉』は、エレノアの手で大陸全体の安定装置へと組み替えられた。お前たちの目論みは完全に潰れたわけだが……素直に吐いてもらおうか。誰の指示で、何を企んでいた?」
「は、話す! 全部話すから、その背後にいる『歩く天災』みたいな令嬢を遠ざけてくれ!」
(歩く天災とは、失礼な言い草ですわね……)
私がほんの少し眉をひそめると、男はさらに顔を蒼白にして早口で捲し立て始めた。
「俺、俺たちは『深淵の天秤』の末端に過ぎない! 目的は、世界中に眠る七つの『古代魔導炉』の封印を解き、そのエネルギーで世界の秩序を一度更地にすることだ!」
「秩序を更地に……?」
「そうだ! 今の人間たちの国々——帝国も、旧アルフレッド王国も、すべては古代魔術の遺産にタダで乗りかかっているだけの偽りの繁栄! それを破壊し、選ばれた者だけの『新世界』を創ると首領が……!」
「なるほどな」
ルーク院長が心底呆れたように肩をすくめた。
「身の程知らずの選民思想か。だが、その七つの魔導炉とやら……残りの六つはどこにある?」
「そ、それは首領と幹部しか知らん! だが、次は東の大陸か、海の底に沈んだ古代都市の炉を狙うはずだ……! 本当だ、俺が知っているのはこれだけだぁっ!」
男の供述を聞き終えたルーク院長は、立ち上がると私に向き直った。
「どうやら、ただのコソ泥集団ではなさそうだな、エレノア。世界規模で古代の遺産を悪用しようとする、たちの悪い思想犯だ」
「ええ。ですが……世界を更地にするなどという暴挙、見過ごすわけにはまいりませんわ」
私が静かに微笑むと、隣にいたシオンが握りこぶしをギュッと握りしめた。
「そうです! エレノア様が整えてくださった龍脈を荒らすなんて絶対に許せません! どこへでもお供しますよ、エレノア様!」
「ふっ、頼もしいな。……さて、帝国にこの身柄を引き渡したら、次は世界の裏側に潜むその『深淵の天秤』とやらを、片っ端からサクッと解体しに行こうか」
こうして、ひとつの遺跡調査から始まった私たちの旅は、世界全体を巡る「悪の組織の野望粉砕ツアー」へと進化していくのだった。




