古代の星結晶、動かしてみた
「うわぁ……! エレノア様、近くで見ると凄まじい密度のエネルギーです!」
部屋の中央に鎮座する『星結晶』を見上げながら、シオンが眼を輝かせて測定器をかざしていた。
巨大な青い結晶の内部では、銀河の渦のような星の光がゆっくりと回転している。
数千年間、極地の氷の下で眠り続けていた古代文明の動力源だ。
「……なるほどな。『深淵の天秤』の連中は、これを強引にこじ開けて兵器として使おうとしていたわけか。だが、そんな雑な扱いじゃ表面のエネルギーが暴走して、大陸の北半球が吹き飛ぶところだったぞ」
ルーク院長が転がっている男たちを冷ややかな目で見下ろしながら呆れたように息を吐く。
「な……大陸が吹き飛ぶ……!?」
縄で縛られた組織の男たちが、自分たちが仕込もうとしていた大惨事の規模を知って青ざめた。
「エレノア、この結晶の術式構造……君の『星辰魔術』と完全に同系統だな。解読できそうか?」
「ええ、ルーク院長。むしろ……とても懐かしい心地がいたしますわ」
私はそっと右手を差し出し、巨大な星結晶の表面に触れた。
シュン……!
私の手のひらから放たれた星の光が結晶に流れ込んだ瞬間、結晶全体が優しく脈打ち、広間全体がまばゆい純白の光で満たされた。
不完全だった古代の回路が、私の魔力を注ぎ込まれたことで次々と修復されていく。
荒々しく暴走しかけていた魔術波動は、まるで母に抱かれた赤子のように穏やかに鎮まりどこまでも澄んだ美しい旋律となって響き渡った。
「信じられない……! 封印されていた『極地の星脈炉』が、完璧に調和して稼働し始めただと……!?」
転がっていた組織のリーダーが、信じられないものを見る目で絶叫する。
「ただ抑え込んだんじゃないわ。エレノア様は、この星結晶を使って……大陸全体の崩れてた『龍脈のバランス』そのものを整えちゃったんです!」
シオンが手に持った魔力計の数値を見て大興奮で跳ね上がった。
そう、私がしたことは結晶の起動だけではない。
氷竜の暴走によって歪んでいた大陸全体の魔力ラインを、この星結晶を中継点にして、完璧な循環回路へと組み替えたのだ。
「これで、もう北方が異常寒波に襲われることも、龍脈が暴走して魔物が大発生することもありませんわ」
「ふふ……相変わらずやる規模が規格外だな、エレノア」
ルーク院長が可笑しそうに口角を上げ、私の頭を優しく撫でてくれた。
「これだけの偉業だ。また帝国の老魔術師たちが嬉し泣きしながら腰を抜かすぞ」
「まあ、ルーク院長ったら」
古代の超兵器になるはずだった災厄の種は、私の手によって「世界を安定させる永久機関」へと姿を変えた。
縛られたまま呆然と私たちを見上げる怪しい組織の男たちをよそに、私たちは新しい知識と成果を手に、晴れやかな顔で遺跡をあとにしたのだった。




