魔導具で大儲けのお父様
晩餐会での大失敗から数日後。
王宮が重苦しい空気と外交問題の対応に追われる一方で、グランヴェル公爵家の屋敷は、かつてないほどの熱気に包まれていた。
「ハハハ! エレノア、見なさい! 各国の商人や他国の王族から、注文の手紙が山のように届いているぞ!」
豪快な笑い声を上げながら、父アルベルトが豪華な執務机の上にドサリと積み上げたのは、分厚い注文書の束だった。
エレノアとシオン、そしてルーク院長が開発した『広域通信の魔導具』。
遠く離れた場所同士でも一瞬で会話ができるというこの画期的な魔法のアイテムは、売り出されるやいなや国境を越えて爆発的な大ヒットを記録していた。
「お父様、そんなに注文が殺到しているのですか?」
私が温かいお茶を注ぎながら尋ねると、父は満足そうに深く頷いた。
「ああ。これまでは伝書鳩や早馬で何日もかけていた連絡が、一瞬で済むのだからな。特に大商人や他国の軍部が高値でも買い取ろうと必死だ。シオン殿の工房を拡大し、グランヴェル領内の魔術師を総動員して増産体制に入っているが、まったく追いつかんよ」
「シオンも『毎日新しい道具を作れて楽しい!』と張り切っていましたわ」
「うむ。この魔導具の特許と利益はすべて我が家が握っている。おかげでグランヴェル家の財政は過去最高の潤いを見せているよ。……それに引き換え、王家は悲惨なようだな」
父の口元に、冷ややかな笑みが浮かぶ。
王家はグランヴェル家からの経済支援を失っただけでなく、外交晩餐会での大失態によってルーヴェン帝国からの信用も完全に失った。
さらに、この『通信魔導具』の権利も買い取ることができず、経済的にも軍事的にも完全にグランヴェル家に後塵を拝する形となっていたのだ。
「先日もな、王宮の財務大臣が涙目になりながら『通信魔導具を安価で優先的に王家に回してほしい』と泣きついてきたよ」
「……お父様は、どうお答えになったのですか?」
「当然、『他の顧客と同じように適正な価格でお並びください』とお断りしたさ」
父の容赦ない対応に、私は思わずクスリと笑ってしまった。
そこへ、部屋の扉が静かに開きルーク院長が入ってきた。
「失礼するよ、公爵閣下。……エレノア、少し時間をもらえるかな?」
「ルーク院長。どうかされましたか?」
ルーク院長は手に持った羊皮紙の束を私に見せながら、琥珀色の瞳を怪しく輝かせた。
「君の『星辰魔術』の応用研究だが新しい段階に入った。空間を歪めて通信するだけでなく特定の座標へ『一瞬で物体を転送する』理論の目途が立ったんだ」
「まあ……! 物体の瞬間移動ですか!?」
「そうだ。これが完成すれば物流の概念そのものが覆る。……王宮の連中が泥沼のトラブルに頭を抱えている間に俺たちは世界の歴史を塗り替えるとしようじゃないか」
「はい! 喜んでお供いたします!」
私が力強く頷くと、ルーク院長は満足そうに口角を上げた。
かつて私を押し潰そうとしていた「王太子妃の義務」や「王家の都合」は、もう手の届かない遥か遠くの出来事だった。
私は今、信頼できる大切な仲間たちと共に、自分の大好きな魔術の世界で、誇らしく胸を張って生きている。
一方その頃、王宮の自室に閉じこもったアレス殿下が日に日に窮地に追い詰められていることなど知る由もなかった。




