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元勇者、転生したら魔王も転生!?――今度こそ『完全デリート』する。  作者: masa
第1章:『白銀の覚醒と止まった刻(とき)』
3/8

第2話/光の庭、揺れる影

幸せな日常。


けれど、ジークの屈託のない笑顔を見るたび、私はどうしてもあの日のことを思い出してしまう。

――私が「力」に目覚めてしまった、十歳のあの日のことを。


   ◇


フェリナが十歳になった年。

村の近くの森で、子どもたちが魔獣に襲われる事件が起きた。


「リナ! 危ないッ!」


茂みから飛び出したのは、体高が人間と同じほどの巨大な狼――シャドウウルフ。


本来なら森の奥に棲む魔獣だが、飢えて村の近くに現れたのだ。


リナは慌てて弓を構えた。

だが、まだ幼い彼女の腕では、矢は震えてまともに狙えない。


(まずい……このままじゃ、リナが喰われる!)

フェリナの心臓が激しく脈打つ。


自分は非力だ。剣も弓も使えない。

ただ逃げることしかできない――そう思った瞬間。


胸の奥から、熱のような衝動が走った。


「――来いッ!」


フェリナは叫んでいた。

右手に強烈な光が集まり、空気を震わせる。


その瞬間、リナの手元に、見たこともない一本の弓が現れた。


「え……これ……?」

「リナ! 撃てッ!」


リナは驚きながらも、導かれるように弓を引いた。

指に伝わる感覚は、今までの練習用の弓とはまるで違った。


身体の奥から力が湧き上がり、視界が澄み渡る。

放たれた矢は、まるで光の線のように真っ直ぐに飛び、

――シャドウウルフの眉間を正確に貫いた。


魔獣は絶叫をあげ、地面に崩れ落ちた。

静まり返る森の中で、フェリナは自分の右手を凝視した。


(今の力は、何……?)


   ◇


そんな古い記憶を振り払うように、私は一度、強く瞬きをした。


「――フェリナ姉! ねえ、聞いてる?

弾けたような元気な声に、意識が「今」へと引き戻される。


視界を支配していた森の重苦しい空気は消え、代わりに目に飛び込んできたのは、西日に照らされた黄金色の草原だった。


「フェリナ姉! ほら、これ!

 この木の実、すごく甘いんだよ。一番大きいの、あげる!」


目の前に差し出された、泥だらけの小さな手。


そこには、真っ赤に熟した野イチゴのような木の実が乗っていた。


「……ありがとう、ジーク。でも、服が泥だらけじゃない」


私が苦笑いして受け取ると、ジークは「えへへ」と鼻を擦った。


その無垢な仕草を見るたび、私の胸の奥は、凪いだ海に石を投げ込まれたような波紋が広がる。


(……この子は、何も知らないんだ)


かつて世界を終わらせようとした『何か』が、

今のこの子のどこに隠されているのか、私には分からない。


あの日、私がリナに与えたあの「力」の正体さえも。


「ちょっと二人とも! 食べ物に夢中になってないで、

 今日のご飯のおかずになる薬草、ちゃんと探してよね!」


少し離れた場所で、リナがカゴを抱えながら声を張り上げている。


あの日、光の弓で魔獣を倒した少女は、今は逞しい村の娘として生活を支えている。


「はーい! 分かってるってば、リナ姉!」


ジークが元気よく返事をして、また草原を駆け出していく。

その背中を見送っていた、その時だった。


――ドクン。


私の心臓が、不自然な跳ね方をした。

視界の端で、ジークが転びそうになり、咄嗟に地面に手をつく。


「……っ!?」


その瞬間、私の頭の中に『音』が響いた。

それはあの乾いた破壊音ではない。

もっと低く、地を這うような――何かが蠢く音。


「ジーク、危ない!」


無意識に叫んでいた。

私は駆け寄り、ジークの腕を強く掴んで引き寄せる。


「……え? フェリナ姉、どうしたの?

 ただちょっと、つまずいただけだよ?」


ジークが不思議そうに私を見上げる。その腕は温かく、ただの子供のそれだった。


「……あ、ごめん。……びっくり、させちゃったね」


私は震える手を隠すように、彼の泥を払った。

けれど、私の指先はまだ冷たいままだった。

さっきの音は何だったのか。


彼が地面に触れた瞬間、なぜ私は『敵』を感じたのか。


「フェリナ、顔色が悪いよ? 今日はもう帰りましょうか」


いつの間にか側にいたリナが、心配そうに私の肩に手を置く。


その手の温もりが、私の冷え切った思考を少しだけ日常へと引き戻してくれた。


「……そうだね。帰ろう、私たちの家に」


私は空を見上げた。


街を照らす夕陽は、どこまでも優しく、美しい。

けれど、地面に伸びた私の影だけが――

明らかに、私の動きとズレていた。

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