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元勇者、転生したら魔王も転生!?――今度こそ『完全デリート』する。  作者: masa
第1章:『白銀の覚醒と止まった刻(とき)』
2/8

第1話/凪の街、響く予感

私は一度、世界を救って死んだ。

真っ白な光。


耳を突き刺すような、空間が軋む断末魔。

そして――。


――『 パキン 』


乾いた音と共に、世界は砕け散った。

大切だったはずの何かが、指の間をすり抜けて消えていく感覚。


熱い。苦しい。叫びたいのに、声が出ない。

ただ、涙だけが頬を伝って――。


「……フェリナ? ちょっと、フェリナ! 大丈夫?」


ハッとして顔を上げると、そこには心配そうに眉を寄せたリナの顔があった。


崩れ落ちる城も、視界を焼き尽くす魔力もない。


あるのは、穏やかな光が差し込む石畳の通りと、パン屋から漂う香ばしい匂い。ここは、私たちの暮らす凪の街だ。


「……リナ。ごめん、またボーッとしてたみたい。……私、泣いてた?」


「泣いてたよ。ほら、涙拭いて。最近、本当に変だよ? 悪い夢でも見てるの?」


リナが自分のハンカチで私の目元を乱暴に、でも優しく拭ってくれる。


彼女は私の幼馴染で、一番の親友だ。リナの明るい声と、少しお節介な優しさに触れると、胸の奥にこびりついた「あの音」が、少しだけ遠のく気がする。


「おーい! リナ姉、フェリナ姉! 早く行こうよ、置いてっちゃうぞー!」


数メートル先で、少年が大きなカゴを抱えながらこちらを振り返った。

リナの弟、ジークだ。


太陽の光をいっぱいに浴びたような、屈託のない笑顔。その元気な声が通りに響き渡る。


「ジーク、待ちなさいってば! そんなに走ったらカゴの中身をこぼしちゃうでしょ!」


リナがスカートの裾を揺らして、弟を追いかけて走り出す。

私はその背中を追いながら、ふと自分の手のひらを見つめた。


前世の私、……

この手はかつて剣を握っていた。

世界のために。


その記憶は霧がかかったように曖昧だけれど、あの最期の瞬間だけは、今も鮮明に心に刻まれている。


(……どうしてだろう)


ジークが笑うたび。彼が元気に走り回る姿を見るたび。

私の記憶の隅っこで、誰かが必死に「■■■■」と叫んでいる。


喉まで出かかっているその名前が、どうしても思い出せない。


目の前にいるのは、幼馴染の弟であるジーク。


あの日、光の中で消えていった「彼」とは別人のはずだ。


けれど、時折見せる横顔や、ふとした瞬間の仕草が、私の魂を激しく揺さぶる。


「……フェリナ姉、何見てるの? ほら、変な虫がついてるよ?」


いつの間にか戻ってきたジークが、私の顔を覗き込んでいた。

その瞳は、一点の曇りもなく澄んでいる。


「ううん、何でもない。……ジークは今日も元気だね」


「当たり前だよ! 今日はフェリナ姉さんの好きな木の実、たくさん採るって決めてるんだから!」


ジークが胸を張る。その無邪気さに、私は胸の奥をチクリと刺されたような痛みを覚えた。


勇者だった私が守りたかったのは、きっとこんな「凪」のような時間だったはず。


戦いも、悲鳴も、別れもない。ただ友達と笑い、美味しいパンを食べて、明日を信じて眠りにつく。


「……そうだよね。今は、これでいいんだ」


私は自分に言い聞かせるように呟いた。

そよ風が吹き、街の喧騒が心地よく響く。


けれど、私の耳の奥では、まだあの不穏な「響」が止まずに鳴り続けていた。


あの「パキン」という音と共に砕けたのは、一体誰の心だったのか。


それを知る日が、いつか来るのだろうか。


「フェリナー! 置いていくわよー!」


「今行く!」


私は過去を振り払うように、走り出した。


親友と、その大切な弟が待つ、光の方へ。

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