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第二十七話「Sランクリベンジマッチでアリアさんが只者じゃなかったんですけど?」

いつも読んでいただきありがとうございます。


前回は転送装置の仕組みが判明し、「帰れるかもしれない」という希望が見えてきました。

そして今回は——その流れとは少し違う、“約束の続き”のお話です。


かつて果たせなかった挑戦。

そして、もう一度立ち向かうSランク。


一人ではなく、みんなで挑む戦いがどんな結果になるのか。

楽しんでいただけたら嬉しいです。


それでは、第27話。どうぞ。



 集合したのは、朝だった。


 コルナの門前に、七人と一匹が揃った。


 さくら、ノア、あかね、怜奈、フロスト、ひまり、ルミナ。


 そしてポチ。


「……全員揃った」


 ノアが言った。


「揃った!!」


 あかねが言った。


「……揃ったね」


 さくらが言った。


 ひまりが手を上げた。


「あの、私、戦えますか!!」


「ひまりは戦えるの?」


「多少は!! 商会の護身術を習っていて!!」


「護身術でSランクは——」


「足を引っ張らない程度には!!」


「……ひまりは後方で」


 ノアが言った。


「後方!!」


「……最前線には出るな。ただし状況次第では動いてもらう」


「分かりました!!」


 ルミナが怜奈の横でそわそわしていた。


「……怜奈様、私は——」


「ルミは回復担当。誰かが傷ついたらすぐ対応して」


「は、はい……!! でも怜奈様が傷ついたときは——」


「私より他の人を優先して」


「……そんな……!!」


「私は自分で何とかする。他の人を頼む」


「……わ、分かりました……!! でも怜奈様が傷ついたときだけは——」


「ルミ」


「……はい」


「頼んだ」


「……はい……!! 任せてください……!!」


 フロストが静かに立っていた。


「……フロスト、今日の役割は?」


 ノアが聞いた。


「……魔王様のバックアップと、全体の支援を」


「……頼む」


「……はい」


 あかねが全員を見回した。


「よし!! 行こう!!」


-----


 山の麓に着いた。


 前回と同じ場所。


 草原が広がっていて、山の木々が続いている。


「……いるか」


 ノアが言った。


「……いる」


 怜奈が答えた。


「魔力を感じる。前回より——少し奥にいる」


「移動したのか」


「……縄張りが広いから」


「……行くか」


 全員が進んだ。


 山の入り口から少し入ったところで、それはいた。


 鋼鉄竜。


 前回と同じく、でかかった。


 でも——今日は、向こうも気づいていた。


 こちらを見た。


 前回の飽きた目ではなく——警戒した目だった。


「……前回来た二人を覚えているかもしれない」


 さくらが言った。


「覚えてるの?」


「……Sランクの魔物は知性が高い。可能性はある」


「それは、戦いにくい?」


「……戦いやすい。覚えているなら、前回の手を警戒する。その裏をかける」


「なるほど!!」


-----


 ノアが全員に指示を出した。


「……あかね、右側から炎で牽制。竜の注意を右に引きつける」


「分かった!!」


「……怜奈、左から魔力弾を連射。弱点の顎の下を狙い続けろ」


「……分かった」


「……さくら、余と中央から。余が陽動、さくらが突撃の基本形で行く」


「うん」


「……フロスト、全体の動きを見て穴を塞いでくれ」


「……承知しました」


「……ひまり、ルミナは後方で待機。ルミナは負傷者に即対応」


「は、はい……!!」


「……分かりました!!」


「……行く」


-----


 戦いが始まった。


 あかねが右から炎を放った。


 鋼鉄竜が向いた。


 怜奈が左から魔力弾を連射した。


 顎の下に、三発続けて当てた。


「……効いてる!!」


 前回と違った。


 怜奈の魔力弾は、さくらとノアの攻撃よりも貫通力があった。


 顎の下の鱗が、少しずつ削れていた。


「……そこだ!!」


 ノアが中央から魔力を放った。


 竜の胸部に集中させた。


 前回よりも——力があった。


「……ノアの魔力、増えてる」


 さくらが感じた。


 前回は三割と言っていた。今日は——もっとある。


「……さくら、今!!」


「行く!!」


 さくらが走った。


 怜奈が作った隙間に飛び込んだ。


 顎の下——


「っ!!」


 当たった。


 鱗が割れた。


「割れた!!」


「……続けろ!!」


 あかねが追加の炎を放った。


 割れた部分に集中させた。


 鋼鉄竜が吠えた。


 低い、重い声だった。


 地面が振動した。


「くっ——!!」


 全員が体勢を崩した。


 その隙に、鋼鉄竜が前足を振り上げた。


「さくら!!」


「分かってる!!」


 横に転がった。


 前足が地面を叩いた。


 衝撃波が来た。


「……っ!!」


 フロストが魔力の盾を展開した。


 衝撃波を受け止めた。


「……助かった、フロスト!!」


「……次!!」


-----


 十分が経った。


 全員が動いていた。


 あかねが炎で牽制し続けた。


 怜奈が弱点を狙い続けた。


 さくらとノアが連携で突撃を繰り返した。


 フロストが盾を張り続けた。


 ルミナが傷ついた者に回復魔法をかけ続けた。


 ひまりが後方で——


「がんばれー!!」


「……応援してるだけか」


「声援は大事です!!」


「……まあ、聞こえている」


 確かに削れていた。


 顎の下の鱗が、大きく崩れていた。


 でも——まだ倒れない。


「……硬い」


 怜奈が言った。


「……削れてはいる。でも中まで届いていない」


「どうする?」


「……全員の魔力を一点に集中させる。顎の下の崩れた部分に、全員で同時に」


「同時に!?」


「……タイミングを合わせる。余が号令を出す」


「分かった!!」


「……準備しろ。あかね、怜奈、さくら——全員、次の号令で顎の下に全力を集中させる」


「「「分かった!!」」」


「……フロスト、その間の防御を頼む」


「……承知しました」


「……行くぞ。三、二、一——」


「今だ!!」


 全員が同時に動いた。


 あかねの炎。


 怜奈の魔力弾。


 さくらの魔力。


 ノアの魔力。


 フロストの支援。


 全部が、顎の下に集中した。


 光が爆発した。


 煙が広がった。


 鋼鉄竜が——よろめいた。


「……倒れる!!」


「……まだだ!!」


 ノアが言った。


 煙の中から、鋼鉄竜が体勢を立て直していた。


「……まだ立ってる!?」


「……Sランクは、それだけ硬い」


「どうする!?」


「……もう一度——」


 全員の魔力が、もう限界に近かった。


 さくらの手が震えていた。


 あかねの炎が小さくなっていた。


 怜奈の魔力弾の速度が落ちていた。


「……っ」


 鋼鉄竜が吠えた。


 今度は攻撃に転じようとしていた。


 でかい首が、こちらに向いた。


 その瞬間。


 風が来た。


 矢だった。


 どこからか、矢が飛んできた。


 鋼鉄竜の顎の下——崩れた鱗の隙間に——まっすぐ刺さった。


 光が走った。


 鋼鉄竜が、静止した。


 そのまま——倒れた。


 地面が揺れた。


 重い音がした。


 静かになった。


-----


 全員が固まった。


 しばらく誰も動けなかった。


 さくらがゆっくりと振り返った。


 山の入り口。


 木の陰に、人が立っていた。


 弓を持っていた。


 白いエプロンをしていた。


「……アリアさん」


 アリアが弓を下ろした。


 木の陰から出てきた。


「あら、倒れちゃった」


「……倒れちゃった、じゃないです!!」


「びっくりした? ごめんなさいね、急に」


「びっくりしました!!」


「……アリア」


 ノアが言った。


「なに、ノアちゃん」


「……なぜここに」


「みんなが出かけるのを見てたら、心配になっちゃって」


「……ついてきたのか」


「こっそりね」


「……気づかなかった」


「気配を消す練習、昔よくしてたから」


「……気配を消す練習」


「冒険者のころの話よ」


 あかねが呆然としながら言った。


「……アリアさん、今の弓——」


「古いものよ。隠し部屋にあったやつ」


「手入れしてたって言ってた」


「たまにね。使うときのために」


「……Sランクに当てた」


「当たったわね。ちょうど隙間があったから」


「ちょうど、って——」


「みんなが崩してくれたおかげよ。隙間がなければ当たらなかった」


 怜奈が静かに言った。


「……あの隙間に、あの距離から——」


「遠かったかしら。もう少し近づこうかと思ったけど」


「……近づかなくて正解です。あの距離から当てられる人間は——そういない」


「そう? 昔はもっと上手だったけど、久しぶりだから」


「……久しぶりで、Sランクに当てた」


「当たって良かったわ」


 ルミナが感動のあまり涙を流していた。


「……す、素晴らしい……!! 人間でここまで……!!」


「ありがとうね」


「……魔王様と同じくらい……!! いえ——」


「ルミ」


 怜奈が止めた。


「……はい」


「アリアさんはアリアさんよ。比べなくていい」


「……そうですね……!! アリアさんはアリアさんで……!! 素晴らしい……!!」


「ありがとう」


-----


 ひまりが駆け寄ってきた。


「アリアさん!! すごいです!!」


「そうでもないわよ」


「すごいです!! 今まで宿のおばさんだと——」


「おばさんでしょ」


「おばさんじゃないです!! 超人です!!」


「超人は大げさよ」


「超人です!!」


 さくらがアリアに近づいた。


「……心配してたの?」


「してたわよ。Sランクでしょ。前に挑んでボロボロになって帰ってきたじゃない」


「今回は全員いたから」


「全員いても心配なの。おばさんだから」


「おばさんじゃないよ」


「おばさんよ」


「……アリアさんが来てくれて、良かった」


「役に立てて良かったわ」


「……ありがとう」


「どういたしまして」


 ノアがアリアの前に立った。


「……アリア」


「なに?」


「……今日のこと、余は——」


「うん」


「……余たちだけでは、倒せなかった」


「でもあと一歩のところまで追い詰めたじゃない」


「……あと一歩では、倒せない」


「そうね」


「……余は、まだ足りない」


「うん」


「……でも——今日は、倒せた」


「倒せたわね」


「……アリアのおかげだ」


「みんなのおかげよ。私は最後の一押しをしただけ」


「……その一押しが、なければ」


「なければ、まだ戦ってたかもしれないけど——みんながいたからよ」


 ノアが少し黙った。


「……アリアは、本当に——」


「本当に?」


「……すごい人だ」


「ただのおばさんよ」


「……おばさんではない。余が保証する」


「……ありがとう、ノアちゃん」


「……どういたしまして」


-----


 全員が草原に座った。


 疲れ果てていた。


 でも——誰も怪我はなかった。


 ルミナの回復魔法のおかげで、細かい傷は全部塞がっていた。


「……倒した」


 ノアが言った。


「倒した!!」


「倒したね」


「……倒せた」


 静かな声だった。


 でも、その一言に色々が詰まっていた。


 さくらはノアの横顔を見た。


 ノアが少し、目を細めていた。


「……ノア」


「何だ」


「良かったね」


「……良かった」


「うん」


「……前回は飽きられて去られた」


「今回は倒した」


「……倒した」


「約束、果たしたね」


「……約束?」


「Sランクに二人で挑む日まで鍛える、って約束」


「……そうだな。果たした」


「うん」


「……ただ」


「ただ?」


「……二人ではなく、全員で倒した」


「そうだね」


「……それは——恥ずかしいことではない、と思っている」


「恥ずかしくないよ」


「……全員がいたから倒せた。それが今の余の実力だ」


「うん」


「……一人では、まだ無理だった」


「うん」


「……でも——一人でなくていい、と思えるようになった」


「なったね」


「……さくらのおかげだ」


「また言ってる」


「……また言った」


「何回目?」


「……数えていない」


「私も数えてない」


「……まあ」


「まあ、ね」


-----


 あかねが立ち上がった。


「勝ったー!!」


 両手を上げた。


「やったー!!」


 ひまりも立ち上がった。


「やりました!!」


「倒した倒した!!」


「倒しました!!」


 怜奈が静かに立ち上がった。


「……倒した」


 それだけ言った。


 でも口元が、わずかに上がっていた。


 フロストが静かに言った。


「……魔王様、おめでとうございます」


「……ありがとう、フロスト」


「……本当に、おめでとうございます」


「……そんなに言うな」


「……言います」


 ルミナが感極まっていた。


「おめでとうございます怜奈様……!! 倒せましたね……!! 嬉しいです……踏んでください……!!」


「ルミ」


「……はい」


「今は踏まない」


「……はい……!! でも嬉しいです……!!」


「私も嬉しい」


「……怜奈様が嬉しいと言った……!! 最高です……はぁはぁ」


「だから最後のはいらない」


「……すみません……!!」


 アリアが全員を見回した。


 そして、静かに笑った。


「……みんな、よく頑張ったわね」


 全員が、アリアを見た。


「ありがとうございます!!」


「ありがとう!!」


「……ありがとう、アリア」


「ありがとうございます」


「……感謝する」


「……ありがとうございます、アリア様」


「……ありがとう、アリアさん」


 アリアが少し目を細めた。


「どういたしまして。全員」


 草原に、青空が広がっていた。


 風が吹いた。


 全員が、その場に立っていた。


 暗転。


-----


**【魔王の小さな冒険 其の二十七「魔王、Sランクを倒した件」】**


 のあちゃんは布団の中で、今日のことを振り返っていた。


 倒した。


「……倒した」


 誰もいない暗闇に向かって、のあちゃんはつぶやいた。


 鋼鉄竜を、倒した。


「……余の一撃では、まだ無理だった」


 全員の力を合わせて、あと一歩まで追い詰めた。


 最後の一押しは、アリアだった。


「……アリアが来てくれた」


 こっそりついてきて、木の陰に隠れていて——隙間を見つけて、弓で仕留めた。


「……すごい人だ」


 何度でも思う。


 アリアは本当にすごい人だ。


 ただのおばさん、と言い続けているが——余は信じない。


「……余が保証する」


 今日、そう言った。


 アリアが「ありがとう」と言った。


「……どういたしまして」


 のあちゃんは少し笑った。


 それから——今日のことを、もう一つ思い出した。


 さくらが「良かったね」と言った。


 約束を果たしたね、と言った。


「……約束」


 Sランクに二人で挑む日まで鍛える、という約束。


 二人でではなく、全員で倒したが——さくらは「良かったね」と言った。


「……さくらは、余が一人で倒さなくても良かったと思っている」


 全員でいいと思っている。


「……余も、そう思えるようになった」


 一人ではなくていい。


 今日、全員の力を合わせて倒した。


 それが——今の余の実力だ。


「……足りない部分を、仲間が補ってくれる」


 魔王として、それを認めるのは——かつては考えられなかった。


 でも今は。


「……悪くない」


 悪くない、どころか——良かった。


 みんながいて、良かった。


 ポチが胸元でくるりと丸まった。


「……ポチ」


 ポチがきゅんと鳴いた。


「……今日は、良い日だったか」


 また鳴いた。


「……余も、そう思う」


 のあちゃんは目を閉じた。


 約束を果たした。


 次の約束は——


「……帰る日まで、ここにいる」


 誰にも聞こえない声で言った。


 帰る日は、来る。


 でも今は——ここにいる。


 みんなと一緒に。


-----


第二十八話に続きます。

第27話、読んでいただきありがとうございました。


ついにSランク討伐リベンジ回でした。

そして——アリアさん、やってくれました。


これまで「ただのおばさん」と言い続けてきたアリアですが、

今回で“只者じゃない”のがしっかり伝わったかなと思います。


ただ、この回で一番書きたかったのは、

ノアの「一人でなくていい」という変化です。


最初は全部を背負おうとしていた魔王が、

仲間と一緒に戦って、勝つことを受け入れるようになる。


派手な勝利というより、

“今の自分たちの勝ち方”を見つけた回になったかなと思っています。


そして物語としては、


・転送装置による帰還の可能性

・ノアとさくらの「帰るかどうか」の問題

・アリアの過去


このあたりが少しずつ動き出しています。


ここからは、戦いだけじゃなく「選択」の話にも入っていきます。


次回もぜひお付き合いください。

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