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第二十五話「ひまりに過去を聞かれたんですけど?」

第二十五話です。


今回は、ひまりの一言から始まる「お話回」です。

さくらとノア、それぞれの過去に少しだけ踏み込むお話になっています。


これまであまり語られてこなかった「魔法少女になった理由」や「魔王としての過去」。

重い話も含まれますが、それでもこの空気で話せるようになったこと自体が、彼女たちの変化だと思います。


そしてやっぱり、ひまりはひまりでした。


それでは本編をどうぞ。



 ひまりが来たのは、午後のことだった。


 商会の仕事が早く終わったらしく、珍しく手ぶらで来た。


「先輩、今日は暇ですか!!」


「暇といえば暇だけど」


「じゃあ話を聞いてもいいですか!!」


「話?」


「先輩のこと、もっと知りたくて!!」


 さくらは少し考えた。


「……どんなことを?」


「色々!! 先輩が魔法少女になったきっかけとか、元の世界での話とか!!」


「急だね」


「急ですが!! 最近、先輩のことをもっと知りたいと思っていて!!」


「なんで急に」


「昨日、フロストに聞いたら『さくら先輩のことはさくら先輩に聞いてください』と言われたので!!」


「フロストに聞いたの?」


「聞きました!! ノア様のことも聞いたら同じ返事で!!」


 ノアが横で本を読んでいた。


「……余も聞かれるのか」


「聞いていいですか!!」


「……まあ」


「やった!! じゃあ今日はお話会です!!」


「お話会!?」


「アリア様、お茶もらえますか!!」


「はいはい」


 アリアが嬉しそうにお茶を持ってきた。


「私も聞いていい?」


「もちろんです!!」


「じゃあ聞かせてもらうわ」


 アリアも座った。


 なぜかフロストもいた。


「……フロスト、仕事は?」


「……今日は休みです」


「また休みなの?」


「……有給消化中です」


「有給があるんだ」


「……魔王様から支給されています」


「余が支給しているのか」


「……以前の契約通りです」


「……そうか」


 全員が居間に集まった。


 ひまりが張り切って仕切り始めた。


「では!! さくら先輩から!!」


「はいはい」


-----


「魔法少女になったきっかけ、か」


 さくらはお茶を一口飲んだ。


「……あんまり格好いい話じゃないんだけど」


「格好よくなくていいです!!」


「うん。えっとね——中学二年のとき、夜に一人で歩いてたら急に光が降ってきて」


「光が!!」


「それで気づいたら、コンパクトを持ってた」


「コンパクト?」


「変身するやつ。ピンク色の。で、なんか頭の中に声が聞こえて『お前が選ばれた』みたいな」


「選ばれた!!」


「最初は夢だと思ってた」


「夢!?」


「でも次の日も持ってたから。夢じゃなかった」


「それで魔法少女に?」


「最初は嫌だった。面倒くさいし、戦いたくないし」


「え!!」


「なんで私が、って思ってた。怜奈みたいに積極的じゃなくて——なんとなく、やるしかないかなって」


「なんとなく!!」


「うん。格好よくないでしょ」


「格好いいですよ!!」


「格好よくない。でも——やってみたら、守れるものがあると分かって。それから、ちゃんとやろうって思った」


「守れるもの!!」


「怜奈とか、チームのみんなとか。あと、普通に生きてる人たちとか」


「尊い!!」


「尊くないよ。普通の話だよ」


 ノアが静かに聞いていた。


「……さくらは、選ばれた理由を聞かなかったのか」


「聞いた。でも答えが返ってこなかった」


「……答えが返ってこない?」


「コンパクトからは声が聞こえたけど、理由は教えてくれなかった。『適性がある』って言うだけで」


「……適性、か」


「ノアは?」


「……後で話す」


「じゃあ続き」


-----


「一番つらかったことか」


 さくらが少し間を置いた。


「……これは、あんまり話したくないんだけど」


「話せる範囲で!!」


「うん。えっと——チームのみんなと、一度大きく負けたことがあって」


「負けた?」


「すごく強い敵が大量に来て。いつもの倍以上の数で。私たちだけじゃ対応しきれなくて——」


「……」


「あかねが一人で囮になって時間を稼いでくれて。私たちが逃げる時間を作ってくれた」


「あかね様が!!」


「うん。あかねは無事だったけど——その後、しばらくあかねが『もっとうまくやれた』って言い続けてて」


「あかね様が?」


「あかねって普段は明るいでしょ。でもあのときは——ずっと自分を責めてた」


「……そうか」


「私は何もできなかった。逃げただけだった。あかねに全部任せて逃げた」


「先輩」


「あかねは今は全然気にしてないし、明るくしてるけど——私はまだ覚えてる」


「……」


「だから、あかねには強くなったところを見せたいって思ってる。ちゃんと隣に立てるくらいに」


 ひまりが少し静かになっていた。


「先輩」


「うん」


「……すごい人ですね」


「すごくない」


「すごいです!!」


「逃げた話だよ」


「でも、それを覚えてて、前に進もうとしてるのが——すごいんです!!」


「……まあ」


「すごいです!!」


 アリアが静かに言った。


「さくらちゃん、あかねちゃんのこと話してくれてありがとうね」


「アリアさんは知ってたの?」


「あかねちゃんが来たとき、少し顔に出てたから」


「そっか」


「二人とも、いい友達ね」


「……そうだといいんだけど」


-----


「ノアの番です!!」


 ひまりが元気を取り戻した。


 ノアが本を閉じた。


「……何から話せばいい」


「魔王になったきっかけから!!」


「……きっかけ、か」


 ノアが少し考えた。


「……余は、生まれたときから魔王だった」


「生まれたとき!!」


「……この世界では、魔王は選ばれるのではなく——生まれるものだ。余の一族は代々、魔王の血を引いている」


「血筋!!」


「……そうだ。だから余に選択肢はなかった。生まれた瞬間から、余は次の魔王だと決まっていた」


「……それは」


「つらかったかと聞くか?」


「……聞いていいですか」


「……つらいとは思わなかった。それが当然だったから」


「当然」


「……魔王として育てられた。強くなることを求められた。弱みを見せるなと言われた。感情を出しすぎるなと言われた」


「……」


「……だから余は——感情を出さないようにしていた。長い間」


「今は出してるじゃないですか!!」


「……この世界に来てから、変わった」


「さくら先輩のおかげですか!!」


「……さくらのせい、かもしれない」


「おかげですよね!!」


「……まあ」


 さくらが横で「ノアのせいで私も変わった気がする」と言った。


「どっちがどっちに影響したか分からないね」


「……そうだな。どちらが先か分からなくなった」


「24話でも言ってたね、それ」


「……言った」


-----


「一番つらかったことも聞いていいですか!!」


 ひまりが慎重に聞いた。


 ノアが少し間を置いた。


「……一つだけ、話す」


「はい」


「……魔王軍が崩壊したとき、余は一人だった」


「……はい」


「部下たちが散り散りになった。フロストは空間の歪みに飲まれた。四天王はそれぞれの道を行った。余一人が——城に残っていた」


「……はい」


「誰もいない城で、一晩過ごした。それが——一番つらかった」


「戦いじゃなくて?」


「……戦いよりも。戦いは慣れている。でも——誰もいない、ということには、慣れていなかった」


「……」


「余は一人でいることが当然だと思っていた。でも、全員がいなくなってみて——一人は、こういうことかと、初めて分かった」


 ひまりが静かに聞いていた。


「……フロスト」


「……はい」


「……お主はあのとき、空間の歪みに飲まれる前——余に何か言おうとしていたか」


「……申し訳ありませんでした、魔王様」


「謝罪を求めているのではない。理由を聞いている」


「……言おうとしていました。魔王様が一人で抱え込みすぎていると」


 ノアが少し黙った。


「……そうか」


「……今は、助けを求めてくださいますね」


「……さくらにだけ、求める」


「……それで十分です」


 さくらが横でノアを見た。


 ノアは前を向いたままだった。


-----


「互いへの第一印象も聞いていいですか!!」


 ひまりが空気を変えるように言った。


「第一印象?」


「さくら先輩のノア様への第一印象と、ノア様のさくら先輩への第一印象!!」


「……あー」


「嫌ですか?」


「嫌じゃないけど」


「先輩から!!」


「えっと——最初にノアを見たとき、ちっちゃいなって思った」


「ちっちゃい!!」


「うん。魔王って聞いてたから、もっとでかくて怖い感じかと思ったら——小さくて、でも目が怖くて」


「目が怖い!!」


「睨んでたから」


「……睨んでいた」


「睨んでたよ。あと、しゃべり方が偉そうで」


「……偉そうではない、余は魔王だ」


「偉そうだったよ。でも——なんか、必死だなって思った」


「必死?」


「うん。睨んでるのに、どこか必死な感じがして。強がってるのかなって」


「……強がっていた」


「やっぱり」


「……最初から見透かされていたのか」


「なんとなくだけど」


「……なんとなくで見透かすな」


「ごめん」


「……まあ——余のノアへの第一印象は」


「はい!!」


「……ピンク色で、うるさそうだと思った」


「うるさそう!!」


「……魔力の色がピンクで、目が明るくて——関わると面倒な相手だと思った」


「面倒!!」


「……実際、面倒だった」


「そんなに面倒でしたか!!」


「……面倒だった。でも——目が、真っ直ぐだった」


「真っ直ぐ?」


「……怖がっているのに、逃げなかった。最初に対峙したとき、さくらは怖かったはずだ。でも、逃げなかった」


「……怖かったよ、あのとき」


「……そうだろう。でも逃げなかった。それが——印象に残った」


「印象に残ったんだ」


「……それから、関わることになった」


「面倒だったのに関わったの?」


「……逃げない相手は——面倒でも、無視できない」


 ひまりが「尊い……!!」と言った。


「尊くない」


「尊い!!」


「……余は事実を述べた」


「事実が尊いんです!!」


「……」


-----


 お茶のおかわりが来た。


 アリアがクッキーも出してきた。


「……アリア、ありがとう」


「どういたしまして。話してくれてありがとうね、二人とも」


「アリアも聞いてたんですね」


「聞いてたわよ。ノアちゃんが城に一人でいた話——」


「……聞いていたか」


「聞いてた。それからここに来て、良かったわ」


「……そうか」


「うん。ここにいてくれて、嬉しいから」


「……余も——ここが居場所だと、最近思う」


「居場所!! ノア様!!」


「……ひまり、大きな声を出すな」


「でも居場所って言いましたよね!!」


「……言った」


「尊い!!」


「……うるさい」


「尊い!!」


「……フロスト、ひまりを黙らせてくれ」


「……私には止められません」


「役に立て」


「……尽力します。ひまり様、少しお声を——」


「尊い尊い!!」


「……ひまり様」


「尊いんです!!」


「……承知しましたが、それでも少し」


「フロストも尊くないですか今のやりとり!!」


「……私は尊くありません」


「尊いです!!」


「……」


 ポチがひまりの足元に来た。


 きゅんと鳴いた。


「ポチも尊い!!」


「……ケルベロスだ」


「ポチ尊い!!」


「……ケルベロスと言っておる!!」


 さくらが笑いながら言った。


「ひまり、全部尊くなってる」


「全部尊いので!!」


「基準が低い」


「基準は高いです!! ただ、ここにいる全員が基準を超えているので!!」


「……全員が基準を超えている?」


「超えています!! さくら先輩も、ノア様も、アリア様も、フロストも、ポチも!!」


「……ポチも超えているのか」


「超えています!!」


「……ケルベロスが人間の基準を超えたと言われた」


「超えてます!!」


「……まあ」


「まあじゃないですよ!!」


「……まあ、でいい」


「よくないです!!」


-----


 夕方になって、ひまりが帰ることになった。


「今日は色々聞かせてもらいありがとうございました!!」


「役に立った?」


「役に立ちました!! 先輩とノア様のことが、もっと好きになりました!!」


「もっと?」


「もとから好きでしたが!! もっとです!!」


「……ひまりは素直だな」


「素直が一番です!!」


「……余はひまりのそういうところを——」


「嫌いじゃない、ですか!!」


「……まあ」


「やった!! じゃあまた来ます!!」


「来ていいけど、次は約束してから」


「約束します!! ノア様!!」


「何だ」


「今日、話してくれてありがとうございました!!」


「……どういたしまして」


「城に一人でいた話——私には想像できないけど、でも——今はここにいるじゃないですか」


「……そうだな」


「それが、良かったと思います!!」


「……余も、そう思う」


「じゃあ!!」


「じゃあ?」


「これからも、ここにいてください!!」


「……余の都合もあるが」


「都合をつけてください!!」


「……まあ」


「まあじゃないですよ!!」


「……考える」


「考えてくれるんですね!! 嬉しいです!!」


 ひまりが帰った。


 ばたばたと元気よく去っていった。


-----


 居間が静かになった。


 フロストも気を利かせて外に出た。


 アリアが台所で夕飯の準備を始めた。


 さくらとノアが、居間に二人になった。


「……話すとは思ってなかった」


「え?」


「……城に一人でいた話。誰かに話したのは、初めてだ」


「そっか」


「……さくらが話したから、余も話せた気がした」


「私のせい?」


「……さくらのおかげだ」


「おかげって言えるようになったね」


「……言えるようになった。最近」


「誰のおかげ?」


「……さくらのおかげだ」


「私のおかげ?」


「……さくらのおかげだ」


「三回言った」


「……三回言った」


「分かったよ」


「……分かったか」


「うん」


 ノアが少し黙った。


「……さくら」


「何」


「……逃げなかった、と言った。最初に対峙したとき」


「うん」


「……今も、逃げないか」


「何から?」


「……余から」


 さくらが少し固まった。


「……逃げないよ」


「……今も?」


「今も」


「……これからも?」


「これからも——今は今だから、これからのことは分からないけど」


「……そうだな」


「でも、今は逃げない」


「……今は今、か」


「うん」


「……余も、今は——さくらから逃げない」


「逃げてたの?」


「……逃げようとしたことは、あったかもしれない」


「いつ?」


「……最初のころ。さくらは余の宿敵だから、関わらないほうがいいと思っていた」


「でも関わった」


「……逃げない相手は無視できない、と言っただろう」


「言ってた」


「……だから、関わった。今も関わっている。これからも——」


「これからも?」


「……今は今だ」


「私と同じこと言った」


「……さくらから学んだ」


「また『さくらのおかげ』?」


「……またさくらのおかげだ」


「ノア、今日は素直だね」


「……ひまりに過去を話したせいかもしれない」


「疲れると素直になるって前に言ってたもんね」


「……今日は疲れた、という感覚とは少し違う。ただ——話したら、少し楽になった」


「話すって、そういうものだよ」


「……そうか」


「うん」


「……ひまりに感謝するべきかもしれない」


「感謝していいと思う」


「……ひまりに感謝するとは思わなかった」


「ひまりは天然だけど、ちゃんと人のことを思ってる」


「……そうだな。今日の質問も——鋭かった」


「でしょ」


「……ただ、最後は全部尊いになっていた」


「なってたね」


「……ポチまで尊いと言われた」


「ポチは尊いよ」


「……余もそう思うが——ケルベロスとして言ってほしかった」


「ポチとして尊いんだよ」


「……どちらでもいいか」


「どちらでもいいよ」


「……余も、どちらでもいいと思い始めた」


「成長だね」


「……成長、か」


「うん。ケルベロスでもポチでも、ノアの大事な家来だから」


「……大事、か」


「大事でしょ」


「……大事だ」


「うん」


「……余には——さくらも、大事だ」


 さくらが少し固まった。


「……急に言う」


「……急ではない。思ったから言った」


「それが急だって——」


「……24話でも言った」


「言ってたね」


「……学習しない」


「学習してよ」


「……学習できない。思ったら言ってしまう」


「……まあ、うん」


「……うん?」


「うん」


「……それだけか」


「それだけ」


「……さくらは素直ではないな」


「ノアが急に言うから」


「……急ではないと言っている」


「急だよ」


「……では、次は急ではないタイミングを探す」


「探さなくていい」


「……探す」


「探さなくて——」


「……探す」


「……まあ、好きにして」


「……好きにする」


 ポチが二人の間に割り込んできた。


 くるりと丸まった。


「……ポチ」


「何」


「……今日、ひまりに尊いと言われていたな」


「言われてた」


「……ポチは、尊いと思うか」


「思う」


「……そうか」


「ノアも尊い」


「……余は尊くない」


「尊いよ」


「……魔王が尊いとは」


「魔王でも尊い」


「……ひまりに影響されているのか」


「影響されたかも」


「……さくらまで全部尊いになったら困る」


「困る?」


「……余が特別ではなくなる」


 さくらが少し固まった。


「……特別でいたいの?」


「……余は——さくらにとって、特別でいたい、かもしれない」


「かもしれない?」


「……かもしれない」


「……まあ、特別だよ」


「……そうか」


「うん。ノアは特別」


「……さくらも、余にとって——特別だ」


「知ってる」


「知っているのか」


「なんとなく」


「……なんとなくで知るな」


「なんとなく分かるもん」


「……」


「……どうしたの」


「……なんとなく分かられると、余が言うことがなくなる」


「言うことはたくさんあるでしょ」


「……そうだな」


「今は今だから」


「……今は今だ」


「うん」


 アリアが台所から言った。


「ご飯できたわよ。二人とも、いい話してたわね」


「聞いてたんですか」


「聞こえてきたのよ。聞くつもりじゃなかったけど」


「……全部聞こえていたか」


「全部ではないわ。ポチが特別とかそのあたりから」


「……割と聞こえていたな」


「ごめんなさいね。でも——良かったわ」


「何が?」


「二人とも、ちゃんと話せてるから」


 さくらが少し照れた顔をした。


「アリアさん」


「なに?」


「……ありがとうございます」


「どういたしまして。ご飯食べましょ」


-----


**【魔王の小さな冒険 其の二十五「魔王、話した件」】**


 のあちゃんは布団の中で、今日のことを振り返っていた。


 話した。


「……話した」


 誰もいない暗闇に向かって、のあちゃんはつぶやいた。


 城に一人でいた夜のことを、話した。


 今まで、誰にも話したことがなかった。


 話す必要がないと思っていた。


 でも——話したら、楽になった。


「……さくらが先に話したから」


 さくらが、怖かったのに逃げなかった話をした。


 あかねに任せて逃げた話をした。


 それを話せるさくらを見て——余も話せると思った。


「……さくらのおかげだ」


 のあちゃんは少し笑った。


 今日、三回言った気がする。さくらのおかげだ、と。


「……言いすぎかもしれない」


 でも、本当のことだった。


 余がここに来てから変わったことのほとんどが——さくらに関係している。


 感情を出せるようになったのも。


 助けを求められるようになったのも。


 「今は今だ」と言えるようになったのも。


「……さくらのおかげだ」


 また言った。四回目だ。


「……困ったな」


 でも困ったとは思うが——悔しくはない。


 ポチが胸元でくるりと丸まった。


「……ポチ」


 ポチがきゅんと鳴いた。


「……今日、ひまりに尊いと言われていたな」


 ポチがもう一度きゅんと鳴いた。


「……余にも、さくらにも言っていた」


 のあちゃんは目を閉じた。


 さくらが、余を特別だと言った。


 余も、さくらを特別だと言った。


「……特別、か」


 魔王として、特別な存在は——魔王城だった。領地だった。部下だった。


 今は——さくらが、特別だ。


「……いつから、そうなったのか分からない」


 最初は宿敵だった。


 それから同行者になった。


 今は——


「……今は今だ」


 のあちゃんは眠りについた。


 今日は、話した日だった。


 話して、楽になって、さくらのことを四回おかげだと言った日だった。


 悪くない日だった。


 むしろ——良い日だった。


-----


第二十六話に続きます。

第二十五話、読んでいただきありがとうございます。


今回は「過去を話すことで関係が一歩進む回」でした。

特にノアが自分の弱さ——「一人だった夜」を口にするシーンは、この物語の中でもかなり大事なポイントです。


これまでのノアは、

・感情を抑える

・弱みを見せない

・一人で抱える

という“魔王としての在り方”を貫いてきました。


でも今回は違います。


さくらが話したから、自分も話す。

それが「自然にできた」というのが、すごく大きな変化です。


そしてもう一つ大事なのが、「特別」という言葉。


ノアが誰かを特別だと認めること。

さくらがそれを受け止めること。


この関係がどう変わっていくのか、次回以降もじっくり描いていきます。


あと、ひまりはだいたい全部「尊い」で解決します。


第二十六話もよろしくお願いします。

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