第二十三話「遺跡で古代魔道具に触れたら全員で庭に落ちてきたんですけど?」
第二十三話です。
今回は遺跡探索回——のはずが、最後はまさかの全員まとめて帰宅(落下)です。
ゴーレム戦では、さくら・あかね・ノアの連携がしっかり形になってきました。
それぞれの強みが噛み合い始めているのがポイントです。
そして後半は、この作品らしい「日常の温度」。
戦って、帰って、「おかえり」と言われる。
それだけのことが、少しずつ意味を持ち始めています。
今回はそんな一話です。
翌朝。
あかねが朝食のテーブルで言った。
「ねえ、今日って暇?」
「暇といえば暇だけど」
「じゃあ仕事頼んでいい?」
「仕事?」
「この国の東側に遺跡があって——」
あかねが地図を広げた。
「ここ。三代前の王様が使ってたらしい古い施設で、最近この辺の魔物の動きがおかしくて調査したいんだけど」
「遺跡か」
「内部の構造も分かってないし、ひとりで行くのは危ないって言われてて——一緒に行ってくれない?」
「あかねも来るの?」
「来る!! 遺跡、前から気になってたし!!」
「女王が前線に出ていいの?」
「いいの!! 護衛つければ!!」
「……護衛が追いつかない場面が多そうだけど」
「追いつかない場面は自分でなんとかする!!」
「それが問題では?」
「大丈夫!! さくらとノアがいるから!!」
ノアが静かに言った。
「……余は遺跡の調査には慣れている」
「本当!?」
「……魔王城の地下には古い遺構があった。調査した経験がある」
「さすが!! じゃあ行こう!!」
「……ただし、危険な場合は引き返す」
「もちろん!!」
「……本当に引き返せるか?」
「……努力する」
「努力するって言い方、怜奈と同じだな」
「……あかねと怜奈は似ているのかもしれない」
「似てる!!」
「……それほど褒め言葉ではないが」
「褒めてもらった!!」
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ひまりとフロストも連れて、五人と一匹で出発した。
ポチはノアの腕の中にいた。
「……ポチ、遺跡は初めてか」
ポチがしっぽを振った。
「……怖いところかもしれないが、余がいるから安心しろ」
「ノアが言うと頼もしいね」
「……当然だ」
「でも今の魔力で遺跡の敵に対応できる?」
「……できるかどうかは行ってみないと分からない。ただ、対応する」
「頼もしいんだか不安なんだか」
「……頼もしい」
「うん、頼もしい」
あかねが先頭を歩きながら言った。
「遺跡まで歩いて一時間くらい。途中で魔物が出ることもあるから気をつけて!!」
「どんな魔物?」
「オークとかが多いかな。たまにトロール」
「Sランクは?」
「出ない!! 出たら困る!!」
「鋼鉄竜の件があるから確認した」
「大丈夫!! でもさくらたちが挑んだのは聞いた。無事で良かった」
「無事だったけどボロボロになった」
「次は勝ちたいよね」
「勝ちたい」
「一緒に鍛えよう!! あかね特訓Part2!!」
「Part2があるの?」
「あるよ!! 次来たときに!!」
「じゃあまた来る」
「来てね!!」
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遺跡は、山の中腹にあった。
石造りの入り口。蔦が絡まっていて、長い年月を感じさせる。扉は半開きで、中から冷たい空気が漏れていた。
「……思ったより大きい」
「でしょ!! 地下にも続いてるらしくて」
「……地下か」
「行くよ!!」
「待って——」
ノアが入り口を調べた。
「……罠はない。ただ、床が古い。踏み外すと落ちる可能性がある」
「さすが経験者!!」
「……慎重に進む。横並びではなく、一列で」
「分かった!!」
「ひまり、後ろから三番目」
「はい!!」
「……フロスト、最後尾で後ろを警戒してくれ」
「……承知しました」
「……余が先頭に立つ」
「あかねが先頭がよかったけど」
「……余が先頭の方が安全だ。余は遺跡の構造を読む目がある」
「じゃあお願い!!」
一列になって進んだ。
ノア、あかね、さくら、ひまり、フロスト、の順だった。
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内部は、思ったより広かった。
石廊下が続いていて、所々に部屋があった。崩れた棚、散らばった文書の破片、古い道具の残骸。
「……三代前の施設か」
「そうらしい。何に使ってたかは分かってないんだよね」
「……この構造は——研究施設だ」
「研究施設?」
「……棚の配置と、部屋の区切り方が、実験や研究をする施設の形をしている。魔王城の研究棟と似た作りだ」
「魔王城に研究棟があったんだ」
「……魔法薬の調合や、魔道具の研究をしていた」
「ノア、魔道具に詳しい?」
「……詳しいかは分からないが、知識はある」
「良かった!! 中に何かあるかもしれないし!!」
廊下を進むと、広い部屋に出た。
天井が高い。中央に何かの台座があった。
そして——
「……でかい」
さくらが言った。
部屋の奥に、それはいた。
石でできた人型。高さは三メートルほど。腕が太く、胸の部分に赤い光を放つ石が埋まっていた。
ゴーレムだ。
「……魔法で動く自動人形か」
「ゴーレムだよね!? 初めて見た!!」
「……起動している。赤い光が——警戒中だ」
「動く?」
「……動く可能性が高い。接近すると——」
ゴーレムが動いた。
ゆっくりと、でも重く。石の足が地面を踏む音が響いた。
「動いた!!」
「……余の予測通りだ」
「どうする!?」
「……戦う。ただ——胸の石が動力源だ。あそこを壊せば止まる」
「三メートルあるのに?」
「……上に乗るか、飛んで届かせるか——さくら」
「分かった、飛んで入る」
「……余が陽動する。あかねはさくらのバックアップ」
「分かった!!」
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戦いが始まった。
ノアが右から魔力を放った。ゴーレムが向く。
さくらが左から走った。
足に魔力を流して——跳んだ。
ゴーレムの腕が振られた。
「っ!!」
横に流れた。当たらなかった。
でも風圧で吹き飛びそうになった。
「さくら!!」
「大丈夫!!」
体勢を立て直して、もう一度跳んだ。
胸の石まで——届かない。
「高すぎる!!」
「あかね、さくらを!!」
「分かった!!」
あかねが炎の魔力を足元に放った。
さくらが炎を踏んで、跳んだ。
高く——上がった。
「届く!!」
手のひらから魔力を放った。
胸の石に当たった。
石が——ひびが入った。
「もう一回!!」
ノアが追加で魔力を放った。
石に当たった。
ひびが広がった。
でも——壊れなかった。
「硬い!!」
「……一発では無理だ!! 連続で——」
ゴーレムが腕を振った。
今度は早かった。
さくらに当たった。
「さくら!!」
吹き飛んだ。
壁に叩きつけられた。
「……っ」
「さくら、大丈夫!?」
「……大丈夫、立てる」
「立てるの!?」
「立てる!!」
ノアがゴーレムに向かって走った。
「……余が行く!!」
「ノア!?」
「……余が上に乗る!! さくら、ゴーレムが余に向いたら——」
「分かった!!」
ノアがゴーレムの足元に潜り込んだ。
よじ登った。
小さな体が、石の巨体をよじ登る。
「……っ、重い、固い——」
「ノア!!」
「……余は大丈夫だ!!」
ゴーレムが自分の体をつかもうとした。
ノアが避けた。
「さくら、今!!」
さくらが跳んだ。
あかねの炎を踏んで、高く。
胸の石に、全力の魔力を叩き込んだ。
石が砕けた。
赤い光が消えた。
ゴーレムが止まった。
ゆっくりと、その場に崩れた。
「……倒した」
「倒した!!」
あかねが叫んだ。
「やった!! 三人の連携すごい!!」
「……三人、か」
ノアがゴーレムの残骸から降りた。
手が傷ついていた。
「……ノア、手が」
「……よじ登ったから。傷はたいしたことない」
「たいしたことあるよ、見せて」
「……大丈夫だ」
「見せて」
「……余は平気だと言っておる」
「ノア」
「……」
ノアが手を出した。
さくらが確認した。
「……擦り傷だね、深くはない」
「……だから言ったのだ」
「でも手当てする」
「……帰ってからでいい」
「今する」
「……さくら」
「今する!!」
「……分かった」
ひまりが小声でフロストに言った。
「……尊い」
「……同意します」
「聞こえてる!!」
「「……すみません」」
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部屋を調べた。
台座の上に、色々なものが置いてあった。
文書の破片。壊れた道具。石の欠片。
そして——
「……これは」
ノアが台座の端を見た。
小さかった。
手のひらより少し小さいくらいの、金属製の小物。円形で、表面に複雑な紋様が刻まれていた。中央に小さな石が嵌め込まれていて、青白く光っていた。
「……見たことがない形だ」
「魔道具?」
「……魔道具だと思う。ただ——余の知っている魔道具とは形が違う」
「古代のものだから?」
「……かもしれない。この光り方は——魔力を蓄えている。まだ動いている」
「動いてるの!? 古代の遺跡なのに!?」
「……良質な魔道具は、魔力が長持ちする。これは相当良いものだ」
「何をする魔道具?」
「……分からない。紋様を見れば分かるかもしれないが——」
あかねが覗き込んだ。
「きれいだね!!」
「……触れないほうが——」
「どんな機能があるか気になる!!」
「……あかね、待て」
「触ってみよう!!」
「待てと言っておる!!」
「大丈夫だよ!!」
「大丈夫かどうか分からないから待てと——」
あかねが触れた。
「ちょっと!!」
さくらも思わず手を伸ばした。
「あかね、危な——」
さくらも触れた。
ノアが「二人とも——」と言いながら、止めようとして触れた。
ひまりが「先輩!?」と駆け寄って触れた。
フロストが「皆さん——」と近づいて触れた。
ポチがノアの腕から飛び降りて、前足で触れた。
魔道具が——光った。
青白い光が広がった。
全員を包んだ。
「……え」
「……え?」
「……え!!」
光が、弾けた。
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アリアが庭で洗濯物を干していた。
穏やかな午後だった。
いつも通りの、静かな庭だった。
そのとき。
空から、光が落ちてきた。
光が弾けた。
人が落ちてきた。
六人と一匹が、庭に落ちてきた。
「……え」
アリアが洗濯物を持ったまま固まった。
「……いたい」
「……いたい」
「……いてて」
「……ふぎゃ」
「……すみません、魔王様が落ちてきて——」
「……落ちてきたのは全員です」
「……ポチ、踏まないで」
「きゅん」
全員がアリアの庭に折り重なっていた。
ポチだけが涼しい顔をしていた。
アリアがゆっくりと洗濯物を置いた。
庭を見た。
さくらを見た。
ノアを見た。
あかねを見た。
ひまりを見た。
フロストを見た。
「……みんな、なんで庭にいるの」
「……説明が難しい」
「……魔道具に触れたら」
「……飛ばされた」
「……全員で」
「……庭に」
「……落ちてきた」
アリアが少し考えた。
「……無事?」
「無事です」
「……怪我は?」
「さくら先輩の右腕が少し——」
「大したことない!!」
「ノアちゃんの手も?」
「……擦り傷だ」
「……じゃあ、中に入って」
「いいんですか?」
「当たり前でしょ。まず手当てして、それからご飯作るから」
「……アリアさん」
「なに、さくらちゃん」
「……驚かないの?」
「驚いてるわよ」
「驚いてる顔じゃなかった」
「驚いてたけど——みんなが無事なら、それでいいから」
さくらは少し固まった。
「……アリアさん」
「なに?」
「……ただいま」
アリアが笑った。
「おかえり。みんなも」
「ただいまです!!」
「……ただいま」
「……ただいまです」
「……ただいま戻りました」
「……きゅん」
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全員が家の中に入った。
手当てをして、着替えて——アリアがご飯を作り始めた。
あかねが台所を覗いた。
「……アリアさん、料理上手なんですね」
「普通よ。あかねちゃんは料理する?」
「しない!! 城に料理人がいるから!!」
「じゃあ今日は覚えて帰りなさい」
「教えてもらえるんですか!?」
「一品くらいなら」
「やった!!」
ノアが居間に座っていた。
さくらが隣に座った。
「……疲れた」
「疲れたね」
「……ゴーレムは倒せた」
「倒せた」
「……魔道具で飛ばされた」
「飛ばされた」
「……庭に落ちた」
「落ちた」
「……アリアに出迎えてもらった」
「出迎えてもらったね」
「……余はここに帰ってきた、という感じがした」
さくらが少し間を置いた。
「……帰ってきた感じ?」
「……アリアの庭に落ちて、アリアが出てきて、おかえりと言われた——」
「うん」
「……ここが、余の今の家なのかもしれない」
「……そうかな」
「……そう思った。庭に落ちてきたとき」
「庭に落ちてきたタイミングで気づくのがノアらしい」
「……そうかもしれない」
「でも——そうだね。ここが家な感じがする」
「……さくらも?」
「さくらも」
「……アリアが、おかえりと言ってくれたから」
「うん。おかえりって言ってもらえる場所って、家だよね」
「……そうだな」
ノアが少し黙った。
「……帰ったら、こういう場所がなくなる」
「また言ってる」
「……思うたびに言う」
「うん」
「……さくらは?」
「私も思う。でも——帰ることと、ここが好きなことは、両方本当だから」
「……アリアが言っていたな。矛盾しない、と」
「うん」
「……余も、そう思うようになった」
「最近、素直だね」
「……疲れているから」
「疲れると素直になるの?」
「……なるかもしれない」
「覚えておく」
「……覚えておくな」
「覚えておく」
「……」
ひまりが台所から顔を出した。
「先輩!! アリア様のお料理、学べそうです!!」
「ひまり、また弟子入りした?」
「弟子入りというか——情報収集というか!!」
「どっちかにして」
「……商会に料理メニューを——」
「商機にしないで」
「……はい」
「ひまり、ちゃんと手伝って」
「手伝ってます!!」
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夕飯が終わって、あかねが帰ることになった。
「泊まっていいよ」
アリアが言ったが、あかねが首を振った。
「明日、朝から仕事があるから。でも——今日は楽しかった!!」
「遺跡で飛ばされたのに?」
「飛ばされたのも含めて!! また来ていい?」
「来て。でも次はちゃんと扉から入って」
「扉から入ります!!」
「庭に落ちてこないで」
「落ちません!!」
「落ちる気がするけど」
「落ちない!!」
ノアが言った。
「……あかね」
「何?」
「……今日はありがとう。仕事を頼んでくれて」
「こちらこそ!! ゴーレム、一人では倒せなかったと思うから」
「……三人でなんとかなった」
「三人の連携、すごかったよ!! さくらが吹っ飛んでもすぐ立ち上がるし、ノアが上によじ登るし!!」
「……よじ登ったのは少し無謀だったかもしれない」
「でも有効だった!!」
「……まあ」
「また遺跡行こうよ!! 他にもいくつかあるから!!」
「……魔道具には気をつけて」
「気をつける!! でも面白そうなのがあったら——」
「触れるな」
「……努力する」
「努力するって言うな!!」
「努力する!!」
「……」
さくらが笑った。
「あかね、ちゃんと調べてから触れて」
「分かった!!」
「約束?」
「約束!!」
あかねが帰った。
庭に落ちてきた時と同じくらい元気だった。
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**【魔王の小さな冒険 其の二十三「魔王、家に帰ってきた件」】**
のあちゃんは布団の中で、今日のことを振り返っていた。
庭に落ちてきた。
「……帰ってきた感じがした」
誰もいない暗闇に向かって、のあちゃんはつぶやいた。
アリアの庭に落ちて、アリアが洗濯物を持ったまま固まっていて——それを見て、余は思ったのだ。
ここが、余の今の家だ。
「……家、か」
余の本当の家は、魔王城だ。
でも魔王城は遠い。今は別の世界にある。
今の余の家は——アリアの家だ。
「……おかえり、と言ってもらえた」
それだけのことかもしれない。
でも、それだけのことが——余には、今まであまりなかった。
魔王城に帰っても、部下が「おかえりなさいませ魔王様」と言う。それは形式だ。
アリアの「おかえり」は——違った。
「……温かかった」
のあちゃんはポチを撫でた。
ポチが庭に落ちたとき、一番涼しい顔をしていた。
「……お主は、どこに落ちても平気そうだな」
ポチがきゅんと鳴いた。
「……余はそうはいかない。落ちた場所がアリアの庭で、良かった」
今日のことを整理した。
遺跡を探索した。ゴーレムを三人で倒した。古代魔道具を全員で触れてしまった。庭に落ちた。アリアに出迎えてもらった。
「……充実している」
のあちゃんは少し笑った。
さくらが「おかえりって言ってもらえる場所って、家だよね」と言っていた。
そうだ。
「……ここが家だ。今は」
本当の家に帰る日は、来る。
でも今は——ここが家だ。
「……悪くない家だ」
誰にも聞こえない声で言った。
言ってから、少し驚いた。
余が、誰かの家を「悪くない」と思う日が来るとは。
「……さくらも、同じ気持ちらしい」
だから、今はここにいる。
二人とも。
ポチがくるりと丸まった。
「……ポチも、ここが好きか」
ポチがきゅんと鳴いた。
「……そうか」
のあちゃんは目を閉じた。
今日は、いい日だった。
庭に落ちてきたのも含めて。
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第二十四話に続きます。
第二十三話、読んでいただきありがとうございます。
今回は個人的にかなり好きな回です。
・遺跡探索
・ゴーレム戦(しっかり連携)
・古代魔道具の暴走
・そして全員まとめてアリア宅に帰宅
この「ちょっとした大事件なのに、最終的に日常に戻る感じ」がこの作品の軸だと思ってます。
特にノアの
「ここが、余の今の家なのかもしれない」
この気づきは、今後かなり効いてくる部分です。
元々“帰る場所”を持っていたはずの魔王が、
別の場所に“帰ってきた”と感じるようになる。
このズレと変化は、物語の根っこに関わっていきます。
あと地味に、
あかね=触るなと言われたら触るタイプ
は確定しましたね。
絶対またやらかします。
次回は、この魔道具の影響や、遺跡の続きに触れるのか、
それとも一旦日常に戻るのか。
そのあたりも楽しみにしてもらえたら嬉しいです。




