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第二十一話「あかねの国で王同士が鉢合わせたんですけど?」

第二十一話です!


前回は手作りご飯でほっこり回でしたが、今回は一転――

「あかねの国」でまさかの事態が発生します。


魔王と女王、そしてもう一人の“魔王”。

立場も思想も違う二人が出会ったとき、何が起こるのか。


そして安定のあかね節も炸裂します。


戦うのか、話すのか、それとも――


ぜひ最後までお楽しみください!


 ひまりが朝から張り切っていた。


「今日はあかね様の国に行きます!! 旅費は私が出します!!」


「いいの? ひまりが出すの?」


「昨日ご飯をごちそうになったお礼です!!」


「料理のお礼に旅費を出してくれるの?」


「美味しかったので!!」


「……割に合わないのでは」


「割に合います!! ノア様のスープ、特に美味しかったので!!」


「……まあ、ありがたく受け取る」


「ありがとうございます!! フロストも一緒にどうぞ!!」


「……お気遣いなく」


「遠慮しないでください!! 私が行きたいので!!」


「……分かりました」


 アリアが見送りに出てきた。


「気をつけてね。ノアちゃんも」


「……行ってきます」


「あかねちゃんによろしく伝えてね」


「……伝える」


 ポチがノアの腕の中にいた。


「……ポチも連れていく」


「ケルベロスですよね!!」


「……そうだが今は急いでいる」


「ポチです!!」


「ケルベロスだ!!」


 アリアが笑いながら手を振った。


-----


 馬車でひまりの国へ。


 道中、ひまりが仕事の話をした。フロストが帳簿を確認した。さくらとノアは窓の外を見ていた。


「……前に来たときと同じ道だな」


「うん。あの森を抜けたら——」


「……ゴブリンが出た場所だ」


「そうだね」


「……今は魔物の気配がない」


「ギルドが対処したのかも」


「……そうか」


 ノアが窓の外を眺めた。


「……前回は余がお主を守れなかった」


「守れなかったというか——一緒に戦ったじゃん」


「……余の体当たりで一秒稼いだだけだ」


「あれで助かったんだから十分だよ」


「……次は、もっとうまくやる」


「また言ってる、そのセリフ」


「……言い続ける。目標だから」


「うん」


「……次にあの道を通るときは、ゴブリンくらい余一人で片付ける」


「魔力が戻ったら?」


「……戻ったら、の話だ」


「戻るといいね」


「……戻る。必ず」


 ひまりが横からそっと言った。


「……尊い」


「聞こえてる」


「すみません!!」


-----


 あかねの国に着いたのは昼過ぎだった。


 城門で名前を告げると、すぐに通してもらえた。


 前回と同じく、あかねが走ってきた。


「さくら!! 来た来た!!」


「あかね!! 久しぶり!!」


「三週間ぶり!! ノアも!! ひまりも!! フロストも!!」


「お久しぶりです女王陛下」


「フロスト、陛下はやめて!! あかねでいい!!」


「……わきまえが必要かと」


「わきまえなくていい!! 友達なんだから!!」


 ポチがあかねに飛びついた。


「ポチ!! かわいい!!」


「ケルベロスだ」


「ポチ!! 元気だった!?」


「……ケルベロスだと言っておる」


「ポチポチ!!」


「やめろ!!」


 あかねが笑いながらノアを見た。


「ノア、また来たね」


「……来ると言った」


「嬉しいよ。ゆっくりしていって」


「……うん」


「今日は特訓もできるよ!! 中庭、広くしておいたから!!」


「……広くしたのか」


「ノアが来るって分かってたから!! あと噴水の焦げ跡も消した!!」


「……焦げ跡まで」


「ノアに指摘されたのが気になってたから!!」


「……余はそこまで言っておらんが」


「言わなくても分かったから!! さあ、中に入って!!」


-----


 城の中で昼食をとって、しばらく談笑した。


 さくらはあかねに近況を話した。鋼鉄竜に挑んで負けたこと、手料理を作ったこと、怜奈と会ったこと。


「鋼鉄竜!?」


「挑んで負けた」


「無謀すぎる!!」


「分かってる」


「でも生きてるじゃん」


「生きてる」


「……まあ、それでいいか。怜奈が来たのは知ってた。手紙で三週間後にここで会うって書いてあったから」


「そう。怜奈から連絡あった?」


「あったよ。面会の予定を組んでる」


「良かった。ちゃんと段取りしてたんだね」


「まあ、魔王が来るから一応ね。兵士たちには伝えてある」


「伝えてあるなら安心——」


 そのとき。


 廊下が騒がしくなった。


-----


 衛兵が駆け込んできた。


「女王陛下!! 城の東門付近で——」


「何?」


「魔王の魔力反応が!! 大規模な魔力が防衛魔法に引っかかって!!」


「……怜奈か」


「面会予定の方ですか!?」


「そう。蒼乃怜奈。予定通りの——」


「防衛魔法が反応したので、迎撃班が!!」


「ちょ待って止めて!!」


 あかねが立ち上がった。


「迎撃班に止まるよう伝えて!! 予定の客だから!!」


「し、しかし魔力の規模が——」


「予定の客!! 今行くから止めて!!」


 あかねが走り出した。


 さくらとノアも走った。


 ひまりとフロストも後を追った。


-----


 東門に着いたとき、すでに小競り合いが始まっていた。


 怜奈が城門の前に立っていた。


 ルミナが横にいた。


 迎撃班の兵士が十人ほど、武器を構えていた。


「……さくら、止めてくれ」


 怜奈がさくらを見て言った。


 目は戦闘モードだったが、声は落ち着いていた。


「面会の予定があると言っているのに、いきなり囲んできた」


「予定は伝わってた!! でも防衛魔法が反応して——」


「予定があるなら通すべきでしょ」


「魔力が大きすぎて自動で反応しちゃって!!」


「……そちらの防衛魔法の感度が高すぎる」


「それはそう!! でも迎撃班、止まって!!」


 兵士たちが止まった。


 あかねが前に出た。


「怜奈さん? 蒼乃怜奈さん?」


「そう」


「ごめん!! 防衛魔法が自動で動いちゃって!! 予定はちゃんと把握してたんだけど」


「……説明は受けた。そちらのシステムの問題でしょ」


「そうなんだよね!! 怜奈さんの魔力が大きすぎて感度のキャリブレーション範囲を超えちゃって——」


「……私の魔力が大きいのは認める」


「そうそう!! だからこっちの設定が——ってか」


 あかねが怜奈を見た。


 まじまじと見た。


「……強い?」


「……は?」


「怜奈さん、強い? 魔力だけじゃなくて、戦闘力」


「……まあ、強いと思っている」


「どのくらい?」


「……この辺りの魔物なら単独で対処できる」


「Sランクは?」


「……Sランクは、まだ全力で挑んだことがない」


「そっか!!」


 あかねの目が輝いた。


 さくらは嫌な予感がした。


「あかね」


「なに?」


「落ち着いて」


「落ち着いてるよ!!」


「目が輝いてる」


「輝いてないよ!!」


「輝いてる!!」


 あかねが怜奈に向き直った。


「ねえ怜奈さん、せっかくだから少し——」


「あかね!!」


「戦ってみない!?」


 さくらが叫んだ。


「だと思った!!」


「だって強そうじゃん!!」


「予定があって来たのに!!」


「予定の前にちょっとだけ!!」


「ちょっとだけで済まないでしょ!!」


 怜奈がさくらを見た。


「……あの女王はいつもああなの?」


「……いつもああ」


「……強い相手を見るとテンションが上がる?」


「……上がる」


「……なるほど」


 怜奈があかねを見た。


 あかねが怜奈を見た。


 あかねの目がきらきらしていた。


「……引いてる?」


 怜奈がさくらに小声で聞いた。


「……少し引いてる?」


「……そう見える?」


「……見える」


「……魔王を目指しているのに、魔王に会ってわくわくされるのは想定外だった」


「……あかねはああいう人だから」


「……ああいう人」


「……戦いたいだけだから、悪意はない」


「……悪意がないのは分かる。ただ——」


「ただ?」


「……こういう反応は、初めてだ」


-----


「ねえ怜奈さん!!」


 あかねが一歩近づいた。


「……なに」


「魔王として来てるんでしょ、今日」


「そう」


「なら女王として相手するよ!!」


「……面会の予定があるんだけど」


「面会の前にちょっと戦おう!!」


「……ちょっとで済む話じゃない」


「大丈夫!! 本気で倒しに来ていいよ!!」


「……本気で倒しに来ていいって言う女王、初めて見た」


「そう!? 普通じゃない!?」


「……普通じゃない」


「そっか——でも、戦ってみたい!! 怜奈さんの魔力、防衛魔法を反応させるくらい大きくて、しかも戦闘慣れしてる感じがする!!」


「……よく分かった」


「魔法少女として戦ってきた勘!!」


「……魔法少女が女王になったのか」


「そう!! 色々あって!!」


「……さくらと同じパターン」


「さくらと同じ!?」


「……転移して、こっちに来て、色々あって今の立場に」


「そうそう!! だから怜奈さんとは話が合いそうな気がして!!」


「……話が合うかどうかと、戦いたいかどうかは別の話では」


「繋がってるよ!! 強い人とは戦いたくなるじゃん!!」


「……ならない」


「ならないの!?」


「……戦いは手段。目的じゃない」


「うーん——じゃあ怜奈さんの目的は?」


「……青キャラの地位向上」


「青キャラの——え、なに?」


「……青キャラの地位向上。魔王になったのもそのため」


「……それ、もう少し詳しく聞いていい?」


「……面会の場で話す予定だった」


「あ、そっか!! ごめん!! じゃあ中に入って話そう!!」


「……最初からそうすればよかった」


「だって戦いたくて!!」


「……戦いたい気持ちは分かるけど」


「分かってくれる!?」


「……分からなくはない。強い相手を見ると試したくなる気持ちは」


「でしょ!!」


「……でも、今日は面会が目的」


「……うん、分かった。面会しよう」


 あかねが素直に引いた。


 さくらは少し驚いた。


「……あかね、引いた?」


「引いたよ。怜奈さんが目的があって来てるなら、それを尊重しないと」


「……あかねらしい」


「ただし」


「ただし?」


 あかねが怜奈を見た。


「面会が終わったら、少し付き合って」


「……考える」


「考えてくれるんだ」


「……あなたの魔力も、普通じゃない。一度試してみたい気持ちはある」


「やった!!」


「……ただし加減はしてもらう。私はまだ全力を出したことがないから、制御を誤る可能性がある」


「私も加減する!! 城が燃えると困るから!!」


「……城を燃やす気だったの」


「燃やす気はないけど燃えることがある!!」


「……なるほど。あなたも制御が課題か」


「そうそう!! 似てるじゃん!!」


「……似てるかもしれない」


 怜奈がルミナを見た。


「ルミ、行くよ」


「は、はい……!! 女王様もお強そうで……!! 魔王様との戦い、見たいです……!!」


「見せ物じゃない」


「……すみません……!! でも……!!」


「行くよ」


「……はい……!!」


-----


 城の中に入った。


 さくらがあかねの隣を歩いた。


「……あかね、怜奈と話が合いそうだね」


「合いそう!! 目的がはっきりしてて、戦い方に芯がある感じ」


「そう見えた?」


「うん。防衛魔法を反応させるくらいの魔力があるのに、暴れなかった。制御できてる証拠じゃん」


「……確かに」


「ノアはどう?」


 あかねがノアに聞いた。


「……怜奈は、余が今まで対峙した魔法少女の中でも上位だ。あの年齢で、あの魔力制御は——」


「年齢、いくつ?」


「……十四だ」


「十四!?」


「……十四で魔王をしている」


「すごいじゃん!!」


「……すごい。余が十四のころより、おそらく強い」


「ノアがそう言うの珍しい」


「……事実だから言う」


「さくら、怜奈さんってどんな子?」


「……幼なじみで、普段は普通の子なんだけど戦闘になると目が変わる。目的のためなら何でも本気でやる」


「それすごく好きなタイプ!!」


「あかね、友達になれそうだね」


「なりたい!! 怜奈さんと仲良くなりたい!!」


「怜奈に直接言って」


「言う!!」


 ノアが横で静かに言った。


「……あかねが友達になりたがっている相手に、余は振り回されている」


「振り回されてるの?」


「……魔王論を語られておる」


「あー……」


「……次は負けない」


「準備してきたの?」


「……してきた」


「怜奈と魔王論バトル、今日もやるの?」


「……面会の後で、あかねが戦いたがっているから——その後で、余は怜奈と魔王論の決着をつける」


「一日に色々詰め込んでるね」


「……充実している」


「充実してるんだ」


「……悪くない」


-----


 廊下を歩いていると、後ろからルミナの声がした。


「さ、さくら様……!!」


「ルミさん、様はいらないです」


「……すみません……!! あの——」


「何ですか」


「女王様、お強いですね……!!」


「あかねのこと?」


「はい……!! 魔王様に向かってわくわくしていて……!! ああいう方、初めて見ました……!!」


「あかねは普通じゃないから」


「……怜奈様が引いていましたね……」


「引いてたね」


「……怜奈様が引くのも珍しくて……!! 私、少し安心しました……!!」


「安心?」


「……怜奈様がたじろぐくらい、強い方がいるんだなと……!! 世界は広いですね……!!」


「そうだね」


「……魔王様のそばにいると、強い方に会えるので……!! 幸せです……はぁはぁ」


「ルミさん、それは魔王様じゃなくてさくら先輩のそばでは」


 フロストが静かに言った。


「……そ、そうですね……!! さくら様のそばでも……!!」


「様はいらないです」


「……叱られました……!! 幸せです……!!」


「叱ってないです」


「……また叱っていただいて……!!」


 さくらはため息をついた。


 フロストが小声で言った。


「……先輩も、慣れていただくしかないと思います」


「慣れれる気がしない」


「……時間が解決します」


「本当に?」


「……おそらく」


「おそらく、か」


-----


 面会室に全員が入った。


 あかねが上座に座った。


 怜奈が向かいに座った。


 さくらとノアがその横に座った。


 ひまりが端のほうに座っていた。


 フロストがひまりの隣に静かに立った。


 ルミナが怜奈の後ろに控えた。


「では——改めて」


 あかねが言った。


「蒼乃怜奈さん。魔王として、うちの国に来てくれてありがとう」


「……こちらこそ、面会を受けてくれてありがとう」


「さくらの幼なじみって聞いてたから、一度会いたかった」


「……さくらから聞いていたの?」


「うん。というか、さくらが心配してたよ」


「……心配?」


「怜奈さんが一人で魔王やってるって」


 怜奈がさくらを見た。


「……心配してたの」


「……まあ」


「言わなくていいのに」


「言ってない。あかねが言った」


「……あかねが、か」


「怜奈さんには伝えておきたかったから」


 あかねが続けた。


「心配はしてるけど、信頼もしてるって感じがした。さくらの話し方が」


「……信頼、か」


「うん。だから私も、怜奈さんのことをちゃんと知りたかった」


「……青キャラの地位向上について、話す」


「聞く!!」


 あかねが身を乗り出した。


 怜奈が少し引いた。


「……乗り出してくるんだね」


「興味があるから!!」


「……熱量がすごい」


「話を聞くときは全力で聞く!!」


「……そういうとこ、さくらと違う」


「さくらとは違う?」


「……さくらは、聞くとき少し距離を置く。あなたは全力で入ってくる」


「タイプが違うよね、私たち」


「……うん」


「でも、さくらのこと大事にしてるの伝わる。怜奈さん」


「……なんで分かるの」


「さくらの話をするとき、少し目が柔らかくなるから」


 怜奈が少し固まった。


「……そんなに分かりやすい?」


「私だから分かる。人の目を見て戦ってきたから」


「……なるほど」


「さくらのこと、大事にしてね」


「……言われなくても」


「言っておきたかった」


「……まあ」


 さくらが横で少し赤くなった。


「あかね、そういうことを急に言わないで」


「事実だから言った!!」


「事実でも!!」


「怜奈さんも同意してくれたじゃん!!」


「……同意はしていない。否定しなかっただけ」


「一緒!!」


「……一緒じゃない」


-----


 面会が一時間ほど続いた。


 怜奈が青キャラの地位向上について話した。


 あかねが真剣に聞いた。


 時々、ノアが補足した。


 さくらが合いの手を入れた。


 ひまりがお茶を飲んでいた。


 フロストが記録を取っていた。


 ルミナが「素晴らしいです怜奈様……!!」と時々言っていた。


 面会が終わったとき、あかねが立ち上がった。


「怜奈さん」


「何」


「面会、ありがとう。話、面白かった」


「……こちらこそ」


「それで——」


「戦う話でしょ」


「そう!!」


「……分かった。中庭でいい?」


「中庭で!! ただし城は燃やさないで!!」


「……努力する」


「努力するって言い方、正直だね」


「……保証はできない」


「私もできない!!」


「……それは困る」


「お互い様!!」


 怜奈がさくらを見た。


「……さくら、止めなくていいの」


「止めても無駄だから」


「……そう」


「二人とも戦いたそうだし」


「……まあ、そうだね」


「楽しんできて」


「……楽しむつもりはないけど」


「なってると思う」


「……なってない」


「怜奈、目が戦闘モードだよ」


「……なってないと言っている」


「なってる」


「……まあ」


 怜奈がルミナに言った。


「ルミ、離れてて」


「は、はい……!! 全力でやってください怜奈様……!! 怜奈様が勝つのも負けるのも……!! 見届けます……!!」


「負けた場合のリアクションを今から言わないで」


「……すみません……!!」


-----


 中庭に移動した。


 あかねと怜奈が向かい合った。


 さくらとノアが端から見ていた。


「……さくら」


「何」


「……あかねと怜奈が戦う」


「うん」


「……どちらが強いと思う?」


「……分からない。でも、どちらも本気ではないと思う」


「……なぜ」


「怜奈はまだ全力を出したことがないって言ってた。あかねも城を燃やしたくないから加減する」


「……では手加減した上での実力比べか」


「そういうこと」


「……それでも、見ていると分かるものがある」


「何が?」


「……どちらが本当の意味で上なのか」


「気になる?」


「……気になる」


「じゃあ一緒に見よう」


「……うん」


 あかねが構えた。


 怜奈が構えた。


 中庭に、静かな緊張が漂った。


 ポチがノアの腕の中でくんくんした。


「……ポチ、静かにしていろ」


 ポチがきゅんと鳴いた。


 あかねが笑った。


「ポチのせいで緊張が解けた」


「……雰囲気を壊すな、ケルベロス」


 怜奈が少し目を細めた。


「……始めよう」


「うん!!」


 二人が動いた。


*第二十一話 了――次話へ続く*


-----


**【魔王の小さな冒険 其の二十一「魔王、観戦席に座った件」】**


 のあちゃんは中庭の端で、二人の対峙を見ていた。


 あかねと怜奈。


 魔法少女だった二人が、この世界でそれぞれの立場を得て、今向かい合っている。


「……面白いな」


 誰にも聞こえない声でつぶやいた。


 怜奈の魔力は、やはり大きい。余の全盛期に近い規模がある。十四歳で、この制御は——余が誇っていい部下だった。


 あかねの魔力は、また別の性質だ。


 炎系の魔力。瞬発力があって、制御の難しいタイプ。でも、戦い慣れている。


「……どちらが上か」


 分からない。


 本気ではないから、分からない。


 でも——見ていたい。


「……余は今、観戦している」


 魔王が観戦席に座っている。


 おかしな話だ。


 でも——さくらが隣にいる。


 二人で並んで、幼なじみと仲間の戦いを見ている。


「……さくら」


「何」


「……今日は、来て良かった」


 さくらが少し驚いた顔をした。


「そう?」


「……うん。色々あったが——面白い日だった」


「面白い?」


「……防衛魔法が誤作動して、あかねがわくわくして、怜奈が引いて——」


「面白かったね、確かに」


「……余は今日、笑いそうになった場面が三回あった」


「三回も?」


「……あかねが怜奈に向かってわくわくしたとき。怜奈がさくらに『引いてる?』と聞いたとき。ルミが負けた場合のリアクションを先に言いかけたとき」


「全部今日の出来事じゃん」


「……充実していた」


「充実してたね」


 のあちゃんはポチを撫でた。


「……帰ったら、こういう日がなくなる」


「さっきも似たこと言ってたね」


「……何度か思う。今日みたいな日は、特に」


「うん」


「……でも、今は今だ」


「うん」


「……今日は今日の分だけ、良かった」


「そうだね」


 中庭で、あかねの炎と怜奈の魔力がぶつかった。


 派手な音がした。


 のあちゃんはそれを見ながら、静かに笑った。


 帰るのは、まだ先だ。


 今は——この場所で、この人たちと、今日の続きを見ていたい。


-----


*第二十二話に続きます。

第二十一話、ありがとうございました!


今回はついに――

あかね × 怜奈の初対面&対峙回でした。


いやこの二人、相性がいいのか悪いのか分からない感じがすごく良いですね(笑)

•あかね → 戦いたい系バトル脳

•怜奈 → 目的優先の合理型

•ノア → それを横から観察する元魔王


この三角構図がかなり面白くなってきました。


特に今回は、

「魔王が観戦側にいる」

という構図が個人的にかなり好きなポイントです。


ノアの中で、

•支配する側 → 見守る側

への変化が、じわっと出てきてます。


そしてラスト、いよいよ戦闘開始。


次回は――

あかね vs 怜奈、本格バトル回になる予定です。


どんな戦いになるのか、ぜひお楽しみに!

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