第十七話「元四天王がドMになってて魔王が追い詰められてるんですけど?」
いつも読んでいただきありがとうございます。
前回登場した怜奈が、さっそく再登場です。
しかも今回は——まさかの“もう一人”を連れてきます。
元四天王。魔王の部下。
本来なら頼れる戦力のはずなのですが……
なぜか魔王が一番追い詰められる展開になっています。
コメディ強めの回ではありますが、
ノアにとってはなかなかしんどい一日です。
それでは第十七話、どうぞ。
三日後。
怜奈が来た。
約束通り、今回はさくらに最初に話しかけた。
「さくら」
「来た!! 怜奈来た!!」
「来た。元気?」
「元気!! 怜奈は?」
「元気。城の運営が少し安定してきた」
「そうなんだ、良かった」
「うん」
怜奈がノアを見た。
「……ノア」
「来るなと言ったが」
「来ると言った」
「……来るなと言った」
「どちらが正しいかは明らか」
「……余が正しい」
「私が正しい」
「……」
さくらが間に入った。
「まあまあ、せっかく来たんだし——」
「さくら、今日は少し人数が多い」
「人数?」
怜奈が後ろを向いた。
「ルミ、来て」
路地の陰から、人影が出てきた。
金髪だった。
ロングヘアで、白を基調とした服を着ていた。胸元に天使の翼を模した飾りがついている。頰が少し赤い。背はノアより高くて、さくらと同じくらい。
見た目はどこか神秘的で、美しかった。
ただ——なんか、オドオドしていた。
「……どうぞ、ルミナ・エクレール」
「は、はい……」
ルミナがおずおずと出てきた。
さくらを見た。
ノアを見た。
ノアを見た瞬間、固まった。
「……魔、魔王様……?」
「……ルミ」
ノアが小さく言った。
さくらがノアを見た。
「知ってるの?」
「……知っている」
「誰?」
「……余の四天王だ。光の四天王、ルミナ・エクレール」
ルミナの目に、みるみる涙が溜まった。
「魔王様……!! 魔王様ですか……!! ご無事で……!!」
「……ルミ、落ち着け」
「落ち着けません……!! 魔王様が……!! あの魔王様が……!!」
「落ち着けと言っておる」
「魔王様に叱っていただいて……!! 幸せです……!!」
「叱っておらん!! 落ち着けと言っただけだ!!」
「叱られました……!! 最高です……!!」
さくらは固まった。
「……どういうこと」
「……余にも分からん」
「四天王なのに?」
「……こうなったのは最近かもしれない」
「最近!?」
怜奈が静かに説明した。
「ルミは私の副官をしてる。出会ったとき、すでにこういう人だった」
「怜奈と出会う前からこうだったの!?」
「そう。魔王軍が崩壊してから、自分を見失ったらしくて」
「……見失ったらこうなるの!?」
「人それぞれ」
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アリアの家の庭で、四人が向かい合った。
ポチがルミナの足元でくんくんしていた。
ルミナがポチを見た。
「……かわいい……」
「ケルベロスだ」
「ポチですね」
さくらとノアが同時に言った。
「……ケルベロス、でしたか……。魔王様の使い魔……!! 踏まれたい……」
「踏まないし踏ませない!!」
「魔王様に叱られました……!! 幸せです……!!」
「これが毎回続くのか」
「毎回続く」
怜奈が淡々と言った。
「慣れる?」
「慣れない」
「慣れないのに副官にしたの?」
「忠誠心がガチだから。戦力として優秀だし」
「……まあ」
ルミナがノアをじっと見ていた。
頰が赤かった。
「魔王様……以前より、少し小さくなられましたか……?」
「……余の体型については触れるな」
「すみません……!! お叱りを……!!」
「叱っておらん!!」
「叱られました……!! 最高です……!!」
「叱っておらんと言っておる!!」
「また叱っていただいて……!!」
「……」
ノアが固まった。
さくらが横でため息をついた。
「ループしてる」
「……余も気づいた」
「どうするの」
「……分からん」
「無視したら?」
「無視されるのも……最高です……はぁはぁ」
「無視もダメだった!!」
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怜奈が今日の本題に入った。
「ノア、前回の続き」
「……続きはない」
「ある。魔王の配下管理について」
「……教えないと言った」
「でも聞く。魔王軍では配下のモチベーションをどう管理していたの?」
「……それは——」
「フロストのような優秀な人材が離脱しないための施策は?」
「……フロストは給与明細で転職した」
「では給与体系に問題があったということ?」
「……そうではない。あれは——」
「改善できた部分があった?」
「……まあ、あったかもしれないが——」
「魔王様……!!」
ルミナが割り込んだ。
「魔王様の統治は完璧でした……!! 給与体系も……配下管理も……!! 私はただただ……踏まれたかっただけで……!!」
「踏まれたかっただけの話はいい!!」
「叱られました……!!」
「……」
「でも魔王様のお役に立てるなら……私がフロストの代わりになります……!! 嫌われても構いません……!! むしろ嫌ってください……!!」
「嫌わないが、役に立つつもりもない!!」
「嫌われました……!! 最高です……!!」
「嫌っておらん!!」
「また叱っていただいて……!!」
「ルミナ!!」
「はい……!!」
「黙れ」
「……黙ります……魔王様に無視されるのも……最高です……はぁはぁ」
「無視しておらん!!」
さくらが横でそっと怜奈に話しかけた。
「……ねえ、怜奈」
「何」
「ルミさん、毎日こんな感じなの?」
「うん」
「怜奈は疲れない?」
「慣れた」
「……怜奈、強いね」
「慣れるだけ」
「ノアが追い詰められてる」
「見えてる」
「止めないの?」
「……少し様子を見る」
「なんで!?」
「ノアが魔王としての威厳を取り戻す訓練になるかもしれないから」
「訓練!?」
「魔王がどM四天王をどう扱うか——実践的な課題よ」
「課題にしないで!!」
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状況はさらに悪化した。
怜奈が魔王論を展開する。
ルミナがノアを称えながら邪魔をする。
さくらがそれを横で見ている。
「——だから魔力の運用効率を上げるには、基礎訓練よりも実戦経験のほうが——」
「怜奈の言う通りです……!! 魔王様の魔力は素晴らしい……!! 私を吹き飛ばしてください……!!」
「吹き飛ばさない!!」
「叱られました……!!」
「——配下の選定においては、忠誠心より能力を優先すべきという意見があるけど——」
「魔王様への忠誠心は絶対です……!! 私を踏んでください……!!」
「踏まない!!」
「叱られました……!!」
「——魔王城の立地選定について、余は防衛拠点としての機能を優先したと思うけど——」
「魔王城は最高でした……!! 地下牢も……!! 入れてください……!!」
「入れない!!」
「叱られました……!!」
「……」
ノアが深呼吸した。
「……さくら」
「何」
「……さくら」
「何?」
「……さくら!!」
「分かった、行く!!」
さくらが前に出た。
「怜奈、今日はここまで」
「まだ二十個残ってる」
「今日はここまで」
「……」
「ルミさんも」
「は、はい……!!」
「ノアが限界だから、今日は終わりにして」
「……限界、ですか……魔王様が……!!」
「ルミさん」
「は、はい……!!」
「静かに」
「……はい……魔王様に優しくしてもらえました……最高です……はぁはぁ」
「私はさくらです、魔王じゃないです」
「……さくら様に静かにしろと言われるなんて……これも最高です……!!」
「様をつけないでください」
「……叱られました……!!」
「私も叱ってることになるんですか」
「なります……!!」
さくらはため息をついた。
ノアがさくらの隣に来た。
「……さくら」
「うん」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
「……今日は、本当に疲れた」
「お疲れ様」
「……余は三日で限界が来た」
「三日でよく持ったと思う」
「……怜奈一人でも疲れるのに、ルミが加わって——」
「二正面作戦だったね」
「……そうだ。魔王軍時代も二正面作戦は最も疲弊すると言われておったが——」
「経験した?」
「……今経験した」
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帰り際。
ノアが二人の前に立った。
怜奈とルミナを見た。
「……怜奈」
「何」
「……また来るか」
「来る」
「……コルナには来るな」
「なぜ」
「……余が疲れる」
「魔王が疲れたとか言うの?」
「……言う!! 余は疲れた!! だからコルナには来るな!!」
「では別の場所で会う?」
「……会わない!!」
「また来る」
「……来るなと言っておる!!」
「来る」
「……」
ノアがルミナを見た。
「……ルミ」
「は、はい……!! 魔王様……!!」
「……余はお主に命じる」
「は……!! 命じていただけるなんて……!! 幸せです……!!」
「黙れ。命じる」
「……はい……!!」
「コルナに来るな」
「……っ!! 来るなと……!! 命じていただいた……!! 最高です……来ません……!! でも来ない分だけ魔王様が恋しくなります……!!」
「来なければそれでいい!!」
「叱られました……!!」
「……」
怜奈が静かに言った。
「……ノア」
「何だ」
「コルナに来るなというのは——」
「そうだ」
「でも次に会う場所は?」
「……ない」
「では私が場所を決める。三週間後、あかねの国で」
「……なぜあかねの国だ」
「中立の場所だから。さくらのお仲間だし、立場的に中立」
「……余は行かないかもしれん」
「さくらが行くなら来るでしょ」
「……」
「さくら、あかねの国にまた行く?」
怜奈がさくらに振った。
「……まあ、いずれは」
「じゃあ決まり。三週間後」
「……勝手に決めるな!!」
「決めた」
「……」
ノアが深呼吸した。
「……コルナには来るな、それだけだ。それ以外は——」
「分かった。コルナには来ない」
「……それでいい」
「ルミも」
「は、はい……!! コルナには来ません……!! 魔王様の命令ですから……!! 胸が痛いです……最高です……!!」
「……」
「叱られましたか……??」
「……無視する」
「無視……!! 最高です……はぁはぁ」
「……」
さくらが「ノア、もういい」と小声で言った。
ノアが目を閉じた。
「……帰れ、今日は」
「帰る。さくら、またね」
「うん、またね。ルミさんも」
「さ、さくら様……!! またお会いできることを……!!」
「様はいらないです」
「叱られました……!!」
「……やっぱり私も叱ってることになるんですね」
「なります……!!」
怜奈とルミナが歩いていった。
怜奈は振り返らなかった。
ルミナは三回振り返った。
そのたびに頰が赤くなっていた。
やがて見えなくなった。
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二人はしばらく動けなかった。
「……」
「……」
「……疲れた」
「疲れたね」
「……ルミは——あのような感じだったか」
「知らなかったの?」
「……魔王軍にいたころは、もっとオドオドしているだけだった。優秀だったが、とにかく怖がって——」
「今も怖がってるけど、方向性が変わってるね」
「……どこで変わったんだ」
「魔王軍が崩壊してから、って怜奈が言ってたじゃん」
「……そうだな」
「自分を見失ったって」
「……余のせいか」
「……そうとも言えるけど、でも」
「でも?」
「今は怜奈のことを一生懸命支えてるって感じだったよ。忠誠心はガチって言ってたし」
「……そうか」
「怜奈に懐いてる感じ、見てて分かった」
「……怜奈は懐かれても動じてなかったな」
「怜奈、強いから」
「……そうだな」
ポチが二人の足元に来た。
「……ポチ」
ノアがポチを抱き上げた。
「ルミに踏まれなくて良かったな」
「踏まれそうだったけど」
「……踏ませなかった」
「ちゃんと守ったね」
「……余の家来だから当然だ」
「うん」
ノアがポチを撫でた。
「……さくら」
「何」
「……三週間後、あかねの国に行くか」
「怜奈に言われたやつ?」
「……余が決めたわけではない。ただ——」
「ただ?」
「……怜奈とは、また話してもいいと思っている」
「魔王論?」
「……まあ、疲れるが——悪くない。あやつは本気だから」
「うん」
「……ルミは——」
「ルミさんは?」
「……ルミが来るなら、コルナ以外がいい」
「コルナに来たら大変なことになるもんね」
「……アリアに見られたら、説明が難しい」
「確かに」
「……三週間後、行ってもいいか」
「いいよ。あかねにも会いたいし」
「……そうか」
「うん」
ノアが少し表情を緩めた。
「……疲れた日は、アリアのご飯が食べたい」
「帰ったらある」
「……帰ろう」
「帰ろう」
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**【魔王の小さな冒険 其の十七「魔王、二正面作戦に敗北した件」】**
のあちゃんは布団の中で、今日のことを振り返っていた。
疲れた。
本当に疲れた。
「……ルミ」
誰もいない暗闇に向かって、のあちゃんはつぶやいた。
「お主は、いつからそうなったんだ」
答えはなかった。
のあちゃんは考えた。
ルミナ・エクレール。光の四天王。回復と光撃を得意とする、余の元部下。
魔王軍にいたころのルミは——オドオドしていた。でも懸命だった。仕事は丁寧で、余に叱られるたびに青ざめて、でも次には改善していた。
そういう部下だった。
「……余が崩壊させた」
のあちゃんはつぶやいた。
余が魔王軍を率いられなくなって、ルミはよりどころを失った。
そして怜奈に拾われた。
「……怜奈に懐いているのは、分かった」
今日のルミは、ノアに向けている目と、怜奈に向けている目が違った。
余への目は——昔の名残と、今の歪んだ何かが混ざっている。
怜奈への目は——純粋だった。
「……怜奈が、ルミのよりどころになったのか」
それは、少し——良かった、と思った。
余が崩した後を、誰かが拾ってくれた。
たとえその誰かが、魔王を目指す変わった魔法少女であっても。
「……ありがとう、怜奈」
誰にも聞こえない声で言った。
礼を言う相手ではないかもしれない。
でも、言いたかった。
ポチが胸元でくるりと丸まった。
「……三週間後、あかねの国に行く」
のあちゃんは目を閉じた。
「怜奈の魔王論に、今度こそ言い負かされない」
準備しておく。
「……ルミには、踏まない」
それだけは確定だ。
「……コルナには来るなと言ったが」
でも——ルミが怜奈のそばにいるなら、案外悪くないかもしれない。
のあちゃんはそう思いながら、眠りについた。
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第十八話に続きます。
第十七話、読んでいただきありがとうございました。
ルミナ、登場です。
そして方向性がだいぶおかしくなっています。
元はちゃんとした四天王だったはずなんですが、
魔王軍崩壊後にいろいろこじらせた結果、こうなりました。
ただ、この子は単なるネタキャラというよりも、
・魔王を失った側の視点
・新しい主(怜奈)への忠誠
・それでも残っている“元部下としての感情”
みたいな部分も少しずつ描いていけたらと思っています。
そして今回のノアですが、完全に二正面作戦で敗北しています。
怜奈の理詰めとルミナの圧、どちらにも対応しきれないという珍しい状態でした。
それでも最後に怜奈へ感謝を思うあたり、
ノアの変化や人間味が少しずつ出てきているのがポイントです。
次回は三週間後、あかねの国へ。
舞台が少し広がりつつ、また新しい動きが出てきます。
引き続き、よろしくお願いします。




