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第十六話「幼なじみが魔王を目指してて私を無視してるんですけど?」

いつも読んでいただきありがとうございます。


前回の「視線の正体」、今回はついにその正体が登場します。


さくらの幼なじみ——そして、ノアにまさかの興味を示す人物。

しかもその理由が「魔王を目指しているから」という、だいぶ癖の強い方向性です。


新キャラ登場回ではありますが、

同時にノアとさくらの関係性にも少し変化が出てくる回でもあります。


それでは第十六話、どうぞ。



 朝から、さくらはそわそわしていた。


 朝食のテーブルで、パンを三回持ち上げて、三回置いた。


「……さくら、どうした」


「なんでもない」


「そわそわしておる」


「してない」


「しておる」


「……してる、かも」


 アリアがお茶を出してくれた。


「どうしたの、さくらちゃん」


「……昨日の視線のことが、まだ気になってて」


「昨日の?」


「路地から誰かに見られた気がして。何者か分からないまま終わったから」


「……そうね。気になるわね」


「ノアは?」


「余も気になっておる。だが、昨日確認した限りでは——正体は分からなかった」


「うん」


「……ただ」


「ただ?」


「……さくらの知り合いである可能性も、ある」


「私の?」


「魔法少女が複数この世界に来ておるなら、お主の仲間がコルナ近辺にいても不思議ではない」


「……まあ、そうだね」


「そのうち分かる。来るつもりなら、また現れる」


「……来るとしたら誰だろう」


 さくらはお茶を飲みながら考えた。


 ひまりはコルナにいる。紫苑先輩もコルナにいる。あかねは隣国にいる。


 残りは——


「……怜奈かな」


「蒼乃怜奈か」


 ノアがぴくりと反応した。


「知ってる?」


「知っておる。お主の仲間の中で一番魔力が高い魔法少女だろう」


「そう。怜奈は——まあ、普段は普通の子なんだけど」


「戦闘モードになると目が死ぬやつだな」


「……否定できない」


「あやつは危険だ」


「そんなに?」


「お主と違って容赦がない。戦いの中で何度か対峙したが——余が本気で嫌な相手の一人だ」


「……怜奈にそんな評価されてるの、本人が聞いたら喜びそう」


「喜ぶのか?」


「……たぶん。怜奈、魔王に認められたいって言ってたから」


「……なぜだ」


「青キャラの地位向上が目標で、魔王に勝つか認められるかしたら箔がつくって」


「……意味が分からん」


「私も完全には分からない」


-----


 午前中、二人でいつもの草原に出た。


 魔力の訓練をするためだ。


 ポチも一緒に来た。


 並んで走って、牽制して、連携の確認をした。


 あかねに教わってから、二人の動きがだいぶ噛み合うようになっていた。


「……さくら、右」


「分かった」


 ノアが左から牽制の魔力を出す。さくらが右から踏み込む。


 仮想の的を想定した動き。


「……いい感じだ」


「うん。タイミングが合ってきた」


「……余の魔力が増えれば、もっと連携の幅が広がる」


「増えてきてるね、最近」


「……そうだな」


 ポチが草原を走り回っていた。


 のどかだった。


 そのとき。


 草原の端から、人影が現れた。


 さくらは立ち止まった。


 感じた。


 魔力だ。大きい。この世界の魔力とは少し違う質の——


「……怜奈」


 思わず声に出た。


 人影が近づいてきた。


 小さかった。さくらより背が低い。黒髪のショートカット。目が鋭くて、口元が引き締まっている。


 白と黒を基調とした服。魔王軍の意匠に少し似たデザインだった。


 蒼乃怜奈。十四歳。さくらの幼なじみで親友。チームの中で一番魔力が高い。


 そして今——目が、戦闘モードだった。


「怜奈!!」


 さくらが声をかけた。


 怜奈は——


 さくらを見た。


 一瞬だけ。


 それからノアを見た。


 まっすぐ、ノアのほうに歩いていった。


「……さくらを無視した」


「…………」


「怜奈、私のこと無視した!?」


 怜奈はさくらを無視したまま、ノアの前で立ち止まった。


 ノアを見下ろした。


 ノアが怜奈を見上げた。


「……ノクス・アストラ=ノア」


 怜奈が低い声で言った。


「……そうだ」


「魔王、ノア」


「……そうだ」


「会いたかった」


「……そうか」


「ずっと探していた」


「……そうか」


「あなたに、聞きたいことがある」


「……何だ」


 怜奈がしゃがんだ。


 ノアと目線を合わせた。


「魔王とは——何を目的として生きるべきか」


 さくらは固まった。


 ノアも固まった。


 草原に沈黙が落ちた。


 ポチがどこかで「きゅん」と鳴いた。


-----


「……何を目的として生きるか、とは」


 ノアがようやく口を開いた。


「どういう意図の質問だ」


「そのままの意味よ。魔王として生きるなら、何を目的にすべきか」


「……お主は魔王ではない。魔法少女だろう」


「今は魔王をしている」


「……この世界で?」


「そう。城を構えて、配下を集めて、領地を治めている」


「……なぜ魔法少女が魔王をしている」


「青キャラの地位向上のため」


「……余には意味が分からんが」


「意味は関係ない。私は魔王として本物になりたい。だからあなたに聞いている」


 ノアが少し黙った。


「……余に師事しようということか」


「そう」


「断る」


「なぜ」


「……余は誰かに教えるつもりはない」


「でもあなたは本物の魔王でしょ」


「そうだが——」


「私が目指す魔王の、先輩にあたる」


「……先輩!?」


 ノアが眉をひそめた。


「魔王に先輩後輩はない!!」


「でも先にやっていた」


「……先にやっていたとしても——」


「先輩でしょ」


「……先輩ではない!!」


「先輩として、教えてほしい」


「先輩ではないと言っておる!!」


 怜奈がノアを真剣な目で見た。


「あなたの魔王軍の運営方法、対外交渉の手法、魔力の使い方——全部聞きたい」


「……聞かせない」


「なぜ」


「……余の軍事機密だ」


「もうここでは関係ないでしょ」


「……関係ある!!」


「なぜ?」


「……関係あるものは関係あるんだ!!」


 怜奈が立ち上がった。


 さくらを見た。


「……さくら」


「え、急に私に話しかけた」


「この人を説得して」


「説得って——怜奈、私のこと無視したじゃん」


「してない」


「した!!」


「……さっきは少し無視した」


「少しどころじゃなかった!!」


「ノアに集中していたから」


「だから無視はよくないって言ってるの!!」


「さくら、説得して」


「なんで私が!!」


「幼なじみでしょ」


「幼なじみだから余計に言うけど、ノアは嫌だって言ってるじゃん!!」


「嫌な理由が分からない」


「魔王に先輩後輩とか言い出したら嫌でしょ普通!!」


「普通じゃない人に普通は関係ない」


「……それはそうかもしれないけど!!」


-----


 しばらく、三者が言い合いを続けた。


 ノアが「断る」と言う。


 怜奈が「なぜ」と返す。


 さくらが「怜奈、私の話も聞いて」と割り込む。


 怜奈が「後で」とさくらを流す。


 さくらが「後でって何!!」と怒る。


 この繰り返しだった。


 十分ほどして、ノアがさくらの隣に来た。


 袖を、そっと掴んだ。


「……さくら」


「何」


「……助けてくれ」


 さくらは少し固まった。


「……また言ってる、そのセリフ」


「今回も本気だ」


「二回目だけど」


「……二回目でも本気だ」


「怜奈に何か言われたの?」


「……魔王論を二十分聞かされた」


「二十分!?」


「領地の治め方から配下の選び方から魔力の運用まで——全部質問された」


「……それは確かに疲れそう」


「疲れた!! 余が一番疲れたと言ったのはいつだ!!」


「昨日」


「昨日に続いて今日も疲れた!!」


「……怜奈のパワーすごいね」


「すごすぎる。あやつに容赦がないとはこういうことか」


「戦闘だけじゃなかったんだね」


「……知らなかった」


 怜奈がノアとさくらを見た。


「何を話しているの」


「疲れたという話だ」


「まだ聞きたいことが三十個ある」


「三十個!?」


「魔王の資質について、魔力体系の違いについて、部下へのマネジメントについて——」


「マネジメント!?」


「配下を束ねるうえで重要でしょ」


「……重要だが、今日教える気はない!!」


「なぜ」


「疲れたからだ!!」


「魔王が疲れたとか言うの?」


「言う!! 余は今疲れた!!」


 怜奈がさくらを見た。


「……さくら、この人いつもこんな感じ?」


「こんな感じ」


「思ったより人間くさい」


「人間くさくない!!」


「魔王ってもっとこう——威厳があって、冷徹で、感情を表に出さないものだと思ってた」


「……余は威厳がある!!」


「さっき袖を掴んで助けを求めてたけど」


「……それは別だ!!」


「別?」


「……別だ」


「……まあ、面白いわね」


 怜奈が少し表情を緩めた。


 戦闘モードの目が、わずかに和らいだ。


「……思ってたのと違う」


「何が違う」


「もっと手強いと思ってた」


「……余は手強い!!」


「魔力が戻ったら手強いの?」


「そうだ!!」


「じゃあ魔力が戻ったらまた来る」


「来るな!!」


「来る。そのときは改めて魔王論を——」


「来るなと言っておる!!」


 怜奈がさくらを向いた。


「さくら」


「何」


「元気そうで良かった」


「……今更!? 最初に言ってよ!!」


「ノアを確認するのが先だったから」


「私のほうが先でしょ幼なじみなんだから!!」


「……まあ、元気そうで良かった」


「……良かったけど、順番が!!」


「ノアが予想より面白かったから、少し満足した」


「満足したから私の話も聞く気になったってこと?」


「そう」


「……なんで私がノアの後なの!!」


「優先順位の問題」


「幼なじみより魔王が優先されるの!?」


「……今は」


「今は、ってなんで!!」


 ノアがさくらの隣で静かに言った。


「……さくら」


「何」


「……お主の幼なじみは、なかなかすごいな」


「……そうでしょ」


「容赦がないというのは、こういうことか」


「そうそう」


「……余は少し尊重する気になった」


「尊重!? さっき断ってたじゃん」


「……魔王論の話は断る。だが——」


「だが?」


「……悪いやつではない、とは思った」


「さくら!!」


 怜奈がさくらを向いた。


「この人、私のことを悪いやつではないと言った」


「……うん、聞こえてた」


「魔王に認められた」


「認めたとは言っておらん!!」


「悪いやつではないと言った」


「……それは——」


「魔王に認められた!!」


「認めておらん!!」


「やった」


「やったではない!!」


 さくらはため息をついた。


 なんで私こんな目に。


-----


 しばらくして、怜奈が帰ると言った。


「……また来る」


「来るな」


「来る。次は魔王の領地経営について聞く」


「聞かせない」


「聞く」


「……」


「さくら、また来てもいい?」


「……私に聞くの?」


「ここはさくらの家みたいなものでしょ」


「違うけど、まあ——怜奈が来るのは、うん、嬉しい」


「そう。じゃあまた来る」


「うん、来て。ただノアに最初から話しかけるのはやめて」


「さくらと話してからノアに話しかける?」


「そう」


「……分かった」


「約束?」


「……約束」


 怜奈がノアを見た。


「……次は魔力についても聞く」


「聞かせない」


「聞く」


「……」


「さようなら、先輩」


「先輩ではない!!」


「さようなら」


「……先輩ではないと言っておる!!」


 怜奈が草原を歩いていった。


 振り返らなかった。


 まっすぐ歩いていった。


 やがて見えなくなった。


-----


 二人は草原に残った。


 ポチが草むらから出てきた。


「……」


「……」


「……さくら」


「何」


「……お主の幼なじみは、本当に容赦がない」


「うん」


「余が疲れた、と二日連続で言っている」


「うん」


「……余が誰かに疲れたと言ったのは、この世界に来るまでなかったかもしれない」


「それはそうだと思う」


「……お主の周りには、疲れさせる人が多い」


「……否定できない」


「紫苑は宗教で勧誘してくる。あかねは特訓を仕切る。怜奈は魔王論を語ってくる」


「……まとめると確かにそう」


「……余の人生は、魔王になってから今が一番忙しいかもしれない」


「それはごめん」


「謝らなくていい。……悪くはない」


「悪くない?」


「……疲れるが、退屈ではない」


 さくらは少し笑った。


「……怜奈、また来るよ」


「知っておる」


「嫌?」


「……嫌ではない。ただ——次は覚悟して待つ」


「覚悟して待つんだ」


「……余も準備する。魔王論の反論を」


「反論の準備!?」


「……言い負かされたくない」


「怜奈に?」


「……あやつは言葉が鋭い。次は余も負けない」


「……なんか対抗意識が生まれてる」


「対抗意識ではない。魔王の矜持だ」


「同じじゃない?」


「……違う」


 ポチが二人の間に来て、くるりと丸まった。


「……帰るか」


「帰ろう」


 二人は草原を歩いた。


「……さくら」


「何」


「……怜奈は、さくらの大切な幼なじみなのか」


「そう」


「……そうか」


「なんで聞くの」


「……あやつが最初にさくらを無視したとき、少し——」


「少し?」


「……余が先に怜奈と話したのは、余のせいではないが——さくらが無視されたのは、不本意だった」


 さくらは少し固まった。


「……ノアが不本意に思ってくれたの」


「……まあ」


「ありがとう」


「……礼は要らん。事実を言ったまでだ」


「……でも、ありがとう」


「……どういたしまして」


 コルナの町が見えてきた。


 さくらはもう一度だけ、怜奈が消えた方向を振り返った。


 元気そうだった。


 相変わらず、さくらを後回しにしていたけれど。


 でも——元気そうだった。


 それで、十分だった。


-----


**【魔王の小さな冒険 其の十六「魔王、魔王の先輩と呼ばれた件」】**


 のあちゃんは布団の中で、今日のことを振り返っていた。


 怜奈という魔法少女が来た。


「……先輩」


 誰もいない暗闇に向かって、のあちゃんはつぶやいた。


「余が、先輩」


 言葉にすると、改めておかしかった。


 魔王に先輩後輩はない。


 余は魔王だ。先輩などという概念は——


「……だが」


 のあちゃんは続けた。


 怜奈は本気だった。


 魔王論について、本気で聞いていた。


 余の答えを、本気で聞こうとしていた。


「……嫌いではない、か」


 余がそう言った。


 本当に嫌いではなかった。


 容赦がない。真剣すぎる。さくらを後回しにするのは不愉快だった。


 でも——魔王になろうとしている理由が、青キャラの地位向上、というのは。


「……意味が分からんが」


 でも、本気だった。


 本気で何かを目指している者を、余は嫌いになれない。


 のあちゃんはため息をついた。


 さくらの袖を掴んで助けを求めた。


 また、やった。


「……余は最近、さくらに頼りすぎている」


 誰にも聞こえない声で言った。


 でも——頼れる相手がいることは、悪くない。


 それはもう、分かっていた。


 ポチが胸元でくるりと丸まった。


「……お主はいつも丸まるな」


 ポチがきゅんと鳴いた。


「……まあ、いい」


 のあちゃんは目を閉じた。


 怜奈がまた来ると言っていた。


 次は負けない。


 魔王論の反論を準備しておく。


「……先輩と呼ばせはしない」


 誰にも聞こえない声で、のあちゃんは言った。


 ただ、少しだけ——口元が上がっていた。


 悪くない、と思っていたのかもしれない。


-----


第十七話に続きます。

第十六話、読んでいただきありがとうございました。


怜奈、登場です。

書いていて思った以上に“圧の強い子”になりました。


戦闘だけじゃなく、思想と会話でも容赦がないタイプなので、

ノアが普通に疲れるという珍しい構図になっています。


そして個人的に気に入っているのが、

ノアがさくらのことをちゃんと気にしている描写です。


強引な怜奈に振り回されつつも、

「無視されたのは不本意だった」と感じるあたり、

少しずつ関係が変わってきているのが伝われば嬉しいです。


次回は、この三人(+ポチ)の関係がどう転がるのか、

そして怜奈が本当に何を目指しているのかにも少し踏み込みます。


引き続き、よろしくお願いします。

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