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第十一話「道中で魔物に襲われてボロボロで先輩と再会したんですけど?」

いつもお読みいただきありがとうございます。

今回は道中でのトラブル回となりますが、それだけでなく、さくらとノアの関係や、これまで張ってきた伏線が少しずつ動き出す回でもあります。

そして――ついに、あの人物が再登場します。

それでは第十一話、本編をどうぞ。



 出発の朝は、晴れだった。


 アリアが見送りに出てきた。


「気をつけてね、三人とも」


「三人?」


「さくらちゃんとノアちゃんとフロストさん」


「フロストも来るの?」


 フロストが荷物を抱えて立っていた。


「黄瀬様の商談のお供ですので」


「あ、そうか」


「加えて、魔王様の護衛も兼ねております」


「余には護衛は不要だ」


「先日、熊に無視されましたが」


「……触れるな」


 ひまりがぴょんと跳ねた。


「じゃあ出発しましょう!! 商談まで二日あるので、一泊して到着の予定です!!」


「一泊か」


「途中に宿場町があるので、そこで泊まります! 道は整備されてるから問題ないはずで——」


「はず、ね」


「……まあ、道中は何があるか分かりませんけど!!」


 アリアが笑いながら言った。


「ノアちゃん、さくらちゃんのこと、よろしくね」


「……余が、さくらを?」


「頼もしいパートナーでしょ」


「パートナーとは、言い過ぎだが」


「否定はしないのね」


「……否定はしない」


 さくらは聞こえていたが、聞こえないふりをした。


 アリアが本当に聖女だと、改めて思った。


-----


 商隊は小さかった。


 ひまりとフロスト、荷物持ちの男性が二人、馬車が一台。さくらとノアがそこに加わった。


 馬車には荷物が積まれていて、人が乗れるスペースは限られている。ひまりと荷物持ちの人たちが乗り込んで、さくらとノアとフロストは馬車の脇を歩くことになった。


「……歩くのか」


「私たちは護衛名目だから」


「護衛なら馬車の中にいるのでは」


「外を歩いて警戒するのが護衛でしょ」


「……そうか」


「慣れてないの? 護衛」


「余は護衛される側だったから」


「あ、そうか。魔王だもんね」


「常に守られておった。護衛が十人はいた」


「十人!?」


「それが余の身分だった」


「今は自分で歩いてるね」


「……そうだな」


 ノアは少しだけ遠い目をした。


 すぐに前を向いた。


「まあ、今は今だ」


「うん」


「歩くのも悪くない」


「そう?」


「景色が見える」


 道の両側に、草原と遠くの山が見えていた。コルナの町を出てから、視界が一気に広くなった。空も大きい。


「……いい景色だ」


「うん」


「余の世界にも、こういう景色はあったが」


「あったけど?」


「馬車の中からしか見なかった」


「……もったいないね」


「……そうだな」


 フロストが隣で静かに言った。


「魔王様、ご在位中は馬車移動が基本でしたね」


「そうだ」


「こうして歩いて移動するのは、珍しいのでは」


「珍しい。だが——悪くない」


「左様ですか」


「悪くないと言っておる」


「承知しました」


 ひまりが馬車の窓から顔を出した。


「ノア様ー!! 景色いいですかー!!」


「いい!!」


「よかったですー!!」


 のどかだった。


 本当にのどかだった。


 問題が起きるまでは。


-----


 出発から三時間ほど経ったころ。


 道が森の中に入った。


 木が両側から迫ってきて、空が狭くなる。日差しが届きにくくて、少し薄暗い。


「……雰囲気が変わったな」


「森の中の道だね。地図だとしばらく続くみたい」


「魔物は出るか」


「整備された道だから、頻繁には出ないはずだけど」


「はず、ね」


「……はずだよ」


 フロストが静かに言った。


「魔力反応が、少しあります」


「どこ」


「……前方と、右側。小さい反応ですが」


「小さい?」


「スライムか、あるいはゴブリン程度かと」


「ゴブリンか」


「複数いる可能性があります」


 さくらは魔力を薄く広げた。


 確かに、何かいる。前方の茂みと、右の木の陰に。


「ひまり、馬車を止めて」


「え? どうしたんですか?」


「魔物が近くにいる。しばらく待機して」


「わ、分かりました!!」


 馬車が止まった。


 静かになった。


 鳥が鳴いていた。


 木の葉が揺れた。


 それから——茂みがざわりと動いた。


 出てきたのは、ゴブリンだった。


 三匹。さくらの腰くらいの高さで、緑色の肌に、手に粗末な棍棒を持っている。


 それだけなら、問題なかった。


 問題は、その後ろから出てきたやつだった。


 大きかった。


 ゴブリンの倍くらいある、でかいゴブリン。ホブゴブリンとか言うやつだろうか。目が赤くて、棍棒が丸太ほどある。


「……大きいのがいる」


「ホブゴブリンですね」


 フロストが静かに言った。


「厄介ですね」


「厄介ってどのくらい?」


「小さいゴブリンの五倍程度の戦闘力はあるかと」


「……まあ、何とかなるか」


「先輩の今の魔力で?」


「半分以上は戻ってるから。小さいゴブリンを片付けて、でかいのに集中すれば——」


「余が陽動をする」


 ノアが木剣を抜いた。


「小さいゴブリンは余が引きつける。お主はでかいやつに集中しろ」


「……できる?」


「蛇でも熊でも——」


「熊は失敗したじゃん」


「……蛇で鍛えた。ゴブリンなら何とかなる」


「ゴブリンは蛇より知能が高いけど」


「余は魔王だ。ゴブリン程度に負けん」


「……分かった。フロストは?」


「馬車の護衛に徹します。荷物と黄瀬様を守ります」


「了解」


 作戦を決めた。


 ゴブリンたちが近づいてきた。


-----


 さくらが魔力を手のひらに集めた。


 ホブゴブリンに向けて、牽制の光を放つ。


 ぱん!!


 ホブゴブリンが止まった。こちらに向いた。


「来い!!」


 ノアが小ゴブリンに向かって走った。


 ちょこちょこ。


「余はノクス・アストラ=ノアだ!! こっちを見ろ!!」


 小ゴブリンが三匹とも、ノアに向いた。


 ノアが木剣を振った。


 ぶん!!


「……効いておる!!」


「効いてる!?」


「木の剣でもゴブリン程度には——」


 小ゴブリンが棍棒を振った。


 ノアが飛び退いた。


「危ない!!」


「問題ない!! 避けた!!」


「三匹同時は無理じゃない!?」


「何とかなる!!」


 さくらはホブゴブリンに向き直った。


 魔力を集める。最近戻ってきた分を、全部出せれば——


 ホブゴブリンが突進してきた。


 でかい。速い。


 さくらは横に跳んだ。


 ホブゴブリンの棍棒が、地面に叩きつけられた。地面がへこんだ。


「……やばい」


 魔力を放った。


 ぼん!!


 ホブゴブリンに当たった。よろめいた。でも倒れなかった。


「硬い!!」


 もう一発。


 ぼん!!


 また当たった。また止まった。でも倒れない。


「……タフだな!!」


 ノアのほうを見た。


 ノアは小ゴブリン一匹を追い払ったが、残り二匹に挟まれていた。


「ノア!!」


「問題ない!! 陽動中だ!!」


「陽動じゃなくて挟まれてるじゃん!!」


「これも陽動だ!! 余の周りをうろうろさせておる!!」


「そういう陽動じゃないから!!」


 ホブゴブリンが再び突進してきた。


 さくらは今度は前に出た。


 ホブゴブリンの腕を掴んで、魔力を直接流し込む。


 ぼんっ!!!


 今度は大きかった。


 ホブゴブリンがよろめいた。大きく後退した。


「……よし!!」


 よろけたところに追撃する。


 走った。


 踏み込んだ。


 足元の石に、引っかかった。


「あっ——」


 転んだ。


 さくらが転んだ。


 真正面で。


 ホブゴブリンの前で。


 間近で目が合った。


「……」


「……」


 ホブゴブリンが棍棒を振りかぶった。


 まずい——と思った瞬間。


「退けえええ!!!」


 横から何かが飛んできた。


 ノアだった。


 ノアが全力で走って、ホブゴブリンの脚に体当たりした。


 もちろん、ノアの体重でホブゴブリンは倒れない。


 だが、一瞬だけひるんだ。


 その一瞬で、さくらは立ち上がった。


 魔力を手のひらに——全部集めた。


 本調子の七割か八割か。でも今持っている分は全部。


「っ——!!!」


 ぼんっ!!!!


 ホブゴブリンが吹っ飛んだ。


 木に激突して、動かなくなった。


「……倒した」


「倒した!!」


 ノアが振り返った。


 小ゴブリン二匹は、ホブゴブリンが倒れたのを見て、森の中に逃げていった。


 残った一匹も、ノアと目が合って、逃げた。


「……逃げた」


「逃げたね」


 さくらはその場に座り込んだ。


 魔力を使い果たした。体が重い。


「……大丈夫か」


 ノアが駆け寄ってきた。


「大丈夫。疲れただけ」


「転んだとき、怪我は」


「膝がちょっと。大したことない」


「……見せろ」


「いいよ」


「見せろ」


 ノアが膝を確認した。


 少し擦れていた。


「……これくらいなら問題ない」


「うん」


「痛いか」


「ちょっとだけ」


「……余が体当たりした意味があったか」


「あった。一瞬ひるんでくれたから、立ち上がれた」


「……そうか」


「ありがとう」


「……どういたしまして」


 素直に言えた。


 さくらは少し驚いたが、何も言わなかった。


-----


 フロストが馬車から救急道具を出してきた。


「先輩、手当てを」


「ありがとう、フロスト」


「魔王様も確認させてください」


「余は問題ない」


「体当たりをなさっていましたが」


「問題ない」


「確認させてください」


「……問題ないと言っておる」


「魔王様」


「……確認していい」


 フロストが手際よく二人の手当てをした。


 ひまりが馬車から顔を出した。


「大丈夫ですか!!?」


「大丈夫」


「ノア様も!?」


「問題ない」


「良かった!! 怖かったです!!」


「ひまりは馬車の中で大丈夫だった?」


「怖くて震えてましたけど無事です!! フロストが守ってくれて!!」


「フロストが一番役に立ってるな」


 フロストが静かに言った。


「いえ、さくら先輩と魔王様が戦ってくださいましたので」


「先輩が転んだとき、ノア様が体当たりしてましたよね!!」


「見てたの!?」


「窓から!! かっこよかったです!!」


「かっこよくはなかった。体重が足りなすぎた」


 ノアが言った。


「次は——もっと魔力が戻れば、体当たりより有効な攻撃ができる」


「次もやる気なんだ」


「護衛として当然だ」


「護衛だったの?」


「護衛と陽動と、体当たりと——余のできることはやる」


「十分だよ、今日は」


「……十分ではなかった。お主が転んだ」


「転んだのは自分のせいだから」


「……余がもっと早く片付けていれば、お主がホブゴブリンに集中できた」


「それは——まあ、そうだけど」


「次はもっとうまくやる」


「うん」


「約束する」


「……うん」


 さくらは膝の手当てをしてもらいながら、ノアを見た。


 体当たりをした右肩が、少し赤くなっていた。


「肩、大丈夫?」


「問題ない」


「赤くなってる」


「……問題ない」


「フロスト、肩も見てあげて」


「承知しました」


「余は問題ない——」


「魔王様、素直にしてください」


「……分かった」


 フロストが手当てをした。


 ノアは少し顔をしかめたが、何も言わなかった。


-----


 手当てが終わって、商隊は再出発した。


 歩きながら、さくらはノアに言った。


「……さっき、ありがとう」


「言った」


「もう一回言う。ありがとう」


「……どういたしまして、もう一回だ」


「肩は本当に大丈夫?」


「少し痛いが、動く」


「無理しないで」


「無理はしておらん。余のできる範囲でやった」


「体当たりは範囲内なの」


「今日は範囲内だった」


「……まあ、助かったのは本当だから」


「……そうか」


 ノアは少し得意げな顔をした。


 すぐにまた普通の顔に戻った。


「……次に魔物が出たときは、もっとうまく動ける」


「今日よりうまく?」


「今日より、確実に」


「魔力が増えてきてるもんね」


「そうだ。それと——」


「それと?」


「……体当たりの精度も上げる」


「体当たりは精度じゃなくて体重の問題じゃない?」


「……体重は増やせない。だから精度で補う」


「どういう精度?」


「関節を狙う。でかい魔物でも、膝の裏や足首を正確に打てば——」


「なんか本格的だね」


「余は学習する」


「熊で学んだのか」


「……熊からも、学んだ」


「熊に無視されたのに?」


「……無視されたから学んだ。悔しかった」


「正直だね」


「……事実だから」


 さくらは少し笑った。


 ノアが「笑うな」と言った。


「笑ってない」


「笑っておる」


「……少しだけ」


「……まあ、いい」


-----


 宿場町で一泊した。


 二人部屋を取って、さくらとノアが同室になった。


 ひまりとフロストは別室。荷物持ちの人たちは大部屋。


「……ノア、先に寝て」


「まだ眠くない」


「肩、痛いでしょ。横になって」


「……眠くないと言った」


「横になるだけでいい」


「……分かった」


 ノアが布団に横になった。


 さくらは窓から外を見た。


 宿場町の夜は、コルナより暗かった。星が多く見えた。


「……ピンク」


「何」


「明日、あかねに会う」


「会えるといいね。本当にあかねかどうか、まだ分からないけど」


「……あかねだったらどうする」


「どうするって?」


「何を話す」


「……色々。心配してたこととか、どうしてたかとか」


「それだけか」


「それだけって?」


「……一緒に帰ろうと言うか」


 さくらは少し考えた。


「言うと思う。でも、あかねが決めること」


「あかねが断ったら?」


「断っても、仲間だから。判断は尊重する」


「……お主はそういうやつだな」


「そういうやつ?」


「相手の選択を尊重する」


「……まあ」


「余には、そういうことが——難しかった」


「魔王だから?」


「魔王だから、余が決めなければならないことが多くて。部下の選択より、余の判断が優先されることが多かった」


「……それが嫌だった?」


「……嫌というより、それが正しいと思っていた。でも今は——」


「今は?」


「……フロストが余のもとを去ったとき、怒るより先に、仕方ないと思った」


「給与明細で転職したやつね」


「そうだ。怒るべきだったかもしれん。でも、フロストの判断だから、と思った」


「……それ、成長じゃないの」


「成長、か」


「魔王が部下の選択を尊重するって、普通じゃないでしょ」


「……余が変わったのか、元々そういうやつだったのか、分からん」


「どっちでもいいんじゃない」


「どっちでも?」


「今がそうなら、それでいい」


「……今は今か」


「うん」


 ノアは天井を見た。


「……明日、楽しみだ」


「あかねに会うのが?」


「お主の仲間に会うのが。それと——」


「それと?」


「……お主が嬉しそうにするのを、見たい」


 さくらは少し黙った。


「……なんでそんなこと言うの」


「事実だから」


「……そういうのを急に言うな」


「お主がいつも言うではないか。事実だから、と」


「そういう話じゃなくて」


「どういう話だ」


「……おやすみ」


「逃げた」


「おやすみ!!」


「……おやすみ」


 ランプを消した。


 暗闇の中で、ノアの気配がした。


「……さくら」


「何」


「今日は、役に立てた」


「……うん」


「体当たりで」


「……うん」


「精度は上げる」


「うん」


「……次は、もっとうまく守る」


 さくらは何も言わなかった。


 言えなかった。


「……おやすみ、さくら」


「……おやすみ、ノア」


 今日も、ノアが先に言った。


-----


 翌朝、出発した。


 さくらの膝はまだ少し痛かった。


 ノアの肩も、まだ少し痛いはずだった。


 でも二人とも何も言わなかった。


 道は森を抜けて、草原に出た。


 遠くに、町が見えてきた。


 ひまりが馬車の窓から顔を出した。


「見えてきました!! あの町です!!」


 城壁がある。旗が立っている。


 さくらは目を細めた。


 旗には、炎のような紋章が描いてあった。


「……あれ、あかねっぽい紋章だね」


「炎か」


「あかねの魔法が炎系だから。もしかしたら」


「もしかしたら、な」


「うん、まだ分からない」


 ノアが隣に立った。


 二人で、遠くの町を見た。


「……行くか」


「行こう」


 商隊が、町に向かって歩き始めた。


 ボロボロで。膝に包帯を巻いて。肩をかばいながら。


 それでも、前を向いて。


-----


 城門の前に着いた。


 衛兵が二人立っていた。


「……どちら様で?」


「商談でお伺いしました、黄瀬商会のひまりと申します!」


「ああ、商談の方ですか。では通行を——」


 そのとき、城壁の上から声がした。


「ひまり!?」


 弾けるような声だった。


 さくらは上を見た。


 城壁の上に、人影があった。


 赤い髪。炎のような目。背が高くて、よく日焼けしていて、いかにも活発そうな顔。


 さくらは固まった。


「……あかね」


「さくら!!!!」


 人影が城壁の上から飛び降りた。


 衛兵たちが「お待ちを!!」と叫んだ。


 着地した。


 普通に着地した。


「っしゃ!!」


 赤い髪の少女が走ってきた。


「さくら!! 生きてた!! 良かった!!」


「あかね!! 飛び降りないで、城壁から!!」


「大丈夫!! 慣れてる!!」


「慣れるな!!」


 あかねがさくらに飛びついた。


 どん!!


「うわっ!!」


「良かった!! 本当に良かった!! 生きてた!!」


「生きてた!! でも今膝が——」


「膝!?」


「怪我してて——」


「ごめん!! 大丈夫!?」


「大丈夫だけど」


「なんでそんなボロボロなの!? さくら!!」


「道中で魔物に——」


「魔物!? ちゃんと戦えた!?」


「何とか」


「ひまりも無事!?」


「無事です!!」


「良かった!! あとその子は!?」


 あかねがノアを見た。


 ノアはあかねを見た。


「……誰だ、お主は」


 あかねは少し固まった。


 それから、さくらを見た。


「……さくら、この子は?」


「えっと——」


「余はノクス・アストラ=ノアだ」


 ノアが名乗った。


「魔王だ」


 あかねはさくらを見た。


「……さくら」


「うん」


「魔王と一緒にいるの?」


「うん」


「なんで」


「色々あって」


「……色々って何」


「説明すると長い」


「……」


 あかねはノアを見た。


 ノアはあかねを見た。


「……強いか、お主は」


 ノアが聞いた。


「強いよ」


 あかねは即答した。


「余より強いか」


「今のあんたより強いんじゃない? なんか弱そうだし」


「……ぐぬ」


「何その反応」


「余は今は弱い。だが本来は——」


「本来はすごいんでしょ、知ってる」


 さくらが言った。


「あかね、それ言い始めると長いから」


「……そうなの?」


「そうなの」


「……まあ、とりあえず入って!! 話は中で!!」


 あかねが城門に向かって歩き始めた。


 衛兵たちが「お帰りなさいませ、女王陛下」と頭を下げた。


「……女王陛下!?」


 さくらは固まった。


「王様じゃなくて女王!?」


「まあ、細かいことは中で!!」


「細かくないから!!」


 ノアがさくらの隣に来た。


「……陛下と言われておった」


「言われてた」


「本当に王になっておるな」


「なってた」


「……お主の仲間は、本当にたくましいな」


「……本当にそう」


 さくらはため息をついた。


 ボロボロで、膝に包帯を巻いて、肩をかばいながら。


 それでも、あかねに会えた。


 なんで私こんな目に、と思いながら——でも今日は、悪くない一日だと思った。


-----


**【魔王の小さな冒険 其の十一「魔王、体当たりの是非について考えた件」】**


 宿場町の夜。


 のあちゃんは布団の中で、今日の体当たりを振り返っていた。


 あれは——正解だったのか。


 結果としては正解だった。さくらが立ち上がれた。ホブゴブリンを倒せた。


 でも。


「……余の体重で、ホブゴブリンはひるまない」


 誰もいない暗闇に向かって言った。


「ひるんだのは——驚いたからだ。突然小さいものが突進してきたから、一瞬だけ反応が遅れた」


 つまり、体重ではなく奇襲だった。


「……次は通用しない」


 同じ手は二度は使えない。次に同じ相手に同じことをしても、驚かれない。


「だから精度が必要だ」


 関節を狙う。弱点を狙う。体重がなくても、正確に急所に当たれば——


 のあちゃんは考えながら、ふと気づいた。


 なぜ余は、こんなに「次」を考えているのだろう。


 魔王として戦う必要があるのは分かる。でも、こんなに真剣に「次に役に立つ方法」を考えたことは——魔王軍にいたころも、そんなになかった気がする。


「……さくらが転んだから」


 のあちゃんはつぶやいた。


「さくらが転んで、余が間に合わなかったら——と思ったから」


 その先は言わなかった。


 言わなくても分かっていた。


 のあちゃんは目を閉じた。


「……次は、間に合う」


 誰にも聞こえない声で、のあちゃんは言った。


「絶対に、間に合う」


 それだけを言って、眠りについた。


 布団の中で、少しだけ、口元が上がっていた。


-----


第十二話に続きます。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

第十一話では、道中の戦闘を通してノアの成長と、さくらとの信頼関係の変化を描きつつ、物語の大きな転機となる「あかね」との再会まで進みました。


ボロボロの状態で再会するという、少し間の悪いタイミングも含めて、彼女たちらしい再会になったのではないかと思っています。


次回は、女王となったあかねの事情や、この町の状況について明かされていく予定です。物語もいよいよ次の段階へ入っていきますので、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。

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