第十話「旅費を稼ごうとしたら弁償金まで発生したんですけど?」
ここまでお読みいただきありがとうございます。
前回は女神様になっていた先輩との再会という衝撃の展開でしたが、今回は一転して――現実的な問題、「旅費」のお話です。
異世界を旅するうえで避けて通れないもの。
それは装備でも魔力でもなく、お金です。
仲間に会いに行くための資金を稼ごうとして、なぜか弁償金が発生する。
そんな、さくらとノアらしい少し間の抜けた一日を描いた回になっています。
笑えるけれど、本人たちにとっては笑えない。
そんな日常の延長線上で、物語は次の目的地へと進んでいきます。
それでは、第十話をお楽しみください。
ひまりから、話を聞いたのは昨日のことだった。
「商談で来た旅商人から聞いたんですけど——少し離れた国に、赤い髪の女の子が王様になってる国があるらしくて!」
「……あかね?」
「たぶんそうじゃないかなって! 先輩に確認してほしくて!」
「確認って、どうやって」
「一緒に行きましょうよ! ちょうどその辺りの商会と商談があるので! 有料で!」
「有料かよ」
あかねかもしれない。あかねじゃないかもしれない。でも確かめに行くしかない——ということで、旅費が必要になった。
ひまりの商談に便乗するとしても、道中の宿代と食費と、万が一のための予備費がいる。コルナで稼いできた分はあるが、それは当面の生活費だ。旅に出るとなると別途まとまった金が必要だった。
さくらは朝食のテーブルで計算した。
「……あと、これくらい必要」
「いくらだ」
ノアが覗き込んだ。
「多いな」
「一週間以上かかるかも」
「では高額な依頼を選べばいい」
「高額な依頼は難しいから高額なんだよ」
「余がいれば何とかなる」
「何とかなったことが今まで何回あった?」
「……何回かはある」
「何回かね」
「余を信用しろ」
「信用の積み重ねが足りない」
「ぐぬ……」
アリアがお茶を出してくれた。
「急いで稼がなくていいのよ。ゆっくりでも」
「仲間かもしれない人がいるなら、早く確認したくて」
「そうね……仲間のことは心配よね」
「ひまりの商談に同行させてもらえるなら、旅費さえ揃えば」
「頑張ってね。無理しないで」
さくらはお茶を一口飲んだ。
無理しないで、は難しいかもしれない。
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ギルドに着いて、掲示板を眺めた。
いつもより真剣に眺めた。
高額な依頼——魔物討伐、護衛、特殊素材の採取。どれも難易度が高い。
そこで一枚の依頼票が目に入った。
内容は「農場を荒らす大熊の捕獲または駆除」。報酬は破格だった。
「……熊か」
「高い。これ一発でほぼ揃う」
「大熊とはどのくらいだ」
「馬より大きいって書いてある」
「……大きいな」
「でも農場主が箱罠を用意してくれるって書いてある。それに誘導して捕獲するのが推奨手順みたい」
「箱罠か」
「熊を罠に誘導するだけなら戦闘は最小限で済む。魔力で誘導できれば——」
「余が陽動をすれば済む話だ」
「陽動は得意になってきたもんね」
「蛇で鍛えた」
「じゃあ行こう」
カウンターのお姉さんが依頼票を受け取って、眉をひそめた。
「……この依頼、もう三組が失敗して戻ってきてるんですよね」
「三組?」
「熊が賢くて、罠を避けるみたいで……箱罠も一個壊されてますし。あと一個しか残ってなくて」
「残り一個」
「壊したら弁償になるので、それも踏まえて……お二人で大丈夫ですか?」
「やります」
「……自己責任で」
受注した。
ノアが「任せろ」と言った。
さくらは少し不安だった。
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農場は、町から三十分ほど歩いた場所にあった。
小麦畑と野菜畑が広がっていて、端のほうが荒らされていた。でかい足跡がいくつも残っている。
農場主のおじさんが出てきた。
「来てくれたか!! 頼むよ、毎晩来やがって!!」
「被害はどのくらいですか」
「もう三週間も荒らされてて、今週中に何とかならなきゃ収穫が——」
「分かりました。箱罠、見せてもらえますか」
箱罠は、畑の端に置いてあった。
木でできた大きな箱。中に餌を入れて、熊が入ったら扉が閉まる仕組みらしい。人の背丈より大きくて、頑丈そうに見えた。
「頑丈そうだね」
「そうなんだが……先週もこれより大きい罠を壊されてな。こいつは特注で作ったから、壊されたら困る」
「壊しません」
「頼むよ本当に。弁償代がまたかかったら——」
「大丈夫です」
さくらは罠を確認した。
ノアも覗き込んだ。
「……なるほど。熊が中に入ったら、この棒が外れて扉が閉まる仕組みか」
「そう。餌は中に入れてあるから、あとは熊を誘導するだけ」
「余が陽動をして、罠の前まで引きつければいい」
「そう。熊が罠に入ったら私が魔力で扉を押さえる」
「簡単だな」
「簡単そうに見えるけど、三組が失敗してる」
「余たちは失敗しない」
「その自信はどこから来てんの」
「経験だ。蛇で鍛えた」
「蛇のときはぴぎゃって言ってたじゃん」
「鍛えたと言っておる!!」
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日が暮れて、作戦を開始した。
熊は夜に出るらしい。農場主のおじさんは家の中から見ていてくれることになった。
さくらは罠の脇の暗がりに隠れた。
ノアは罠から少し離れた場所に立った。
「……来たら余が声を出す。熊がこっちを向いたら罠に向かって後退する」
「うん。罠の前まで来たら私が魔力で餌を動かして、中まで誘き寄せる」
「入ったら扉を押さえる」
「完璧な作戦だ」
「完璧かどうかは結果が決める」
「結果も完璧になる」
「……まあ、頼むよ」
待った。
三十分待った。
草むらが動いた。
でかかった。
本当にでかかった。馬より大きい、とは聞いていたが、実物は想像の上をいった。毛がぼさぼさで、爪が長くて、鼻をくんくんさせながら畑に近づいてくる。
「……でかいな」
ノアが小声で言った。
「……でかいね」
さくらも小声で返した。
「……余は動揺しておらん」
「うん」
「ただ、確認として——あれはスライムより強いか」
「比較にならないくらい強い」
「……そうか」
「大丈夫?」
「大丈夫だ。余は蛇で鍛えた」
「蛇より全然でかいけどね」
「……知っておる」
熊が畑に近づいた。
ノアが一歩前に出た。
「こっちだ!!」
ノアが叫んだ。
熊が振り返った。
大きな目がノアを捉えた。
「そうだ!! こっちを見ろ!! 余はノクス・アストラ=ノアだ!! 魔王だ!!」
熊が低く唸った。
「余を捕まえてみろ!!」
熊が動いた。
ゆっくりと、でも確実に、ノアに向かって歩いてきた。
「……来た」
「来た!! 後退して罠の前まで!!」
ノアが後退を始めた。
ゆっくりと、罠の方向に向かって。
熊がついてくる。
作戦通りだった。
作戦通り——だったのだが。
熊が急に止まった。
匂いを嗅いだ。
罠の方向を見た。
そのまま、別の方向に歩き始めた。
「……逃げた!?」
「賢い!! 前の組もこれで失敗したのか!!」
「ノア、追って!!」
「追う!!」
ノアが熊の後を走った。
ちょこちょこちょこちょこ。
「もっと速く!!」
「これが限界だ!!」
「もっと声出して!!」
「余はここだ!! 魔王だ!! こっちを見ろ!!」
熊が少し振り返った。
ノアを見た。
ノアを見て——無視した。
「無視された!?」
「余が小さすぎて脅威に見えないのかもしれん!!」
「それは分かってたじゃん!!」
「もっと威圧感を出す!!」
「どうやって!!」
「魔力だ!! 余の魔力が——」
ノアが手のひらに魔力を集めた。
最近、少しずつ安定してきた魔力。今日は調子が良かった。
そのまま、熊に向けて放った。
ぱん!!
小さな光が、熊の鼻先で弾けた。
熊が止まった。
驚いて、こちらを向いた。
「そうだ!! 余を見ろ!!」
熊が向いてきた。
ノアに向かって、走り始めた。
「来た!! 来た来た来た!!」
「罠まで後退して!!」
「後退している!! これが限界と言っておる!!」
さくらは魔力を手に集めた。
熊がノアを追う。ノアが罠に向かって後退する。
いい感じだ。このまま罠の前まで——
そのとき、ノアが足を滑らせた。
ずって。
「ぴぎゃ!!」
転んだ。
盛大に転んだ。
そのまま転がって——箱罠にぶつかった。
ごんっ。
箱罠が揺れた。
仕掛けの棒が、衝撃で外れた。
扉が、閉まった。
熊のいない箱罠が、閉まった。
「……」
「……」
熊が止まった。
罠を見た。
扉が閉まった箱を見た。
興味を失ったように、森の方に歩いていった。
「……」
「……」
さくらとノアは、その場で固まっていた。
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「……余のせいではない」
ノアが起き上がりながら言った。
「滑ったのは、地面が湿っておったから」
「……うん」
「余が箱罠にぶつかったのは、転がった方向が悪かったから」
「……うん」
「つまり地面が悪い」
「……うん」
「ピンク、何か言え」
「……言えない」
「なぜだ」
「言ったら怒鳴り合いになりそうだから、今は黙っておく」
「……そうか」
二人は閉まった箱罠を見た。
空っぽの箱罠を。
「……弁償になるな」
「……なるね」
「……いくらだ」
「……聞くのが怖い」
農場主のおじさんが家から出てきた。
罠を見た。
二人を見た。
「……また失敗か」
「……すみません」
「で、罠は——」
おじさんが罠を確認した。
仕掛けの棒が折れていた。
扉の蝶番も、ぶつかった衝撃でゆがんでいた。
「……修理が必要だな」
「……いくらかかりますか」
おじさんが金額を言った。
さくらは固まった。
旅費として稼ごうとしていた金額の、半分近かった。
「……払います」
「すまんな。特注だから高くて」
「いえ……こちらの不手際なので」
「熊は……また来るだろうな。明日は別の依頼人に頼んでみる」
「……すみません」
おじさんは首を振って、家に帰っていった。
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帰り道。
二人は黙って歩いた。
ノアは何も言わなかった。
さくらも何も言わなかった。
町の灯りが見えてきたころ、ノアが口を開いた。
「……余のせいだ」
「……まあ」
「地面のせいでも転がった方向のせいでもなく——余のせいだ」
「転んだのは仕方ないけど」
「仕方なくても、結果は変わらん」
「……うん」
「弁償代は余が出す」
「ノアの稼ぎからじゃ足りないじゃん」
「……だが、余の責任だ」
「半分ずつにしよう。依頼を選んだのは私だし」
「……依頼の選択はお主だが、失敗したのは余だ」
「半分ずつ」
「……半分ずつ、か」
「うん」
ノアは少し黙った。
「……さくら」
「何」
「今日は——余は役に立てなかった」
「まあ」
「陽動は上手くいっていた。序盤は」
「序盤はね」
「最後が——」
「転んだのは仕方ないよ、本当に」
「仕方なくても」
「仕方なくても悔しいよね」
「……悔しい」
「うん」
「本当に悔しい」
「うん」
「……次は必ず」
「次は別の依頼にしよう」
「……そうだな」
さくらはため息をついた。
今日の稼ぎはゼロどころかマイナスだ。旅費まで遠のいた。
なんで私こんな目に。
「……ピンク」
「何」
「腹が減った」
「私も減った」
「帰ったら飯か」
「アリアさんが作っておいてくれると思う」
「……アリアは良い人だな」
「本当にそう」
「いつかちゃんと恩返しをしなければ」
「しよう。お金が稼げたら」
「……稼げるといいな」
「稼ぐよ、絶対に」
「余も頑張る」
「箱罠には気をつけて」
「……うるさい」
「事実だから」
「……うるさい」
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翌日。
さくらはひまりのギルドに向かった。
一人で。
ノアは「余も行く」と言ったが、「あんたが来ると話がこじれそうだから」と言って置いてきた。
ノアは「ぐぬ」と言って、家で木剣の素振りを始めた。
ひまりのギルドに入ると、ひまりがカウンターにいた。
「先輩!! どうしたんですか、暗い顔して——あ、昨日の熊の件ですか?」
「知ってるの?」
「フロストの情報網です!! 弁償になったって聞きました!!」
「……聞こえてたんだ」
「コルナの情報はだいたい入ってきます!!」
「便利なのか不便なのか分からないね」
「便利です!!」
さくらは深呼吸した。
「ひまり、お金を貸してほしい」
ひまりが少し目を丸くした。
「……旅費ですか?」
「そう。昨日の弁償で計算が狂って。あかねに会いに行くためのお金が足りない」
「いくらですか」
さくらが金額を言った。
ひまりは少し考えた。
「……分かりました。貸します」
「ありがとう。利子はどのくらい——」
「利子はいいです」
「え?」
「先輩、仲間じゃないですか」
「でも商売でしょ、ひまりは」
「商売でも、仲間は仲間です!! でも!」
ひまりがぴっと指を立てた。
「帰ってきたら依頼を一個無償でやってもらいます!!」
「無償!?」
「等価交換です!! ひまりブランドのチョコを向こうで売ってきてほしくて!! その分を旅費に充てる感じで!!」
「……なるほど、商業的だね」
「商人ですから!!」
「まあ、それなら」
「あとノア様にも一個お願いしたいことがあって」
「ノアに?」
「向こうでのあちゃんチョコを売ってきてほしいんですよ!! ノア様ブランドで!!」
「あんたのチョコにノアの名前つけて売るの!?」
「人気が出ると思って!!」
「本人に許可取りなよ」
「取ります!! でも先輩からも言っておいてください!!」
「……まあ」
フロストが端から静かに言った。
「魔王様は断ると思いますが」
「断ったら弁償代を誰が払うか、思い出してもらいます!!」
「……商魂たくましいですね」
「ありがとうございます!!」
さくらはため息をついた。
お金は借りられた。
ノアが何と言うかは別として。
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ギルドから帰ると、ノアはまだ素振りをしていた。
庭で。
アリアが縁側でそれを見ながらお茶を飲んでいた。
「おかえり、さくらちゃん。どうだった?」
「お金、借りられました」
「良かった」
「ひまりから。利子なしで」
「いい子ね、ひまりちゃん」
「代わりに向こうでチョコを売ってきてほしいって」
「商売上手ね」
「本当に」
ノアが素振りを止めて、こちらを見た。
「借りられたか」
「借りられた」
「……良かった」
「ただ」
「ただ?」
「ひまりがノアにもお願いがあるって」
「……何だ」
「向こうでのあちゃんチョコを売ってきてほしいって。ノアブランドで」
ノアは少し間を置いた。
「……断る」
「だと思った。でも弁償代のこと——」
「断ると言った」
「弁償代を誰が——」
「断る!!」
「ノア様ブランドのチョコ、売れますよ絶対!!」
ひまりがいた。
「なんでいるの!?」
「先輩が帰るタイミングに合わせて来ました!!」
「フロストの情報網!?」
「そうです!!」
「……ひまり」
ノアが木剣を下ろした。
「余のチョコを売る件だが」
「はい!!」
「余の名前は出すな。と前も言った」
「でもノア様のチョコって宣伝したら——」
「出すな」
「……ではノア作、で」
「ノア作、ならいい」
「やった!! ありがとうございます!!」
「ただし、売上の一部は余に入れろ」
「……どのくらいですか?」
「三割だ」
「二割で!!」
「三割だ」
「二割五分!!」
「……三割だ」
「……分かりました、三割で」
フロストが端から静かに言った。
「魔王様、交渉お上手ですね」
「余は交渉が得意だと言った」
「熊の件はすみませんでした」
「……触れるな」
「失礼しました」
さくらはこの会話を聞きながら、ため息をついた。
借金はできた。
チョコ売りの仕事も増えた。
旅費は揃った——はずだ。
「……ひまり、出発はいつにする?」
「商談の日程が三日後なので!! 三日後の朝に出発です!!」
「三日後か」
「準備はできますか?」
「する」
「ノア様は?」
「余はいつでも準備できる」
「頼もしいです!!」
さくらは空を見た。
三日後。
あかねに会いに行く。
あかねかもしれない人に、会いに行く。
本当にあかねだったら——何を話そう。
「……ピンク」
ノアが隣に来た。
「何」
「あかねとはどういうやつだ」
「……猪突猛進で、怒るとちょっと怖くて、でも誰より仲間思いな子」
「強いか」
「強い。私より戦闘向きかもしれない」
「……楽しみだ」
「戦おうとしないでよ」
「戦わん。ただ——お主の仲間に会うのは、初めてだから」
「フロストはいるじゃん」
「フロストは元々余の部下だ。話が違う」
「……まあ、そうか」
「楽しみだ」
「……うん」
さくらは少し笑った。
「私も、楽しみ」
「……そうか」
「早く会いたい」
「……三日後だ」
「うん、三日後」
ノアが木剣を持ち直した。
「……三日で少しでも強くなっておく」
「うん」
「あかねとやり合うことになったとき、情けない姿は見せたくない」
「やり合うことになるの前提なの!?」
「なるかもしれん」
「ならないようにしてよ!!」
「……善処する」
「善処じゃなくて確約して!!」
「……確約する」
「約束だよ」
「……約束だ」
ノアが素振りを再開した。
ぶん、ぶん、ぶん。
三日後の出発まで、カウントダウンが始まった。
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**【魔王の小さな冒険 其の十「魔王、熊に無視された件について」】**
のあちゃんは布団の中で、熊のことを考えていた。
陽動は成功していた。
熊がこちらを向いた。ついてきた。
完璧だった。
完璧だったのに。
「……滑った」
誰もいない暗闇に向かって、のあちゃんはつぶやいた。
「地面が湿っておった」
言い訳だ、と分かっていた。
言い訳だが、事実でもあった。
問題は、地面の湿り気ではなく、転がった先が箱罠だったことだ。
あと少しずれていれば、転んでも箱罠には当たらなかった。
あと少し。
「……あと少しだった」
悔しかった。
本当に悔しかった。
熊に無視されたのも悔しかった。
「余は魔王だ!! 脅威に見えないとはどういうことだ!!」
誰も答えなかった。
のあちゃんはもぞもぞと布団を被り直した。
三日後、出発する。
あかねとかいう魔法少女に会う。
さくらが「私より戦闘向きかもしれない」と言っていた魔法少女。
強い人間に会うのは、嫌いではない。
むしろ——楽しみだ。
魔力が戻れば余のほうが強い。
今は劣っていても、今は今だ。
「……今は今、か」
さくらの言葉を、また借りた。
今は今。
今できることをする。
三日間で、少しでも強くなる。
あかねとかいう魔法少女に、情けない姿は見せたくない。
なぜ見せたくないか——それはさくらの前で情けない姿を見せたくないから、だということに、のあちゃんは気づいていた。
気づいていたが、それ以上は考えないことにした。
布団の中で、目を閉じた。
熊め、と思った。
次に会ったら——と考えかけて、やめた。
次は別の依頼にするとさくらが言っていた。
まあ、それが正解だろう。
のあちゃんはすやすやと眠りについた。
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第十一話に続きます。
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**次話予告**
三日後の朝。
ひまりの商隊に交じって、さくらとノアは町を出た。
初めての、コルナの外。
道中、ひまりがやたらと話しかけてくる。フロストが荷物を完璧に管理している。ノアが「余は商隊の護衛だ」と言い張っている。
そしてようやく、目的の国が見えてきた。
旅商人が言っていた、赤い髪の王様がいる国。
さくらは城壁の前に立って、深呼吸した。
第十一話「先輩が本当に王様になってたんですけど?」 ――次回!
第十話までお付き合いいただき、ありがとうございました。
今回の熊討伐編は、物語の流れとしては「旅立ち前の一悶着」なのですが、作者としてはノアが初めてはっきりと失敗を悔しがる回でもありました。
これまでのノアは、自信満々で失敗してもどこか他人事のような態度を取ることが多かったのですが、今回は弁償という現実的な結果が伴ったことで、より真剣に落ち込んでいます。
それだけ、さくらとの旅を「自分事」として捉え始めている証でもあります。
また、ひまりの商人としての一面も本格的に前面に出てきました。
仲間として助けつつも、きっちり仕事を持ちかけてくるあたりは、彼女らしいところです。
そしていよいよ、次回からはコルナの外へ。
これまで町の中で完結していた物語が、ここから一気に広がっていきます。
赤い髪の王様――それが本当にあかねなのか。
さくらとノアにとって、そして物語全体にとって大きな転換点となる章が始まります。
引き続き、二人の旅路を見守っていただけたら嬉しいです。✨




