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目覚めの時②

 メイはお供えを捧げる時、耐熱皿の上に置き、ちょっと祈って、マッチで火をつける。

 するとパッとありえない燃え方をして、お供えは一瞬で灰と化す。


 小鬼は真似してみることにした。

 オーブンでも使える小鉢を調理台に出し、冷やしまんじゅうをその上に置く。


「…………」


 ものすごく食べたくなってきた。

 あわててよだれをぬぐい、あちこち引き出しをあけてマッチを探す。

 ない。

 メイが使っているマッチを拝借するのも気がひけて、しばらく悩み──


「お、そうそう、これがあるではないか!」

 小鬼は、見よう見まねでガスコンロの火を点火した。

 ぼっ、と青い炎が輪になって燃え出す。

 なかなかの火力だ。これなら自分の供え物でも、一瞬で灰にしてくれそうだ。


 ただしマッチとちがって、火を持って来ることはできない。

 小鬼は冷やしまんじゅうを持ちあげ、コンロの青い火の上に運んで、祈った。


暗黒神(マハーカーラ)よ、ワシの挑戦を受けずにくたばるなぞ許さぬ。これなる供え物を受け取るがよい」

 おおまじめに唱え、そっと冷やしまんじゅうを火に近づけていく。

「ンお! あちッ……あちちち……!」

 予想以上の熱を浴びてひるみ、


「あ」


 手がすべった。

 火の上に落ちた冷やしまんじゅうはじゅっ、と音を立て、同時にガスの火が自動消火する。


 香ばしいような、焦げ臭いような煙がうすくたちのぼり、小鬼はぼうぜんと、コンロの上で半分溶けている冷やしまんじゅうを見た。

 なにひとつ、灰になっていない。

「そ……そんな……」


 コンロが冷えるのを待って、小鬼は溶け残った冷やしまんじゅうをもそもそと食べて片づけた。続いてむっつり、コンロの掃除をしているところへ、

「ただいまー」

 メイがご機嫌で帰ってきた。


「あ、なんかいいにおいー」

 キッチンをのぞいてコンロの上の小鬼を見つけ、目を輝かせる。

「なにかお料理なさったんですか?」

「う……あ、いや……失敗してしもうて」


 しどろもどろでごまかす小鬼に、メイは鞄から奇跡の小花を二輪とりだし、さしだした。

「どうぞ。キバさん用のおかわりです。帰りのバスの中でつくりました」

 にっこり言われて小鬼は思わず手をあげて後ずさる。


「いやいや、ワシなんぞにそんな、もったいない! それは上で眠っとるそなたの神に……」

「キバさんもわたしの神さまです」

「……!」


 メイは、調理台に出たままの小鉢に気づき、奇跡の花二輪をそっと置いた。

「足りなかったら遠慮なくおっしゃってくださいね」

 言って、ぱたぱたと二階にあがっていく。

「…………」


 小鬼は、耐熱小鉢の中できらきら光の粒をふりまいている、奇跡の小花を見た。

 今度の小花は、レモンイエローと水色。

 甘くやさしい香りをかいだとたん、よだれがあふれそうになった。

 昨日、寝落ちしてしまうほどぱんぱんに食べたというのに、腹の虫までぐうう、と鳴る。


 食べたい。


 のどから手が出るほど、食べたい。


 しかし。


「…………」

 あの、憎たらしいほどバカ強い、常識のかけらも持ち合わせのない夜叉神が、いなくなってしまうかもと考えただけで胸がせつなくなった。

 こみあげる喪失感に、視界がうるむ。


「ち……ちがうぞッ、ワシは断じてオヤジ殿の仇に肩入れなぞしておらん! ワシのこの手でッ、引導渡してやらねば気がすまぬだけで……ッ」


 ごしごしと目をぬぐい、小鬼はあらためて、もらったばかりの奇跡の小花を見た。

 なんとかこれを、暗黒神(マハーカーラ)に喰わせたい。

 だが、ガスの火に落としてしまった冷やしまんじゅうは、灰にならなかった。


「いかようにすれば送れるのか……なにが足りなかったのかのう? 火力……ではなかろ。どう見てもマッチの火よりコンロの火の方が強い! では……祈り……念じる力か?」


 メイほどの祈念の持ち主でなければ、お供えはあんなふうには届かないのかもしれない。

 あるいは破壊神との契約があるからこそ、届くのかもしれない。

「わたあめがあやつのために積んでいる花にこれをまぎれこませ……いや、却下じゃ!」


 たちまちバレて、メイと猫神にやたらと感激されたり、ほめちぎられたりしそうだ。

 それはイヤだった。恥ずかしすぎるし、まちがってると思うし、とにかく絶対、イヤだ。


 小鬼にとって破壊神はあくまで、父鬼の仇である。

 メイや猫神のように純粋に、破壊神を思いやっているわけではない。

 ただ、死んでほしくないだけだ。

「…………」


 ふとひらめいた。

 指先から出る火花で火をつけたらどうだろう。

 メイの祈念には遠くおよばずとも、あの火花はいわば小鬼の念と力の結晶だ。


 小鬼は、小鉢にふっくらとおさまっている、二輪の奇跡の小花を見た。

 小さな手をあげ、そうっと指先を近づける。

「…………」


 自分の小さな火花では、奇跡の小花に火などつかないかもしれない。

 うまく火がついたとしても、お供えとして昇華せず、ただめらめらと、もったいなく燃え落ちてしまうだけかもしれない。


 だがそれでも、どうしても、小鬼は破壊神のためになにかしてやりたかった。

 小鬼はありったけの気合いをふりしぼり、そのすべてを指先に集める。

 ちりちりと指先が熱を持ち、青白く光りはじめるのも気にせず、毛を逆立ててうなった。


「クソいまいましい夜叉神めが! 貴様にとってこんな小花のひとつやふたつ、雨つぶひとつにも感じまいが、ワシのありったけじゃ。喰らえッ」


 ばきん!


「!」

 調理台の上で、青白い稲妻が炸裂した。

 瞬時に枝分かれし、壁にかけられたフライパンや、コンロの五徳、やかんを撃った。

 蛇口にもとばっちりが落ちて、青白い小蛇のような放電がいくつも流しを走る。


 至近距離から稲妻に直撃された小花ふたつは、撃ち抜かれた花びらを散らしながら、ふわりと宙に舞いあがり──

「!」

 パッ、と真っ白な、ありえない閃光を放ったかと思うと、一瞬で灰になった。


「…………」

 小鬼はあんぐりと口を開け、ごくわずかの灰が、ほこりのように散っていくのを見つめる。

 すぐになにもかも、あとかたもなくなった。

「は……はははは、うははははは、せ……成功! 成功じゃ……!」


 お供えがきちんと届いてうれしいのか、初めて稲妻を出せてうれしいのか。自分でもわからないまま小躍りしているところへ、メイがあわてて二階から降りてきた。


「キバさん? なんかすごい音がしましたけど、だいじょうぶですか?」

「わたあめ! やった! やったぞ、今、ちゃんとした稲妻が出たのじゃ! それで……」


 破壊神にお供えを届けることに成功した、とは言いたくない小鬼はあわてて口をつぐむ。

 気を取り直し、そ知らぬ顔で続けた。


「えへんうほん、あー……もろうた花じゃが、もう食べてしもうたゆえ、おかわりがほしい」


        ◆


 破壊神が戻ってきてから三日目。

 メイは今日もしぶしぶながら登校し、小鬼もついて行った。

 母も仕事に行き──


 猫神だけが、眠る小さな破壊神に寄りそって留守を守っている。

 猫神は薄目を開けて室内を見、わずかにしっぽの先を動かした。

 不思議な心地だった。

 メイの家、メイの狭い部屋を「我が家」と感じるようになるなんて──!


 クローゼットの前には、奇跡の小花で満杯のランドリーバッグがふたつ並んでいた。

 みっつめはメイの机のそばにあり、これにもすでに三分の一ほど花が入っている。

 馥郁(ふくいく)と香る空気を吸っているだけで、力が満ちていく。


 もはや害意のあるものやケガレているものなど、家に近寄ることすらできないだろう。

 メイの家は立派な聖域と化していた。

 あたし以外、誰も気づいないけどね──と猫神は考える。


 メイはもちろん無頓着だし、母は妖怪が見えるようになったとはいえ一般人。

──「最近なんだか、うちの中の空気がいいわね」

 と言うぐらいだ。

 小鬼も意外と鈍感だった。メイの霊気になじみすぎて、もう気にならないのだろう──。


 ゆっくりと──

 窓から射しこむ晩秋の日射しが移ろっていく。

 昼をまわり、午後になり、うっすら、光に夕日の色合いが混じってくる。

 その時。

「……!」


 猫神は小さな破壊神の気配が変わるのを感じた。

 ずっと、深い海の底に沈んだ小石のように遠くかすかだった気配が、急に厚みを増し、

「…………」

 小さな破壊神が、銀の目を見開いた。


 子猫姿の猫神にもたれて横たわったまま、数秒、状況を確認する。

 眠っている間、猫神がつきっきりだったことに気づいたらしい。

 起きあがりながら、猫神の横腹を、ねぎらうように軽くなでた。


「世話になったな。もういいぞ」


 猫神は仰天して息をのんだ。

 え? 今のはまさか、感謝? 夜叉神様が──?

 感激のあまりゴロゴロと、轟くほどのどの音が響きわたる。


 小さな破壊神は、やれやれ、やっと普通に動けるようになった、という面もちで身体をのばし、肩を回した。真顔で続ける。

「礼になにかしてやろう。なにがいい」


「!!!」


 猫神は今度こそ正真正銘あっけにとられ、ぽかんと口を開けた。

 のどの音さえ、停まってしまった。


 夜叉神様が自分のようなものに礼をする? ありえない!

 驚きのあまり毛を逆立て、絶句する猫神を見て、小さな破壊神は言った。

「思いついたら遠慮なく言え」

「は……はい」


 驚きもさめやらぬうちに、階下の玄関ががらっと開く音がした。

 メイの足音がばたばたと階段を駆けあがってくる。

「スサノオ!」


 歓喜に全身を輝かせて飛びこんでくるメイから遅れて、小鬼はこっそり影伝いに入ってきた。

 メイが小さな破壊神に、

「もうどこもなんともありませんか? ほしいものはないですか?」

 矢継ぎ早に話しかけてうるさがられているのをよそに、小鬼は自分のスペースにすわる。


 子猫姿の猫神はゆっくり破壊神のそばを離れ、本棚の上で猫らしくのびをした。

 小鬼が広げた読みかけの本の横に、ぽん、と跳び降りてくる。


「メイはどこで、スサノオ様がお目覚めになったのに気づいたんだい?」

「帰りのバスの中じゃ。すわってお供えをつくっておったのじゃが、いきなりぴょん、と立ちあがって『もうすぐ起きそう!』とぬかしおってな。それからずうっとあの調子じゃ」


 ことさらよそよそしく、自分には関係ないような顔をつくろう小鬼に、猫神は笑った。

「あんたはうれしくないの?」

「あやつはワシの、オヤジ殿の仇ゆえ」

「あら、初耳」


「とはいえ喜んでおこうぞ。ワシの手で討ち取らぬうちに、勝手に滅びてもろうては困る」

「おやまあ」

 猫神はいたずらっぽく小鬼に顔を寄せ、秘密めかしてささやく。


「それだけには見えなかったけど」

「!」

「いいねえ、素直じゃなくて。可愛い、可愛い」

 言い返す間もなく、猫神は上機嫌のひと跳びで──入れたばかりの真新しい窓ガラスを、幻のようにするりとすり抜け──屋根へ出た。たちまちどこかへ姿を消す。


 そこへ、メイがすっとんきょうな声をあげた。

「あっ、いけない! お母さんにたのまれてた買い物忘れて、まっすぐ帰ってきちゃった!」

 あわててお財布と鍵を制服のポケットに入れる。

 小鬼も同行しようと本を閉じたところに、メイがふり返って止めた。


「あ、キバさんはどうぞそのまま! すぐそこのスーパーで玉ねぎ買ってくるだけですから」

「え、あ、いや……」

「いってきます! 留守番お願いしますー」

「う……き、気をつけてな」

 たちまち破壊神と部屋にふたりきりになってしまい、小鬼はぎくしゃくと本棚に背を向ける。


 背中に小さな破壊神の視線を感じた。

 なぜか知らないが、やけに見られている。

 おかげで本を開いても目が字面をすべるばかりで、ぜんぜん意味が頭に入ってこない。


 ええい、しくじった! なんと言い訳してでもわたあめの頭にしがみつき、無理やり一緒に出て行けば良かったわい! ──と激しく後悔しはじめた時。


「おまえ」

 小さな破壊神の声に、小鬼はぎくりと首をすくめた。

 背を向けたままかろうじて、平静な声をしぼり出す。


「……なんじゃ」

「俺が寝てる間、まさか一度も襲わなかったのか?」

 不思議でしかたがない、という口調できかれて、小鬼はカッとなった。


 思わず全身で向き直り、本棚と同じ高さまで飛びあがって叫ぶ。

「襲うわけなかろうがッ!」

「なぜだ」

 と真顔でききかえす小さな破壊神はと見れば、子猫のいなくなった本棚の上に、片ひじをついて寝そべっていた。死にかけたことなどもう忘れたかのように、いつもどおりの風情だ。


 小鬼はますますカッとなり、牙をむいてわめく。

「見損なうなよッ! ワシは闘えぬほど弱っとる相手を襲うような恥知らずではないわッ!」

 しかし小さな破壊神はますます意外そうな顔をした。

「バカだな。格上の相手を倒したいなら、弱ってる時こそねらえ」

「こっ……この外道(げどう)ッ!!!」


 激怒のあまり雷気を帯びた小鬼の全身から、ばちばちと無数の小さな稲妻が散る。

 怒りにまかせて一発お見舞いしてくれようか、と思った時、小鬼はぎょっとした。

 破壊神のいつもつめたい銀の目が、神々しいほど穏やかな微笑にやわらいでいる──。


「……!」


 瞬間、気づいた。

 破壊神がこの家を去った時、猫神はまだ、ただの子猫だった。

 この神は、都合のいい守り手がいるなどという期待抜きで、ここに戻ってきたのだ。


 ここ。


 メイの祈りがこもった、この世でいちばん、破壊神にとって安全な場所。

 同時に、破壊神を父の仇とつけねらう、小鬼がいる場所だ。


 老獪(ろうかい)(いくさ)神が、小鬼の存在を忘れるわけがない。

 小鬼に襲われれば、闘うどころか逃げる力もないことは当人がいちばんわかっていたはず。

 なのに戻ってきた。

 つまり、この神は──


 もし小鬼にその気があるなら、命も霊玉(ウパーラ)も、なにもかも全部、小鬼にくれる気だったのだ。


「…………」


 小鬼の身体から力が抜けた。


 不意に、実感する。

 メイが言ったとおりだ。

 この神は確かに、オヤジ殿を救うために喰ったにちがいない。

 オヤジ殿はほんとうに、この神に礼を言って、死んだのだ──。


「…………」


 ぶわっと熱いものがこみあげ、両目からあふれた。

 宙に立ちすくんだままの小鬼の胸の毛並みが、見る間に大粒の涙でぐしょ濡れになっていく。

 止まらない。


 小さな破壊神はまばたきもせずそのありさまをながめ、心底、不思議そうに言った。

「なぜ泣く」

「き……き、貴様があまりにも……()()()()()()()()()!」


 小鬼は悟る。

 この神は強い。

 ものすごく強い。

 でも同時に──ありえないほど弱い。

 あらゆる限界や限度を無視し、おかまいなしに危険を冒すからだ。


 自分が守ってやらねばならない。

 守ってやりたい。

 メイもこの神も守り抜き、行き着けるかぎり遠い未来まで送り届けてやりたい──。


 そう思った瞬間、小鬼は全身に、今までになく大きな力が満ちるのを感じた。

 さわってみたわけでもないのに額の角が確かに少し、のびるのを感じた。

 自分はこのために生まれたのだ、と直感する。


 小鬼は両腕でごしごし顔をぬぐい、涙で湿った胸を張った。

 小さな破壊神に宣言する。

「これからはワシが、そなたの師匠になってやろう!」

「ふうん?」


 小さな破壊神はあきれも怒りもせず、寝そべったまま好奇心に目をきらめかせた。

「なにを教えてくれるんだ。文字ならいらんぞ」

「まず常識じゃ! 良いか、そなたが今生きておるのはいっそ運が良いだけであって……」

「そのとおりだ。それがどうした」


 どうでもいいことみたいに即答されて、小鬼はいきり立った。

「ええいッ! わかっておるなら少しは自重せいッ! そのような生き方、命がいくつあっても足りんぞッ!」

「いくつあっても使えば減るだろ」

「減らすなあッ!」


「命は使うものだ。とっておくものじゃない」

「!」

 闘志の神の気に打たれ、小鬼は息をのむ。

 小さな破壊神はしかし気づいた様子もなく、思いつきに目を輝かせた。


「そういえばおまえ、よく影を抜けて移動してるが、さっき猫がやったみたいに窓を抜けることはできるのか」

「あまりやらぬが、できることはできるぞ」

「よし、じゃあその技を教えろ」


「それはかまわぬが……なにゆえまた、そのようなつまらぬ技を……」

「つまらんことはないだろう。いちいち窓を開けなくても、割らずに出られる」

「……そういえばそなたは、ガラスをぶち抜いて出ておったな」

 思い出してぶつぶつ言う小鬼をよそに、小さな破壊神は平然と続ける。


「代わりになにか、教えてやってもいいぞ」

「……へ?」

「知りたいことがあれば言え。わかることなら教えてやる」

「…………」


 思っていたのとはちがう展開だが、小鬼はなんだかどきどきしてきた。

 最強の戦神に闘い方を習うチャンス!

 だがなにから習えばいいだろう? 飛び方? 敵の目の盗み方? サバイバルのコツ?

 それとも──


 小鬼はごくりと緊張にのどを鳴らした。破壊神が目覚めたらまずきいてみたかったことだ。

「ま……まわりが強いものばかりで生き残れそうもない時、どうすればよい?」

「生き残れ」


「だ、だからどうやって……」

「できることをしろ」

「ぐぬぬぬ、で、できることがほとんどない場合は……」

「ほとんどないってことは、なにかはあるんだろ。できることをしろ」

「や、役に立ちそうもなかったら……」

「工夫しろ」


「なっ、なにも思いつかなんだら……」

「なにかしろ」

「なにかってなんじゃ! それでしくじったら……」

「死ね」

 簡単だろう? と言わんばかりのあっけらかんとした口ぶりに、小鬼はぶち切れた。


「貴様にきいたワシがバカだった! この唐変木の野蛮人の大たわけめがッ! そんなんで、そんなんで生き残れるわけが……」

 いや、こいつは生き残るのだ、という証拠を目の前にしてますます頭にきた時、


「ただいま帰りました! お話中、すみません、すぐ出ますから」

 メイが帰ってきて、いっさい気にせず私服に着替え始めた。

 小鬼はすっかり気をそがれ、ため息とともにふよふよと宙を飛び、自分のスペースに戻る。


「おじゃましましたー。夕ご飯の下ごしらえだけしてきます」

 ふたたびばたばたとメイが出て行き、静かになったので本でも読もうと広げた横に、小さな破壊神が音もなく降り立った。


 ぎょっと顔をあげる小鬼に、にこりともせず要求する。

「おまえの番だ。窓を割らずに抜けるやり方を教えろ」

「うぐ」


 小鬼はあわてて窓を見、破壊神を見た。

 試して失敗してガラスが割れたら、メイに迷惑がかかる。


「よ……よかろ。まずは窓ではなく、紙きれを抜けてみるあたりからはじめようかのう」

「なぜだ。窓にはまってるあれは、紙じゃないぞ」

「なんの、抜け方は同じじゃ。紙ならしくじって破れても大事ない。代わりもきく」

「なるほど」


 破壊神は納得し、小鬼は教えた。

 せいいっぱい教えたが──


 驚いたことに破壊神は、ちり紙一枚、抜けられるようにはならなかった。




 メイはその夜、奇跡の花を破壊神に山盛り、猫神に十個、小鬼にも四個くれた。

 小さな破壊神は一瞬ですべてを灰にし、あくびをした。まだ眠いらしい。

 猫神はご機嫌で奇跡の花を持ち、いそいそと屋根に登っていった。


 小鬼は壁に向かってすわった。

 三日ぶりの奇跡の花だ。

 破壊神に供える必要はもうなさそうだから、自分で食べよう──と、そっと口に入れる。


 甘く、軽やかに感じられた。

 澄んだ空気のように心地よく感じられた。

 気がつくとひとつ丸まる、一気に食べてしまっていた。


 びっくりして、それから額の角に、おそるおそる手をやって確かめる。

 かんちがいではなかった。

 ずっと丸い豆粒のようだった角の芽が少しのびて、先が鋭くなっている。

 感動と誇らしさに、じんわり胸が熱くなる。


 メイは夕食をすませ風呂からあがると、奇跡の花づくりに戻った。

 小さな破壊神はまた、眠っている。


 楽しそうに夜なべするメイの横で、小鬼は本を開いた。


        ◆


 夜が明けて──

 霊狐との約束の日になった。     




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