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幕間  家猫修行・その2②

 子猫は小鬼からもらったごはんをきれいに平らげ、顔を洗っているところだった。

 実のところ、きちんと計量されたぶんではぜんぜん足りなかったので、

「早う大きくなれ。強く育てよ」

 などと言いながら、そばで見守っていた小鬼におかわりをせがんだ。


 小鬼はちょろい。

 すりつき、頭をぶつけ、みーみー、にゃーにゃー熱烈にせがんだらすぐ、

「ううむ、ちと足りなかったかのう。ではもう少しだけ」

 ひとさじ、おかわりをくれた。


 夢中でがっつき、もうひとさじ、ねだり落とそうとふり向いたら、小鬼は、ごはん入りのタッパーを冷蔵庫に片づけているところだった。これ以上はムリそうだ。

 残念! と思ったところに、母が帰って来た物音がした。


(やった! おかあさん、おかえりー)

 子猫は大喜びで玄関へ駆けだした。

(おかあさん、おかあさん、あたしまだ、ごはんもらってなぁーい!)

 玄関で靴を脱いでいる母に大声で訴えると、母がふり返って笑顔でのぞきこんでくる。


「まあまあミーちゃん、お出迎えありがとう。元気ねー」

(うんげんき! でもごはんー、ごはんちょーだい! おなかすいたー)

「あら、まだごはん、もらってないみたいな顔でおねだりしてるけど……」

(そう! そーなの! まだもらってないのー)


「でもミーちゃん、お鼻にフード、ついてるわよ」

(えっ)

 子猫は驚いて前足をあげ、あわてて鼻面を不器用にこすった。


 ウェットフードのかけらが前足についた。

 すばやくなめとり、飲みこみ、なにもありませんでしたよ、みたいな顔で母を見あげる。


 母は目を丸くし、ぽかんと見おろしていた。

 スーパーの袋とケーキの箱を受け取り、キッチンに運ぼうとしていたメイを呼び止める。

「ねえメイ、今の、見た?」

「ううん、なにを?」


「ミーちゃん、人の言葉がわかるみたい……! お鼻にフードついてるわよ、って言ったら、えっ、みたいな顔して、あわててお顔洗ったの! 絶対、言葉わかってる!」

 子猫はどきっとした。


(えっと……えっと……ばけねこってばれたら……おいだされちゃう? えっと……)

 それとも、化け猫だと気づいてもらう方が、良かったんだっけ──?

 もう、思い出せなかった。


 それより母の大声の衝撃の方が大きくて、目を真っ黒にしてすくんでしまう。

 すると母はすぐ表情と雰囲気をやわらげ、いつもの優しい声に戻ってささやいた。


「ミーちゃん、天才! だと思ったわー。ケージも簡単に開けちゃうし、いい子だし」

 ふわっと抱きあげ、なだめるようになでてくれる。

「でも晩ご飯、倍食べちゃダメよー。もうメイにもらったんでしょ」

(ちがうよ、ちっちゃいオニにもらったんだよー)

 みーみー、せいいっぱい返事をしているところへ、居間から楓が出てきて挨拶した。


「おばさま、こんにちは。おじゃましてますー」

「野々宮さん、いらっしゃいー。遊びに来るの、幼稚園以来じゃない? 十年ぶりぐらい?」

「あはは、猫ちゃん飼ったって聞いて、矢も楯もたまらず見に来ちゃいました! ミーちゃんめちゃくちゃ可愛いですね。動画、撮りまくっちゃいました」

「わかる! あたしのスマホもミーちゃんの画像でいっぱいよー」


 母は子猫を「いい子ね」と居間の床におろし、食卓の方へ向かいながら楓に言う。

「野々宮さん、ケーキどんなのが好き? とりあえずいろいろ買ってきたけど」


(けーき!)

 妙においしそうな響きに、子猫は目を輝かせた。

 それに甘い香りがする。子猫は鼻をひくひくさせ、ぺろりと舌なめずりした。

 しかし、とことこと食卓へ向かおうとする目の前に、小鬼が立ちふさがった。


「これ、よさぬか。人間の菓子には、猫には毒なものがたくさん入っておるのだぞ」

(あたいはねこじゃないもん、ばけねこだもん)

 と、言ってはみたものの、ふと頭をかしげる。

 そういえば、ばけねこ、ってなんだっけ──?


「食い意地が張っておるのう! よいか、チョコレートや人工甘味料、木の実、カフェインは猫には禁物なのじゃ。つまみ食いなどまかりならぬ、ここにおれ」

(えー、えー、だってみんなばっかりおいしいもの、ずるいー)

「しょうがないのう。ではひと口だけ……」

(えっ、なになに?)


 すうっとさりげなく食卓から遠ざかって飛ぶ小鬼を追って、子猫は走った。

 居間のソファ近くまで来て、小鬼は食卓の様子をちらっとうかがう。楓と談笑している母がこちらに背を向けてすわっていることを確認してから、腹の毛の中に手をつっこんだ。


(なに? なにくれるの? はやくー、はやくちょーだい!)

 期待に燃えて後ろ足で立ちあがり、前足で小鬼を捕まえようとする。

 小鬼は子猫の攻撃をかわして降りてきて、床にそっと、ドライフードを一粒置いた。


「ひと粒だけじゃぞ。これで今日のぶんのおやつはおしまいじゃ」

(わーい!)

 子猫は飛びついて、ドライフードを乳歯で噛みしめる。


 かりっ、かりりっと気分良く噛み砕き、たちまち飲みこんだ。

 離乳食とはひと味ちがった香ばしい余韻に、大満足で舌なめずりする。せっせと顔を洗い始めた子猫の頭からはもう、「けーき」のことはきれいさっぱり、消え失せていた。


(ありがとー、オニさんだいすきー)

 感謝の頭突きをかます子猫を、小鬼はよしよしとなでてやる。

「賢い猫じゃ。早死にするでないぞ。長生きすればそなたほどの猫、きっと猫又になれよう」

(ねこまた、ってなーに?)


 たずねたが、通じなかったようだ。

 小鬼は自分よりずっと大きい子猫をなでながら、ぶつぶつと続けた。

「しかし子猫の成長のなんと早いことよ……! 家に来てほんの半月でもう歯が生えそろい、顔つきもぐんと猫らしゅうなった。身体ももうこんなに大きく……うらやましいのう」


 ため息をつき、生まれたてからまったく変わらない、毛玉サイズの我が身をかえりみる。

「子猫がめきめき育つのはしっかり食うからか……ワシも早う大きゅうなりたいが……いくら食うてもさっぱり……どこも大きくならん」


 つまようじのような細腕に、ぬん、と思いっきり力こぶを作ってみるが、ほとんど太くならず、小鬼は落胆に肩を落とす。

 子猫には小鬼のひとりごとの意味はわからなかったが、落ちこんでいるのはわかった。


(あそぼ! あそぼ! オニさん、あそぼ!)

 子猫がぴょん、ぴょんと横っ飛びして誘うと、つきあいのいい小鬼はすぐ乗った。

 ソファの陰に隠れたかと思うと、影から影に抜けて、ひょこっとヘンなところから顔をのぞかせる。逃げ上手の小鬼相手に、鬼ごっこに夢中になっていると、


「えーっ、メイがモデルデビュー!? いつ?」

 母の大声に、子猫はびっくりしてふり返った。

 楓も、母の気迫にいささかたじたじとなりながら答える。


「えと、一昨日の木曜日……です」

「なんで言ってくれなかったの! 知ってたら絶対、お休み取って見に行ったのに!」

 すごい剣幕でテーブル越しに身を乗り出す母を、楓とメイはなだめようとがんばる。


「それがその、前から決まってたわけではなくて、ですね……」

「わたしまだ研修生だし、野々宮さんの撮影、見学に行っただけだったの。それがたまたま、同じ建物の中で準備中だった撮影に、モデルさんが来られなくなっちゃって……」

「あ……つまり代役ってこと?」


「そう、そうなの! 代役たのまれて、それでいきなり撮影になっちゃっただけで……」

()()()()()()()! 研修生なのにプロの代役たのまれるなんて、メイ、優秀なのね!」

 まぶしいばかりの賞賛に顔を輝かせて言う母に、メイはあわてた。


「ちっ、ちがうの、ぜんぜん、そ、そういうんじゃなくて……」

「あら、いつもあんなにがんばってるんだから、評価されて当然だとお母さんは思うわ」

「ほ、ほんとにちがうの! たまたま、身長百六十センチ以下のモデルさんじゃなきゃいけない撮影で……ほ、他にそんな背の低い人いなかったから、シロウトのわたしが……」


「運も実力のうち!」

 母は自信たっぷりに言い切って、うれしそうに続ける。

「貴重な経験積めて、良かったわね! それでその写真、いつ見られるの?」

「え……よ……よく知らなくて……」


 うろたえるメイの横から、楓が助け船を出した。

「来月にはサイトに告知が出ますから、リンクから掲載誌のサイトに行けば見られますよ」

「わーい、楽しみ! お父さんにも知らせなきゃ! 野々宮さん、教えてくれてありがとう」

「いえいえー」


 食卓を片づけ始める母を手伝いながら、メイはおそるおそる母の顔色をうかがう。

「あの、お母さんほんとに……ほんとに写真……見たいの?」

「娘の晴れ姿だもん、とーぜんでしょ!」

「み……見なくていいのに……」


「えー、なんでよ」

「だ……だって……恥ずかし……」

「あははは、モデルになろうって子がなに言ってんの! モデルさんなんてうんと話題になって、大勢に見られてなんぼでしょ! 身内相手に恥ずかしがっててどーするのよ」

「あう」


「まかせて! 告知出たら知り合いにもどんどん宣伝するし、仕事仲間にもシェアして……」

「や、やめてーーー」

 耳たぶまで赤くなって顔をおおうメイをぽかんとながめて、母ははたと真顔になった。


「まさか……お母さんに見られたら困るような写真なの? 下着の広告とか……まさか……」

「ご心配なく! 有名誌企画のクリエイティブな写真です! 肌の露出もありませんっ」

 楓があわてて割りこんだ。


「うちの事務所、イメージコントールに厳しいですから! モデルに変な仕事なんか絶対、させません。それにメイの撮影、見ましたけど、あたしの目から見ても出来、良かったですよ」

「まあ、ほんとに? そういうことなら……」

 母が安心したところで、楓はタイミング良く切り出す。

「それで、あの……そろそろ、おいとましなきゃなんですけど……」


「あ! そうよね、忙しいのにひきとめちゃってごめんなさいね」

「こちらこそ、夕飯時に長居しちゃってすみません。で……帰る前に久しぶりにメイの部屋、ちょっと見たいなー、なんて……メイ、ちょっとだけ、いい?」

 楓に期待に満ちた目で見られて、メイはひるんだ。


「えー……あたしの部屋、幼稚園の時と同じで……せまいよ? ち……散らかってるし……」

「いいからいいから」

 楓はメイをキッチンから連れ出し、母には「ケーキごちそうさまでした! あとはささっと帰りますんで、どうぞおかまいなくー」と挨拶して、いそいそと二階へ向かう。


 居間から出たところで、メイの耳もとでささやいた。

「あんたの神さまにご挨拶もしないで、帰れないからね」

「スサノオはそんなこと、気にしないよー」

「あたしが気にするの」

 そこへ、キッチンから母の声が響いた。


「メイー、ミーちゃんがそっち行ったからー」

「あ、はーい」

 と答える足もとを、子猫はぴん、としっぽを立てたまま、軽快な駆け足ですり抜けた。

 誰よりも先に階段の下にたどりつき、目をきらきらさせてふり返る。


(うえにいくんだよね! あたいもいっしょにいくー)

「えっ、ちびニャン、あたしたちが二階に行くってわかって来たみたい!」

 驚く楓に、メイが笑ってうなずいた。


「ミーちゃん、わたしの部屋が大好きで、わたしについてあがりたがるのー。前は、家に誰もいない時によく、ひとりで二階にあがって部屋に入ったりしてたんだけど……」

 と説明しかけたところに、母がキッチンから出てきて廊下に顔をのぞかせる。


「メイが下に来る時は、ちゃんと連れて降りてきてね! あんまり冒険させないでやってね」

「はーい」

「母者は心配症じゃのう」

 宙を飛んで追いついてきた小鬼がつぶやき、メイは笑った。

「でもミーちゃん、高いところに登ると、ひとりじゃ降りられなくなっちゃうし」


「あ、それ、子猫あるある!」

 猫好きの楓は目を輝かせる。

「降りられなくなって『助けてー』って鳴いてるミーちゃんも撮りたい」

「ええー」


 やっとメイが階段下に来たので、子猫は後ろ足で立ちあがり、前足で宙をかいてねだった。

(おねえちゃん、だっこ! だっこしてぇ)

 母が子猫といる時、メイを「おねえちゃん」と呼ぶので、いつのまにか子猫の中でメイは、「ちいさいおかあさん」から「おねえちゃん」に変わっていた。


 実のところ、意味の差はよく、わからないが、

「はいはい」

 そっと、すくいあげるように抱きあげるメイの手の優しさに、子猫は思わずのどを鳴らす。

 メイの胸に抱かれて、とんとん、と階段を上へ運ばれながら、


(ありがとー、おねえちゃん)

 ぐりぐり顔をすりつけると、メイは頭をふわっとくるむように、なでてくれた。それだけでなく、優しい指先で子猫の額を、母猫が子猫をなめるように、なでてもくれる。

 これをやるのはメイだけだ。


(おねえちゃん、すき! だいすきー)

 メイの手の中でうっとりして、なんのために抱っこされたか忘れたところへ、楓の声がした。


「へえ、部屋のドアにネームプレートかけてるんだ。可愛いじゃん」

「小五の時かな? 工作で作ったのー」

「? その、ドアの上に貼ってある付箋は、なんのおまじない?」

「あ、それは念ではじく練習用で……」

「念で? はじけるの!?」


「うん。できるようになったから、部屋の中のだけ残して、あとははがして回ったんだけど、ここ、忘れてたー。あとで踏み台持ってきて……」

「とったげるよ」

 長身の楓はメイの頭ごしに手をのばし、付箋をはがした。取ってしまってから気づいて、


「あ! 念ではじくとこ、見せてもらえば良かった!」

「ミーちゃん抱っこしてるから今はちょっと……あとでね」

 がちゃ、とドアのノブが回る音に、子猫はハッと本来の目的を思い出した。


 メイの腕を蹴って跳びだそうとじたばたし、メイがあわてて、床におろしてくれる。

 メイが灯りをつけるより早く、部屋に駆けこんだ。

(かみさま! かみさま!)

 みーみー鳴きながら勇んで本棚をよじ登りかけたところに、メイが追いついて抱きとる。


「ミーちゃん、ほんとにスサノオが大好きで……」

 本棚のてっぺんにあげてもらい、子猫は大喜びで、眠っている小さな神に跳びついた。


(かみさま! すさのー)


 どーんと身体ごとおおいかぶさっても小さい神が目覚めなかったので、そばにすわり直し、ゴロゴロのどを鳴らしながら、おねだりの踏み踏みをする。

(おきてー、ねー、おきてー)


「え、え、ミーちゃん、神さま踏んで……あ、あんなことしちゃって平気なの?」

 楓が心配そうにメイにささやいた時、子猫はびりっ、としびれるような霊気を浴び、ぼん、と毛を逆立てた。本能的に動きが止まり、のどのゴロゴロも止まる。

 衝撃に真っ黒になった目で見おろすと、神のつめたい銀の目と視線が合った。


「なんだ、またおまえか」

 うるさそうにうなる小さな破壊神に、子猫はゴロゴロ音を再開、親愛の頭突きをかます。

(わーい、おきたー、わーい!)


「ずうずうしいやつめ」

 ぶつぶつ言いながらも、小さな破壊神は起きあがると、場所をあけてやる。


 子猫は大喜びで、空いた「ど真ん中」に寝転がった。小さな身体をぞんぶんに伸ばして気持ちよさそうにのびをし、くねくねすりすり、ご機嫌で転げまわる。

 ついでに小さな破壊神を前足でちょいちょいし、鼻面でキスしようとしてかわされた。


「さっさと寝ろ」

 破壊神はねぼけまなこで、子猫のちょっかいをめんどうくさそうによけながらうなる。

 それからやっと、目をまん丸にして見つめている楓に気づいてふり返った。


「なんだ」

 楓は挨拶をしに来たつもりだったのに、まったく予定外のことをつぶやく。

「あ、あの……写真、撮ってもいいですか」

「?」


 よほど眠かったらしい。小さな破壊神は「写真」がなんだったか思い出すのに手間取り──その隙をついて子猫は、破壊神の後ろ頭をなめることに成功する。

 だが、ざりっとやったとたん、


(!)


 破壊神の霊気に触れ、感電したような衝撃が、小さな身体を貫いた。

 舌どころか四肢までしびれ、子猫はふたたびぼん! と毛を逆立てる。

 小さな破壊神は、気づかなかった。

 ようやく写真を思い出したらしい。ああ、あれか、という顔になり、無関心に言った。

「好きにしろ」


「あ……ありがとうございます!」

 いそいそとスマホを取り出す楓に、メイがそっと耳打ちする。

「あのね、たぶんスサノオ、写真に写らないよ」

「え……そーなの?」


「わたしが撮った時にはダメだった。画像、真っ白になっちゃって……」

「あたしならどーかな。えいっ……ああっ、なにこれ、あんたの神さままぶしすぎて白飛びして……ミーちゃんの耳の……さきっぽしか写ってない!」

「あー、やっぱり」


「いやちょっとカメラをひいて撮れば……うーん、壁しか写ってないや。でもでも」

 あれこれ条件を変え、何度もトライする楓を、小鬼がちょっとつついた。


「良かったらその、ワシ……ワシも撮ってみてくれんかのう」

「え、いいよ? どうかな、キバ君は写るかな……あ、ちゃんと写るじゃん! て言うか、ぷくくく、キバ君なに? なんでピースサイン? ぷはは、なんてお茶目な心霊写真!」

 わいわい盛りあがるみんなを前に、子猫はぼんやり、まばたきする。


(なんだっけ……なんだっけ。あたい、なにかすること、あったような……)


 破壊神の「味」の衝撃のせいかもしれない。

 一瞬、恐ろしいほどの切迫感と絶望感が心を塗りつぶし、子猫はすくんだ。


 なんだか、死の危険に直面している気がした。

 怪物にぱくり、とひとのみにされかけているような。

 目もくらむほど高いところで足を踏みはずし、はてしなく落ちていくみたいな。


 ああ。


 なのに。


 おなかはいっぱいだし、よく遊んで耳の先までぽかぽかで、心地よさのあまり、子猫は思わず大あくびをした。

 母もメイも小鬼も、みんなみんな優しいし、怖くて小さな神でさえ、じゃけんにしない。


(しあわせ……すごく、しあわせ)


 夢見心地で、子猫はもぞもぞと丸くなる。


(これいじょう、なんにもいらない。ずうっと、ずううっと、このままがいい……)


 すう、と子猫が眠ってしまうのを待って、小さな破壊神は子猫の腹を枕に横になった。

 こちらもたちまち眠りこむ。

 小鬼撮影会に夢中の一同は、子猫と破壊神が寝てしまったことにしばらく気づかず──




 子猫はこの日以降、人の言葉で考える力を、失った。

   

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