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用心棒、がんばる①

 楓と別れ、急いで教室に向かいながら、メイは頭の上の小鬼に小声で話しかけた。

「あの……キバさん?」

「なんじゃ」

「その……教室の中までついていらっしゃるおつもりですか?」


「うむ、どこへでもついてゆくぞ。なにしろワシは、用心棒なのだからな!」

「ではその……授業中はなるべく静かにしていただけると、その……助かります」

「あいわかった」

 あんまり調子よく返事をするのでかえって心配になり、ためらいがちにつけ加える。


「文房具とか教材とか、スピーカーとか先生の機材とかに……いたずらしないでくださいね」

 すると小鬼は、小バカにしたように鼻を鳴らした。

「ワシはそんなつまらんいたずらなぞせんぞ! コドモではあるまいし」

「それなら良かったです。助かりますー」


メイが本気でほっとしたのが伝わったらしい。

 小鬼は、けげんそうにきいた。

「なにゆえ、そんなつまらんことをわざわざ注意するのじゃ」


「ええと……前に困ったことがあって……その……」

「つまりあの守護神めは、そなたが困るようなことをやらかしたことがあるのか」

「最初のころ……ちょっと……」


 文字が読めない破壊神は、本を広げた机は敬遠し、あまり近づいてこない。

 しかし化学実験中の試料を思いつきで混ぜ、発火させてしまったり、教卓に置かれた機材のスイッチを勝手にいじって先生を驚かせたり、といった事件は何度か起こしていた。


「最近はぜんぜん、やらなくなりましたけど」

 まず、校舎に入ってこなくなった。

 メイが念での意思疎通を覚えてからは、用がなければついて来ることさえなくなった。

 だいたい家で寝ている。

 時には、どこかへ出かけることもあるようだが──。


(ちょっと、さみしいかも)

 などと思うメイの頭の上で、小鬼がぐっふっふ、と不穏なふくみ笑いをもらした。

「なにがおかしいんですか?」


「これが笑わずにいられようか。なんじゃあやつ、ガキなのか。幾星霜(いくせいそう)を経てなお、ガキか」

「キバさんだって、コドモでしょう?」

「いっしょにするな! ワシは学究心に富む鬼なのじゃ」

 ふん! と鼻を鳴らす小鬼に、メイは目を丸くする。

「むずかしい言葉を知ってらっしゃるんですね」


 教室に近づき、人が増えたので口をつぐむと、小鬼も察して沈黙した。

 午後一番の授業は日本史だった。

 メイは今日も教科書の陰でこっそり折り紙を広げ、お供えづくりに熱中する。

 合間にふと目をあげて、驚いた。


 小鬼が、広げた教科書の上に浮いている。

 ふわふわと紙面に近づいたり、遠ざかったり。

 それだけではない。

 おおまじめに黒板と図版を見くらべ、解説文を指でなぞり、先生の講義にふんふんとうなずく。そのうえなんと、正しいタイミングで、そうっと教科書のページをめくった。


(うそ! キバさん、講義聴いてる! 教科書、読んでる!)

 小鬼があまりに熱心に授業を受けているので、メイもつられて途中から講義を聴き始め、久しぶりにノートまで取ってしまった。


 休み時間になると、小鬼はメイが日本史の教科書を片づけるのを名残惜しそうに見送り、

「のう、うちに帰ったあとにでも、その興味深い書物を読んでもよいか」

 こっそり耳打ちするので、メイは仰天してうなずいた。

「も、もちろんいいですよ!」

 小鬼は無言でぴょんぴょん跳びはねた。喜びの表現らしい。


 次の授業は英語だった。

 小鬼は英語は読めないらしく、むずかしい顔で教科書をにらんでいた。しかしほどなく、辞書の発音記号のページを発見。発音練習の時、小声で参加してメイの度肝を抜いた。


 最後の授業は数学だった。

 小鬼は、数式の解説がはじまって五分で、こっくり船をこぎ始めた。それでもしばらくはがんばっていたが、ついにもぞもぞとメイの頭の上によじ登って──寝た。


 小さいのにぐおー、ぐごー、といびきをかくので、メイは必死で笑いをこらえる。

 先生の目にとまってしまった。

「お、神納、自信ありげだな。問い4、前に出て解いて」

「えっ? じ、自信なんかないです、ないですー」


 当然ながら、黒板の前で必死で数式を解くメイの頭の上で、おまんじゅうサイズの小鬼が豪快ないびきをかいていることには誰も、気づかなかった。

 小鬼は授業が終わると、あっさり目を覚ました。


「んお? 算学のジュギョウは終わったのだな」

「あ、はい。数学のこと、算学っていうんですね。古風ですね」

「おお、そなたの書物には数の学と書いてあったな。あれはスウガクと読むのか」

「はい」


「うむ、うむ。しかしあれは、ちとむずかしいな。まるで異国(とつくに)の経文じゃ! もそっと初歩の、手ほどきのような書物は持っとらんのか」

「うちに少しはありますよ。足りなかったら本屋さんで探しましょう」

「よいのか」

 目を輝かせる小鬼に、メイは笑った。


「もちろんです。キバさん勉強熱心で……見習わなくちゃ、って思っちゃいました」

「ふふん、遠慮は無用じゃ、おおいに見習うがよい!」

 ふわふわの毛玉のような小鬼は、大いばりでふんぞり返る。


 しかしメイは今や、ちび鬼への尊敬の念でいっぱいだった。

(こんなに勉強好きな妖怪さんって、初めてかも……! キバさん絶対、わたしより理解が早いし……頭いい! それにもし……もし、これがわたしだったら……)


 生まれて初めて聞く英語の授業が高校一年生のものだったら、メイなら最初の五分でへこたれてしまう自信があった。

 なにしろアルファベットもわからないのだ!

 涙目でうつむき、授業が終わるのをただじっと待っていたことだろう。


 キバはちがう。

 教科書がわからなければ辞書をめくり、それだって圧倒されるほどわからないはずなのに、めげずにわかるところを探し、食らいつく。不器用でもなんでも、発音してみる。

 やる気がちがう。


 学究心に富む鬼、とか言っていたのは、かっこつけでもなんでもなかった。

 キバはほんとうに、学習意欲のかたまりだ。


「なにをにやにやしておるのじゃ」

「いえ、キバさん、もしかして将来、学問の守り神さまになるのかなー、とか思って」

「はあ? なるわけないじゃろ、そんなもの! ワシは強くなるのじゃ! にっくき夜叉神よりも強くなり、みごとオヤジ殿の仇を討ち果たすのじゃ!」


 いきまく小鬼を頭の上にのせたままメイは掃除当番をすませ、ジャージ姿で下校した。

 零課お掃除班に仮配属になってから、下校時に制服を着なくなった。

 ジャージなら汚れてもすぐ洗える。幸い、校則違反でもない。


 校門を出るとスマホで今日のスケジュールをチェック。

 ついでにサポート係宛に、楓から依頼された件について、お願いメールを打って送信した。

 それから楓からもらったハンズフリーのイヤホンをとりだし、片耳に装着する。


「これはなんじゃ? 動いておらんようだが」

 ちょろちょろと耳の近くを登ったり降りたりしながらきく小鬼に、メイは笑った。

「電源入れてないの、わかるんですね! これはイヤホンというもので、ほんとうは電話の受け答えなんかに使う道具なんですけど、今は……他の人には見えないキバさんとお話しても、ヘンに思われないために……」

「偽装か! なるほど、なるほど」

 ほんとうに、のみこみが早い。


 メイはスマホのナビをたよりに、今日担当するひとつめの現場に向かった。

 知らない路線のバスに乗り、まずはビルの谷間の小さな公園へ。

「うお……! こ、ここに入るのか!?」


 ケガレの具現化した竹やぶもどきが鬱蒼(うつそう)と茂っている公園を見て、小鬼はひるんだ。

「すぐすみますから、キバさんは離れて待っててくださっていいですよ」

「うぬ、い、いやそれでは用心棒にならんじゃろ! このままでよいっ」

「そうですか? でしたらしっかり、つかまっててくださいね」


 メイは公園の入り口に置かれた竹ぼうきを手にとった。

 柄に、零課のスタンプが押してあるのを確かめる。係の人が当日、現場に届けておいてくれる竹ぼうきには、一般の人に見えにくくなるよう、軽い術がかけられている。


 おかげでこのほうきを持つと、メイ自身も通行人から認識されにくくなる。女子高生が街中を竹ぼうきを手に歩いていても、宙を掃いていても、見とがめられないのも助かる。

 それ以外はごく普通の、なんの変哲もないただの竹ぼうきなのだが──


 メイはひとつ、深呼吸。

 心を静め、ゆっくりと、ひと掃きした。

「きれいに……なりますように」


 まばゆい金色の輝きがほうきの先からほとばしり、小鬼が頭の上で「どわあああっ」というような大声をあげる。

 しかしメイは動じなかった。


 最近、集中すると、意識を向けていること以外のすべてが、何軒か先の家で鳴っているテレビの音みたいに遠くなるからだ。

 最初のひと掃きで、公園を埋めていたケガレのやぶの、半分が蒸発した。


 空いた空間に踏み入り、次のひと掃き。

 やぶはあとかたもなくなった。

 三度めのダメ押しで、土地も公園内の立木も、輝くばかりにみずみずしく軽やかになる。


「うん。今日は調子いいかも」

 メイはにっこりし、竹ぼうきを持ったままきびすを返した。

「キバさん、だいじょうぶですか?」

「ど、どど、どうということはないっ」

「それなら良かったです」


 メイは小鬼を頭にのせたまま、竹ぼうきを手に、さらに四つの現場を回った。

 廃校になった校舎。

 いきどまりの路地。

 ビルの解体工事現場。

 遊園地。


 遊園地はなんとライトアップし、にぎやかに営業中だった。アトラクションに並ぶ大勢のお客さんのじゃまはできないし、敷地がやたらと広いので思ったより手こずった。

 なんとか片づけて、ゲートの大時計を見たメイは青くなった。


「うそ! もう八時すぎ? またお母さんににらまれるー」

「これでしまいか?」

 見ているだけで疲れたらしい小鬼が、頭の上でげんなりした声を出す。

「いえ、もうひとつ、まわらないといけないはずで……」


遊園地の出口に向かいながらスマホをチェック──しかけて、メイは固まってしまった。

 着信だ。

 発信元は「お母さん」。


 とらないわけにはいかないが、まだ遊園地の敷地内で、場内アナウンスや音楽が流れまくっている。絶対、聞こえてしまう。

(うわーん、どーしよう? 今、どこにいるのってツッコまれたら……)

 疲れと空腹でなにも思い浮かばないまま、観念して電話を受ける。

「はい、メイです」


 言うやいなや、テンション高めの母の声が耳に飛びこんできた。

『メイ! 良かったー、つながったー。何度もかけたのよ!』

「ご……ごめんなさい、ちょっとうるさいところにいて、気がつかなくて……」

 ウソではない。


 母は続けた。

『あのね、今日はお母さん、ちょっと遅くなりそうなの。帰り、十一時すぎるかも』

「え……?」

 予想外のセリフに、メイはぽかんとする。


 母は個人経営の衣料雑貨店でバイトしているが、今まで残業があったことはない。

『倉庫の方でちょっと……ごめんね、今日はお夕飯、てきとうに食べてほしいんだけど』

「だいじょうぶ。心配しないでー」

『でもでもね、実は今朝、ごはん炊くの忘れちゃって……おかずはあるんだけど』


「じゃあ、おにぎり買って帰るね。お母さんのぶんも買っていく?」

『ううん、お母さんはここで食べちゃうから気にしないで』

「わかった。帰り道、気をつけてね」

『メイも早く帰りなさいよ! じゃあね』


 母があわただしく通話を切りあげてくれたので、メイはスマホを手にどっと脱力した。

「あー、良かった! 今日はお母さんににらまれないですむー」

「そなた、毎日、こんなことをしとるのか」

「うーん、たまには……早く帰れる日もあるんですけどね」


 メイは、観覧車の方をふりかえった。

 明るいゴンドラが次々にお客を乗せ、ゆっくりと夜空高くへあがっていく。

(せっかく遊園地に入ったのに、なんにも乗るひまないって……ちょっと残念)


 でも、観覧車をつらぬいてそびえていた、ケガレの巨木は片づけた。

 誰も気づいていないけれど、きっと気分はいいはずだ。

「うん」

 メイはなんとなくにっこりし、遊園地をあとにする。


 スマホで本日最後の現場を確認して「あれ?」と首をかしげた。

「どうしたのじゃ」

 小鬼がちょろちょろっと手もとまで降りてきて、スマホの画面をのぞきこむ。


 メイは駅に向かって歩き出しながら、

「住所までおぼえてるわけじゃないですけど……ここ、前に一度、お掃除したことがあるところだと思うんです。確か、小さめの駐車場で……」

 と、そこまで言ったところで、おなかがぐうう、と鳴った。


 小鬼がおもしろそうにメイの顔を見あげる。

「腹ぺこの音じゃのう」

「あう」

「人間はすぐに腹がすいて難儀なことよ。毎日喰わねばやっていかれんとは、青虫かよ」

 メイは、若葉を絶えずもしゃもしゃやっているイモムシを思い浮かべて、笑ってしまった。


「イモムシさんほどではないと思いますけど……三日も食べられなかったらふらふらですね」

「残りの仕事は腹ごしらえしてから行くがよかろ。気がヘタれてきておるぞ」

「えっ、そ、そうですか? 自分ではよくわからなくて……」


「未熟者め」

「すみません」

「ほれ、ちょうどそこに〈こんびに〉があるではないか。入れ。入って、なんぞ喰え」

 顔の近くにふわふわ浮きながら、えらそうに指示する。しかし悪くないアドバイスだ。


 メイはありがたく従うことにしたが、店に入る直前に気づいて小声で話しかけた。

「あの、キバさん?」

「なんじゃ」

「その……申し訳ないのですが、お店のものを盗まないようにしていただけると助かります」

「うぐ」


 のどになにかつっかえたような声を出したところを見ると、盗む気満々だったらしい。

「そうですよね、もののけさんにとって人のルールなんて基本、関係ないですもんね。人間のお金なんてふつう、持ってらっしゃらないと思いますし……」

 持っていたとしても江戸時代の古銭とかだったら、現代のお店では使えない。


「でも、ご存じかわかりませんが、人間の持ち物、特にお店の売り物を盗むと出雲法違反なんです。小さな違反ですし、こっそりやってる方、たくさんいらっしゃるだろうとは思うんですけど、キバさんは零課のわたしと同行してらっしゃるので……その……できれば……」


 見て見ぬふりをずっと続ける……というのは、メイにはつらい。むずかしい。

 小鬼もそれがわかるのだろう。

 ぐぎぎぎ、とものすごい音を立てて歯ぎしりしたあと、吠えるように言った。


「やむをえん! そなたの用心棒になったからには、そなたを無用に困らせるわけにもいかんしな! そなたと一緒にいる時には、人間相手に盗みはせんと約束してやるわい!」

「ありがとうございます! うれしいです!」


 つい大声を出してしまったので、コンビニから出てきた客が竹ぼうきを持つメイに気づき、けげんそうな目を向けて通りすぎる。

 メイはあわてて口を閉じ、そのお客が去るのを待って、竹ぼうきを傘立ての横に置いた。

 人に認識されにくくなるほうきを持ったままでは、買い物ができないからだ。


 ハンズフリーイヤホンがちゃんと耳についているか確かめて、小鬼にささやいた。

「なにかほしいものがあったら、声をかけてくださいね。一緒に買いますから」

「ワシはべつに……ほしいものなど……」

 もごもご言う小鬼を置き去りにする勢いでメイは入店し、お弁当コーナーに直行する。


「なににしようかな……お母さん、うちにおかずはあるって……でも、おなかぺこぺこだし、もう、なんでもいいから食べたいし……ごはんだけってわけにも……」

 悩みに悩んで、おかずもちょっとついてるおにぎり弁当とお茶をかごに入れた。

(絶対、足りないけど……あとは帰ってから食べればいいし!)


 レジに行こうとしてふり返ると小鬼の姿がない。

 棚の間を順番にのぞいていくと、

「あ」

 小鬼は文房具の棚の、下の方に浮かんでいた。


 いろんなサイズのノートの間を真剣に、行ったり来たりしている。

 A4の大判のものも魅力的だし、メモ帳サイズのノートにも惹かれる、という様子。表紙を遠慮がちになでたり、少しだけめくって中をのぞいたりしている。

(か……可愛いー)


 メイはそうっと近寄り、ささやいた。

「どれにします?」

 不意を衝かれたらしく、小鬼は空中で跳びあがった。毛を逆立ててふり向く。

「お、おどかすでないっ」


「すみません。どのノートを買いましょうか」

「ワ……ワシはべつに……た、ただその、ひやかしておっただけで……」

「大きいノートはうちに予備があるので、この小さいのを買っておきますね」

 メモ帳サイズのノートを一冊取ったところで、気づいた。


「そういえば、筆記用具はどうしますか? ボールペンとか鉛筆とか、ついでに……」

「書く道具なら持っておる」

 小鬼はふふん、と丸っこい身体をそらした。

「あやかし印の千年筆じゃ!」

「千年筆!」


 万年筆とはちがうのかしら、と思うメイをよそに、小鬼は自慢げに続ける。

「いちいち墨をすらずとも、筆がすりきれてなくなってしまうまで書き続けることのできるすぐれものよ! 中古じゃがまだまだ使える良品でな、お買い得じゃった」

「それはすごいですね! 今度、書くところを見せていただけますか?」

「まあ……見せてやってもよいぞ」

「わーい! 楽しみー」


 メイはうきうきしながら自分のお弁当と小鬼用のミニノートを買い、コンビニを出た。

 傘立ての横に立てかけておいた竹ぼうきを持ち、ふたたび「一般の人には気づかれにくい」状態になってから、

「はい、どうぞ」

 レジ袋からメモ帳サイズのノートを取り出し、小鬼にさしだす。


 照れ隠しか、小鬼は「うむ」とか「うぬ」とかいう声とともに、しかつめらしく受け取った。

 小さいノートだが小鬼が手にすると、人が大きめのコルクボードを持っているようなサイズ感になる。しかし、小鬼がそのノートの角を腹の毛にさしこむと、

「!」

 ノートは、すいこまれるように一瞬で、小鬼の腹の毛の中へ沈んで消えた。


「すごい! 入るところ、初めて見ました! 便利ですね!」

「ふふん、必要なものの持ち歩きに困ったことはないぞ」

「今、絶対、ノートが縮んだみたいに見えたんですけど、しわもつかないんですか?」

「しわも折り目もつくものか」


「たくさん入れても重たかったりは……」

「中に入ってしまえば重さなど感じぬ」

「すごい! じゃあじゃあもしかして、自動車とかでもしゅるんっ、て入ったりします?」


「……そんなもの、入れてどーするんじゃ」

「入れようと思えば入るんですね!」

「う、た、たぶんな」


「今、ノートの他にもなにか入ってるんですか? 中でいろんなものが積み重なって、ごちゃまぜになったりしないんですか? 小さいものなんか、なくしちゃったりしません?」

「ええい次から次へとうるさいやつじゃっ! いいかげんにせんかっ」

「ご……ごめんなさい、つい」


 などとやっているうちに駅前に到着。目当ての駅前ベンチがふさがっていたので、メイはなにも植わっていないプランターのふちに腰かけて、レジ袋からおにぎり弁当を取り出した。

「すいません、ささっと食べちゃうんで、少し待っててください」

「はよう喰え」


 メイは竹ぼうきを置いたひざの上でお弁当のパックを開け、ぱくつく。

 途中でお茶のペットボトルを開けた。温かいお茶に身体が暖まる心地がしてほっとひと息つく。ふと、小鬼がじいっと、パックの中のおにぎりを見ているのに気づいた。


 スサノオは人間の食べ物に興味を示したことがないので、メイはちょっと驚く。

「あの……良かったら少し、召しあがりますか?」

 きくと小鬼は仰天したようにぎょろ目を見開き、両手を振り回した。


「いらんいらん! 人間の食い物なぞ……ど、どんな味がするのかと見ていただけで……」

「食べてごらんになればわかりますよ」

「す……少しなら、もらってやらんこともない」

 と言いながら、口もとにあふれたよだれをあわてて短い腕でぬぐう。


 メイは残りのおにぎりを半分に割り、おかずもそえ、パックのふたにのせてさしだした。

「では少しだけですが、どうぞ」

 小鬼は無言で、パックのふたをひったくるように受け取った。


 うやうやしく近くの植えこみまで運び、物陰に置く。

 半サイズのおにぎりは、それでも小鬼と同じほどの大きさがあったが、小さな手でむしっては大きく開けた口に放りこみ、がつがつむしゃむしゃとたちまち、たいらげてしまった。


 メイは心底、びっくりした。

(キバさんは、ふつうに口から……人の食べ物を食べられるのね!)

 手で触れただけでお供えを灰にして「食べて」しまう破壊神とはずいぶんちがう。

(キバさんはまだ生まれたてだから? それとも鬼さんだから? わからないけど……)


 メイは、小鬼にはお供えだけでなく、普通のごはんも出そう、と決心する。

(それにキバさん……さっき、人間はすぐ腹がすいて大変だな、みたいなこと言ってたけど、わたしなんかよりずっと、おなかがすいてるみたいじゃないですか……)


「? なにを見ておるのじゃ」

 とっくにからっぽのパックの、ふたにくっついたごはん粒を丹念に拾って口に入れている小鬼に、メイは、おにぎり弁当の残りをそっとさしだした。

「良かったら、こちらもどうぞ」


小鬼は、受け取った。



用心棒、がんばる②へ続く




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