楓、依頼する
お昼休みの体育館裏に、激励の声が響く。
「がんばれ! ペース落ちてきてる! もっと速く! もっと!」
(ムリ! これ以上はもう、ムリですぅー)
泣きそうになりながら、ジャージ姿のメイは必死で、その場駆け足の回転をあげる。
「ふとももしっかりあげてっ! そうっ! あと五秒! 三……二……一」
ホイッスルが吹き鳴らされるやいなや、メイはくたくたとその場にへたりこんだ。
「も……もうダメ……」
「ううん、ダメじゃないよ! すっごく良くなってきてるよ、神納さん!」
ストップウォッチ片手に言ったのは、クラス一足が速い、陸上部女子。
松葉杖をついているのは先週、自転車通学中に事故にあってしまったからだ。
「この調子なら体育祭で上位ねらえそう! リレー代走、神納さんにたのんで良かったぁ!」
やる気満々のクラスメイトが、次はダッシュの練習ね! とか言い出しそうな気配に、メイはあわてて口をはさんだ。
「あ、あの、ごめんなさい、そろそろ……」
「そだね、お昼食べなきゃ……整理体操してね! 明日はバトンの受け渡し練習やりまーす」
笑顔で見送られ、メイはよろよろとベンチで待つ楓のところに戻る。
「お……終わりましたー」
「お疲れさまー」
楓がさしだしたスポーツドリンクを、メイはありがたく受け取ってひと口飲んだ。
「つ……疲れたー。ごはん、入んない……」
「じゃなくてほら、クーリングダウンしなきゃ。大事だよ」
「そーでした」
メイは使いすぎてふるふるしている足をがんばってストレッチ。筋肉痛によたつきながら、へたくそなラジオ体操みたいな整理体操をすませる。
やっとベンチに落ちついてお手製のお弁当を広げるメイに、楓はしみじみと言った。
「毎日、よくがんばってるじゃん」
「だって陸上部のひとの代役だよ? コツとか、すごく熱心に教えてくれるし、引き受けちゃったからにはできるだけのことはしたいな、って思って」
言いながらメイは、昨夜、作り置きしただし巻き卵を、おはしでそっとつまみあげる。
実は、初挑戦である。
四角い卵焼き用フライパンを初めて使い、生焼けだとうまく巻けないし、火を通しすぎると焦げつくし、苦心しながらとにかく巻いた。
形はまあまあ。さて、お味は──?
ぱくり。
(……うん。思ったより甘いけど……おいしいー)
おかげで食欲がわいてきて、メイはがつがつとお弁当をかきこむ。
先にお昼を食べ終わって待っていた楓は、野菜ジュースを飲みながら笑った。
「それにしてもリレーの代走なんて、よく引き受けたね」
「最初は断ったんだよ? わたし足遅いし、とろいし、迷惑かけちゃうから……って。でも、どうしても他に、出られる人がいなくて……」
「それでもだよ。メイ、前にくらべて『ムリ』と『できない』がすごく減ってきた気がする」
「うーん、頭の中ではまだよく言っちゃってます」
「口に出さないだけでも大進歩!」
などというやりとりの間に、お弁当箱はたちまちからっぽになり、メイはふたつめの、カットした果物を詰めたタッパーを開ける。
楓は「あ、いいな。それ、ひとつちょーだい」とナシのかけらをつまんだ。
「それにメイ、最近絶対、前よりよく食べてる」
「なんかおなかすくの。リレーの練習もそうだけど、零課のお仕事もけっこう体力使うし」
「合ってるんだね。意外だけど」
「そうかもー。でもご飯食べそびれたり、帰りが遅くなるのはちょっと困る」
もうひとつ取っていいよ、と果物のタッパーを楓にさしだしながら、ぼやいた。
「先週もね、神隠しに巻きこまれて、帰りがすっごく遅くなっちゃって……」
「ええっ、神隠し? なにそれ、聞いてない!」
「学校から呼ばれちゃって、山神さまの蔵を〈お掃除〉したの。それはいいんだけど」
「いいんだ!?」
あきれる楓をよそに、メイはため息をつく。
「うちについたら、もう真夜中でね……」
「うわ! お母さん、怒ったでしょ」
「もう、かんかん! 次の日すぐ、零課のサポート係に苦情の電話かけちゃって……」
メイの両親は、メイは「モデル事務所にスカウトされた」のだと信じている。
警察庁霊能局零課、などという公式には存在しない怪しい組織で、妖怪相手の警察官をしているなんて、夢にも知らないのだ。
そういうわけで。
メイが「研修を受けている」ことになっている「モデル事務所」の番号は、零課のサポート係につながるようになっている。
「今まではサポート係の人と話すと、いちおう落ちついてくれてたんだけど……」
メイはからっぽになったお弁当箱とタッパーを重ねて包みながら、肩を落とす。
「今度はホントに……夜中になっちゃったから……『通帳に振り込まれてる給与を確かめさせて』って言ってきたり、あと……なんか事務所の名前検索して、わたしの写真がないか調べたみたいで……野々宮さんの写真は見つかるのに、わたしのはない、って言うの」
「そりゃまあ、一枚も撮ってないしね」
「今朝もね、『試し撮りでもなんでもいいから、一度、お仕事の写真見せて』って言われて困っちゃって……恥ずかしいから、まだ研修生だから、ってごまかしたんだけど……」
「納得してくれた?」
「ダメみたい。なんかもう毎日、お母さんの疑いの目が痛くて」
楓はううーん、とうなった。
「考えてみると確かに、あんたがモデルに向いてるか、ってとこからして、疑問だよね」
「あう」
「そもそも人前で写真撮られるとか、それこそムリでしょ」
メイは無言でこくこく、激しくうなずく。
「なのになんでお宅のご両親、あんたの仕事がモデルなら納得、なんて言ったんだろうね」
「野々宮さんがモデルやってるの、知ってたからじゃないかな」
「でもすっごい、ムリがある! 零課の課長さんがどんな魔法でごまかしたか知らないけど、早々にボロが出そうだね」
「ええー、それは困るー。ウソついておまわりさんになったなんて、お母さんにバレたら……絶対、許してくれないー」
泣きそうな声を出すメイを横目に、楓はしばし考え、言った。
「良かったら一度、撮影スタジオに来てみる?」
「えっ?」
「零課だって、うちの事務所の名前を借りるからにはいちおう話、通してるんでしょ?」
「あ、うん。そうらしいです」
「だったら正式に研修生の名札もらってさ、一度撮影現場、見るだけでも見とけば、お母さんにする話にもリアリティ、出るんじゃない?」
「で……でも、部外者のわたしがもぐりこんだりして……お邪魔じゃないかな……」
「平気平気、研修生の見学なんてよくあるし。ついでに……」
言いかけて口ごもる。
なにをするにも迷いの少ない楓にしては、めずらしい。
メイが「?」と身を乗り出すと、楓は遠慮がちに耳打ちした。
「こういうの、個人的にたのむのは反則かもしれないから、ダメならいいんだけど……」
「なになに?」
「ついでにメイにスタジオのお祓いとか……たのめるかなー、って」
「えっ、スタジオになにか出るの?」
「うん。うちの事務所がよく使う撮影スタジオのひとつなんだけど……建物の内にも外にも、黒っぽいもやみたいなのがかかっててね。最近、全体にどんどん、暗くなってきて」
「邪念のかたまりとかかなあ……やな感じだね」
「そうなのよ。機材とかよくトラブるし、メンタル弱い子は具合悪くなるし、ちび妖怪なんか怖がって逃げちゃうレベルなの。でもあたしは、見えるだけでなんにもできないからさ」
「ご近所に、浄化してくれるヌシさまとかいないの?」
「近くにあった小さな神社、去年、道路の拡張工事で取り壊されちゃって」
「ええー」
「ダメかな。零課に通報……ってほどじゃないとは思うんだ。だいたい零課ってどうすれば連絡とれるのかもわかんないし。でも、メイの他に霊能者の知り合いなんていないし……」
口で言う以上に、困っているようだ。
メイはうなずいた。
「わかった。サポート係のひとに、そのスタジオに行く手配、してもらえるかきいてみる」
「いいの?」
「お母さんに『ちゃんとモデル修業してます!』って言えるようにしたいから、って話せばたぶん大丈夫。サポート係のひとも、お母さんのクレームに困ってるはずだし」
「ありがとう! 助かるー」
さっそく、問題の撮影スタジオの住所をもらいながら、メイはつい頬がゆるんでしまう。
楓がけげんそうにきいた。
「なに、にこにこしてんの?」
「ふふー、野々宮さんからたよられるの初めてだなー、って思ったらなんかうれしくてー」
「いや、最近のメイはなんとなく、さすが零課、って感じよ?」
「ほんと? うれしー」
「あんたの神さまもあんたのこと信頼してるから最近、放し飼いにしてくれてるんだろうし」
「えー、放し飼いって……それはないよー」
苦笑しながら抗議しかけて、メイは楓が、自分の後ろをじいっと見ているのに気づいた。
「どーしたの?」
「あんたの後ろになんか、見慣れない……小さいのがいる」
「?」
ふり返ったメイは、ベンチの横の植えこみに、おまんじゅうサイズの小鬼を見つけてぱっと顔を輝かせた。
「キバさん!」
「知り合いなの?」
楓にきかれて、メイはいそいそと紹介する。
「こちらキバさん、しんらさんの牙から生まれた鬼さんでね、さっき話した山神さまの蔵で、お世話になったの。小さいけど、すっごい力持ちなんだよ!」
「へえ! しんら……ってあの、でっかい鬼だよね! そういえばちょっと似てるかも」
「だよね! 似てるよね!」
しかし小鬼は、メイだけでなく、楓にまで「見られる」とは思っていなかったらしい。
思わぬ注目を浴びて、石のように固まってしまっている。
メイは姿勢を正し、にっこり挨拶した。
「キバさん、こんにちは。またお会いできてうれしいです」
しかし小鬼は、大きな目ばかりぎょろぎょろさせて、黙っている。
「今日はどんなご用でいらしたんですか?」
ふわふわの毛玉みたいな小鬼はしかし、ぴくりとも動かず、楓が「ははあ」と目を細めた。
「あたしみたいな、零課でもないのに見えちゃう人間、初めてなんだね。それと……なんだかこの子、メイに対して負い目? みたいなものがあるっぽい」
「えー、なんだろ。そんなものべつに……」
その時、小鬼がうわずった声を発した。
「恩返しに来てやったぞっ!」
「え?」
目を丸くするメイを指さして、小鬼は短い手をぶんぶんふりまわす。
「なりゆきとはいえ助けられたままでは鬼の名折れ! 見たところ、そなたの守護神はまともに仕事しておらんようだしな! ワシが用心棒になってやるからありがたく思うがよいっ!」
「ええー? あんたがメイの、用心棒?」
「えっ、いいんですか? 助かりますー」
楓とメイが、ほぼ同時に正反対の返事をしたので、小鬼はまた固まってしまった。
一拍遅れて、楓とメイは驚いて顔を見合わせる。
「え、野々宮さん、反対?」
「てゆーかメイ! あんたなんで、このちびちゃんが役に立つなんて思うの?」
「だってキバさん、すっごい力持ちなんだよ? 山神さまの蔵では、わたしが持ちあげるのも苦労するような刀とか鎧とか、簡単に動かして、もとどおりに片づけてくれて……」
「そんな重たいもの、ふだんからしょっちゅう動かすわけじゃないでしょ」
「そ、それはそーだけど……」
「ちびちゃんもメイに『助けられた』って言ってるし、あんたより弱い用心棒なんて……」
「腕力は絶対、わたしよりあるもん」
全力で擁護するメイをつくづくながめて、楓はあきれたように言った。
「あんたまさか、このちびちゃん拾って帰るつもり? 猫じゃないんだよ?」
「拾うなんて……ただ、ほんとうに用心棒していただけるなら助かるなあ、って」
「あんたの神さまが許すと思う?」
「だいじょうぶだと思う。しんらさんの子どもだし」
「そうかなあ」
楓はじろりと小鬼を見た。
すう、と目を細める。
野々宮楓は、見鬼である。
生まれつき、妖異を見ることができる。
いわゆる霊感ははたらかないが、子どものころから見慣れているおかげか、妖異と物理実体を見間違えることはない。見鬼ならではの、妖異の本質の見抜き方もある。
彼女の目には、妖異の「考え」がときどき、外にあらわれて映るのだ。
今度もなにか見えたらしい。
小鬼にずばり、指摘する。
「あんた、泥棒でしょ」
「!」
図星を指されてぶわっとひとまわり大きくふくらむ小鬼に、容赦なく続ける。
「メイからもなにか、盗んだんじゃない? ちゃんと謝ったの?」
気圧されてじりっと後ずさる小鬼を見かねて、メイはあわてて割りこんだ。
「あ、いいの、その話はもういいの、すんだことだし……」
「よくないよ。こういうことは、はっきりさせなきゃ」
「で、でもその、キバさんはまだ生まれたてで……」
「コドモに最低限のルールを教えるのは、先に生まれた者の義務です」
きっぱり断言し、楓は小鬼に向かって身を乗り出す。
「キバ君、メイにごめんなさいは?」
「あ……が……ぐ……」
小鬼は全身の毛を逆立てたまま、小さな牙がのぞく口を開けた。
しかし、よほど抵抗があるのか、眉間にしわを寄せたり短い手をぶるぶるさせるばかりで、なかなか言葉を発することができない。
ほんとにいいから、と言おうとするメイを手で制し、楓は小鬼をひややかに見おろす。
「あんた、悪いことした、って自覚あるんだよね? それなのに、ごめんなさいぐらい言えないんなら、二度と……」
メイに近づかないで、と続けかけた時、小鬼がわめいた。
「すまんかった! 正直、すまんかったと思っておるっ!」
「あ、言えるじゃん」
「しかしあれは出来心でっ……うおおおクソ女! 鬼になんてこと言わせるんじゃっ!」
「いや、見直したよ。あんた、意外と大物かも。ちびなのに話、ちゃんと通じるし」
楓の評に、メイはほっとする。
「キバさんは強いし、とってもやさしいひとなんだよ」
「ヒ……ヒトではないわあっ! このポンコツ!」
「あ、ごめんなさい」
「なにこのちびっ子、メイのこと、ポンコツとか言うの?」
「あはは、まあ、ほんとのことだし」
あっけらかんと笑うメイに、楓は渋い顔をした。
「ダメだってば! 誰彼かまわず甘い顔見せちゃダメ! あんたはそうでなくても、たかられやすいんだから」
「え、そうなの?」
「あんた、前はなんにも見えてなかったからわかってないんだろーけど……幼稚園の時からよく、たくさんのオバケにたかられて、すごいことになってたんだよ」
「ほ、ほんとに?」
息をのむメイに、楓は思い出すのも気持ち悪い、と言いたげな顔で手をふる。
「ひどい時には小さいのや大きいの、いろんなオバケがあんたにびっしりたかりすぎて、あたしからするともう、顔がよく見えないぐらいになってたこともあったぐらい」
「うわあ……そ……それは怖いね」
「見えるかどうか関係なく、あれだけたかられちゃったら当然気力落ちるし、体力も吸いとられちゃうしね。見かねて時々、塩ぶっかけたりしたけど」
「あ、それおぼえてる! 今さらだけど、ありがとう」
「ううん、なんにも説明できなかったし、一時的な効果しかなかったから、かえって悪かったかなあ、って今にして思うよ。今さらだけど、ごめんね」
「そんな……助けようとしてくれただけで、じゅうぶんだよー」
照れまくるメイに、楓は真顔で続ける。
「でね」
「うん」
「あんたがたかられやすい体質、っていうか霊質? なのは実は、今も変わってないの」
「そうなの?」
「いろんなオバケが、やたらとたからなくなったのはたぶん、メイの神さまのおかげ」
「あ……!」
「あんな怖い神さまのものに手、出そうなんて、ふつう思わないもんね。もちろんメイ自身が零課で鍛えて強くなってきてるから、っていうのもあるとは思うけど。おかげであんたはやっと、きちんと恐れられるようになった、ってわけ」
「えー、怖がられるなんて、ちょっといやかも……」
「怖がられておきなさい」
楓はジュースのストローを口の端で噛みつぶし、ハードボイルドな表情で指摘する。
「零課じゃ教えてくれなかった? ユーレイはもちろん妖怪も……オバケには基本、なめられちゃダメなのよ。礼儀正しく一線ひいて、筋通して、甘い顔は禁物。でないと……」
じろりと小鬼を見て、言った。
「こういう子たちにまた、たかられるようになるよ」
「えー」
「想像してみなよ。あんたの神さまは見かけは小さくても、肉食の猛獣でしょ。そのへんの道でさ、誰かが虎より大きい、見たこともない凶暴そうな肉食獣、リードもつけずに連れて歩いてたら……あんた、そのひとに気軽に話しかける?」
「さすがにちょっと……離れて通ると思う」
「じゃあ同じ人が猛獣の代わりに、よちよち歩きの子犬連れて歩いてたら?」
「あ、話しかけるー。かわいいですね……って、つい……」
ハッと口を押さえるメイに、楓は淡々としめくくった。
「そういうこと。だからあたしとしては、このちびちゃんを拾うのには反対」
「ううーん、で……でも……」
ほとんど説得されてしまいながら、メイはなんとか反論しようと口を開く。
そこへ、小鬼が音を立てて歯ぎしりしながら、うなった。
「さっきから聞いておれば貴様、ちびだの子犬だの、それはワシのことか!」
「キバ君だって自分のこと、まさか虎やライオンだとは思わないでしょ」
動じない楓に小鬼は「うぐ」とひるみ……しかし、めげずに言い返す。
「よかろう! ではこうしようではないか! ワシがその、こやつによってくるかもしれぬ有象無象を追っ払ってやろうぞ! それならどうじゃ」
「あんたさえいなけりゃ、そもそも誰もよってこないのに?」
「うぐぬぬ、くっ、口の減らないやつめ!」
「あ、でもキバさん、わたしの用心棒にならなくてもどのみち、うちに出入りしますよね?」
メイの指摘に、楓はけげんそうにききかえした。
「なんで?」
「あ、キバさんはしんらさんの子どもなので……」
「? それになんの意味が……てゆーか、そういえばあのでっかい鬼、最近見ないけど……」
なんとなく周囲を見まわす楓に、メイは小鬼に遠慮して、耳打ちする。
「死んじゃったの」
「えっ!? なにそれ聞いてないっ、ど……どうして……」
黙っているメイの表情から察したらしい。やはり小鬼に遠慮して、小声で確認する。
「あ……あんたの神さまが狩っちゃったの?」
「うん。しんらさんを助けるためだったみたいなんだけど……」
「じゃあそこの……ちっちゃいのがあんたんちに出入りする、っていうのは……」
「仇討ちに来たんだって。もう何度も、スサノオに挑戦してるみたい」
「ええー」
楓とメイにそろってじいっと見つめられ、小鬼は気圧されてのけぞる。
「なっ……なにが言いたいっ? きっ、貴様もワシをバカにする気なら……」
「がんばれ」
楓に真顔で言われて、小鬼は絶句。
楓はため息をつき、ちょっと髪をわしゃわしゃかき回し、それから恥ずかしそうに続けた。
「バカにしてごめん。あんたすごいわ。あの神さまに立ち向かえるなんて、ただ者じゃない」
思いがけずほめられて、小鬼は驚愕のあまりぼん、と爆発したみたいに毛を逆立てる。
メイはそれには気づかず、
「でしょう? キバさん、すごいでしょう?」
「かかっていったのに生きてるってことは、あの神さまにけっこう気に入られてるよね」
「だと思うの」
「それじゃあまあ、用心棒ぐらい……してもらってもいいかも」
「やったー!」
自分のことのようにばんざいして喜ぶメイに、楓はため息をついた。
「でもひとつだけ、約束してほしいかな」
「え、なにを?」
きょとんとするメイから小鬼へ視線を移し、楓は顔をひきしめる。
「キバ君、あんた、二度とメイのモノを盗んだりしない、って言える?」
「!」
小鬼はたじろぎ、メイも息をのんだ。
「あ……あのね、野々宮さん、口に出して約束するって妖怪の世界では……」
「言あげ、ってやつだっけ? 強制力が発生するんだよね。知ってる」
「そ……それなら……」
「でも、この子がこれだけ返事をためらうってことは、あんたの持ち物、これからもこそ泥する気満々だった、ってことだと思うんだけど」
「あう……で、でも少しぐらいなら、わたしはべつに……」
「だーからそれはダメだってば! ホントならあんたがこの子に、盗みはやめてください、って約束してもらうとこなのに、あんたがそんなんじゃ……」
「ええいっ、言えばいいんじゃろ、言えば!」
小鬼が地団駄を踏んで割りこんだ。
「こやつのモノは今後いっさい盗まんと約束してやるわいっ! どうじゃ、これでよかろ? どうせこやつから盗んでも後味が悪いしなっ! ワシはオヤジ殿の仇のそばにはりついて弱点を探れるなら、ほかのことなどどーでもよいのじゃっ!」
ひと息にわめいてしまってから、あっ、言わんでいいことまで言ってしまった、という顔になるが、もう遅い。楓は、あきれかえって小鬼を白い目で見た。
「へえ、つまりメイの用心棒になるってゆーのは、メイんちに入りこむただの口実なんだ?」
「いっ……いや決して、そ、そそ、そういうわけでは……」
「けっこうおっちょこちょいだね、このちびちゃん」
「正直者なんだよ」
メイはにっこりして、小鬼に手をさしだす。
「キバさん、わたしから盗まないって、約束してくださってありがとうございます。用心棒、ご無理のない範囲で、どうぞよろしくお願いします」
「ま……まかせておけい!」
小さい肩を怒らせて請け合い、小鬼はぴょん、とメイの手に跳び移った。
ちょろちょろっと肩にあがり、頭のてっぺんに登る。
我が物顔にあたりを見まわそうとして楓と目が合い、こそこそとメイの髪に隠れた。
楓はまだなにか言いたげだったが、予鈴が鳴り始めたのでベンチから立ちあがる。
「メイ、その子が悪さしたら、ちゃんと注意するんだよ」
「はーい」
「あ、そーだ、撮影スタジオのお祓い、できるって決まったら教えてね」
「うん、もちろん!」
「キバ君は、もしメイについてくるなら絶対、現場でこそ泥しないこと!」
「ぐぬ……し、しかたあるまい」
そういうことに、なった。
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