二百六十八話
「すいません。先生たちいますか?」
そうして話し合っているとクライシスの声が職員室に響く。
何か手伝ってほしいことがあるのか、それとも相談があるのか。
どちらにしても全力で手助けしようと頷き合って中に入れる。
「どうかしたか?クライシスくん」
「先日、先生たちが頼んできた仕事ですけど人数と場所てきに一日じゃ無理なので日にちを分けないと無理です」
「あぁ、そのぐらいなら構わない」
手伝ってくれるのも有り難いし、こうして報告してくれるのも有り難い。
なら、そこは教師である自分たちが解決する問題だ。
任せてくれと答えるべきか、無理ならしょうがないと諦めるべきか、
とりあえずすぐには無理だとわかったと応えようとする。
「すぐには「ですので希望者と彼らの参加する日程は先生たちが決めてくれませんか?先生が決めたなら文句も少ないでしょうし」………え?」
「だから希望者の確認とその人達の参加する日程を先生たちが決めてください」
続けられた言葉に教師たちは二の句が告げなくなってしまう。
まさかクライシスくんから現状では難しいこと、そして実行するための改善案が出てくるとは思わなかった。
何もかもが遅れてしまっている。
「わかった……」
「各クラスの担任をしている先生たちが連絡と希望者をまとめてくださいね。希望者は一週間後までに教師に渡す。そして更に一週間後から日にちを分けて教えようと思います」
「………わかった」
一週間で区切っているのは今日連絡したとしても明日、明後日に出すのは急すぎて難しいというのもあるのだろう。
そしてもう一つは希望者の確認と日にちを分けるための作業時間。
希望者が多くなれば多くなるほど作業が増える。
教師たちは念の為に今から全校生徒全員分の日程を決めようと考えていた。
今までと同じように結局はほとんどの生徒が参加するだろうと予想していたからだ。
「クライシスくんも二週間後か?その日からは教えれるように準備を整えていてくれ」
「わかりました。それじゃあ」
要件は済んだとばかりに職員室から出ていくクライシス。
その姿に教師たちは安堵の息を吐いた。
「ふぅ……。こう言ってはなんですが、クライシスくん相手にすごく緊張しました」
クライシスが職員室から去って数分後、一人の教師からそんな言葉が出てくる。
そして他の教師たちもその言葉に頷く。
「まぁ、学園で一番強く攻撃に戸惑いが無いですからね」
「ヤーキくんにダンジョンでの反撃、それにダンジョン外でも喧嘩を売ってきた相手に過剰な反撃。普段が普段だから余計に恐ろしい」
舐められた、喧嘩を売られた。
それを理由に暴力を振るっている。
正当防衛として扱われたが、同時に過剰だと判断されて警察にも連れて行かれた。
いつ自分たちにも暴力を振るってくるのかわからない恐ろしい生徒でもある。
「もう少し普段から見た目からしても怖かったら舐められることは無いんですかねぇ?」
「そういえばクライシスくん。弱そうだという理由で喧嘩を売られたんでしたか……」
「えぇ、たしかそうです」
今一度思い出すクライシスの姿。
平均よりは背が小さく、更には体格を誤魔化すかのようにロープを羽織っている。
そのうえで強者のオーラが感じられない。
教師たちはその姿を思い出して頷く。
「強そうに見えない……」
実力を知ってなお、教師たちですらクライシスを弱そうだと判断してしまう。
もし変装してダンジョンに挑んでいたら心配して声をかけそうだ。
「………もしかしたら弱そうだと思っているから俺達はクライシスくんに色々頼んでしまっているのか?」
「どういうことですか?」
「ほらいじめっ子って反撃できない。誰かに相談もできない子を標的にするでしょ。だから俺達も文句を言わないクライシスくんに頼んでるのかなって」
「いや結構文句言ってない?最初の頃なんて渋ってなかった?」
「そうだっけ?口では渋ってたけど結局従ってくれなかったっけ?」
「そういえば……」
同じ学生からの頼みもあったのだろうが、結局夏休みの間も鍛えてもらっていた。
結局引き受けてくれていたから無意識に甘えていたかもしれない。
「まぁ、今までは余裕があったから引き受けてくれただけだろうし。今度からは遠慮しないとな」
「そうですね。少なくとも生徒たちからは疲れているって心配されているみたいですし」
クライシスの雰囲気に流されず、頼みすぎないように教師たちは気をつけることにする。
教師としても生徒に頼り切りなのは情けなくなる。
「そういえばクライシスくんの限界ってどのくらいなんでしょう?疲れているらしいですし、今が限界に近いんでしょうか?」
「疲れているし、そうなんじゃないか?」
「配信に授業に訓練。訓練の部分で私達と同等に働いている可能性があるんですよね……」
週に何度かとはいえ自分たちと変わらない仕事をしている。
その相手は自分たち教師や同学年や年上の者たち。
年下はおらず、ほとんどの割合が年上ばかりだ。
疲れてしまうのは当然かもしれない。
教師たちもそのことを考えると意に優しいものでも贈ろうかと考えていた。




