第九話 レッドグリズリー
俺たちは森へ入ると別々にまずはレッドグリズリーを見つけることにした。マッシュから聞いた話だとやつの縄張りは結構広いらしいので、とりあえず集まった50人を5人ずつの班で分けて索敵を始めた。
敵が見つかったところで戦わずに俺かクロを呼ぶように言ってある。
広い森なので見つかるまでにしばらく時間はかかるだろう。
俺は索敵をしながら班分けで同じ班になったさっきのおっさんを監視していた。予想に反して森での動きが悪くないおっさんを見る。
なぜ俺がこのおっさんに勝てないと思ったのか、理由はわからなかったがこのおっさんから目を離すことができない。
おっさんと目が合うとにこりと笑いかけてきた。正直、気持ち悪い。
「君はなかなか見ない黒髪だけど、この国の生まれじゃないのかな?」
おっさんが話しかけてくる。
「ついてくるのはいいって言ったけど、邪魔するなら帰ってもらうぞ」
「ああ、すまない。まだ熊は居なそうだからついね。なら、また後で話を聞かせてほしいな」
「断る」
俺はそう言っておっさんから離れる。
とりあえず今はレッドグリズリーに集中しよう。
森の深くまで来ると熊のものと思われる爪痕や手をつけられずそのまま死骸が残された動物がいくつも見つかった。
人間がもし見つかったとしたらひどい目に遭うのは間違いなさそうだ。必ず見つけて討伐するしかない。
俺はそう心に決めながらヤツの痕跡を追った。
「カゲトラのアニキ!これを見てくれ!」
俺の班の荒くれ者が俺を呼んできた。
「なんだ居たのか?」
「いや、でも糞がありやした。しかもそんなに時間は経ってない」
俺はみんなに声をかける。
「聞いてたな。ヤツはこの近くにいるはずだ。気を引き締めろよ」
みんなが頷き、俺たちは気配を殺しながら森を進んでいく。
その時―
グオオオオオオッ!
遠くからものすごい咆哮が聞こえてきた。
「あの方向はクロがいる班だな。おいてめえら行くぞ!」
俺は身体強化をすると全力で走り始めた。
…………
―クロ―
「運がいいのか、悪いのか見つけたな」
俺はそばにいるビビにそう声をかける。
「俺の炎魔法でビビらせてやりますかい?」
「いや、とりあえずカゲトラが来るまでこのまま待機だ。誰かカゲトラを呼んだこい」
班から1人をカゲトラを呼びに行かせ、俺たちはレッドグリズリーを観察する。
ヤツは食事を終えたばかりなのか近くに動物の死骸があった。そして丸まって眠っているようだった。
俺が昔逃げた時の個体よりも大きく見える。丸まってこの大きさなら立ち上がれば5メートルは超えるだろう。
「あんなヤバそうなのどうにかなるんすか?」
「どうにかするしかないだろう。村人は魔法をあまり使えねえんだ。使える俺らでどうにかするしかない」
その時―
「クロのアニキ!レッドグリズリーは見つかりやしたか?」
別の班のブブが大きな声を出してこちらに近づいてきた。
「お前!馬鹿っ!」
声を落とすように言おうとした矢先、眠っていたレッドグリズリーが目を覚ました。
「ひぃぃっ!」
「早く逃げろ!馬鹿野郎!」
グオオオオオオッ!
レッドグリズリーがこちらを向いて咆哮を上げる。
咆哮で逃げようとしていたブブたちが恐怖を顔に浮かべぴたりと動けなくなる。
「アニキ…!体が動きやせん…!」
「仕方ねえ」
俺は身体強化をかけるとレッドグリズリーの前に立った。立ち上がったレッドグリズリーはやはり5メートル以上あり見上げるほどでかかった。
「今のうちだ!ビビ!ブブたちを連れてここから離れろ!」
「わかりやした!アニキはどうするんで?」
「俺はカゲトラが来るまでコイツの足止めだ。だから早くカゲトラを呼べ」
レッドグリズリーは自分の前に立ち塞がった小虫にイラついたように鼻を鳴らした。
自分を見るとどんな生き物も一目散に逃げ出すか、固まったように動かなくなるかのどちらかだった。こんな風にこちらの動きを止めようとする意志を感じたのは初めてだった。目障りだ。排除しなければいけない。
レッドグリズリーがクロを目がけてすごいスピードで突進してきた。
クロはそれを横に転がるようにして避けた。
熊はそのまま木にぶつかると木は小枝のようにへし折れた。
「あのまま食らったらヤバいなあれは」
クロは素早く地面から立ち上がり拳を構える。
獲物に避けられたレッドグリズリーはイラついたように頭を振り唸る。
「おいおい、カゲトラはまだ来ないのか?俺が1人でやっちまうぞ」
そう言うとクロは自身の魔力を拳に集め始めた。大量の魔力がクロの拳に集まりオーラが拳から吹き出す。
「頼むからこれで倒れてくれよ」
熊が先ほどよりもスピードを上げて突進してくる。
クロはそれを今度は避けず、正面から迎え撃った。
「これでも食いやがれ!」
ドゴッ!
レッドグリズリーは茂みの中まで吹き飛ばされた。
「さすが!クロのアニキっす!」
隠れて見ていた仲間たちが遠くから出てくる。
「まだ出てくるな!終わってねえ!」
俺がそう言うと同時に全身から魔力を立ち上らせたレッドグリズリーが殺意のこもった目を俺に向けてノシノシと歩いてきた。
それまでは獲物として見ていたが、今は俺を明確に敵として認識して確実に殺そうとしている。
「あんまり効いてないみたいだな。自信をなくしそうだぜ」
レッドグリズリーは爪に魔力を集めて空気を掻いた。
ズバっ!
ヤツの爪から飛ばされてきた魔力爪が当たって俺の近くの木を切り飛ばした。
「ふざけるな。そんなの反則だろ!」
俺は急いで木の後ろに身を隠す。魔獣は魔力を纏うだけではない。それぞれが固有の魔法を使う。故に魔獣と呼ばれ、恐れられているのだ。俺はレッドグリズリーと戦うのは初めてだが、きっとさっきのがヤツの魔法なんだろう。
「食いやがれ熊公!」
その時ビビがレッドグリズリー目がけて炎の玉を放った。
レッドグリズリーは少し怯んで後退りした。
「よし!やっぱり火が効きそうっす!俺の炎魔法を食うっすよ!!」
そう言ってビビはいくつも火の玉を発射した。火の玉はレッドグリズリーに当たり、辺りには煙が立ち込める。
「おい!迂闊に攻撃するな!確実に倒さなきゃならねえ」
煙が晴れてくるとそこにヤツはいなかった。どこに行った!?俺が周りを見てヤツを探すと、今まさにビビに襲いかかろうとしていた。
「ビビ!てめえの後ろだ!」
ダメだ!間に合わない!
その時―
「オラァ!」
レッドグリズリーは横から強力な一撃を食らい、再び吹っ飛ばされた。
「遅えぞ!カゲトラ!」
俺は思わず叫んでいた。
「悪い悪い、これでも結構飛ばしてきたんだぜ?」
相変わらずどこか抜けたようなカゲトラの返しに俺は力が抜ける。
「まあいい。とりあえず今のがターゲットのレッドグリズリーだ。俺たちで片付けるぞ」
「だな。しかしでけえ熊だぜ。今夜は熊鍋だな」
グオオオオオッ!
怒り狂ったようにレッドグリズリーが咆哮を上げる。
「早いとこ片付けちまおう。クロお前は隙を作ってくれ」
軽く言うカゲトラに俺は頼もしい気持ちになった。
「わかったぜ。美味しいところはお前に譲ってやる」
レッドグリズリーは爪に再び魔力を込めているのを見た俺はヤツ目がけて弾丸のように飛び出した。
ヤツが爪を振り下ろすがその先に俺はいない。俺はヤツの体の下に入り込むと全身の魔力を集めた拳で上にかち上げた。
ヤツの巨体がふわりと浮き上がる。
その先の空中ではカゲトラが手に持っていた木刀に魔力を纏わせ待っていた。
「これでも食いやがれ!」
カゲトラはヤツの脳天にそれを叩きつけた。
どしーん!
レッドグリズリーは地面に叩きつけられた。
土煙が晴れると口から舌をだらんと出してそのまま絶命していた。
こうして俺たちは強敵、レッドグリズリーを倒したのだった。




