第十話 討伐と提案
倒したレッドグリズリーの死体のそばで俺とクロは力を全て出し切ってへたり込んでいた。
「大丈夫っすか!アニキたち!」
仲間たちがわらわらと集まってくる。とりあえず怪我人は今回誰も出なかったようだ。その事実に俺は一安心する。
「ああ、大丈夫だ。今は気が抜けちまっただけだ」
しかし、今までに戦った相手の中で一番の強敵だったのは間違いない。現にここまで消耗しているクロを見たのは初めてだ。
「おい、クロ。大丈夫かよ」
「ああ、お前がもう少し遅かったらビビの葬式になってたとこだぜ。助かった」
俺とクロはお互い倒れたまま笑い合う。
「アニキたちいつまで横になってるんすか?早く帰りやしょうよ!」
ビビが俺たちのそばに立ってこちらの気も知らずに馬鹿なことを言う。
「ビビ、てめえはあとで覚えておきやがれよ…」
「いや、冗談っすからね?ほんとっすよ?」
目を泳がせながらみんなに笑われているビビを見て、こんな馬鹿なヤツだが俺たちの仲間であることには違いない。コイツがここで馬鹿を言っていられることを俺は嬉しく思ってしまっていた。
俺は立ち上がってクロに手を貸した。
「マッシュが心配しているはずだ!帰るぞてめえら!」
こうして俺たちは村に帰るのだった。
……………
その夜―
村は俺たちがレッドグリズリーを倒したことで大盛り上がりだった。
村の中央では焚き火が焚かれ、その周りで村人たちが楽しそうに踊っている。
俺たちが倒したレッドグリズリーは首だけになり台の上に置かれている。村の子供たちが度胸試しにそれに近づいては悲鳴をあげて離れるということを繰り返しているのを見ながらみんな笑っていた。
俺は静かに酒を飲みながら今日の結果に満足していた。
「カゲトラ!クロ!本当に感謝している!」
何度目になるかわからない感謝を隣のマッシュから受ける。こいつも自分で全部抱えようとするところがあるから、今回の件でなにもできないことが重荷になっていたみたいだ。柄にもなく酔っ払っている。正直少し暑苦しくなってきた。
それを察したのか、クロがマッシュに酒を注ぎながら自分の方に連れて行った。さっきまでグッタリしていたのに気がきく男だ。
俺は盛り上がるみんなを見ながらちびちびと酒を飲んでいた。
「ようやくゆっくり話ができそうだね」
そんな静かな時間をぶち壊す闖入者が俺の横にドカリと座った。誰が来たのかはわかっていた。なんせこの宴が始まってから視界の端でうろうろ、そわそわしてずっと目障りだったのだ。
「みんな本当に嬉しそうだね。これが君たちが守りたかったものだったんだね」
俺が全く返事をしてないのに饒舌に語り出した。
「しかし、君たちの力には驚かされたよ。まさか身体強化魔法だけでレッドグリズリーを倒してしまうとはね。いや、恐れ入った」
俺は痺れを切らしておっさんに話しかけた。
「で、結局あんたは何がしたかったんだ」
おっさんは俺がようやく反応をしたことに目を輝かせてこちらに体を寄せてきた。
「私はこの地域がなんだか最近、不気味なほどに平穏を保っているから疑問に思って様子を見にきていたんだよ」
「それで、理由はわかったのか?」
おっさんは俺を指差した。
「俺?」
「ああ、君だ。今もあそこでこちらをものすごい目で見ているクロ君も光るものがあるけど、この平穏の中心にいるのは君だと私は確信したよ」
おっさんはにこやかに言った。
「見るからにこの国の人じゃない君がここまで民のために親身になってくれていることに本当にありがたいと思っている。ありがとう」
そう言っておっさんは俺に頭を下げた。
「やめろよ。別に感謝されるようなことはしてねえ」
俺は残っていた酒を飲み干す。
「いや、これは私の気持ちを伝えたかっただけだから気にしないでくれ。今、この国では魔獣の被害もまた増えてきているし、他国との関係も良くなくてね。王国に君たちのような若い芽が育っていることが嬉しいんだ」
「おっさんも苦労してるんだな」
「おっさん…。私はまだ30歳になったばかりだしおっさんという歳ではないよ。お兄さんくらいがいいな」
「俺は16だ。俺からしたら十分おっさんだぜ」
その一言におっさんはかなりショックを受けてうじうじ愚痴を言い始めた。おっさんのうじうじなんて勘弁してくれ。俺は耐えきれなくなっておっさんに話しかける。
「それで、本題はなんだよ。まさか感謝をしにきただけじゃないんだろ?あんたはずっと俺のことを見ていた」
おっさんは顔を上げてこちらを見る。
「はは、バレていたか。いや、君の資質を見させてもらっていたんだ」
「資質?なんの資質だ?」
「魔法騎士の資質さ。自己を犠牲にして国のため、何より民のためにその力を正しく使えるかどうかを見ていた」
「おっさんは魔法騎士なのか?」
「まあ、そうだね。正しくはないけど概ね合ってるよ」
「そうなのか。まあ、俺に資質があってもなくても関係ないけどな」
「魔法騎士になる気はないかい?君なら間違いなく大物になれるはずだよ。君もこの国に来たのは最近だろうけど、この国は一見豊かないい国に見えるかもしれない。けど問題は山ほどあるんだ。国では常に優秀な魔法騎士になる人材を必要としているんだ」
おっさんは真剣な顔で俺の目をまっすぐ見る。このおっさんの裏のないまっすぐな眼差しが嫌いではないが、やっぱりおっさんからの視線だからキモい。
「おっさんがただのおっさんじゃないことはわかったよ。だが俺は魔法騎士になるつもりはねえ。第一俺はこの国の人間じゃない。顔も見たことねえ奴らのために自分を犠牲にはできるほど人間できてねえからな。それに、たまたま流れ着いたこの村だが愛着もあるしな」
おっさんは俺の話を真剣に聞いていた。
「その通りだね。君が魔法騎士になれば今よりも強くなって、もっと多くの人を救えるようになる可能性に私も柄にもなくはしゃいでいたみたいだ。押し付けるようになってしまって悪かった。明日までは村に居させてもらうからもし気が変わったら言ってくれ」
おっさんはそう言って村人の中に紛れて行った。俺はおっさんの後ろ姿を見送りながらおっさんが言っていたことを考える。
半年この国で暮らしてきて平和に見えるこの国にも民の力だけではどうしようもない魔獣や盗賊などの脅威があることを知った。
そういった脅威を跳ね除けるのが魔法騎士団だと言っていた。おっさんにも言ったが俺は民を守りたいと思うような人間じゃない。だが、それらの脅威に立ち向かうためには力がいる。自分が世話になっている範囲くらいは守れるくらいの力はなくてはいけない。
明日からのクロとの修行はさらに気合を入れて頑張ろうと俺は心に誓った。




