第八話 マッシュの頼みと変なおっさん
村の拡張に伴い村の外からも村に出入りする人が増えてきて、マッシュとミヤさんは宿屋を始めていた。
もちろん元の家は人がたくさん泊まれるような家ではなかったので村の大工監修の元、俺たちが力を合わせて宿屋を完成させた。
マッシュは宿屋を手伝いながら村の何でも屋として働いている。
俺たちを呼んだ理由はなんだろうかと疑問に思いながら宿屋に来ていた。
「よう、マッシュ。なんかあったのか?」
セッキのじいさんや村長と宿屋の一階のテーブルで頭を突き合わせて眉間に皺を寄せて何やら相談していたマッシュがこちらに気がついた。
「お!忙しいところ悪いな。お前たちを待ってたんだ!」
「なんだよ。面倒ごとか?」
「ああ、面倒ごとも面倒ごとだ。いつもみたいに森の見回りをしていたやつが見つけたんだが、レッドグリズリーが村の近くをうろついているみたいなんだ」
「レッドグリズリー!?そんなもんここらで出たらどうにかできるわけないだろう」
クロが驚いて言う。
「そのレッドグリズリーっていうのはなんなんだ?」
当然俺は聞いたこともない名前なのでマッシュに聞く。
「レットグリズリーっていうのは熊なんだが、魔力によって魔獣化した熊なんだ。体も普通のクマの3倍くらいで、凶暴さも比にならない。こういう魔獣が出た時は1番近くの魔法騎士団に討伐を依頼するのが普通だ」
「じゃあ今回も依頼を出せばいいじゃねえか。なんかできない理由でもあるのか?」
マッシュが困ったようにこちらを見る。
「この間の大雨でここから1番近くの詰所がある街までの街道が土砂崩れで塞がれちまってるんだよ。森の中を通っていくのはヤツの縄張りを通ることになるから村人には頼むことはできないしな」
「て、ことは自分たちでなんとかするしかないってことか?罠とか使って上手いことできないのか?」
「カゲトラ、お前全然わかってねえぜ。元々が人間よりも力の強い熊が魔力によって常時身体強化されているようなものって言えばそのヤバさがわかるか?」
クロが俺に言い聞かせるように言う。人間だって身体強化で常人の何倍もの力が出せるのだ。まして野生の獣がその力を使うのは正直考えたくもない。
「おいそれ…無理じゃね?」
「そうなんだよ。だけど街道が復旧するのを待っていたらいつ村に被害が出るかわからない。かと言って簡単に倒せるような相手でもない。正直お手上げ状態だ」
マッシュは肩をすくめた。セッキのじいさんが呟くように言う。
「カゲトラとクロが力を合わせれば勝てないこともないじゃろうが…」
「じいさんその話は…」
マッシュがじいさんを止める。
「マッシュ。じゃがこのままでは村の者は飢えてしまうぞ」
「なんでだよ。この間農作物もみんなで収穫したじゃねえか」
秋の実りを村人総出で収穫したばかりだったはずだ。これだけあれば冬も問題なく越せるなと思ったものだ。
「それが、備蓄を見直したら今の村人全員が冬の間食べるには少ないことがわかったんじゃ。なんせ今年は急に人が増えておるしのぉ」
俺はセッキのじいさんの話を聞きながら冷や汗を流した。
うん。それって俺とかクロのせいじゃねえか?俺がクロを倒して手下にしたことで、そのクロを狙っていた馬鹿者どもがみんな村に居着くようになってしまった。いや、正直言うと俺のせいでは全然ないが、だが、俺がこの村に来なければ起きてはいなかった現象である自覚は少しある。
「けど、クロの反応を見てわかった。やっぱりクロでもレッドグリズリーは厳しいってことだよな?」
クロは少し考えて言った。
「レッドグリズリー自体、なかなかお目にかかるもんじゃない。前に見た時はわざわざ戦うこともないと思って逃げたな。見た感じヤバそうな感じがしたし、魔獣を舐めてると痛い目に遭うからな」
「そうだよな。よしわかった。時間はかかっても街道を復旧させた方が結果的に早そうだな。村の男衆みんなの力を合わせれば大丈夫だろう。呼び出したのに悪かったな」
マッシュはそう言うと村の相談役たちとどのように復旧を進めていくか話し始めた。
…………
「おい、クロ」
「どうした?」
俺は宿屋を出ながらクロに話しかける。
「正直、今の村の状況の大半は俺たちのせいだろう」
「まあ、そうだな」
「俺たちのせいなら、自分たちでなんとかするしかねえよな」
クロは俺を見てニヤリと笑った。
「お前ならそう言うと思ってたぜ。よし、馬鹿どもにも声をかけて協力させよう」
「ああ、そもそもアイツらが馬鹿じゃなければこの村もこんな状況になってなかっただろうしな。あれ?もうアイツらに全部やらせればいいんじゃね?」
クロは笑って言った。
「違えねえ。だが、レッドグリズリーは本当にヤバいからな。半端な奴らはいねえ方がいい」
「ぶっちゃけお前が本気でやったら勝てるか?」
「半々ってとこだな。カゲトラがいるしもっと楽になる可能性もあるがな」
「そうか。こういう時のために身体強化の練習をしてきたんだ。やるしかねえな」
俺とクロは拳を合わせた。
「俺らでレッドグリズリーを倒す」
「ああ、やってやろう」
俺たちは顔を見合わせてニヤリと笑った。こいつとなら何でもやれそうだ。
……………
翌朝―
森の入り口には俺やクロ、3馬鹿をはじめ荒くれ者たちが集合していた。
「こんだけ数があれば熊の一匹くらい楽勝っすね!」
ビビがいつもの調子で俺に言ってきた。
「そうだな。ヤバそうだったらお前を囮にして逃げるからよろしく」
「そんな酷すぎるっすよカゲトラのアニキ!」
冗談を言いながら集まった者たちを見渡す。と、その中に見たことのない奴がいるのを見つけた。
そこに近づくと40代くらいのおっさんが荒くれたちに肩を組まれて困ったような笑みを浮かべていた。
「おいお前ら、おっさん困ってるじゃねえか」
「おっさん…。私はまだおっさんっていう歳じゃないんだけどな…」
「あ!カゲトラのアニキ!お疲れ様です!いや違うんですよ。俺たちがレッドグリズリーを討伐しに行くって言ったらこのおっさんが自分も着いていくって言い出したんで、やめとけって言ってたとこだったんですよ!」
俺はおっさんを見た。ある程度体は鍛えられているようだが、肉体労働をしてきた体じゃない。どちらかと言うと商人とかそういう仕事をしてきた人間の体だ。
「おい、おっさん。俺たちは遊びで行くんじゃねえんだ。レッドグリズリーを狩るのは初めてだからおっさんを守りながら戦うことはできねぇ。悪いことは言わねえから来ねえ方がいい」
おっさんは真っ直ぐに俺の目を見て言った。
「君がこの中で一番強いね。心配をしてくれてありがとう。でも私は自分の身は自分で守れるし、レッドグリズリーの方に集中してくれて構わないよ」
見た目は強く見えない普通のおっさんだ。だが、俺はこのおっさんになぜか勝てないと思った。
「そこまで言うなら好きにしてくれ。けど本当に守ってやれないからな」
「ああ、それで構わない。ありがとう」
俺はクロのところまで戻った。
「おい、いいのかよあんなの連れてって」
クロは一部始終を見ていたようで俺に言ってきた。
「自分の身は自分で守れるって言ってるしいいんじゃね?それより熊狩りに行くぞ」
俺たちは一同に声をかけ、森の中へと入る。こうしてレッドグリズリー狩りが始まった。




