第七話 身体強化魔法
なぜか俺がクロ達山猫盗賊団の頭になってからあれよあれよという間に半年が過ぎていた。
俺が思っていた以上にクロを手下につけるということは影響が大きかった。
まず、クロ達は村に住み始めた。俺の手下になったその日にセッキのじいさんや迷惑をかけた村人一人一人に頭を下げて詫びて回った。
それからは自分たちで自分が住む家を作ると、その後は自発的に村の警備をしたり、森に出る危険な獣を狩ったり、困っている村人を助けたり、農作業を手伝ったりしていた。
村人も最初のうちはなにか魂胆があるのではないかと警戒していたが、クロや3馬鹿をはじめとする面々の馬鹿正直な態度に絆されるものが出てきてからは徐々にその警戒も緩み、今では初めからこの村で住んでいたかのように馴染んでいる。
次に、これはクロが思いの外名前が売れていたということだった。どこから噂が伝わったのかは定かではないが、クロを手下にした俺に対して力比べや立ち合いを挑んでくる馬鹿がたくさんいたのだ。
クロはここら一帯で暴れ回っていたようで、村だけでなく同業者、つまり同じ盗賊もそのターゲットにしていたようだった。クロに煮え湯を飲まされ涙を流した者たちはいつか必ず自分たちの手でクロを倒そうと鍛えていたらしい。クロが負けるなどということは全く考えていなかったようだ。
しかし、クロを下し、手下にした俺という存在に対して、じゃあ俺に勝てばクロより強いだろうという謎の理論で村に来るようになったのだ。
連中はクロに勝った者を出せと言ってきたが、そんな面倒くさいことに俺が付き合う義理もない。クロに自分の始末は自分でつけられるなと言ってあとは任せていた。
しばらくそういう輩がひっきりなしに村を訪れたが、全てクロが返り討ちにした。
ここからが訳の分からないところなのだが、そいつらはみんなまとめて俺の手下になったのだ。
俺は頭を抱えたくなった。俺は何もせず、クロは殴り合いをしていたはずなのにその敵が気づいたら俺の手下になっているのだろうか。
こいつらが俺や村人に迷惑をかけるなら追い出そうとも思ったのだが、俺のこともアニキと慕ってくるのだ。こいつらを突き放せない俺はお人好しなんだと思う。
結果的に村はクロ達が来る前の何倍にも大きくなっていた。
「おはようございます!カゲトラのアニキ!」
「おう、おはよう」
家から出て村に来るとそう挨拶された。
ここに来るまでにも何人にも挨拶をされてここまできた。あんなに小さかったマッシュたちの村だったが、気がつけば小さな町と言えるほど人が増えてきていた。人が増えたことに伴って、行商人として定期的に村を訪れていたものが村に商店を構えたのを皮切りに、ほかにも服飾屋ができたり、宿屋ができたり村はバブルを迎えていた。
「カゲトラのアニキはこれからクロのアニキのところへ行くんですかい?」
「ああ、そのつもりだ」
クロが手下になってから俺はクロに魔法について教えてもらっていた。と言ってもクロが得意としているのは身体強化の魔法だそうで、それまで感情的になった時に偶発的に俺もできていたが、いつでも身体強化ができるようにクロと組み手をするというものだった。
「お、今日もやるかカゲトラ」
「ああ、たのむ」
クロといつも訓練をしている森の中の開けたところに来ると、クロも来ていた。
「そろそろ身体強化も慣れただろ?」
体を動かしながらクロが話しかけてくる。
「まあな。けど、お前がやってるみたいに一部に集中させるのはできねえ。お前と初めてやった時にそれを食らってたら確実に俺が負けていただろうな」
「そもそも貧民層で身体強化ができるやつ自体いないし、こんだけ使えてればもう十分だ。お前とやった時だって正直負ける訳ないと油断してたからな」
「お前が油断してて良かったぜ」
俺は首を振りながら言った。クロとの訓練を通して俺は自分の中の魔力を認識できるようになっていた。腹の下あたりにある魔力を全身に循環させるイメージで流してやると身体強化ができるらしい。
身体強化をすれば脚力だけで3メートルくらいは飛び上がることができる。とりあえず半年でここまではマスターできたが、俺はその先の部分的に強化をするという部分で壁にぶつかっていた。
「身体強化ができちまえば部分強化なんてすぐできると思うんだけどな」
「うるせえ天才野郎。お前見るからに鈍臭そうなのに器用なのがうぜぇ」
「すまねえ、俺の教え方が良くないのかもしれない。人に教えたことなんてないし俺はできない感覚が全く分からない」
クロは体を縮こませながら俺に謝った。謝っているようで煽っているようにしか聞こえないのは俺の心に余裕がないせいだろうか。目の前の丸顔を殴りたくなったがぐっと堪える。俺は野蛮人じゃない。いきなり殴りかかるのは野蛮人のすることだ。
「カゲトラのアニキ!クロのアニキ!お疲れ様です!カゲトラのアニキはまだ部分強化ができなさそうっすね!」
俺は身体強化を発動してそいつに近づくと思い切り殴り飛ばした。
「俺は繊細なタイプなんだ!出来ねえの気にしてるんだから口出すんじゃねぇ!」
「野蛮人じゃないすかそんなの…」
「野蛮人でやす…」
後から俺達のところに歩ってきていた3馬鹿の残り2人がそう言った。
「お前達もぶっ飛んどくか?」
「勘弁してくだせえ!」
「殴らないでほしいでやす!」
ずっと3馬鹿で呼んでいたが、こいつらにもビビ、ブブ、ボボという名前があったことをしばらくしてから知った。名前からもうすでに馬鹿そうなのは流石だと思う。
「いきなり殴るなんてひでえじゃねえですかカゲトラのアニキ…」
吹っ飛ばされていたビビが腹をさすりながらよろよろと歩いてきた。すごいな身体強化して殴ったから結構ダメージが入ったと思うんだが。事あるごとに殴られてるからか最近耐久力が上がってきてる気がする。
「お前はいつもいらんことを言うからだ。俺は平和を愛する優しい男だ」
「優しい?またまたご冗談を!」
ヘラヘラ笑いながらビビが言った。俺はこめかみに血管を浮かべ、拳を揉みながら言った。
「ビビ、いっぺん殺すぞ」
「いやいや冗談っす!あ!そういえばマッシュからカゲトラのアニキとクロのアニキを呼んできてほしいと言われて来たんすよ!」
誤魔化すように慌てて用件を言ってきたが、マッシュの用件はなんだろうか?とりあえずビビはあとで〆ることにする。
「マッシュは俺たちになんだって?」
クロがブブとボボに聞いた。
「いや、内容は俺たちも知らないっす」
「なんか困り事みたいだったでやすよ」
マッシュは持ち前のお人好しを発揮して、村人はもちろん新しく仲間になった荒くれ者たちにも世話を焼いていた。
最初は強くはないマッシュを舐めていたやつらもいたが、俺やクロにも臆さずツッコミを入れているところを見ていたのか一目置かれる存在となっていた。
荒くれ者たちも困ったことがあるとマッシュを頼っていたし、マッシュもそれを嬉しそうにしていた。マッシュは現在村の困りごとを解決する何でも屋のようになっていて、どうしても解決でいない事がある時は俺に言うように言ってあった。
最近はマッシュを慕う奴も増えてきて頼られることもあまりなくなっていたんだが、俺とクロを呼ぶってことは力が必要なんだろう。面倒ごとの予感だがマッシュには世話になっているから仕方がない。
「仕方ねえな。クロ、今日はここまでだ」
「そうだな。また、後でやろう。とりあえずマッシュのとこ行くか」
俺とクロは3馬鹿を引き連れてマッシュのところへ向かった。




