第四話 山猫団のクロ
「立派な家が出来たな」
「ああ、これならじいさんも少しは元気を出すだろう」
俺とマッシュは新しく出来たセッキじいさんの家の前で、出来上がりに満足していた。
家を作っている間に村の周りについでに柵を立てたり、男衆で見回りも交代ですることになった。
あのチンピラ達は逃げていった後村に来てはいない。
「こんな大陸の端っこの村に騎士団は来ちゃくれない。自分たちでなんとかするしかないからな」
「そんなもんか。国民を守るのも国の使命だと思うけどな」
俺がマッシュにそう言う。
「けど、騎士団はルミナリア王国のみんなの憧れなんだぜ!この国は自然の恵みが豊かだから魔獣の被害も多い。それに、他の国が頻繁にちょっかいをかけてきてるんだ。そいつらから国と国民を守っているのが騎士団なんだ」
「へぇー。そういうのもあるのね。マッシュも騎士団入りたいのか?」
俺がそう言うとマッシュは慌てて否定した。
「まさか!俺なんかの魔法じゃとても騎士団には入れないよ。カゲトラなら腕っぷしも強いし入れそうだぞ」
「俺はそういう面倒なのはパスで」
「なんだよ!もったいねえなぁ」
俺たちが家の前でわちゃわちゃしていると、セッキじいさんがやってきた。
「おお!ついにわしの家ができたんじゃな。マッシュもカゲトラも本当にありがとう」
そう言うとじいさんは深く頭を下げた。
「なんだよ今更。長い付き合いだし村に住むやつでじいさんの世話になっていないやつなんていないじゃないか。お互い様だ」
「俺の国でも年寄りは敬えって教えがあるしな」
俺達はじいさんの肩を軽く叩いてそう言った。
「本当にありがとう…」
まだ感謝し足りなそうなセッキじいさんにマッシュが、
「じいさんの家の完成祝いもかねて、今日は宴だな!」
と、言った。宴は好きだ。飯も腹一杯食えるし、何よりみんなで騒ぐのは大歓迎だ。なんなら毎日やってほしい。
俺はまだ見ぬご馳走を想像してよだれが出そうになった。
…………
「セッキじいさんの家の完成を祝って乾杯!」
「乾杯!」
「よかったなじいさん!」
結局村中が集まって盛大な宴になった。
「皆の衆本当に感謝する…」
「おい、じいさんまた泣き出すんじゃないか?」
「誰が泣くか!年寄りを馬鹿にしとるとお前の恥ずかしい話のあれやこれやここで開陳したるぞ!」
「そりゃねえぜじいさん!」
「いいぞいいぞ!話せ話せ!」
「よっ!待ってました!」
家ができるというような大きなことでもないと村人総出で集まって宴会というのはなかなかない。それもあってかそこで提供される酒やご馳走のせいかみんなが浮かれていた。
「カゲトラは16歳なのに酒を飲まないのか?」
酒を飲みながらマッシュが言ってきた。
「俺のおじさんが酒は俺がいるところで飲めって言ってたんだ」
「そうなのか。変わった教えだな。だけど、カゲトラの故郷にはいつ帰れるかわからないんだろう?めでたい席だし飲んじまえよ!」
「じゃあ、ちょっともらうか」
「おう!飲め飲め!おい!みんな!カゲトラにも酒を注いでやってくれ!」
マッシュはみんなに声をかけた。
「待ってました!チンピラを追い払ったのもカゲトラだしな!故郷は遠くてもここはお前の故郷だ!」
「そうだぞ!俺達はみんな家族だ!」
村のみんながそう言ってくれて俺は照れ臭くなった。
「よーし!今日は飲むぞ!ほら、早く酒よこせ!」
俺は近くにあった酒樽をつかむとそれを一気に飲み干した。安い酒の強い酒精が体に染み渡った。
「ほらどんどんもってこい!みんなで飲むぞ!」
俺はアルコールに身を任せた。
…………
翌朝―
「頭がくそいてえ」
俺はひどい二日酔いになっていた。酒を飲み始めた後のことは全く覚えていない。
「お前のおじさんの言ってた意味が本当によくわかったよ。カゲトラはしばらく酒禁止だな」
マッシュが疲れ切ったように言った。
「迷惑かけちまったみてえだなマッシュ」
「本当だぜ!村の男衆と飲み比べ対決をしてたと思ったら、気がついたら力比べで腕相撲まで始まってカオスになってたからな。村一番の力自慢の大工のおっちゃんに勝っちまったのには驚かされたが、その後突然ぶっ倒れたからな」
マッシュが呆れたように言った。
「そうなのか。全然覚えてないわ」
「村にあった酒もすっからかんにしておいて大物だぜお前は」
「あまり言うなよ。頭痛えんだからよ」
「自業自得だ!これに懲りたら酒はほどほどにしろよ?」
マッシュが怒ったように言った。なんかおじさんみたいなことを言いやがる。
その時―
「カゲトラ!お前に用があるって山猫盗賊団のクロが村の入り口を塞いでるんだ!なんとかしてくれ!!」
村人がかけてきてそう言った。俺は片手を前に出して振った。
「今、頭痛えし、面倒だからいないって言っといてくれ」
「何言ってんだカゲトラ!ほら行くぞ!」
そう言うと俺の首根っこを掴んでマッシュが走り出した。
…………
マッシュに引きずられるようにして連れてこられた村の入り口には村人達が盗賊を囲むようにして立っていた。
「それでどいつがお前らをボコボコにしたやつだ」
盗賊の中で一際体の大きい、クマのような大男がそう言った。
「ボス!あいつです!あの黒髪のガキです!」
「そうそう!」
「間違いないでやす!」
見覚えのある間抜けヅラの3馬鹿が俺のことを指差して言った。なんか俺がやったよりもひどい大怪我になっている気がするが、気のせいだろうか。
「お前がそうか。この馬鹿どもが世話になったみたいだな」
「別に大したことはしてないけどな」
「こ、こいつ!ボスやっちまってくだせえ!」
「てめえは黙って見てやがれ!」
3馬鹿に重そうなゲンコツを落とすと、こっちに向き直った。
「こいつらが馬鹿なのは見ての通りだが、だからと言って子分をやられてはいそうですかとはいかねえのはわかるよな?」
「分かりたくはねえがまあそうだろうな。けど今俺も頭が痛くてイライラしてるんだ」
「安心しろ、すぐに済む。お前名前は?」
「カゲトラだ」
「そうか。俺は山猫団で頭をやっているクロだ」
名乗りを上げるとクロの体からゆらゆらと陽炎のようなものが立ち上った。
「気をつけろカゲトラ!そいつは無茶苦茶強いぞ!」
マッシュがそう言った次の瞬間、クロはすごい加速で迫ってきて、正拳突きを繰り出してきた。
俺は咄嗟に自分の両手を交差させてそれを防いだが、耐えきれず後ろに吹っ飛ばされた。
こいつこのデカい図体でなんて動きをしやがる。盗賊団の頭とはいうものの、見た感じ歳は俺やマッシュとそんなに変わらなそうだ。だが、力は大人と比べても圧倒的に強いし、なにより信じられない速度で迫ってきた。
「一撃で倒すために本気でやったんだが、まさか俺の拳を受け止めるとは思わなかった」
クロはそう言うと再び俺に向き直った。俺はクロの正拳突きを防いで痺れている腕をさすりながら、この状況と二日酔いの頭痛でイライラに完全にスイッチが入った。
「いきなり来て何ごちゃごちゃ言ってやがる。こちとら二日酔いで頭が痛えって言ってんだろうが!」
俺は体に力が漲るのを感じて、そのままその力を解放した。先ほどのクロを上回る速度で近づき、驚いた様子のクロの腹に拳を叩き込んだ。
途中でクロが拳を手で受け止めに来たが、その手ごと腹を力一杯殴った。すると、今度はクロが吹っ飛ばされる番だった。
「ボスが攻撃でダメージを受けるなんて見たことがない!」
「あいつやっぱり化け物なんだ!」
「ボスは大丈夫でやすか!?」
クロがゆっくりと起き上がってきた。
「お前もその力が使えるんだな。俺以外で見たのは初めてだ」
「力?何言ってやがる。今のは俺のイライラが思わず溢れ出て力が湧いてきただけだ」
俺はクロを見ながら言った。3馬鹿の頭をやってるのに受け答えは割とまともだなと思っていた俺が馬鹿だった。強いだけにこいつが1番たちが悪い。
「まあ、いい。すぐ片付く仕事だと思っていたが本気でかかろう」
そう言って構え直したクロにゲンナリしながら俺も拳を構えるのだった。




