第三話 チンピラを成敗した
俺の相棒の仇をしっかりとった後、俺はそばで倒れているマッシュに歩み寄った。
「怪我はないか。マッシュ」
「ああ、かすり傷ができてるくらいだ。カゲトラお前こそ大丈夫なのか?」
「俺は全く無傷だ」
腕に力瘤をつくりながらマッシュに怪我がないことをアピールした。
「そうか。よかった。それよりなんだよカゲトラ。お前、魔法使えるんじゃないか」
「俺がいつ魔法なんか使ったっていうんだ」
「考えてみろよ。アイツの炎魔法もぶった斬ってたじゃないか。普通魔法は防ぐことはできても、切るなんて聞いたことがない。それにあの時お前の体から溢れていたのは魔力に違いないぜ」
「マジか。俺の体からなんか出たのか。そういえばしばらく風呂入ってないからか?」
俺は思わず自分の体のにおいを確認した。
「目視できる匂いってどんだけだよ!な訳ないだろ!」
マッシュがすぐにツッコミを入れてきた。
「冗談はさておき、お前がアイツらを殴っている時にお前の体からはずっと黒いモヤみたいなのが出てたぜ。俺はみたことがないが、魔力が強いやつだとそういうこともあるって聞いたことがある」
「そうなのか。親父が昔、妖術使いと戦った時に敵の妖術を切ったって言ってたから刀なら切れるのかと思ってたわ」
「お前の親父も何者だよ…」
マッシュは呆れたように言った。
「いてててて」
その時、顔や体中をボコボコに腫らした男達が動き出した。
「おい!カゲトラあいつら起き出したぞ!」
「ああ」
男達はしばらく視線を彷徨わせていたが、俺を見ると顔が恐怖で塗られていった。
「ひぃっ!く、くるな!」
「ば、ばけもの!」
「かんべんしてくれ!」
男達は体を寄せ合い口々に言った。
ひどいなこんな心優しい俺を捕まえて化け物扱いとは。
「とりあえず、この村から早く出てけ。二度と近づくな」
俺は面倒になってきてそいつらをシッシと追い払う仕草をした。
それが男達のプライドを傷つけたのかはわからないが、顔を真っ赤にして、顔に涙を浮かべながら
「お、覚えてやがれよ!」
「いつかひどい目に合わせてやる!」
「あ、待っておいていかないでくれ!」
そう言い残して一目散に村から出ていった。
「おいおいおい!何で逃しちゃうんだ!」
マッシュが不満そうに俺に言ってきた。
「あんな奴らに構っていられるほど俺は暇人じゃないんだ」
「だけど、セッキのじいさんなんか家を燃やされてるんだぞ!」
燃え落ちたセッキじいさんの家を指差しながら言った。
すまん。完全に忘れてた。相棒の仇でボコボコにした時点でもうスッキリしてたからな。
「あ、あいつら許せねえ…」
「いやいや、逃がしたのお前だけどね!」
俺はマッシュを指差して言った。
「そもそもマッシュだって何そのまま逃がしてんだ」
「いや、気がついたらすごい勢いで色々なことが起きるからついていけなかったんだよ!」
「まあ、もういいじゃねえか。相棒の仇は取れたんだし」
「コイツ!開き直りやがった!」
「ワシの家…。棒以下…。」
ぎゃあぎゃあ言い続けるマッシュと落ち込むセッキじいさんというカオスな状況に俺はマイホームに帰って全て忘れて横になりたいと強く願った。
…………
「そろそろ落ち着いたか?」
俺が問いかけると、
「すまん。思わず熱くなっちまった」
頭をかきながらマッシュが申し訳なさそうに言った。
「けど、アイツら絶対に仕返しに来るぜ。顔に変な模様を描いてここらの村に金目のものや、食い物なんかを奪いに来るのは、おそらく山猫盗賊団だ」
「山猫?かわいいじゃねえか」
マッシュは目を見開いて言った。
「かわいくなんかねぇよ!この村は今まで襲われたことはなかったが、他の村では食べ物を根こそぎ持って行かれて食うものがなくなった村だってあるんだぞ!アイツらは下っ端だろうが、ここらを縄張りにしてるボスのクロが刃向かってくるやつに黙っていないはずだ」
「クロって猫みてえな名前してんな」
「噂だがかなりの大男で、腕っぷしがすごく強いらしい」
俺は状況が面倒なことになっていることに飽き飽きした。
「アイツらもうちょいボコっとけばよかったな」
「騎士団にでも突き出せばよかったな。今となっては後の祭りだが」
俺はマッシュと話しながら燃え落ちたセッキじいさんの家を見た。
「とりあえずじいさんの家をなんとかしないとな」
「そうだな。セッキじいさんもとりあえず今日はうちに泊まれよ」
「すまんのう…」
じいさんは悔しそうにしながら静かに頷いた。
……………
翌朝、俺とマッシュはじいさんの家を建てるために村の男衆と森へ来ていた。
小さな村だ。みんなで協力して助け合うしかない。
「セッキじいさんに立派な家を建ててやるぞ!」
「おう!」
「そうだな!」
「普段あまり感情を見せないじいさんが珍しく落ち込んでたからな」
「あの家は亡くなったばあさんとの思い出があったみたいだからな」
皆が口々に言い合った。暑苦しいが俺はこういう奴らは好きだ。たまたま流れ着いた村がこの村で良かったと心から思う。
斧を振るって木を切りながら俺は顔に笑みを浮かべた。
…………
―山猫盗賊団アジト―
「で、お前らはのこのこ逃げ帰ってきたわけか」
俺達はボスのクロの前で、体を小さくして這いつくばっていた。
「で、ですがボス。あいつは当然わきから出てきて魔法を切っちまいやがったんですぜ。あんなことができるやつは見たことがねえ」
「そうでさあ」
「アニキたちの言うとおりでやす」
俺達は自分たちが悪いわけではないとボスにわかってもらおうと必死に弁明した。
「黙りやがれ!そもそもお前の魔法は人に向かって打つなと言ってあっただろうが!」
ボスは俺達の頭をゴツンと殴りつけた。
「山猫団は殺しはやらねえ。魔法を使うのは脅す時だけだ」
たんこぶで大きくなった頭をさすりながらボスに頭を下げた。
「す、すまねえボス」
「生意気なガキがいたからよ」
「アニキたちは悪くないんでやす」
「黙れと言うのがわからねえのか!もう一発ずつ殴られてえのか!」
俺達はこれ以上痛いのはごめんだと口をつぐんだ。
「とは言え、このまま舐められっぱなしだとこれからの稼業で舐められることになる。落とし前はつけにいかないとな」
胸の前で拳を合わせたボスを見ながら、俺はニヤリと笑った。
「てめえ、誰のせいでこんなことになったと思ってやがるってのに、何笑ってんだ!」
「ボス、そんなに頭をボカボカ殴らねえでくだせえ!」
俺は頭を押さえながら逃げ出した。だがあのガキもボスが出るならおしまいだ。




